第1855堀:どんなお店がいいかな
どんなお店がいいかな
Side:ヤユイ
うわ~どうしよう。
そんなことを考えつつ、私はユキ様について執務室へと戻っている途中。
セラリア様とヴィリア様たちが仕入れてきた情報と、これまでの新大陸の情報を改めて話していたんだけど、最後に私たちが運営する予定のお店のことが話に出てきた。
正直すっかり忘れていた。
新大陸ができてから、グラス港町のパーティー準備も私はあったし、オレリアやホービス、そしてプロフさんもユキ様のサポートで大忙しだったし。
なにか、何か、良いお店の案を。
そんなことを考えつつ、ユキ様がわざと遠回りして「参考になれば」ということでウィードの商業区を歩いてきたのだけれど……。
何にも思いつかない。
精々、人が集まっているお店をそのまま真似るぐらい。
あ~、どうしたものかと考えている間に、執務室に到着。
とりあえず、休憩の準備と、先ほどのセラリア様との会話記録や、持ち出した書類を元の場所に戻したりと各々の仕事を始める。
残念ながら、やっぱりいい案は思いつかず、全員が自分の机に座って休憩を始める。
「よし、皆休憩しながら、というかのんびりしながら考えよう。セラリアが言っていたお店の件だ」
うん、わかっていましたよ。
お店の話をするしかないよね。
「一応、オレリアたち主体って考えていたが、何かやりたいとか、話し合いはしていたか?」
当然、そう聞かれるよね~。
私たちに一任しようって話だったし。
でも、忙しくて……。
「申し訳ございません。まだ何も進んでおりません」
私があたふたしている間にオレリアが素直に謝り、私とホービスも続いて一緒に頭を下げる。
「ああ、すまん。叱責するつもりはなかった。ただ、時間はとれたかなと。ほら、忙しかっただろう?」
「はい。忙しさにかまけて後回しにしておりました」
「申し訳ございませ~ん」
「ごめんなさい」
3人一緒に謝る。
仕事が遅れることは慣れていなかった時にはよくあることだったし、ミスして注意をされることもままある。
その時は今みたいにちゃんと謝っていた。
「ふむ。忙しいのはどこも一緒ですから、何を言い訳をと思いますが、今回は緊急の案件も沢山ありましたし、仕方ないかと思いますが? それに私にも責任があります」
普通ならプロフさんは前半のセリフで怒るんだけど、今日は違うみたい。
元々、時間管理を徹底して、残業は殆どさせない人だけど、お店の時間を考慮していなかった自分も悪いと思っているみたい。
うん、こういう所は理想の上司って感じかな?
人気なのは納得。
「だから、叱責じゃないって。忙しかったのは元をただせば俺が発端だ。しかも俺もお店のことはすっぽ抜けていたからな。時間が取れなかったのを確認しただけだ。やっぱり過密だったよな~」
「それに関しては同意です。ユキ様はもっと休むべきです。奥様たちも心配しております」
「あれ? 俺が悪いとかじゃなく休めって話になる?」
「はい。ユキ様は残っている仕事を家に戻ってやっている場面を見たりしています」
あ~、まあ、ユキ様本人は趣味の延長とかいっているけど、どう見ても仕事だよね~っていうのはある。
そして、働きすぎだと私も思う。
何せ夜は奥様や私たちの相手もあるんだし。
「仕事に関しては趣味も兼ねているんだが、そういうのは通用しないんだよな?」
「もちろんです」
「はぁ、まあ、そこは新大陸が落ち着けばどうにかなるさ。ということで、本題だ。お店だが、何も考えていないとはいったが、頭をよぎったものはあるだろう? それを言っていこう。ホワイトボードに……」
「それは私が引き受けましょう。オレリアたちは思いついていた案を言ってみてください」
ということで、グラス港町のメインストリートのお店を何かにするのかというのを話し始める。
「私は、当初聞かされた時は小物、雑貨店が良いかと思いました」
「小物、雑貨ね。ホービスは?」
「私は~、ほかのお店と違うのが良いと思いまして~、アクセサリーショップがいいかな~って思っていました」
「アクセサリーショップか、了解。で、ヤユイは?」
「わ、私は……その、キャナリアさんがお弁当屋をやっていたので、パン屋とかちょっとつまめるお菓子屋、駄菓子屋でしたっけ? ああいうのがあればな~と」
「なるほどな。駄菓子屋っと」
とりあえず、適当に言ったものをユキ様は普通に書き留めていく。
うわ~、検討の前段階って感じだ。
「さて、3人の方向性は聞いた。まあ、どれもありと言えばありだ」
「そうですね。どの案も人の出入りはしっかりありそうです。とはいえ客層は色々違いそうですが」
「そうだな。雑貨は女性中心、アクセサリーは女性中心だが、扱う品で客層が一般から金持ちとかそういうのになるな。駄菓子屋に関しては、子供と親という感じになるだろうな」
「ええ。男性が寄るとなると、飲み屋などになりますが、流石にあの店舗では……」
「まあメインストリートの店舗ではあるが、そこまで大きいわけじゃないからな」
そうですね。
ラッツ様が確保してくれた店舗は飲み屋をできるほどの大きさではないです。
まあ、無理をすれば立ち飲み屋ぐらいは……。
そこまで無理をしてやりたいわけでもないですからね。
「後は武器や防具を扱うとかだが……」
「そっちは冒険者ギルドがありますので、メインストリートをラッツ様が誘致していますからね。フィーリア様やナールジア様監修の」
うん、冒険者用の武具店は既に作ってある。
ついでに、そっちの方は店舗が大きく、鍛冶場もあり、メンテナンスもその場で可能。
私たちが確保している店舗だと、流石に狭いよね。
あと、ブランド名で圧倒的に負けている。
まあ、そこはユキ様が頼めばフィーリア様やナールジア様は武具を喜んで卸してくれるでしょうけど、わざわざね~。
「こっちで扱う意味はないな」
ユキ様も私と同じ結論に達したようです。
「ユキ様としては男性の客も呼びたいのでしょうか?」
「まあ、情報を集めるなら満遍なくというのは基本だしな。とはいえ、お店で全年齢性別が集まるのはってなるの、食料品とか雑貨だしな」
確かに、意外とそういうのを考えるとお店っていうのも万能ではないな~。
とはいえ……。
「そうですね。とはいえ、食料品というのは無理があるでしょう。何せ、スーパーラッツは出来ていますし」
「そうなんだよな。わざわざ食料品に関しては、こういう個人店舗で買う意味が薄いんだよな。魚にしても漁港とかで業者用とは分けて売っているしな。ラッツのスーパーにも卸しているから、俺たちが買い付ける意味も、施設もないな」
うん、お魚を保存して捌いてとなるとあの大きさでは狭いし、何より、魚介類は思いのほか香りがすごい。
磯の香と言えば良いモノだけれど、本当は生臭い。
本当に生臭い。
真面目に周りの影響を考えると、お店が密集しているメインストリートでは簡単にできない。
臭いの処理とかもちゃんと考えないといけないから。
「では、やはりオレリアたちが言った候補が有力ですね」
「そうだな。まあ、別に来店者だけから情報を得るわけじゃないしな。メインストリートに店を構えていれば多店舗に顔を出してもおかしくはないだろう」
「ええ、そのとおりです。別にこのお店で全てを補う必要はありません」
ああ、確かにそうだ。
ユキ様やプロフさんの言う通り、別に私たちが出す店舗だけで全部の情報を集める必要はない。
あくまでもお店は切欠だ。
お店をだして、そこからグラス港町の情報を集めようってことだったよね。
私たちの視点からっていうのが大事だって。
「じゃあ、オレリアたちの候補で決定するか」
「ええ。まあ、閑古鳥が鳴いてもお店を維持することは可能ですが、ユキ様の部下であるオレリアたちがオーナーのお店です。ある程度の客足はもちろん、品質は保ってほしいというのが私の希望ですね」
うげ、プロフさんがなんか物凄い要求をしてくる。
確かに私たちはユキ様の部下だけどさ、その相応の客足や品質って言われても……。
「客足は流れがあるからな。品質も別に金持ち以外お断りってお店じゃ意味がないし、そこそこでいいとおもうがな」
「それでもです。まあ、表立ってユキ様はもちろんオレリアたちが運営しているなどと宣伝するとその手の馬鹿者がやってくるのは間違いありませんが、それでも必要最低限の品質はいります」
「まあ、メインストリートの店舗に合わせてっていうのは同意だ」
ああ、それならわかる。
メインストリートの商店に合わせないと浮くもんね。
ましてやボロボロにお店とかスラムに似合うとかはダメなのはわかる。
「ということで、小物雑貨、アクセサリー、駄菓子屋から選ぶか、全部合体するか」
「ああ、なるほど。駄菓子はちょっと違いますが、子供よせと考えると別におかしくはありません。小物雑貨とアクセサリーは一緒に置いていても別に不思議ではありませんね。まあ、アクセサリーは高価なものを置くとなると話は変わりますが……」
「そうだな。ホービスとしてはどういうモノを考えている? 仕入れ先とかは」
「そ~ですね~。アクセサリーの仕入れに関しては~、ほら、ラッツ様やミコス様と一緒に名物を考えたじゃないですか~。それでアクセサリーもいくつかありましたし、ナールジア様からもアクセサリーの仕入れというか職人に関しては紹介してもらっていまして、グラス港町のアクセサリーの量産に関しても関わっていますので、そこから何とかなるかと~」
うんうん、色々案は考えたけど、作ってみてやっぱり没になったモノは相応にあるし、生産の手伝いをしている職人さんたちにお願いして色々作ってもらうこともできる。
「ああ、なるほど。確かに、ここの手伝いをしている職人ならオリジナルの作品を作りたい、そして販売したいとは思っているだろうな。あ、となると小物を考えているオレリアも同じか?」
「はい」
「なら、行けるか? まあ、後は内装だが、そこら辺は現場見て、周りと合わせるか」
「それがよろしいかと」
私たちが考えているデザインとグラス港町のメインストリートのデザインが違う可能性はあるし、実際に見た方がいいのは賛成。
「よし、仕事に関しては落ち着いているし、グラス港町に顔出すか」
ということで、私たちはお店を始めるために現場を視察に行くのでした。
楽なのは収益をほぼ気にしなくていいところですね。
ほかのお店からすればうらやましすぎますが、情報収集が目的ですからね。
なるべく人が集まりやすいお店になるといいですね。




