第1854堀:新大陸の情報まとめ
新大陸の情報まとめ
Side:ユキ
ヴィリアやニーナたちがクリア教会の本拠地であるギアダナ王国の教会に踏み込んだのはいいのだが……。
「まったくもってよくわからないわね」
「だな」
セラリアの言葉に同意するしかない。
なにせ、クリアストリーム教会のトップというか中核を担っているであろう連中は亜人が多いそうだ。
それが亜人の排斥に動くか?
しかもクリア教会ドドーナ大司教が育てたというペトラ清司教だという。
亜人とのかかわりも多々あったのは間違いないようだ。
それで、何がどうなれば亜人を排斥する流れになる?
「心境の変化……という割にはドドーナ大司教には勧誘をかけているしな」
「亜人を排斥しているのであれば、ドドーナ大司教の不興を買うのは確実。そんな馬鹿な真似するかしら?」
「だよなぁ。かといって、暗殺するために呼び出しているとか考えたんだが」
「ないわよ。それこそ、わざわざ呼び出す必要もないし、クリアストリーム教会が背後にいるなんて知られる方がマイナスでしょうに」
うん、セラリアの言う通りなんだよな。
暗殺を試んでいるには杜撰すぎる。
つまり……。
「これ、上層部が意見割れしているのかしら?」
「あるいは上層部に知られないように……」
「動いているっていうのは無理があるわよ。北部各地の亜人がギアダナ王国の所に逃げているって話だし。ドドーナ大司教も把握しているのよ? 真意は分からないけどっていっているけど」
だよな。
既にドドーナ大司教の口から亜人が移動しているという話は耳に届いているからこそ、勧誘に聞いたが知らないという。
「じゃあ、視点を変えてみるか」
「視点?」
「ああ、追い出しているではなく、誘導しているとかは?」
「ゆうどう~? なんの意味があるのよ。亜人だけを移動させる大義名分はなによ? しかも傍から見れば、各国の国力を落としているとも同義よ? まあ、イフ大陸と同じく、亜人を排斥する傾向はあるとはいえ、村単位で存在してはいるようだし、まだましレベルよ? いえ、同じぐらいかしら?」
「まあな。イフ大陸にはオーエと同じようにホワイトフォレストっていう亜人の国が存在しているしな。まあ、ここ最近では亜人の村は独立していて各国の税収には直結していない分、イフ大陸の方が排斥されているともいえるか?」
「あ~、確かに税収を得られてはいないわよね。そこを考えていると、イフ大陸の方が亜人の排斥については進んでいると言えるわね」
うん、イフ大陸には悪いが、どう見ても経済の枠組みからも亜人を放り出しているので、たちが悪いともいえる。
とはいえ……。
「わざわざホワイトフォレストに仕掛けてはいないわ。というか裏では普通に交流もしていたみたいだし」
「だな、ローデイやアグウストは相応に付き合いがあるしな。つまり、イフ大陸で置きかえるとホワイトフォレストに南部の連中が戦争を仕掛けているって感じか」
「南部っていうと、ジルバとエナーリアか……。全然ピンとこないわね。国土というか土地の広さが段違いだし、北部の国への情報遮断をしつつ、軍隊通過を無視できるとか、ありえないわよ」
「……そういえば、軍が通過したんだよな? ほかの領土を通って。いや、どの領土でもないところでもあるか?」
「ないわよ。道が存在するのであれば、それはどこかの領主、そしてどこかの国のモノよ。そうでもないと軍の移動はとんでもない時間がかかるわ。それこそ、年単位以上よ」
だよな。
軍は人が作った道を歩いてなお時間がかかるモノだ。
それを道なき道を行くとか、頭がおかしいと言われるものだ。
「つまり、各国には南部遠征に関しては許可をもらっているわけだよな」
「そうね。そこらへんも話したわよね? ほらクリアストリーム教会が許可を取って回ったって」
「だな。言ってた。やっぱり亜人排斥を伝えていたのは間違いない。で、クリア教会のトップが訝しむ程度になっているのはなんでだ?」
「あまりに不自然ね。関係させたくないにしても勧誘しているし、ギアダナ王国内の亜人の町を脅かすような行動をクリアストリーム教会は行っているし……」
「まあ、俺たちでどうこう話しても推測でしかないが、実際わけわからんな。上層部が割れているにしては、クリアストリーム教会としての動きは亜人の排斥にうごいているし」
「そうね。その割にはドドーナ大司教を引き入れようともしている。矛盾だらけね。北部は妙なことが起こっている?」
「だからこそ、各国は亜人排斥を受け入れた? とはいえ、ギアダナ王国には伝えていない。どういうこった?」
考えれば考えるほどわけがわからないな。
「裏が非常に面倒そうなのは分かっただけマシか。まあ、引き続きヴィリアやニーナたちにはドドーナ大司教と頑張って情報を集めてもらおう。幸い、今の所ギアダナ王国の方は動きは鈍いようだしな」
「そうね。表向きはオーエを落としたってことになっているし、誰を送り込むかって話になっているようだし」
「ま、クリアストリーム教会の連中を送り込むにしても、まともな連中がいるしな。向こうとしてもこっちとしても」
「ええ、何せオーエは魔物からの防波堤。そこを基点に話をしていくってギアダナ王や宰相は言っていたものね」
そう、ギアダナ王やダエダ宰相は馬鹿ではない。
亜人排斥を唱える連中に対して、いやらしい方法を取ろうとしている。
オーエを占領したのはいいとして、南からやってくる魔物はどうするのだって話だ。
つまり、亜人排斥だけで魔物が収まらない場合、オーエは魔物との最前線となるわけだ。
ということは、そこに派遣される連中は、魔物との戦いもこなさなくてはならない。
何せ亜人を排除したのは自分たちなのだから、代わりに戦うのは当然だよなって話。
もちろん予算は敵さん、クリアストリーム教会とそれに与する者たち持ちになるわけだ。
敵の資金や戦力を費やしてオーエを防衛させるという方向にもっていく。
そして、俺たちは情報を引き抜く。
うん、悪辣極まりないな。
こうして考えればいい面しかないが……。
「とはいえ、敗戦国扱いなのよね。無茶を言い出すのをどうやって止めるか」
そう、現状オーエ王国のギアダナ王国での扱いは敗戦国だ。
この世界での敗戦国というのは、条約を守られて民間人に被害はないという、優しい世界ではない。
問答無用で奪われても仕方がないという話だ。
まあ、戦地なんて現代でも略奪の対象になるのはかわらないが。
表向き発表していないだけだ。
と、そこはいいとして、オーエ王国を手に入れたと思う連中がどうするのかというのは……。
今の話の流れから、そういう面倒なことを言いだすに決まっているわけだ。
「そこは問題ね。まあ、ウィードが占領したっていう話でもいいかもしれないけれど」
「……それも手だな。後で相談してみるか」
「ウィードという他国が介入した結果というのであれば、ギアダナ王が無茶を言うわけにもいかないわよね。その場で戦争勃発案件になるんだから。一応クリアストリーム教会を受け入れたけどっていう理屈も通るけど、オーエの国民をどうこうするには私たちを通す必要がある」
「とはいえ、その場合、クリアストリーム教会とその支持派の連中と向かい合うのは……」
「間違いなく私たちね。まあ、黙らせるだけの力を見せてもいいのだけれど」
難しいところだな。
俺たちとしてはオーエの人たちに対して暴力や略奪を認めることはない。
何せ俺たちにとってはオーエは友好国だ。
そしてギアダナ王国が中心の連合軍によって被害がでたオーエの民衆を助けたわけだ。
それをひっくり返すなどは決してできないが……。
それを止めるために力で脅すというのは、分かりやすい反面、またオーエが敵認定されかねない。
ああ、その時はウィードも含めてだな。
とはいえ、そうなればその分時間は稼げることにはなるか?
しかし、シアナ男爵たちの立場が悪くなるか。
「シアナ男爵たちはまだ王都だよな?」
「……ああ、確かにシアナ男爵たちやその国が危ないわね」
「ギアダナの、いやクリアストリーム教会の方針に逆らったってことだしな」
「そうなると、妙に力を見せるのは駄目ね」
「シアナ男爵たちの国の安全を考えると、やっぱりクリアストリーム教会とその支持派の連中を捕縛してしまうって方向しかないだろうな」
「下手にもぐりこまれるよりは、こっちから迎え入れた連中を押さえている方がやっぱり楽か。当初の予定通りになりそうね」
「ま、やっぱり妙手を考えるよりは、当初の予定を進めた方が堅実そうだな。とはいえ、常に別の手は考えておいて問題ないだろう」
何をするにも、ともかくギアダナ王国とクリアストリーム教会とその支持派の連中の動きをさらに探る必要がある。
理想を言えば、クリアストリーム教会の全部の情報が集まればいいが、そうもいかないよな。
「あとは、ミコスとカグラが成功させたジェヤエス王国とはどうなっていたんだっけ?」
「現在使者がオーエにやってきて、内部調査中って所だな。まあ、実質対北部同盟の準備だが」
「ああ、カタログで大喜びしていたわね」
うん、思った以上にミコスが作ったカタログが効き目抜群だったようだ。
魔力を電力に変換するシステムの道具で、まだまだ魔力の電力変換効率がそこまでよくはないが、それでも向こう側からみればお宝だったんだろうな。
いや、日本も黒船来航はもちろん、タネガシマ、つまり銃が伝来した時にはお宝だったんだろうな。
……違うか。
まず、宝かどうかも判断がつかなかったはずだ。
今回は家庭で利用するものばかりだから、便利とすぐに認識されたわけか。
「南部の砦は……」
「魔物の動きがないって状態だな。素材の調査はフィーリアたちが頑張ってくれているが、まあ、珍しい物はないな。地質調査についてはトーリたちが頑張ってくれているおかげで鉱脈が発見できている。台地については生態系がごろっと違って、進捗がさっぱりだな。とはいえ、総じて、土地としては旨味がある」
「魔王や魔物に関してはさっぱりだけど、他のことは価値があるわね」
「ああ、土地としての価値は当初微妙だったが、工場や研究所を置くならかなり適した場所だろうな。何せ素材もあるから輸送の手間も省けるだろう」
「なるほど。総じて、今の所の問題は北部だけって感じか」
「ああ、他はあらかた片付いたしな。グラス港町はあれから一般開放されて動き始めているし」
「そうね。ウィードに入り浸っていた他国の重鎮がこぞってグラス港町に移動しているモノね」
「らしいな」
あの盛大なパーティーをしたあと、大国の王たちは相応に残って楽しんでいたようだが、その後に国に戻ってから伝えたようで、普通に観光としても会談の場所としても使っている。
もちろん、楽しむことは忘れていない。
まあ、港町のケースモデルだしな。
出入りするのは間違いではない。
そんなことを考えていると、セラリアがなぜかオレリアたちを見ながら。
「そういえばオレリアたちは、お店出したのかしら? メインストリートに店舗確保していたのでしょう? 情報収集兼、商品開発場所として」
「「「あ」」」
すっかり忘れていた。
俺も当然、オレリアたちもだ。
「はぁ、まあ、色々あったから仕方ないけれど。あまりにも空き家のままだと、シスアやソーナはもちろん、ラッツやエリスも苦情を言ってくるわよ? わかっているでしょ、あそこウィードで一番稼げるスポットなんだから」
「わかってる。よし、一同戻ってお店会議だ!」
「「「はい」」」
ということで、俺たちは早速戻ってグラス港町のお店について話し合うのだった。
忘れていたお仕事、というか情報収集のお店。
オレリアたちに任せるとかいいつつ、時間はほぼ作れず。
いまから慌ててやります。
一等地をずっと空けるとか、まあ、普通に怒られますわな。




