落とし穴外伝:夏の夜空の思い出
落とし穴外伝:夏の夜空の思い出
Side:ユキ
「「「いってきま~す!」」」
そんなことを言って、サクラたち子供メンバーがセラリアを中心とした母親メンバーと一緒に外出をしていく。
いつもの外出とは違って、ワクワクに満ちていた。
それはわかる、なぜなら……。
「いやぁ~、子供たちは楽しそうだねぇ~」
「そうね。お祭りなんだし、楽しみで当然でしょうけど」
「いつものお買い物とはまた違うからね~」
そう、本日は夏祭り。
年に一度、いやグラス港町が出来たのであちらと合わせれば年二回しかない夏祭りなのだ。
それが楽しみでない子供たちはいないだろう。
それがわかっているエージル、カグラ、ミコスはその姿を見て笑顔でそう答える。
「というか、ウィードの王女や重臣たちの娘がほぼ護衛もなく出かけるということが驚きですが」
スタシアは心配なのか微妙な顔だ。
まあ、普通は要人の娘と母親だけでお祭りにいくとかはまずありえないしな。
とはいえ、護衛がいないわけじゃない。
ちゃんと子供たち全員にスラきちさんの部下がついている。
ミニスライムに擬態して、いざという時は守ってくれたり連絡をしたりしてくれるので、心配はしていない。
それでも心配は心配というやつだろう。
スタシアは妹のアージュと死に別れしたのだから、過剰に心配しても不思議ではない。
むしろ当然だ。
「さて、子供たちは母親たちと花火大会の屋台に向かったわけだが、エージルたちはどうする?」
俺は見送りが終わり玄関で立っているメンバーにそう聞く。
ここの旅館兼家に残っているメンバーはまだ連れていくのには幼い子の母親たちか、エージルたちのように子供がまだおらず、見送りをしているメンバーだ。
祭りに行きたいという子供たちに付き合う必要がないので、こうして何かあったときに動けるように待機しててもいいし、のんびり趣味をしてもいい。
祭りなんて自由に動くものだしな。
「そ~だね~。子供たちがどうせ僕たちの分のごはんも買ってくるだろうし、家で食べると、お土産がたべれなくなるから、のんびり読書かな。花火はここからでも映像が届くし」
エージルはこのまま旅館に残ってのんびりするつもりか。
うん、正直それは正しいと思う。
あの人混みは結構疲れるからな。
お店とかを確保しているならともかく、そういうのはしていないし、何よりお祭りの中に飛び込むのが楽しいんだからな。
「そういえば、カグラやミコスはキャリー姫と一緒にみるとかは無いのか?」
「そういうのはないわ。スタシアはお店を取ってアージュ、姫様と見るって言っていたけど」
「まあ、あの三人は姉妹みたいだしね~」
「なるほど。それもありだな」
スタシアはキャリーやアージュと楽しむか。
お店を予約して落ち着いてみるって言うのはありだな。
ただし花火大会の日の予約はかなり高額だ。
誰だって良い場所でゆっくり見れて食事ができるのはいいことだからな。
まあ、大衆酒場の外席でみたりはできるだろうが、そこでお姫様たちがゆっくりというのは違うだろうしな。
「というか、ユキはどうしたのよ? 普通ならセラリアたちと一緒に子供たちに付き添うんじゃない。私たちも一緒に」
「だよね~。ユキ先生、今回はどうしたの? 何か問題でもあった?」
「問題があったというか、子供たちの希望だな」
「希望? サクラたちが何か言ったの?」
「ああ、自由にお祭りを見て回りたいってな。お父さんたちと一緒だと自由に動けないって」
「「ああ」」
そう言われてすぐに納得する。
まあ、人混みの中で子供たちだけで動くというのは親からしたら認められないしな。
幾ら護衛がついているとはいえだ。
「そこで、妥協点として、母親と一緒ならで納得したわけだ」
「それなら各員自由に動けるわね」
「まあ、子供たちもそれぐらいの年になってきたってことか~」
「だな。サクラたちもそういう年ごろってわけだ。それに今日一日中別ってわけじゃないし、後でお土産沢山持ってきて、食事会だしな」
「「あ~」」
二人もそれが想像できたのか、そういう声を上げる。
「きっと、同じものが沢山あるでしょうね」
「だね~。たこ焼き、焼きそばは確実としてあとは何がくるかな?」
「焼き鳥はあるんじゃない? あとは、ステーキ系とか」
「ステーキ系は定番だね。串に豪快に刺してくれるから食べがいあるよね。あとは一口ケーキとか?」
うん、二人の言葉から出てくるように、最近ではウィード独自のお祭り料理も出てきている。
ステーキ串は日本にもあるが、その規模が違う。
本当にお店で出るようなサイズのステーキをそのまま串にさして渡してくるのだ。
いや、もっと細かく切れよと。
焼き鳥を見ていてなんでそうなるのかと思うかもしれないが、意外とその豪快さと量で人気なのだ。
冒険者とかそういうのならではというやつだろう。
まあ、地域によってお祭りに特色が出るという話だろうな。
うん、そう考えるとやっぱりそうだな……。
「よし。俺もお祭りを見てくるか。カグラとミコスはどうする? エージルみたいにのんびりするか?」
「そうね~。私も一緒に見て回ろうかしら」
「うん。ミコスちゃんもユキ先生と話してたらお祭り見たくなってきた~」
「じゃあ、一緒に行くか。プロフたちを呼び出すのも悪いと思っていたしな。護衛も頼む」
「まかせなさい。ちゃんと守ってあげましょう」
「うんうん、ミコスちゃんに護衛はお任せだよ」
ということで、俺はカグラ、ミコスと一緒にお祭りに繰り出す。
町中はやっぱり人であふれかえっていて、お祭り効果は出ている。
「そういえば、花火は公園なのよね?」
「ああ、公園の中央は湖、池だしな。そこでなら安全に花火を上げられる」
花火は火薬を使ったものと、魔術のモノがあるが、どちらにしろ火の粉を空に上げるものだからな。
そういう火事対策は必須だ。
もともと、花火を上げるというのを想定して作った池と公園だしな。
そして、その池を囲む公園の歩道に、お祭りの出店が商業区よりも多い。
まあ、あそこは店舗を構えているからな、下手に出店を許可すると営業妨害になるからな。
「うわ~、色々ありますね」
「ま、出店だしな。稼ぎ時だ。少し値段設定も高めだろう?」
「そういわれるとそうね。大体一割二割は上げているわね」
「ぼったくりだ~」
「どうだろうな。ここの場所を確保して、店舗を用意して、道具とかを考えると、元は取れるか怪しいところだな」
確かに祭りの出店は割高で売れはする。
だが、それで元が取れるかというと微妙だ。
初期投資分を確保するのは、2、3回目以降じゃないか?
まあ、稼げるところは一気に稼げるだろうが。
「ああ、そういうのを考えると、一回のお祭りじゃ難しいわね」
「でも、こういうのって毎年やるんだし、それを考えているんじゃない?」
「だな。これからずっとって考えている人は多いだろうなっと」
俺がそう言い終わると同時に、足元に影が走る。
「ごめ~ん」
「ごめんなさい」
そんなことを言いつつ子供が走り去る。
「あっちに良いくじ屋があるんだよ」
「あたらねーよ。それなら輪投げ屋だよ。あそこの景品選べるんだぜ?」
そんな声も聞こえてくる。
俺は思わず、苦笑いになる。
「失礼な子たちね」
カグラはストレートに失礼だと思ったようだが……。
「まあまあカグラ。ミコスちゃんも子供の頃はあんな感じだったって。ああ、カグラはお嬢様だったからそういう経験はない?」
ミコスは子供たちの在り方には覚えがあるようで笑顔でそんな話をする。
確かに、カグラは公爵の次女だし、こういうお祭りを経験していない可能性はある。
「……遠目で見たことはあるわ」
「それって経験しているって言わないよ。そうなると、ウィードでユキ先生たちとお祭りに出たのは初経験?」
「そうよ」
なるほどな。
なら、いいタイミングだ。
「それなら、俺たちの思い出を今再現してみるのもいいだろうな」
「思い出の再現?」
カグラはよくわからないと言った感じで首をかしげる。
「そう。わかりやすく言うのであれば、買い物ができるのは3回まで。くじ一回は一回に含める」
「あ~、なるほど。確かにそれはいいですね」
「はぁ? たった三回ってすぐに終わるわよ?」
ミコスは俺の意図していることが分かったのか笑顔だが、カグラは理由が分からずと言った感じだ。
「子供は好きな物を気になったモノを何でも買えるわけじゃない。財政的に3回、4回買えればいいところだろう」
「ですね~。手元のお小遣いと相談して頑張っていましたし~」
「そう、いうものなの?」
不思議そうに聞き返してくるカグラ。
「そうだよ。ほら」
俺がそういって視線を向けた先には……。
「これやろうぜ~」
「まってお金が足りなくなる」
「そうだよね~、あっちの方の屋台も見てからにしない?」
そんなことを話し合って買うモノを吟味している子供たちがいる。
「ああやって、お金の使い方を徐々に覚えていくもんだ」
「そうでしたね~。それで来年はもっと買えるようにお手伝いとか頑張るんですよね~」
「むむ。そういうことね。経済を学ばせると……」
カグラは難しいことをいいだすが、実際はそこまで難しい話じゃない。
ミコスと俺は視線を合わせて苦笑いしてから……。
「さあさあ、カグラ難しい顔をするより、まずは心を惹かれる出店がないかみつけよ~」
「ああ、それが祭りのだいご味だしな」
そんなことを話しているうちに……。
ドーン。
夜空に火の花が咲くのであった。
お小遣い片手に、残金を気にしながら出店を見て回りました。
絶対に足りないんですよね~。
それでも、見て回るんです。
楽しかったと、覚えています。




