第1845堀:新人武具の真実
新人武具の真実
Side:ヒイロ
なんか面白そうな気配がして、お兄の所にやって……いや、ドレお姉に言われて、ヴィリお姉がどういう判断するのかを確認しに来たんだ。
まあ、ヴィリお姉のことだし、お兄の提案を受けて北部に行くのは間違いないけど。
嫌でもお兄の為ならって言うのがあるし、一応ってこと。
正直言えばヒイロも北部に出たかったんだけど、流石にヒイロはこの容姿だしね~。
小さいままだし、ドッペルを使って大きい体も用意できるけど、ヒイロはこの体で動く方が得意なんだよね~。
戦闘も大盾を持って重量を補うやり方だし~。
どう見ても、ヒイロは色物だし、面倒事に巻き込まれるのは確実だから流石に足を引っ張るようなことはしたくない。
それに話を聞く限り、厄介ごとに巻き込まれることは間違いないもんね~。
このウィードでも馬鹿には絡まれるし。
「ま、ヴィリお姉たちのピンチなら駆け付けるけど~」
と、そんなことを考えているあいだに、お兄の執務室の前に……。
ザザザ……。
あん? なんか、執務室から人が出てきた。
いや、プロお姉たち?
「何があったの?」
「これはヒイロ様。現在、ナールジア様が武具をお持ちになられたので……」
「あ、納得」
凄く納得。
つまり、爆発の可能性があると。
「資料とか大丈夫なの?」
「即座に移動するらしいので、私たちは先に避難しております。書類は足がないので。防護をかけているのかと」
「そっか~、じゃ、入るのはやめて待ってようか」
入ったとたんに爆発に巻き込まれるとか嫌だし。
お兄のことは大好きだけど、ナールジアお姉の趣味に巻き込まれるのはあれだし。
そんなことを考えていると、ナールジアお姉をひっつかんだお兄が出てくる。
「ぶ~。女性の扱いが雑ですよ~。いえ、私に対して時たまひどく雑じゃないですか~?」
「爆発物を執務室に持ち込まないでくださいよ。わかっててやっているでしょう?」
「まあ、それは、お約束というやつですね。あ、ヒイロちゃんじゃないですか~」
あ、こっちに気が付いた。
というか、爆発物はお約束でやってたんだ。
計画的にやっているとか、たちが悪いけど、まあ理解はできる。
漫画やアニメのお約束だし、確かに新兵器は狙われやすいのはわかる。
何せ敵の新技術を手に入れて解析、対策もとれるもんね~。
最初はそんなことする意味があるのかな~って思ってたけど、確実に意味があるってアニメとかを見て分かった。
うん、お兄の言う通り、アニメや漫画はよき勉強になる。
だから、ナールジアお姉がひたすらに自爆装置を付けている理由もわかる。
敵の手に渡る前に処分するっていうのは合理的。
とはいえ、手元にそういうものがあるのは怖い。
「で、ヒイロはどうしたんだ?」
「え? ヒイロですか?」
お兄の声で執務室から、ヴィリお姉を始めニーナお姉たちが出てくる。
あ~、多分お姉と一緒に動くためかな?
ヴィリお姉だけだと不安だもんね。
「ヒイロ。何か失礼なことを考えませんでしたか?」
「いや、ニーナお姉たちがヴィリお姉と一緒にいるのはなんで?」
相変わらず鋭い。
なので話を逸らす。
実際ニーナお姉たちが一緒にいる理由は聞きたいし。
「ああ、ニーナたちは北部に潜入するのにヴィリアと一緒に行動してくれる予定だ。そして、これから装備品の確認に行くんだが、一緒にくるか?」
「行く。ドレお姉から、ヴィリお姉がどうするのか見て来いって言われているし」
「ドレッサがですか?」
「うん。ドレお姉がトーリお姉とかに相談したし、無理してないかって」
「なるほど」
ヴィリお姉はお兄の関係のことは基本的に断らないしね~。
まあ、お兄が無茶苦茶な仕事を頼むとは思えないけど、それでも気にするよね。
で、ヒイロもお兄たちと一緒に装備品の確認へついていく。
「まあ、俺からも無理はしていないか聞いたんだけどな」
「無理などしていません。むしろ南部の調査部隊は行き詰まっていてやることが少ないというほどでしたから」
「なにそれ? トラブル?」
「ああ、違う違う。いや、トラブルというとそうかもしれないが、南部の土地が広すぎてな。どこまでどれぐらい調査するべきなのかってところが出てきているんだよ。元から数も少ないからな。調査しようにもすぐに全部出来るってわけじゃない」
「ああ、そういうことか」
確かにウィードの人数であの大きな新大陸の南部を調査するとか物凄く時間がかかるのは目に見えている。
しかも魔物の動きも注意とか、手が足りていないっていうのは簡単に想像できる。
「そういうことで、私は調査部隊からの報告を聞いてまとめるぐらいですね。強力な魔物が現れれば対応しますけど、それ以外では基本的に砦に詰めて、情報をまとめているぐらいです」
「うへ~」
ヒイロにとっては苦手な机仕事だ~。
「あはは、ヒイロは外に出て働くのが好きだからな」
「うん。ヒイロは現場で頑張るタイプ」
実際海軍では魔物たちと一緒に海に出て警戒のお仕事しているし。
最近はでかい魚の魔物を仕留めた。
大人の10倍はあるでかいやつ。
でも身は美味しくなかった。
あんなのが沖合にはいるんだから、普通の木の船じゃどうにもならないはず。
というか、シードラゴンのシーちゃん曰く、腐ったでかい魚のリヴァイアサンってのもいるみたいだし、世界は広い。
「はぁ、まあいいです。それで私が動いても問題ないとトーリお姉さまやフィオラお姉さまは判断したわけです」
「なるほど~。ヴィリお姉も外で戦いたかったわけだ~」
「違います。北部のことを知らないままだと、無暗に戦争に巻き込んでしまうので、それを少しでも止めるために動くんです」
「わかってるって~」
ただ暴れたいだけとか冗談にきまっているじゃない。
そういうのを含めてヒイロには絶対向いてないんだよね~。
「それをスムーズに進めるためにも、装備の確認が必要なわけだ。さ、練兵場についた。オレリア?」
「はい。既に申請を出しております。3番練兵場へ。あと両隣の練兵場の兵士たちは退避しています」
あ、やっぱりナールジアお姉の武具ってなるとそうなるよね~。
ヒイロ大丈夫かな?
退避している必要があるんじゃ……。
「さ、ヒイロもドレッサに言われて様子を見に来たんでしょう。ちゃんと近くで見て報告しないとね」
「そうそう」
うげっ、気が付けばヴィリお姉とニーナお姉に捕まれて練兵場に連れ込まれる。
逃げるタイミングを逃した。
「さて、ナールジアさん。持ってきた武具の説明をお願いします」
「はーい。ではでは、改めてこちらのテーブルに広げまして」
そう言って、ナールジアお姉が武具を広げる。
パッとした見た目は使い込んだ質の良くない武具。
新人が使うっていうと、まあ、こんなもんかって感じ。
つまり……。
「お姉たちは新人冒険者ってことで北部に行くの?」
「そういえば言ってなかったわね。ヒイロの言う通り、新人冒険者で登録から始める予定ね」
「そう。いきなりベテランだとどこから出てきたってなるから、新人冒険者をしつつ、各国を巡って実力をつけるってことにする」
「あ~、そっか。いきなりの実力者がでてくるとなると、怪しまれるもんね~」
そのための新人装備か~。
でも……。
「その新人っぽい装備はただの装備ってわけじゃないんだよね?」
「そのとーり! ヒイロちゃんよくわかっていますね」
ヒイロの言葉にナールジアお姉が声を上げる。
全員が怪しい目で見ている。
あの武具に何が仕込まれているのかって目で問う。
「じゃあ、まずは基本的な一律についている性能について聞こうか」
お兄がまずはそう告げる。
確かに、ナールジアお姉なら一律付けているエンチャントはあると思う。
「そ~ですね。同じというと、ちゃんと現状維持等のやつですね。自己修復というやつです。まあ、汚れを落とすとかそういうのではなく、内部のモノですね。パッと見てぼろそうではありますが、こちらの剣は刃の鋭さは落ちても元に戻りますし、鎧に関しても革が傷ついても元に戻ります。わざとボロそうな装いなので、これに戻るというわけですね。こことか」
そう言ってナールジアお姉が見せてくるのは、皮の鎧のつなぎ目が露骨に手縫いされているような所だ。
これもこの通りに元通りになるのか。
ある意味ミラクル。
「いや、この補修だと攻撃で壊れないか?」
お兄の言う通り、ちょっと手縫いされているところが切られると全部脱げてしまいそう。
「ああ、見た目だけですよ。これ、ジャストフィットするエンチャント付けていますし、勝手に外れないようにもエンチャントしてあります。ぼろに見せるんですからそれぐらいはしています」
「なるほど」
そういう所はちゃんとしているんだ。
「ぼろを装うというのも意外と楽しいですよね~。プラモで壊れたメカを演出するっていうのから浪漫があるのを知りました」
「あ~、なるほど。そこから嵌ったか」
「はい。戦い抜いた証がある。それは素晴らしいものです。そしてそれを独自に改修していってオリジナルへと至る。ああ! 素晴らしきかな! 専用機!」
……ナールジアお姉は最初から趣味全開だったと。
いや、いつもの事か。
そして仕事はちゃんとこなしていると。
「まあ、落ち着いてください。とりあえず、ロボットではなく武具なので使い捨てが基本なのですが」
「そこは理解していますが、下手な武器はヴィリアちゃんはもちろんニーナさんたちには向きませんからね。そこらへんは随時私が用意します。とりあえず実績を積むまではこれを。あ、ちなみに防具には基本的に魔力の防護膜があって本体にダメージが届くことはほぼありません。魔術攻撃も余程の火力が無ければ無理です」
あ、うん。
それ初心者防具どころか、上級者を飛び越して伝説レベル。
「もちろんばれないように細工はしていますよ。武器の方も勿論、剣やナイフも射程というかレンジは見た目以上に伸びます。魔力の刃ってやつですね。最大10メートルにはなります。こちらは敵の魔力防御で弾かれますので、そこまで有効ではありませんね。まあ、皆さんも戦闘中はよく使っているでしょう」
うん、確かに武器の射程を伸ばすために魔力をまとわせるのはよくやる。
でもお姉たちとの訓練だと本身、つまり武器の実体である刃の部分がないと大体防がれるから意味ないんだよね~。
「最後に、認証システムを入れているのでヴィリアさんたちや私たちが持たないと魔道具としての効果は発揮しませんので、敵に鹵獲されても心配はありません」
「爆発は?」
「そのメリットがないですね。エンチャントにしても便利ではありますが、別にどこでもあるエンチャントですし、真似されても痛くもかゆくもな既存のモノです」
お~、そこらへんはちゃんと考えているのか。
しかも爆発がないのは大きい。
と、こんな感じで持ち込む武具の性能確認をしていくのでした。
ナールジアさんはわびさびというのを覚えました。
崩れゆくものに美しさを感じられるように。
ゴテゴテの装飾は少なくなるかもしれませんが、逆が増えるかもですね。




