第1842堀:仕事が終わったら仕事が待っている
仕事が終わったら仕事が待っている
Side:ニーナ
「はっ、大した事ねえな」
そんなことを言いながら、剣を鞘に戻しているのはキシュア。
小柄な割には剣の腕は私より上で、意外と女子力もある。
言葉遣いが男っぽいのが残念。
「おい、口にでてるからな」
「おっと」
「ったく、隠す気もないだろ。まったく、そんな女子力でユキと仲良くできるのかね」
「ユキとは仲は良い。間違いない」
「おう、それはどう見ても友愛というか、面倒のかかる妹って感じだろうな」
「それでも女と男。行きつく先は決まっている」
「……普通はうなずけるんだが、ニーナは余程幸運が重ならない限り無理な気がするんだよな」
「大丈夫。キシュアよりは可能性は高い」
「おい、私の方が女子力はあるぞ?」
「何、じゃあ彼氏とか結婚歴あったっけ?」
「ねえよ!」
とそんなことを話していると、燃え盛る家屋の反対側から人影が現れ……。
「えーっと、お2人とも、余裕ですね」
「はぁ、2人とも仕事中なのよ。しっかりしてください」
ウィシーはともかく、スィーアが説教をしてきた。
まあ、確かに現在は仕事中。
何の仕事かというと。
「村を燃やして逃げてきた連中は捕縛、魔物もちゃんと焼却と、逃げて出てきたのはかたした」
「見逃しは無し。完璧」
そう、私たちは今、魔物を保管している村に襲撃をかけていた。
いや、終わったというべきか。
村の地下に大規模な空間があるのを確認できて、村の住人は完全にその魔物を飼育するための人員だったので捕縛した。
生かしておくのは、今後の証言の為。
「あはは、見事に封殺しましたよね~」
「そういうことを言っているのではないのはわかっているわよね? 態度を真面目にしなさいって言っているのよ」
ウィシーは何とかなったが、真面目なスィーアはどうにもならないようだ。
はぁ、これぐらいの軽口は認めてほしいのだけれど。
「まあまあ、これでひとまず処分は済みましたし、後はここの偵察でも立てて、動きを見るという感じですみますから」
「はぁ、ウィシーさんがそう言うのであればこれ以上は言いません。で、その後の監視に関しては……」
「はい。こちら、冒険者ギルドで請け負います。まあ、何かあればお願いすることはあると思いますが」
「そこに関しては、上を通してください。私たちも任務で動いていますから」
ま、元々このスアナの町の冒険者ギルドからの救援に関しては、私たちはこれ以上口出しは出来ない。
闇ギルドの形跡があればもっと動けるけど、調べれば調べるほど、領土関連の諍いだしね。
これに口を出せば大問題にしかならない。
裏に闇ギルドがいればまだよかったんだけど、それすらもないからね。
ウィードとしてはこれ以上動きようがない。
あ、あとは……。
「そういえば、最果ての村の住人が移動する件に関しては……」
「ああ、そちらに関しては大丈夫ですよ。ちゃんと移動が終わったあとで魔物に襲われたとでもしておきますから~。ここまで手伝ってもらったんですから、それぐらいはしますよ~」
「ああ、なら頼む。交渉もそろそろ終わりそうだしな」
村に残るって言っているご老人たちも、一度ウィードに行ったことで、生きることの喜びを思い出したようで移住しようって方向になっているようだ。
まあ、ウィードで一度楽しめばそうもなる。
「しかし、意外とウィシーは優秀。書類仕事とか、ほかの関係者との折衝もいける」
「だな。そういう交渉は私は面倒だしな」
「できなくはないですが、ウィシーさんほどではないですね」
キシュアもスィーアも今回の村への襲撃の手はず、というか状況を整えたウィシーに対しては素直にほめている。
私も同じ。
ウィシーは何というか、万能型、ユキみたいなものだ。
いや、ユキは言いすぎか。
同じ女性で言うなら、ジェシカ、スタシア、フィオラといった指揮ができて、書類仕事もできて、交渉などのこともできる人材。
私たちもできなくはないが、それでもジェシカたちよりは劣る。
「皆さんにそういっていただけて嬉しいですね。とはいえ、お分かりかと思いますが、便利扱いされるんですよね~」
「まあ、それだけ色々できるとそうだろうな」
「うん、私たちも実際色々使われているし」
「ですね。とはいえ、嫌いではないですよ。ウィシーさんも同じでは?」
「あはは、まあそうですね~。私もあのグランドマスターにお世話になっていますし、役に立つのは嬉しいですよ~。嫌ならもっと昔に姿を消していますし~」
そういうウィシーは笑顔だ。
それだけグランドマスターを信頼しているんだろう。
「ま、疲れたならウィードにくると良い。その時にはスーパー銭湯とか飯でもおごってやるよ」
「おお、それは嬉しいですね」
「うん、ウィシーのことは気にいった。色々話してみたいし、余裕があればくると良い」
「ええ。歓迎いたします。私たちも休みたいですし、口実になっていただければ幸いです」
「あはは、ですね~。いりますよね口実」
とまあ、そんな感じで、魔物を集めていた村を始末することに成功した私たちはウィードに帰還することになる。
「ということで、無事に魔物の処分は済ませた」
「お疲れ」
「お疲れ様。まあ、これが穏便よね。調べている途中だけれど、今回のその作戦にはやっぱり相応の資金が流れているのを確認しているわ。そうそうもとには戻せないでしょうね。町を巻き込むような動きはそう簡単にできないはずよ。まあ、冒険者ギルドも監視をしているようだし、何かあればわかるわ」
「だな。これで後は村の人たちの移住をするだけだ」
ユキとセラリアに報告をすると、ねぎらいの言葉を貰って、今後のウーサノのスアナのことを聞く。
そんなもんだろうという回答だ。
元々それを狙っての襲撃だったし、予定通りなわけだ。
「じゃ、これでスアナでの私たちの仕事は終わりってことでいいか?」
「ああ、お疲れキシュア、スィーア。ニーナのサポート助かる」
「いいえ、流石に規模が大きすぎました。それで、原因というとちょっと違いますが、新大陸の方はどういう状況なのですか?」
ああ、忘れてた。
私たちがスアナで動いていた時もユキたちは新大陸のことで動いていた。
そのことを聞かないと。
「うーん、まあ、これと言って目立った動きはないな。カグラとミコスが無事にオーエの隣国であるジェヤエス王国との交渉をまとめてきた。見事に味方に引き込んだって所だな」
「おお、それは大きい進歩」
目立った成果だ。
これでオーエの物資枯渇状況は改善されていくはず。
その割には、なんか、浮かない気がするけど。
「その割には喜んでないな。あんまりおもしろくない話でもあったか?」
キシュアがそこを突いて質問をしてみる。
「ああ、なんかジェヤエス王国にも北部の代表として、クリアストリーム教会の使者が来ていたみたいなんだが、亜人を処刑するからよこせっていう、まあ身もふたもないことを言い始めたんだと。それをするための対価も何も言わずに」
「はぁ? なんだそりゃ、ただ損をしろって言ってきたのか? そんなに南部は北部に比べて立場が低いのか?」
「そういうことはないらしい。だから、さっさとお帰り願ったようだ」
それはそう。
別に仲が良いわけでもなく、力関係がはっきりしているわけでもない国相手に命令とか普通はしない。
そこで使者は切られなかっただけマシ。
「それと同時にオーエ攻めも手伝えって話だったのもあって、こっちにも攻め込んでくるのかと考え、戦力を集めて、情報収集をしている最中だったらしい」
ああ、なるほど。
その場で使者に手を出さなかったのは、オーエの状況を聞いて自分たちも目標になりかねないと思ったからか。
でも、そんな対応となると……。
「ユキ、北部は南部に喧嘩を売って回っているって認識でいいわけ?」
「今のところジェヤエス王国だけだが……。あそこだけ仲が悪くてそう言ったんだ。って言って信じるか?」
「ないな」
「ないですね」
「ない」
これは南部全体に対して喧嘩を売っていると思った方がいい。
「つまり、オーエへ攻めていた連中は捨て駒? 連携させて、潰させる予定だった?」
「その可能性も考えている。まあ、あのオーエの侵攻軍を潰せば、亜人の国が危険だって言うには言えるからな」
「はっ、自分たちから仕掛けておいて。物は言いようだなぁ」
キシュアは心底不機嫌って感じで言葉を吐く。
私も同じ気持ちではある。
これじゃまるで……。
「つまり、ユキさんたちは戦争は避けられないと考えているのですね?」
スィーアがこれから起こる最悪の未来を口にする。
いや、別にウィードが負けるとは思わないけれど、戦争程消耗することはない。
そこに何かしら納得できることがあればいいけれど、今の情報だけだと、南部、特に亜人たちが不当に虐げられているだけだ。
「今のままじゃな。それにオーエとしては北部の連合と戦争中ではあるが」
「それはシアナ男爵たちが戻っているから、押しとどめられるんじゃ?」
「可能性はある。ギアダナ王国もクリアストリーム教会の動きには不信感があったようだしな。シアナ男爵たちから本隊が敗走したことを伝えたら、そこからクリアストリーム教会の動きは鈍るかもしれないが、ギアダナ王国だけにクリアストリーム教会が力を入れているって思うのもな」
「……ないな。大国の一つを動かせるような連中が、たった一国だけで遠征とかない」
「ですね。もっと動かせる戦力を保有していなければ、反撥されるに決まっています」
うん、ユキやキシュア、スィーアの言う通りだと思う。
ギアダナ王国だけに強いクリアストリーム教会ではないだろう。
話を聞く限り、北部ではかなり広い範囲で受け入れられているってことだし、ギアダナ王国以外にも協力しれくれる国がいるのは間違いない。
「というわけで、シアナ男爵たちが進言したところでギアダナ王国自体はどうかわからないが、ほかが止まるかというと微妙だ。だから、俺たちも独自にギアダナ王国以外とも連携を取れればと思っているんだが……」
「人がいないのよね。クリアストリーム教会の範囲内で、亜人の味方を増やそうとする活動になるわけ。それがどれだけ大変か。キシュアたちはわかるんじゃない?」
「「「あ~」」」
周りが敵ばかりの中での活動は本当に難しい。
私たちがヒフィーに煽られたとはいえ、各国をひっくり返すために動いていた時も本当に戦力不足で悩んだ。
まあ、ウィードは後ろに大陸間交流同盟を抱えているし、個々の戦力についても、私たちも含めて圧倒的ではあるから、負けはないだろうけど……。
「向こうのいいように戦力を整えられるのは面白くない。だから、何とかできないかと思っているところなんだが、ニーナたちは今動けるか?」
「「「は?」」」
いや、仕事は終わったばかりだけど。
うん、確かにユキたちが動くよりはマシなのはわかる。
……それでも、私たちが新大陸に?
世の中、そういうもんです。
仕事が終われば仕事が回ってきます。
休みはありますが、少しの休暇のあと仕事です。
世の中そういう風に回っております。
便利扱いになってきたベツ剣メンバー。
とはいえ、本当に頼りにはなるのは間違いない。




