第1837堀:行方不明事件の解決先
行方不明事件の解決先
Side:ユキ
ウーサノ、アーエの冒険者ギルド支部を巻き込む問題に進展があった。
というか、これでほぼ捕捉できたと言っていいだろう。
確定ではないけれど、それでもこれ以上保管場所もない。
次の依頼が出るまで待つかと思ったが、そうでもなかったな。
「で、場所を見つけたらどうするわけ? 動くの待つのかしら?」
「それはグランドマスターと要相談だな。別に領土拡大を狙うのは悪いことじゃない。まあ、戦争になるのは困るけどな。そういう領土が隣り合うと下手をしなくても同じ国の領主たちでも争いがあるだろ?」
「……あるわね。お互いにらしい主張をして相手の領土を持っていくってのはままあることよ」
そう、俺たちの戦いは最近国と国の大きいぶつかり合いがほとんどだが、今話した身内同士の小競り合いというのも普通に存在する。
ウィードに関しては領土はあるが、領主というのが飛び地の所だけなので、そういう争いは起こりえない。
と、ウィードはいいとして、ほかの国では部下同士のそういう小競り合いはよくあることなわけだ。
もちろん被害にあう一般人、その土地に住む人たちにとってはたまったものではないが、そういう問題をどううまく治めるかも、統治能力の一環として考えるんだよな。
まあ、自治って感じもあるんだろうが。
「だから、国に対して文句を言っても知らぬ存ぜぬでおわりだし、どこでも起こっていることで口を出すなだ。しかも今回に限っては行動すら起こっていない。魔物を集めているだけ。これを指摘しても躱されるだろうし、動くの待つかあるいは……」
「あるいは?」
「いや~、なんらかのトラブルで魔物たちが死んでしまうことはあるかもな」
「そういうこと。下手に口出すより、勝手に全滅したのなら、私たちは知らぬ存ぜぬができるわけね」
俺の意図が分かったのかすぐにそう返してくれる。
そう、勝手に魔物が死んでしまうならこっちの関与は限りなく低い。
偶然魔物の村に優秀な冒険者が居合わせるよりもまだましだろう。
「まあ、そうなると、相手は別にお咎めを受けたわけじゃないから、時間をかければ戦力は回復できるわけだが」
「そこは問題ね。何度もそういうことをやられると困るわね」
「とはいえ、時間は稼げるし、調査をする時間がもっと増えるわけだ。今回の行動、ロシュールとガルツはあまりいい顔していないだろう?」
「それはね。闇ギルドの関連で協力を拒否しているのだし、お姉さまもローエルの方も不信感があるわよ。というか裏の話は通しているから、二国の動きなんて筒抜けもいいところだけど」
「だろう? 今後のトラブル阻止は両国に任せるかどうかって話になると思う。今回の介入で冒険者ギルドがにらまれるのもよろしくはないだろうしな」
元々どう介入しようかって悩んでいたんだ。
特に問題がない状況にできるのであれば無理に顔を突っ込む必要はないってわけだ。
「そうね。今回は気が付いたのが冒険者ギルドだったってだけか」
「そういうこと。まあ、グランドマスターが何かしらやりたいことがあれば動くかもしれないけど……」
「別に被害がでたわけでもないのだから冒険者ギルドへの報償はないものね。これ冒険者ギルドが損してないかしら?」
「どうだろうな。得る物はあったと思うが、裏で一応お礼ぐらいはするんじゃないか? 今更グランドマスターに金銭を渡してもな。ニーナたちとウィシーだっけ? 現場にいたメンバーには俺たちから報酬を渡してもいいだろうが」
「ニーナたちは私たちの部下で送っている扱いでしょ? 元々、聖剣使いとしての調査員だし、給与はもらっているわよ?」
「まあ、送ってもらったんだし、頑張ってくれたのは事実だしな。そこは労っていいだろう」
「ええ、労うことには問題はないわ。あとは、最果ての村に関してだけど、結局移住者はどうなのかしら?」
ああ、そっちもあったな。
召喚誘拐事件に巻き込まれた村人たちだが、調べて現王家と敵対していた派閥の人たちだというのが分かった。
その人たちがいなくなっているっていうのは、色々問題があると思っていたんだが……。
「一度検査でウィードを経由しただろう?」
「ええ、検疫しないと、何か病原菌持ち込んで全滅とか洒落にならないわよ」
俺たちウィードは立場上色々な土地へ向かうので、変な病気をドッペルとはいえ持ち込まないよう、あるいはスティーブたちは生身で向かうのでそういう検疫は徹底している。
下手をして伝染病を持って帰るなんてすれば、ウィードが全滅しかねないからな。
そして、それは大陸間交流同盟も同じ。
なので、検疫に関してはルルアやリリーシュ、エルジュを中心にしっかりやっている。
「で、それがどうかしたのかしら? 妙な病原菌でも発見されたの?」
「いや、それがウィードで待機期間を経て、多少ウィードを観光して戻ったんだが、それでこっちに移住したいって意見が多い」
「あら、逃亡はダメなんじゃないのかしら?」
「まあ、全員ってわけじゃない。残るのは追放された年配の人たちだな。若者が昔のしがらみで追われるのは良くないってことでな。自分たちで何とかするって言っている」
「……そう。まあ、そういうのは心の問題だしね」
「まあな」
村とともに滅びると年配たちは言っているのだ。
それを若者たちは説得している状態らしい。
「元々、私としてもあそこの扱いは疑問に思っていたし、今後ウーサノの弱みを握るのにもいいから、こちらで匿うことは問題ないわ。別に年配の方々も復讐をしないのであれば、連れてきてもいいとは思うけれどね。どうせウーサノはこちらに追及をすることは出来ないでしょうし」
「追及はできないだろうな。なにせ、今のところ俺たちはウーサノとアーエには協力依頼をしているだけで、現場には踏み込んでいないからな」
「そうね。国際ルールを無視して踏み込むわけがないものね」
お互いにやっと笑う。
「陛下もユキ様のやり方に随分慣れてきましたね」
「もともと、これぐらいの腹芸はできるわよ」
「できはしましたが、規模が圧倒的ですし、失敗したときのリスクを考えれば昔の陛下だと考えられませんね」
「ああ、確かに騎士隊を率いていただけの頃ならこんな策は使わないというか、使えなかったわね」
「まあ、手を回せる範囲が狭すぎるからな。騎士隊だけで他国へ介入とか上から潰されるわ」
下手すると開戦理由だしな。
頭がまともならそんなことをしないし、何より……。
「そんな情報を得られる立場になかったものね」
「だな。一隊を率いる隊長でも多少なり他国の情報は入るだろうが、それよりも足元の方だろうしな」
「その通りですね。当時はロシュール国内の賊や魔物の討伐が最優先でした。あと、悪徳貴族ですね」
「ちっ、賊や魔物よりも馬鹿どもの方が厄介だったわ。口がよく回って私たちの動きを邪魔してくれやがったから」
「陛下、口調が荒くなっていますよ。話がずれてしまいましたが、結局のところ魔物を集めているという話は、非合理というか、秘密裏に潰されるということでしょうか?」
「その可能性が高いな。そして、今回の騒動で最果ての村の人たちは移住を希望しているから、受け入れるかって話だ。全員来るかは微妙なところだが、土地を捨てろっていうのは俺たちの勝手だしな」
「さっきも言ったけど、受け入れるのはいいわ。まあ、最果ての村の出身だったというのは隠してもらう必要はあるけれど」
そこは当然。
まあ、言ったところで戯言で済むだろうが、いらんトラブルは持ち込むべきじゃないもんな。
「そこに関しては私も気にしておりません。ウィードは常日頃人不足ですからね。観光客は増えて、移住者も増えましたが、それでもです」
「やりたいことだけは沢山あるからな」
「今まで散々やってきてと思ったけれど、町、というか国を作るって本当に人が必要よね」
「ああ、箱だけ作っても人がいないと動かないからな」
入れ物はいつでも作れるという便利な力はあるが、中身はそうもいかない。
いや、魔物を作って入れてもいいが、何のための国際都市だっていう話だしな。
……ん? 魔物だけの町か?
「どうしたのあなた? 考えているようだけれど」
「いや、今までないわ~って思ってたんだが、魔物のことでな」
「魔物? 野生の? 新大陸の件かしら?」
「いやいや、俺たちの配下、ウィードの魔物について」
「はぁ、軍の増員でしょうか? 今もスティーブ将軍たちが動いているのでは?」
「そっちでもない。ほら、なんていうか、一応人族、亜人と言われる人達にも魔物に近いっていうと失礼だが、そういうのはいるだろう? コボルトっぽい犬顔の亜人もいるにはいるし」
「いるわね。それがどうしたの?」
「その人たちは普通に人に交じって生活しているよな?」
「していますね。何か問題でも?」
「そこは問題じゃない。そこから魔物の話になる。ゴブリンもオークも野生でも社会を築いて、村というか集落をつくっているだろう? つまり、言うことを聞くなら人を襲わない集落ができるわけだ。実際カグラのハイデン地方ではゴブリンたちの村は普通に存在しているしな」
「……魔物の村でも作るっていうの?」
俺の言いたいことが分かったのかセラリアがそう聞いてくる。
「そこを悩んでいるところだ。人はいくらでもいるというのは事実だ。なら魔物でも補えるだろう。元からわかってはいるし」
「ああ、なるほど。確かに軍人としては優秀ですし、魔物を労働力として数えるのは何も問題はないですね。とはいえ、魔物だけとなると反発がありそうですが」
クアルの言う通り問題はそこだ。
ロガリ大陸に置いて魔物という生き物は常に人を脅かしてきた存在だからな。
ウィードにスティーブたちの魔物軍がいるが総数にしてはそこまでないし、ウィードを闊歩して相互理解をするようにコミュニケーションを図っているからこそ理解を得られているところがある。
それを切り離すような真似をすると、色々問題だと思う人が出てきても何も不思議じゃない。
「あなたが悩んでいた理由もわかったわ。確かにロガリでは微妙よね。とはいえ、こちらが指定したとおりに働いてくれる魔物たちは魅力的ね。今まで生産が追い付いていないところも任せられるし」
「ですが、そうなると人の職を奪うことになりますが? それを警戒して魔物たちの労働力化はしていませんでしたよね?」
「まあな。元々、食料関係はDPで補えるし、魔物たちはダンジョンにいる限りは食事も必要ない。まあ、スティーブ達は趣味で食べているし、欲しい物も買っているが」
経済活動の一環だな。
だから、確かに人の職を奪うという話は間違ってはいないが……。
「でも、クアル。今は人が足りていないのよ? 予備役としつつ、作物でも作って生産性及び、後々に移住してくる場所を整えてもらうっていうのはどうかしら?」
「ふむ。ありと言えばありですが、ダンジョンで生み出された魔物たちも意識はあるのはスティーブ将軍たちを見ればわかります。自ら作り上げた土地を取り上げられるのを良しとするでしょうか?」
「村って言い方だが、派遣して整えるって感じだしな。ダンジョン内であれば、いやダンジョン内でなくても魔術とかそこら辺で建物や畑は作れるしな。長い間土地に住んでなければ問題はないと思うが……。別に残りたいっていうなら指導者で残ってもらっても構わないと思う」
そこらへんは魔物たちの意思だしな。
「ま、色々意見は出てくるわよね。これは皆が集まる会議で話しましょう」
ということで、その話はここでいったんやめて後日ということになった。
さて、次の仕事は? オレリア、えーっと南部の報告?
あ、そっか。
右に左にって感じね。
ユキは相変わらず忙しいです。
とはいえ、魔物を住人として使うっていうのは今まで考えていなかったんですよね。
どうなるかはお楽しみに。




