夏のスペシャル 2025年度 夏の怖い話 その9
夏のスペシャル 2025年度 夏の怖い話 その9
Side:ホービス
厳正な会議の結果、怪異の事前情報を集めることはやめになりました~。
まあ、表向きは私たちが怖くなるからってことなんだけど、ヤユイと私としては事前にどんな幽霊がでてくるとかわかったらつまらないから~。
ルナ様が用意してくれた場所なんだし、楽しまないと損よね~。
とはいえ、情報を集めないと脱出できないとなると心配なんだけど、そこに関しては~。
「まあ、スタンプを集めて何も起こらなければ情報を積極的に集めるって方向でいいだろう」
「ですね。別に切羽詰まっているわけでもないですし」
そんな感じで、意外とユキ様とタイキ様は焦ってはいない様子~。
なんかいつものイベントって感じね~。
いえ、実際毎年起こっているようなものだし、イベントなんでしょうね~。
「ということで、次のスタンプ場所はここだ」
そういってユキ様が指し示す地図の場所はこのセーフハウスの反対側の所だった。
「ユキ様、何か意図が?」
「いや、ない。しいて言うなら反対側にあるってところか」
「なるほど、確かにこのセーフハウスとはちょうど対極のような位置にある場所ですね」
具体的にはちょっと家の並びが違うから違うけど、同じ位置っぽいのはそのとおりね~。
「映像確認もできたしな。記録が出来ているならそこまで警戒することもないだろうし」
「ですね。とはいえ、瓶詰の生首に押入れの和服のおばあさん、そしてバラバラ死体と節操ないですよね」
タイキ様の言う通り、記録していた映像を見たけれど、脈絡、つまり一連のことに関連性はなさそうなのよね~。
ちなみにリアルタイムで見たオレリアたちは驚いただろうけど、私たちからすると映画を見ている気分だったわ。
いえ、カメラアングルが人の視点のみだったから、迫力に欠けたわ~。
映画って本当にすごいと思うわ~。
とはいえ、こういうアングルだからこそ、やらせとかは無いと思うんだけれど。
「てっきり関係性があるかと思っていたが、なんか違うよな」
「事件的には単独って感じですよね。まあ、家を集めたみたいな話でしたし。しっかり調べたわけじゃないですけど、新聞は年代がバラバラでしたし」
確かに、ユキ様たちがネタバレになるからとテレビは消したのだけれど、空き家で拾った新聞は年代がバラバラだったんですよね~。
「ともかく、スタンプを集めてしまえばわかることだ。残り二つ油断せずに行こう」
「ですね。最後の最後でどんでん返しなんてのはよくあることですし」
映画ではよくあるパターンですよね~。
このスタンプが何か厄介なものの封印を解くとかありそう。
「あちらです。地図に指定されている家です」
と、気が付けば目的の家の場所にたどり着いたみたい。
まあ、距離はありそうでそこまでもないものね。
歩きだったから10分程度はかかったけど、戦闘での速度ならあっという間の距離。
で、訪れた家はどんな家かというと……。
「家かと思えば、これは公民館か」
「あ~、普通ありますよね」
「「「公民館?」」」
タイキ様は理解しているようですけど~、私たちは残念ながらさっぱりわかりませ~ん。
「ああウィードで言うなら集会所だな。地区に一つ二つあるだろう? 地域の人が集まる場所だ。まあ、誰でも使えるということで公民、つまり国民だな」
「ならそのまま国民館でいいのでは?」
オレリアは即座に質問をする。
確かに国民館の方がいいわよね?
「そこらへんは解釈が色々あるんだが、公民というのは国籍を持つモノだけでなく、その地域の公共団体の政治に口を出せる人って意味があるんだ。つまり、基本的にはその地域に住む人が使うための場所。集会所で旅人が泊ることはあっても勝手には泊ることはないだろう?」
「確かに許可があってこそですね」
「その判断を下す。あるいは利用できる権利があるのはその地方、地域で住んでいる人だ。これを公民と指すわけだ」
「なるほど。確かに国民とは分けるべきですね」
そうね~。
国民って定義なら、他所の地域から来た人が公民館、集会所を勝手に使っていいってことになるし。
流石にそれはトラブルの元ね~。
基本的にはそこの地域に住む人たちのための施設なんだから。
「えーっと、公民についてはわかりましたけど、公民館は具体的には会議する場所ってところなんですか?」
「それは、場所によりけりだな。まあ、会議する場所があるのはまちがいない。あとは調理場とトイレはある。いざという時地域の人が避難できるぐらいは」
「避難ですか?」
「日本は災害が多い国でな。そういう緊急時に避難できる場所としても公民館は使われることが多いな」
「なるほど。そういう意味でも集会所に近いんですね」
リュシの質問で公民館がほぼ集会所と同じ機能なのは理解したわ。
とはいえ……。
「家屋の見本として、これは最適なのでしょうか?」
「まあ、あれでしょ。集会所の見本みたいな」
「なるほどタイキ様の言う通りかもしれません」
ああ、そういうことね~。
確かに色々家は見てきたけど集会所の見本とかは見たことなかったわ~。
「まあ、そうだな。集会所の見本と言われるとそうかもな。とはいえ、ルナの意図とはずいぶん違う気もするが」
ユキ様はそういって、公民館のドアへと手を伸ばし、中へとはいります。
中に入ると、確かに集会をするための目的とした、大きな玄関が出迎えてくれる。
とはいえ、豪邸という作りではなく、多くの人を迎えるための簡素な、飾り気のない作り。
「なんというか、なんですか? この坂道?」
ヤユイがまず玄関で不思議そうに坂道が設置されている玄関。
私も不思議でそちらに視線を向ける。
玄関に直接坂道が走っていて、靴のまま上がれるってことかな~?
「ああ、そっちは車いすとか、足腰が悪い人の為のスロープ、坂道だな。バリアフリーってやつだ」
「最近は普通に見るようになりましたよね~」
「なるほど、総合庁舎でも同じものがありますね。まあ、車いすの人やけが人がくることはそうそうありませんが」
プロフさんの言葉で思い出したわ~。
そういえば総合庁舎にもああいうのが玄関、入り口にあったわね~。
確かに足を怪我したり、車いすとかの人は、こういうスロープの方が楽よね~。
「ま、ウィードの人たちはいまだに健康な人が多いからな。あと、車いすの普及率はそこまで高くないし」
「病院からの貸し出しでしたっけ?」
「ああ。で、日本の方は車いすの普及率は高いからな。まあ、珍しいかと言えば珍しいが、そういうバリアフリーがない方が珍しい方だな」
「ですね~。住みやすい街づくりには子供はもちろん、老人も含まれますから」
ふむふむ。そういう人が集まりやすいようにしているわけね~。
「と、説明はいいとして、中の調査、スタンプを見つけるか」
「分かれますか?」
「ここは広いし、一緒にまとまってでいいだろう」
確かに普通の家屋と違って集会をするために大人数を想定して作っているようで、私たちが廊下を十分に余裕を持って歩けるぐらいは広いわ~。
流石に7人が横に一列は無理だけど~。
「幸い、この集会所は二階建てではあるが、そこまで大きくはないからな」
「そうなんですか?」
「大きいところだと、4、5階建てで劇場や小さい図書館みたいなものを備えているところもありますよね」
「地区、人の多さ、お金がある無しもあるけどな」
ああ~、確かにその地区の人口によって集会所の大きさや施設も色々変わってくるわよね~。
そんなことを考えながら、まずは正面のスライドドアを開けるとそこは……。
「大きいトイレですね~。病院のトイレみたいです」
リュシの言う通り、病院で見るようなひとりで使うには広すぎるトイレね~。
「ああ、さっき話した車いすの人が使える用の場所だな。あと赤ちゃんのお世話ができるようにもなっている」
あ、確かに壁に目を向けると赤ちゃん用のベッドが設置されている。
こういう細やかなこともしているのね~。
「ここには何もないですね」
タイキ様は念のためにトイレのふたも開けて中を確認しているわ~。
まさか、そんな中にスタンプを設置するとは思いたくないわ~。
「じゃ、隣のトイレだが……。流石に男女で分かれるか」
「そうですね」
「いえ、ユキ様やタイキ様と分断されるかもしれませんので、別れていただければ」
そうね~。
プロフさんの言う通りだと思うわ~。
それに、別に実際トイレをするわけでもないし~、一緒にいた方が安全だもの~。
「あ~、確かにそうか。それに女子トイレの方が確率は高いもんな」
「ですね。とはいえ、どっちがどっちに行きます?」
「正直に言えば女子トイレをタイキ君に任せたいが、プロフたちは俺の部下だしな。タイキ君が男子トイレで」
「わかりました。それで、こっちに来るのは?」
「怪異にあっているリュシとプロフだな。ヤユイとホービスは見てみたいって感じだし、女子トイレの方が可能性高いだろう。オレリアはどうする? 怖い思いをしたくないなら……」
「いえ、私もユキ様のお側に」
うん、オレリアちゃんよく言った。
まあ、私とヤユイはお化けを見る楽しみがあるのは間違いないけれど。
「じゃ、何かあったら叫んでくれよ。まあ、こっちの可能性が高いけど」
「俺の野太い悲鳴を待っていてください」
「そっちの方が安心できるな」
「「ははは」」
そんな軽口を言い合った後に私たちはトイレへと踏み込みます。
車いす用のトイレと違い、こちらのトイレは普通のドアで押して入るタイプです。
中はちゃんとトイレ用のスリッパが用意されていて、個室5? いえ、奥は掃除道具入れですし、4部屋ですね~。
よくある、大きな建物用のトイレ構造です。
ちゃんと手洗い場も用意されていますし、鏡も……。
「お」
思わずそんな声を出します。
なぜなら、映っていないはずの姿が見えたから。
今鏡に視線を向けているのは、私だけで、ユキ様、ヤユイ、オレリアは奥のトイレに視線を向けている。
なのに、いるはずのない5人目がはっきり映っている。
しかも私の後ろという位置に。
普通ならすぐさま振り返りたいけれど、ホラー映画の場合消えているのが定番。
なら、私はずっと見つめてみることにする。
視線から外さず、意識をそらさず、しっかりと少女が私の腰当たりから顔をのぞかせているのを確認する。
ぱっと見、怪我らしい怪我はないけれど、どう見ても生気がある顔じゃない。
コメット様やハヴィアのように白い肌というには暗く、灰色。
死相と言えばそうなのだろう。
あれ? 何でアンデッドのコメット様や幽霊のハヴィアは白い肌程度で済んでいるんだろう?
と、そこはいいとして、いまだに幽霊らしき少女はいて、私とにらめっこをしているだけ。
何かをするわけでもない。
なので……。
「ユキ様。鏡の中に少女の幽霊が見えます。目をそらしていませんので、そちらから確認できますか?」
「出たか!」
「ほんと!」
私がそういうと、即座にユキ様が返事をして、ヤユイも良い反応ですね~。
あ、オレリアはコメントはないけど、動く気配はあったので見ているんだと思うわ~。
と、ユキ様たちの視線が集まるのを感じたのか、少女はすぐに私の後ろに引っ込んでしまう。
「見えた」
「見えました!」
「……いましたね。ですが、ホービスの腰当たりには……」
そうオレリアに言われて自分の腰当たりを見てみるが、少女がいた証拠は何もない。
腰に当たるような位置だと思ったんだけれど、それでもなにも。
そう思っていると。
「あ、手洗い場にあるの、せっけんじゃなくてスタンプじゃない?」
「「「あ」」」
ヤユイの言葉で洗面台に普通に置いてあるスタンプの存在に気が付くのであった。
ついに5つ目なんですけど、軽い物ばかり。
さて次はいよいよ最後の6つ目。
一体何が待ち受けるのか。




