夏のスペシャル 2025年度 夏の怖い話 その4
夏のスペシャル 2025年度 夏の怖い話 その4
Side:タイキ
道路に熱せられたコンクリートの照り返しの熱がキツイ。
ちょっと遠くの道路は呼び水、蜃気楼が出現しているほどだ。
「はぁ、今日何度でしたっけ?」
「30度は超えています」
俺の質問にユキさんではなく、プロフがピシッと答える。
うん、仕事が出来る人だよな。
容姿は幼いんだけど、仕事ができるって感じがビシビシしている。
「ありがとう」
「いえ、今回はユキ様のお手伝いで巻き込んでしまい大変申し訳ございません」
「ああ、大丈夫大丈夫。夏の風物詩みたいなものだから。イベントだよ。これでランクスから文句とかはないから」
プロフが気にしていたのはそっちか。
いや、当然だよな。
一応、ランクスの王様だし。
そんな人が怪異に巻き込まれ、しかもルナさんのお遊びにとなると、普通ならこっちの対応になるだろう。
とはいえ、時間が経過していないので、行方不明になった事実はないんだよな~というインチキ。
ま、だからこそさっきみたいに昼休憩ものんびりできたし、いいこともあるんだけどな。
で、そこはいいとして。
「ユキさん。やっぱり、それがあれ?」
「多分な。ポストに何かないかと思っていたが……。これは露骨だろう」
そう言ってユキさんが見せてきたのは、スタンプと用紙だ。
「それって、あれですね。スタンプラリーってやつ」
「だな。よく観光地にあるやつだ」
「そうなのですか?」
オレリアが俺たちの会話に入ってくる。
「そうですね。こうして毎回違うハンコを用意して、それを捺すとその場所を通ったという証明になるわけです。そして、全部揃えれば記念品とかもらえるのが定番です」
「なるほど~。そうなると~、この場合記念品が~……」
「脱出のヒントになるかもな」
「定番って感じですね。とはいえ、何かしら注意書きがあればわかりやすいんですが」
ただこのスタンプラリーの用紙にはスタンプを集めようとしか書いていない。
素敵な景品とかもなにも。
「そこまで素直に教える気はないんだろうさ。例えば記念品の置き場所を、スタンプを集めたら行きましょうって場所が指定されていたら、俺たちなら……」
「無視して速攻そこに向かいますね」
なるほど、やっぱり俺たちの思考を読んでそういう風にしているんだろうな。
「まあ、その場所に誰かがいてスタンプを集めていないと渡してくれないとかもありそうだが」
「それはそれで、俺たちが言葉巧みに何とかしますからね」
「ルナ様はユキ様、タイキ様に対して念入りに対策をしているということですね」
「プロフの言う通りだな。俺とタイキ君にこの怪異を真っ向なルートで攻略してほしいようだ」
「ということは、そのスタンプラリーをするということでしょうか?」
「だな。幸い、紛失や破損を考えて10枚はあるから、ひとり一枚ずつもっていようか」
「……これ、無くす可能性を考えているってことですよね?」
俺はスタンプラリーの紙を受け取ってポツリと言う。
「……まさか、狙ってくるか?」
「注意した方がいいでしょう」
「どういうことですか~?」
「ホービス、簡単なことだ。スタンプラリーをクリアさせないようにするには、スタンプラリーの紙を喪失、紛失していれば、認められない」
「え、それって、何かあってスタンプラリーの台紙が無くなるってことですか?」
ユキさんの言いたいことが分かったのかヤユイがそういって、ホービスも流石に顔をしかめる。
うん、向こうからの妨害だしな。
「まあ、露骨なことはしないと思うが、濡れる破れるとかを避けるために何か保護した方がいいだろうな」
「ああ、なるほど。確かにぬれたりすれば使えなくなりますね」
「ですが、そんな便利なものがありますか?」
「まあファイルを二重に上下逆に重ねれば濡れる可能性は低くなると思うが」
ああ、それなら水濡れは水没でもしない限りは濡れないだろうな。
とはいえ……。
「ファイルとかありましったっけ?」
「見つけたら最優先確保ってことにしよう。というか、なんか店とかないもんかね。多少なりとも町を模倣しているんだし」
「お店ですか……一応大通りを歩きましたけど、それらしいものはありませんでしたよ?」
本当に住宅街って感じで、そういうお店はちょっと歩かないとないって感じだ。
「まあ、それも探すってことで。ひとまずはスタンプラリーを押して、目的地に行こう。予備も含めて。新品は2枚家に残していこう」
新品があれば再起はできるか。
そうそう用紙が使い物にならなくなるとは思わないけど。
そんなことを考えつつ、スタンプを押す。
特に目を引くスタンプでもなく、よくできましたと印影がなっているようだ。
うん、舐めてるよな。
まあ、これぐらいじゃないと、ルナさんが本気を出したらなんでもありだしな~。
こっちを侮ってくれているぐらいがちょうどいいか。
と、そんなことを考えているうちに、あっという間に目的地へとついてしまう。
「本当に近くでしたね」
「徒歩5分以内だったな。実際は2分かかっていないが」
「これが、見本のお家でしょうか?」
オレリアの言うように、俺たちは今から内見、見学する家の前に立っている。
その家ははっきり言ってしまうと……。
「さっきの家より大きいですね~」
「あの家も立派ですね」
「ふむ。裕福な方が住まわれていたのでしょうか?」
うん、みんなの言葉の通り、家は大きく、ちまたでは裕福、富豪というべき人たちが住んでいるような豪邸だ。
「ああ、こういう大通りは利便性も高いし、土地の価格も高いしな。そういう所にこうした大きな家を建てられるっていうのはそれだけ、財力があるってことだ」
「何というか、俺たちにはあまり関係のない場所でしたね」
大通りにどかんと大きな家を建てられるような経済状況ではなかった。
とはいえ、別に貧乏でもなかったし、今更とは思うが、俺を育ててくれたことを心底感謝している。
人を養うって本当に大変なんだ。
「さて、立ち止まっていても始まらないし、とりあえず、スタンプラリーのスタンプはどこにあるのか……。さっきはポストの所にあったが」
おっと、俺もちゃんと動かないと。
そう思って、真っ先に郵便ポストを開けてみるが、そこには何もない。
「……ないですね」
「ちっ、やっぱりポストだけ覗いて終わりってわけにはいかないか」
仕方なく、家の玄関へと向かい扉を開ける。
ギィィィ……。
別に気にならない音のはずなのに、怪異と関係していると事前に聞いていると、怪しく聞こえる。
中は昼間ではあるのに暗い。
いや、当然か。
誰もいない家なんだ。
電灯も点いてないし、窓も開けていないのであれば薄暗くて当然。
そして……。
「生活感ががっつりあるな」
「ええ」
玄関は確かに大きい作りであり、整理はされているが、使用感、生活感がある。
モデルハウスのように整えられたものではなく、日々の生活臭が香ってくる感じだ。
靴箱には靴が入っており、この家の住人の趣向がうかがえる。
革靴が多めで、スニーカーなどは少ない。
きっと、スーツ仕事をしているタイプなんだろう。
そして、女性ものの靴、ヒールなどもあるから、やっぱり家族で過ごしていたんだろうというのがわかる。
「えーっと、入っていいんでしょうか? なんか、物凄く他人の家って感じがするんですが?」
ヤユイも人が住んでいるって感じたのか踏み込むのをためらっている。
普通はそういう反応だよな。
「大丈夫。誰も人はいない。コピーっていうのは本当みたいだな」
おっと、俺も気配察知をしていなかった。
……うん、確かに人はいない。
魔力反応もないから間違いない。
でも、それだけじゃないんだろうな。
「とりあえず、中にはいろう。あ、靴は脱いでくれ。……スリッパを持参しておくべきだったな」
「ですね」
靴下は全員履いてはいるが、それでも履物があった方が人の家では安心する。
それに、ここは綺麗だが、奥はどうなっているかわからないし、他の家も綺麗だとは限らない。
靴下が床の埃で真っ黒になるのは避けたいしな。
「足元には十分注意してくれ」
そういうユキさんの声に従い、俺たちは家の見学を始めるのであった。
オチは決めていない!
さあ、大規模怪異の夏を楽しもうぜ!




