夏のスペシャル 2025年度 夏の怖い話 その2
夏のスペシャル 2025年度 夏の怖い話 その2
Side:タイキ
ユキさんに言われてついてきた、日本家屋の見本見学。
ふたを開けてみれば、ホラーの世界にようこそだった。
いや、最初から怪しいとは思っていたけどさ……。
「日中からやられるとは思わなかった」
ユキさんがしみじみという。
「ですね~。まさか、町全体が舞台とか」
俺も同意するぐらいしかできない。
何故なら……。
「不思議ですね。ルナ様が施したにしても、こういう技あるとは」
「まさか、反対側の道にでるとは」
「これは~、ゲームでみたことあるわ~。ループってやつね~」
「実際されると不思議だね」
「なんだか楽しいですね。日本ってすごいんですね」
「「リュシ、違う」」
こんな道がループするような町は存在しない。
存在してたまるか。
で、俺たちの状況だが、ソウタさんに連絡が取れないとなれば、厄介事確定なので、一旦戻ろうという結論になったのだ。
流石に日中から仕掛けてはこないだろうと。
夜に戻ってきて、始末をつけるにもユキさんや俺、タイゾウさん、ソウタさんだけという編成でって考えていたんだけど。
その術すら奪われた。
さっきの話のように、町の端から出ようとすると霧に包まれて、反対側の道へと出てしまう。
絶対逃がさないという意思を感じる。
物理的に逃がさないとか、マジでびっくりだよ。
いや、怪異ものだと定番だけどさ。
「結局のところ、東西南北の道路を使った脱出は不可能だったわけだ」
「はい。不思議ですがその通りです。いえ、流石はルナ様というところでしょうか」
Side:ユキ
プロフは全然動揺したことなく、起こっていることを淡々と認めている。
ルナをほめたたえるのはいらんが。
「つまりはこの地図に何かヒントがあるってことでしょうか?」
「多分な」
リュシが渡されていた地図がヒントなのは間違いない。
恐らく、家屋見学候補を見ていけという意図ではあるが……。
「最後に病院も見ていけって言ってたんだよな?」
「はい。そう言われていました」
その答えを聞いて俺とタイキ君は顔を見合わせて頷く。
「最後は病院でひと騒動か……」
「いや、病院で別のルートが見つかるとかあるかもしれませんよ」
「あり得るな。全ルート解放で別ルートとか普通にありそうだし」
「町が崩壊とかないですよね?」
「…………ないだろう。家屋を見るのが仕事だぞ?」
「即答できないですよね」
うん、あの女神は本当に信用ならん。
とはいえ、まあ、本物の怪異よりはマシだろうというのは分かる。
俺が怪異で死亡したとか、こっちの物語が終わりだしな。
そこらへんは手加減……するか?
年々やることが豪放磊落になっていく。
「あの~、どうしましょうか?」
リュシにそう聞かれて思考をもとに戻す。
「とりあえず、業務を優先しよう。ルナも俺たちの仕事の邪魔はしないはずだ」
「え~っと、すでに邪魔をされているのでは~?」
「いや、まだ逃がさないだけで、業務を阻害しているわけじゃない。っていうだろうな。俺たちが帰ろうとしなければわからないわけだし」
「そういうものなのですか?」
「そういうもんだ。まあ、今のところは帰還できないことと、連絡が取れないことぐらいだ。ルナが説明していたらセラリアたちも動くのは遅れるだろう」
「ああ、そういう根回しもしているんですね」
ヤユイが呆れ気味にそういう。
うん、散々俺たちを嵌めてくれたからな。
俺やタイキ君と連絡が取れないとなると、セラリアたちが動き出すのは当然のことだからな。
事前にそういう根回しをして、俺たちのあたふたしているシーンを見て楽しんでいることだろう。
「ま、プロフたちには悪いが一種のアトラクションだと思って付き合ってくれ」
「大丈夫です。ユキ様のことは私たちがお守りいたします」
動揺することなくプロフはそう返事してくれるから安心だよな。
「で、どこから行きます? リュシの地図には印がついてはいますけど」
「……行きたくはないが、それが一番早く終わる近道だろうな。最悪家屋を吹っ飛ばしたいが……」
「それだと見学の意味がなくなりますからね~。そこら辺きっちり把握してやってくるのが計画的ですよね」
「ああ」
以前タイゾウさんも含めて廃旅館に飛ばされた時は、ハイレンのトラブルがあったとはいえ、怪異と真っ向勝負になったからな。
そう、真っ向勝負だ。
壊れた椅子の足を折り、剣として構え敵をチェストしたのだ。
逃げて情報を集めて逃げるのをコンセプトとしていたのを、破壊したわけだ。
だから、そういう手段を取らないように家屋見学という名目を入れてきたようだ。
まあ、危険が迫れば俺やタイキ君も遠慮しないし、そこら辺も考慮はしているだろうが。
と、どこから回るって話だったな。
「何かを仕掛けているのは間違いない。地図を見ても別の法則性は感じないし、とりあえず近くの家に行ってみよう」
「それしかないですね」
まあ、多少東西南北に均等に散らばっている感じはするが、それでも気になる程度だ。
ちゃんと見学するべき家屋の説明も別にあって、怪しさはない。
日本家屋、ツーバイフォー形式の最新のやつとか、そういうのだけだ。
ちゃんと間取りもあるので、参考になるように資料を用意してある。
うん、クソ怪しい。
とはいえ、真っ当な仕事であれば、当然のことなので、ルナだから怪しいと切り捨てるのは、プロフたちの手前不味いだろう。
真面目な仕事をしているのに、不要と断じられたと思われるのは良くない。
ということで、不満を漏らすことなく、近くの家へとやってきた。
「……普通の家ですね」
「普通の家だな」
タイキ君と俺は目の前に存在する家を見てそうつぶやく。
「えーっと、こういうのが普通なんですか?」
「日本の建物というのはこういうものなのですね?」
ヤユイとオレリアは首をかしげながら建物を見てそういう。
初めてなんだから、何が普通で変なのかっていうのは分からないよな。
「ま、部屋を確認してみよう」
ここで立ち止まっていても仕方がない。
カギは開いているらしく、そのままドアを開ける、
キィ。
そんな音を立ててドアが開く。
別にぎこちないというわけでもない。
普通に開けた時に軋む音だ。
玄関は、まあ取り立てて驚くこともない玄関だ。
靴箱があって、靴を脱いで玄関に上がる。
プロフたちも日本の様式には慣れているので靴を脱いで上がる。
とはいえ、俺、タイキ君、プロフ、オレリア、ホービス、ヤユイ、リュシの総勢大人7名。
通常の核家族向けの家には大勢なので、狭く感じる。
いや、実際廊下では持て余すぐらい狭い。
「とりあえず、奥のリビングに行こう」
ここで立ち止まっても仕方ないので、ゆっくりできる場所に移動する。
間取りを見なくても大抵廊下の奥、突き当りがリビングなのはお約束だ。
で、その予想が外れることもなく、リビングにたどり着く。
そこは広々としていて、モデルハウスなのか、綺麗な家具が揃っている。
「へ~、家具だけは揃っているんですね」
「ま、実際の家屋を見せるならそうだろうな。というか、もっと生活感があると思っていたんだが、そうでもないな」
「ああ、田舎の村みたいな感じはないですよね」
そう、今では夏の避暑地として俺たちが使っている鈴彦姫たちが管理している場所はかなり生活感が残っていた。
掃除するのも一苦労だったな。
対してこっちはそういうのがない。
「綺麗なものですね。見本というのがよくわかります」
「本当ですね~。綺麗なお家です~。というか冷蔵庫、テレビが普通にあるんですね~」
ホービスの言うように、冷蔵庫、テレビはリビングに置いてある。
まあ、これぐらいは整えるか。
いや、そっちじゃないな。
「日本の一般家庭じゃ基本的な家具だな。昭和のはじめというか中期ぐらいか、三種の神器っていわれたよな」
「えーっと、三種の神器っていうのは?」
リュシは首をかしげて聞いてくる。
「ああ、三種の神器っていうのは日本にある伝説の3つの神様が使った道具っていわれるものだ。それにあやかって、その3つがあると便利だよねって豊かさの代表格だな。タイキ君はなにかわかるか?」
「いきなり、勉強の小テストになりましたね。えーっと、確か白黒テレビ、電気洗濯機、電気冷蔵庫でしたっけ。まあ、それも冷房とか薄型テレビとか携帯電話になっていったと思いますけど」
「そうだな。当たり」
「ああ、なるほど。確かにあると便利ですよね~。ウィードでも普及していますよね?」
「魔術での代用だけどな。あとはテレビを実用化したいが……」
「テレビ番組を作る人員がいませんからね。まだ高価ですし、販売しても意味がありません。今はラジオで我慢でいいかと」
プロフの言う通り、テレビ番組を作る人員がいない。
それに、なんとかカメラなどの記録媒体はザーギスを中心に魔道具化しているが、単価がどうしても高い。
低価格化をしたいところだが、人手がそっちも足りないわけだ。
「でも、パッと見て脱出のヒントとかなさそうですね。あるのはそこのテーブルの手紙っていうか、カタログっていうか、チラシ?」
「ああ、良くあるよなこの手のモデルハウスには」
俺はタイキ君に言われてテーブルに視線を移すとそこには、よくある建物を建てると幾らとか、ガレージ付きとか、建築の材質とか、そういうのが書いてあるファイルなどが置いてあるだけ。
これと言って、脱出のヒントになるわけではない。
これは脱出するのには真剣に調べるべきか。
ただ単にここがはずれだったというべきか。
「そういえば、一応休めそうではありますね。冷蔵庫にはちゃんと飲み物とか食べ物は入っていますし、鍋とか油とかもありますし」
タイキ君はいつの間にか、台所をあさって状況を知らせてくれた。
「あとは、眠れるかってところか。長期戦は避けたいが、休みなしっていうのもあれだな」
「二階調べてみましょうか。寝る場所って言ったら上だし、あと一階も見てない場所もありますし」
「そうだな」
ということで、モデルハウスっぽいところを調べると、4LDKと4部屋、リビング、ダイニング、キッチン揃っているところだ。
ちゃんと布団もあり10人分というのは勘ぐるものがあるが、俺たちが何人で来るのかというのは分からないから、適当にというやつだろう。
まあ、7人が休める状況は整っているようだ。
「じゃ、休憩しつつ、これからどう動くか考えていくとしよう」
こうして足掛かりとなる、拠点を手に入れ本格的な小規模な町の探索計画を立て始めるのだった。
こういうホラーでまずあるのは活動拠点。
セーフルーム。
とはいえ、こういうセーフルームは時間経過でやばくなっていきますよね~。
今回はどうなるのか。
考えておりません!




