第1833堀: 出来ることを積み重ねる
出来ることを積み重ねる
Side:ユキ
『……そちらでも状況は聞いていたと思うけれどどう?』
そう言ってきたのはジェヤエス王国にいるカグラだ。
思った以上に成果を上げて、ある意味情報はさっぱりだったという感じだ。
「ジェヤエス王国がこちらに協力をしてくれるっていうのはありがたい。他の国にも働きかけてくれるっていうのは大成果だ」
『そうね。それに関しては、ミコスの頑張りね』
「そうだな。あの狂乱は驚いた」
そう、あのお互いの状況を説明したあとに、ウィードの詳細を伝えて、カタログの商品紹介をしたら、王はもちろん、その場に居合わせた部下たちもかなり驚いて喜んでいた。
その場で献上したものは即座に使ったりして喜んでいたし、持っているものは即座に買い取ると言ったぐらいだ。
まあ、ウォーターサーバーとか便利だよね。
お湯とお冷がでてくるし、冷蔵庫とかもあるとどれだけすごいか。
とはいえ、魔術で代用できそうなもんだけどな。
いや、魔力があれば魔術を使わなくてもいいっていうのがいいのか?
というか、普通に食品とかも売れたしな。
それをその場で王も含めて食べ始めたからさあ大変ってやつだった。
意外と甘党だったらしく、アルフィンのケーキを消費できたのは良かった。
あれか、砂糖は高級品だしその関係か?
『おかげで、ウィードとは仲良くやりたいって言ってくれたし、ウィードのことも他国に伝えてくれるって言ってくれたわ』
「ああ、これで一定の評判は得られたと思おう。ジェヤエス王国にカタログは渡したんだろう?」
『ええ、各国を味方に引き込むにも使えるって言っていたわ』
「もとよりそのつもりだったが、それを率先してやってくれるのはありがたいな。その分の予算などは?」
『渡そうと思ったのだけれど、カタログの商品を譲ることで無しになったのよ』
『そうそう。こっちの方が何倍も価値があるってね』
なるほど。
確かにこの新大陸では今のところ金をいくら積もうが手に入らないモノだ。
それを所有しているということに、お金以上の価値があるというわけだ。
ウィードの技術力をそれだけ高く買っているのだろう。
「ということは今回の会談は大成功ってわけだ」
『ええ。オーエの貿易も再開するって言ってくれているし、使者に関しても今回の車両を見学して、同乗させてくれって言ってきたし』
「それはこっちにとってもありがたい話だな」
『あと、ウィードにも使者をって話も出てきたけど、そこはちょっとわからないって言っておいたよ』
「それは仕方がない。ゲートを使うしな。下手に話すと向こうは馬鹿にされていると思われるからな」
ウィードのことは素直に話すと荒唐無稽、つまり現実離れしすぎて、向こうを馬鹿にしていると思われかねないんだよな。
ウィードを説明するには使者を実際連れてきて、現場を見せつつ話すしかない。
『その使者に関してだけど、オーエまでついてきて、ウィード上層部の回答を待たせるってジェヤエス王は言っているわ。それだけウィードと繋ぎを作りたいみたい。まあ、今回の戦争を変える要と考えているみたいね』
「あれだけ魔道具を見せればな」
あれだけの技術の塊を見せて、こちらの国力を把握できないのはこっちとしても心配にはなる。
とはいえ、こちらを警戒してもらっても困る。
バランスが難しいな。
『あとは、数日滞在してカタログの注文を聞いて、それを持ち帰るぐらいね。一応交流ということもあるし、食事会や町の物見ぐらいは出来そうよ』
「それはよかった。ジェヤエス王国の文化を完全とは言えないだろうが、カグラやミコスも感じてみてくれ。そこからどう接するべきかってわかってくるものもあるだろう」
『ミコスちゃんに任せて~。そこらへんはしっかり調査してくるから~。あと、カメラに関してはどうする?』
「カメラな。カタログで見せているし、大丈夫だとは思うが、どうだ?」
俺がカメラのことは様子を見て、公開するように言っている。
ああ、静止画も動画もだ。
なぜかというと、日本には昔写真には魂が吸い取られるっていうわけのわからん迷信が存在していた。
何より、写真を撮るということは、その人物の姿、顔がはっきりと記録されることになる。
これは要人警護において、意外とデメリットになる。
狙われやすくなるって話だな。
知られていない方が安全につながるというやつだ。
現代での地球ではほぼ意味のないことだがな。
とはいえ、この世界なら確実に要人を狙える重要な情報となる。
これをどう判断するかは、本当にわからない。
『今のところは問題ないと思うわ。こちらの技術に目を輝かせているから。とはいえ、肖像画よりも精巧な写真となると、事前に説明は必要ね』
『でも、別に向こうで量産できるわけじゃないんだし、ミコスちゃんは大丈夫だとは思うけどな~』
「まあな。向こうで写真機は作れないだろうし、こちらから懸念事項を伝えれば大丈夫か?」
『こればかりは向こうの判断ね。で、私たちの方はいいとして、シアナ男爵たちの方に伝令が接触してからはどうなっているのかしら?』
「ああ、それがあったな」
シアナ男爵たちが出発してすでに10日以上。
軍が少ないことと、こちらが身の安全の為に預けている、身体強化のアクセサリーをつけているおかげか、行程の3分の1を過ぎているのだが、そこでギアダナ王国というか、クリアストリーム教会の伝令が接触してきたのだ。
予定通りというか、まあ、普通に連絡は密?というのはあれだが取り合っていたようで、焦った。
まあ、それも想定していたので、すぐに伝令にはオーエを落としたとして、返事をもってギアダナ王国へと戻ってもらっている。
『別のルートでオーエに伝令がきたというのはないのかしら?』
「そっちはないな。とはいえ、近隣に人が寄ったかどうかぐらいだ。遠くから観察されていたらわからん」
流石にそこら辺をフォローはできない。
ダンジョン化してはいるが、せいぜい北の町の周囲2キロほどだからな。
『それなら大丈夫じゃないですか? だってダンジョンの範囲って2キロだったでしょ? ミコスちゃんも魔力とかで視力上げているけど、それでも防壁がみえるぐらいで情報収集も何もないと思うけど?』
「まあな。それでも情報は集まる。戦闘は終わっているのは間違いない。そこを伝令がどう判断するかだな」
『普通なら、戦闘が終わっているのであれば、様子を窺おうと近づくんじゃないかしら? それがないということは、伝令はない可能性が高いんじゃ?』
「それはある。とはいえ、その伝令や諜報部隊だったとして、戦闘が始まってから終わるまでを見ていたらどうだ?」
『……それは、こちらの虚偽がばれるわね。とはいえ、戻っているのならシアナ男爵たちの帰還を不思議に思っているはずじゃ?』
「あるな。向こうで待ち構えている可能性はゼロじゃないが、先行している霧華たちの部下はギアダナ王国の王都にすでに到着しているが、軍を集めている様子はないみたいだ」
不思議なんだよな。
あれだけ、まあ、数で言えば方面軍レベルではあるが、その軍を向かわせておいて、軍を配置していないというのは不自然だ。
いくら自軍が精強とはいえ、あの数でオーエが落とせるとか上は思っていないはずだ。
いや、そうでもないのか?
北部は色々纏まっていないという話は聞いているし国境に数を集めているってことか?
王都に軍を集めるって末期もいいところだしな。
『……シアナ男爵たちが向かっているって連絡は行っているのよね?』
「ああ、シアナ男爵たちと伝令があったのは5日まえだ。その伝令が王都に戻ったわけじゃないだろうが、早馬や人員の入れ替えで行けば5日……あればなんとか」
『微妙な所ね。早馬での伝令は普通の人が移動するよりは圧倒的に早いとはいえ、それでも到着しているか』
『でもさ、伝令がいるいないに関係なく、兵を集めても間に合わなくない? まあ、王都に常備軍ぐらいはいるだろうけどさ~』
「ミコスの言う通り、王都を守るんだ。相応のエリートだろうしな。そこで何とかなると思っているかもしれない。あと、シアナ男爵たちの証言からギアダナ王国内でもクリアストリーム教会への印象は決して良くはないみたいだしな。そこら辺もあるかもな」
クリアストリーム教会の権威というか勢力範囲がさっぱりわからんから、何とも言えん。
シアナ男爵たちだって、そのまま反対派を潰す戦力になる可能性だって考えられるはずだ。
それで軍を備えておかないっていうのもな……。
いや、まあ、王都、そして城に入るのは代表の10名もいかないぐらいだろうから、ほかは末端の兵士だし、そこまで気にならないのか?
『結局のところ何もわからないわけね』
「残念ながらな。とはいえ、ジェヤエス王国の協力は得られそうだ。一個一個積み上げていくしかない。というか、本来相手側の戦争がある意味好ましいんだけどな」
『相手に情報を与えず、一気に畳みかける。確かに、これほど厄介なことはないわね』
『だね~。実際ミコスちゃんたちにはまともな情報はないし、手探りだもんね。敵対しようにもできない感じだし』
そう、今までの新大陸でのウィードはあくまでも場当たり的な活動だ。
敵さえもはっきりできていない。
混乱の渦中と言っていいだろう。
魔物の北上に、人からの攻撃、そして召喚誘拐。
うん、今更考えてよくもまーわけのわからない状況に飛び込んだな。
現在はこの3つすべてをとりあえず一時的に跳ね除け、原因の調査をして問題の根幹を調査中というわけだ。
幸い、召喚誘拐に関しては原因がわかり、道具というか術についても使う人の抑制が可能なのでほぼ解決済み。あとは召喚術式の解析とか、対策に移っているので後回しの状態でいい。
魔物の北上についても、魔物がいなくなったのか、在庫切れの状態で北上が一旦止まっている状態で、南部に砦を築いてトーリやフィオラを中心に調査を始めている。
一番の問題は、北部の人族連合だ。
マジで、なんで攻めてきたのかわからない。
名目は「魔王の配下の亜人を倒す。魔物も倒す」という話だが、事実無根と来たもんだ。
会話をしようにも外交手段も何もないと。
だからこそ……。
「大変だとは思うが、頑張って情報を集めてくれ」
『了解』
『ミコスちゃんにお任せ~』
俺たちはできることをこなしていくしかないわけだ。
頑張っていきましょうかね。
敵の内部、腹の底はさっぱりですが、仲間は増えていきそうです。
それは良いことなので、しっかり足場を固めてからクリアストリームの中身を調べたいところですね。
実際のところクリアストリームの中身をどうするかはまだ決めかねている感じです。




