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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
大陸間交流へ向けて

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第1828堀:部下の胃の痛い話

部下の胃の痛い話



Side:エノラ



「ひゅっ……」


私はトーリから渡された報告書を目を通した瞬間にそんな声がでてしまう。


「あれ? エノラ様はいったいどうしたんですか?」


医療班の私の補佐として南部の砦に派遣されているリュシは不思議そうに首を傾げいているが、私は回答出来る余裕はない。

何せ……。


「あはは……。ハイレンさんがやらかしたみたいなんだよね~。ほら、志願兵問題。全部勝手に受け入れたみたいでね」


そう、現場で判断できないことを勝手に承認してやっていたのよ!

しかも物資にまで手を付けて!


「……通常では大問題ではありますが、絶妙に躱していますね。流石はハイレン様という所でしょうか。これ、北の砦にいるスタシアはどうなっているんでしょうか?」

「あっちも執務中だったから、机に頭を叩きつけたってさ。何せ、ユキさんたちが来てから知ったみたいだし」

「……それは、なんという。なぜそこはバレなかったのですか?」

「ほら、フィオラも知っているでしょ。医療行為で物資使うって感じで連絡が来ただけみたい。まあ、50人未満だしね。炊き出しをやっている数からすれば誤差もいいところだし」

「あ~……本当に物凄いですねハイレン様は」


相変わらずの絶妙なトラブル、責任問題の回避。

ハイレン様やリリーシュ様の医療チームには確かに、緊急措置として物資を投入できる裁量権がある。

それで救われる命があるのは間違いないのだし、勝手に独自の部隊を作られて暴れられるのも阻止したけど!


「えーと、ユキ様たちの承認が無かったのはわかりましたけど、一応権限の範囲内で動いているようですし、何が問題なんですか?」


内容を把握したリュシが不思議そうに再び聞いてくる。

そこで、ようやく私の呼吸が戻る。


「ぶはっ!」

「あ、呼吸した。大丈夫、エノラ?」

「大丈夫。リュシ、さっきの質問だけど、権限上は今のところは問題はないわ。でも、これが遅れればどうなると思う?」

「遅れれば? 治療が終わってということでしょうか?」

「そう。治療が終われば、オーエとの協議もなしに、オーエの民をウィードが兵士として徴募したことになるの。それはどういうことになるか分かるかしら?」

「え? それって……不味くないですか?」

「拙いわね。いくら今の所友好的であっても勝手に国民を兵士として持って行かれるとか、敵対されても文句は言えないわ」


リュシもハイレン様がやったことを理解できたようで、顔が青くなってくる。


「な、なんでそんなことを……。こ、これじゃ、ユ、ユキ様たちが危険に……」

「そうね。下手をするとユキたちが直接狙われかねない」

「は、早く、止めないと!」


慌てて部屋を飛び出そうとしているリュシを止めて、話を続ける。


「落ち着きなさい。まだ治療の段階。話を通せば問題ないわ」

「あ、そうか」

「この問題は事前にユキからその話を通して、オーエ側から許可を取った後で動くのがベストというか、常識なの。結果的に良いとなってもこの順序が逆じゃ、下手をすると国家反逆罪も適応されかねないわ。何せ友好国を敵にして、ユキという国主を危険にさらすんだから」

「じゃあ、なぜハイレン様は無視をしたんですか?」

「無視をしたわけじゃないのよ。考えていないのよ」

「はぁ?」


リュシが何を言っているんだって顔になる。

ルルアに似ている顔でそんな表情を見ると新鮮ね。

驚いた挙動で身体につられ爆乳も揺れるし。

と、そこはいいとして。


「ハイレン様は目の前の困っている人たちを助けただけ。治療ついでに兵士になりたいなら協力しているってだけ」


ハイレン様のシンプルな行動理由を言うと、リュシの目が点になる。

分かるわよ。その気持ちは。


「駄目なら止めればそれで終わりって感じにもできるけど、今回はユキたちの思惑もあってそのまま行こうってことになったから、慌てて動いているの。対応が遅れると問題なのはわかっているから」

「……つまり、結果としては問題ないから、お咎めはないと?」

「お咎めをしても聞かないもの。というか公式に罰すると、今回のオーエの志願兵のことは間違いだったとウィードが判断するようなものだし」


それは不味い。

だから罰せない。


「狙っていたんですか?」

「狙うわけないじゃない。ハイレン様は素直にそう動いて結果を出す。それが本質よ。ソウタ様やエノル様もそれで手ひどくやられたというか、苦労したって仰っているし」


というか、そこまで難しいことを考えれるタイプじゃないわ。

私が断言するのもなんだけど。


「まあ、とりあえずエノラが元に戻ってよかったよ」

「ええ。先ほどは呼吸困難になったのかと思いましたし」

「間違いなく呼吸困難になったわよ」


本当に息をするのを忘れたわ。


「というか、これをソウタ様やエノル様はともかく、お母さまや大司教、今代のエノル様に伝えるのが辛いわね」

「あはは……。そこはドンマイ」

「中間管理職の辛いところですね」

「本当よ。とはいえ、詳しい内容も聞かないといけないから……」


向こうの現場に顔を出す必要があると思っていると。


「おーい。なんかリリーシュがこっちに来たよ~。って、みんなあつまっているのかい? 何があったんだい?」

「ちょっとしたトラブルよ~。ハイレンちゃんが頑張っちゃった感じ~」

「ああ、それは厄介な話だね。ということはトーリたちはそっちで忙しいかんじかい? というか、リリーシュがこっちに来たのはこの関係かい?」

「そうよ~」


そう聞き覚えのある声が聞こえて、リリーシュ様がエージルの後ろから現れる。

いつもののんびりした感じで、包容力があふれ出ている。

ハイレン様が師事しているだけはあるけれど……。


「流石に今回のことはエノラちゃんが倒れそうって思ってね~。先に来たのよ~」

「ああ、なるほど。リリーシュ様、それではハイレン様は?」


そう、騒ぎを起こした張本人はどこにいるのか?

私に本人から一言ぐらいは聞いておかないと、それはそれで問題なのですが。


「いま、ユキさんたちと一緒にオーエ王とお話し中ね~。志願兵のことを承諾してもらうつもりね~」

「もう動いたのか~。いや、これぐらいの速度じゃないとまずいか。あれ? それならこの報告書は?」

「私が頑張ったのよ~。まあ、具体的に言うとスタシアちゃんと一緒に。彼女も顔が真っ青になってたし~」

「そういえば、北の町の管轄はスタシアでしたね。……彼女大丈夫なんでしょうか? エノラと同じくハイデン地方出身ですよね?」

「顔が真っ青って言ってましたよね?」


側でハイレンの暴走を見ていたとなると、顔が真っ青程度で済むんだろうか?

そんな気持ちを察したのかリリーシュ様は笑顔のまま。


「健康上は問題ないわよ~。ユキさんと一緒にオーエ王都に向かったときも、ユキさんは気を遣っていたし、責任を問うようなことはなかったわ~。とはいえ、北の責任者だから顔を出して説明はしないといけないけど~」

「そうだよね~。あはは、責任者って大変だ~。ねえ、フィオラかエージルさ……」


トーリはそう言いつつ視線を二人に向ける。

そのあとに続くのは責任者代わらない?っていうのは誰でもわかる。

でも。


「いえ、遠慮いたします。元々トーリがトップに選ばれたのは南の町との連携も考えてのことです。亜人であるトーリが最適でしょう」

「うんうん。僕はあくまでも研究者としてこちらに派遣されているからね。基地運営とかもやると本分の研究がおろそかになるからね。残念ながら代わってやれないな~」


2人とも即座に拒否する。

当然よね。

理由も万全。


「うぐっ」

「そんな顔をしないでください。こちらにはハイレン様のようなトラブル……いえ、女神様はいらっしゃいませんし」

「そうそう。トーリにとっても基地運営や指揮官としての経験は絶対いいことだからさ。ねえリュシ?」

「え? あ、はい。トーリ様なら上手くやれます! ですよねリリーシュ様?」

「そうねぇ~。トーリちゃんなら上手くできるわ~。もちろん、私たちもフォローするし~、ついでにリュシちゃんもここの医療班のトップやってみるかしら~?」

「いえ、流石にそれは。私はウィード本国との医療データのやり取りもありますし……」


いきなり無茶振りしますね。

しかもこっちの医療班のトップは一応私なんですけど!?

って、そういうことか。


「ハイレン様の件でしばらく席を外しますからね。そういう意味ではユキやトーリたちととすぐに連絡を取れるリュシが医療班の暫定トップを受け持つのは間違いではないですね」

「えっ、エノラ様!?」

「あ~、なるほど。連絡をスムーズにするにはそれがいいよね」

「確かにそれは間違いないですね。医療班にはほかに上と簡単に連絡が取れる人がいれば別ですが、いますか?」


フィオラの質問にリリーシュ様と私は首を横に振る。


「いないわね~。というか、ある意味リュシちゃんが一番この中でも融通が利くはずよ~?」

「そうね。何せ、ユキの側付きで、セラリアとも簡単に連絡が取れるし、ウィード医療トップのルルアの直弟子でしょ?」

「うぇ!? そ、そんな大げさに言わないでくださいよ。ルルア様の元で学んでいた期間は短いですし……」

「ん? リュシは別に医学の勉強をやめたわけじゃないだろう?」

「そうね。今でも私やリリーシュ様の所にハイレン様と一緒に聞きに来ることがあるわよ」

「それは、医学は学んでいますけど、ルルア様から直接教わったということは……」


ああ、そういうことね。

直弟子っていうには長く教えてもらっていないって話ね。


「ああ、そんなこと~? 気にしなくていいわよ~。ルルアちゃんもユキさんの健康管理を任せられるって喜んでいるし~。それが直弟子である証拠よ~。勉強不足腕不足の子をユキさんの側に付けるものですか~」

「そうね。実力不足なら私やリリーシュ様も止めるわ。わかっているわよね? 医者は処置を一つ間違えば人の命を簡単に奪えるって?」

「それはわかります」

「あと、リュシちゃんは~、ユキさんに危害を加えるとか考えないでしょ~?」

「それは当然です! あんな私をユキ様は私を助けてくれたんですから!」


あんなという状態を私も知っている。

あそこまで人を痛めつけるとかクソ共は死ぬべきと思ったほどね。

それで、あのケガを治してしまうユキの技量にも驚き。

そして、その結果、リュシの忠誠が絶対だというのもよくわかる。

つまり……。


「うん。なら間違いなく、リュシが最適だよ。僕も保証する」

「私も保証するよ。じゃ、通達しておくね。ああ、書類関係はすぐにはむりだろうし……」

「あ、心配はいらないわよ。リュシは私の補佐で動いているから書類の代行処理は何も問題ないわ。ねえ?」

「あ、はい。……できますぅ」

「……ねぇ、リュシ。あんたまさか、書類仕事をしたくないって理由で代行嫌とか言ってないよね?」

「い、い、いってませんよ?」


はぁ、まあ責任も伴うから、ただの書類仕事よりは気が重いのは分かるけど。


「じゃ、私たちがオーエに行っている間よろしくね。ユキにもちゃんと頑張っているって報告するから」

「わかりました! お任せください!」


なんて現金な。

いや、私たちも変わらないか。



エノラはこれからハイデン地方の上役にハイレンの暴走を伝えるという仕事もあり、胃が痛いことになります。

ハイレンにはみんな強く言えないからね。

ああ、エノルとソウタなら言えるけど、アレは身内だから。


ちなみにリュシは治療魔術に関しては優秀。

元々大けがしてたからかはわからないけど。

医学知識に関しては優秀ではあるけれど、学んでいる期間相応での優秀。

だけど、責任ある仕事を請け負うには自信がない。


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― 新着の感想 ―
古株が事前に打ち合わせもせず、意気投合して後輩を追い込み威す……誤変換、落とす。 警察ですが詐欺でもやってるけど、鮮やかな手並みだ。 ユキに新たな女を娶らせるときにもやるけどなぁ~
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