第1825堀:冒険者ギルドの方も準備を整える
冒険者ギルドの方も準備を整える
Side:ミリー
「それで、何かつかめましたか?」
私はウィードの冒険者ギルドの執務室で話し合いをしている。
相手はというと、グランドマスター、ギルド長のロック。グラス港町のギルド長キナの3人で。
副ギルド長のダネアは下で通常業務中。
後で、ここでの話は伝えることになる。
何せウィードの冒険者ギルドは面倒なトラブルがあるから情報共有は必須。
そういう意味でもダネアは選出されているわけ。
と、そこはいいとして、今聞いているのは……。
「うむ。本部から情報を集めた結果、アルカ嬢ちゃんの言う通り、スアナの町やその周辺では魔物の捕獲依頼がでておるのが確認できた。巧妙に隠されてはいたがのう」
「隠すというと?」
「依頼主が違う。確かに領主の指示での依頼はあるが、それは全体で言うと3割もないのう」
グランドマスターがそういうと、キナが飲んでいた飲み物をブッと噴き出す。
「ちょっと待ってください。それって全体では倍以上は集まっているってことですか!?」
「まあ、全部が全部ってわけじゃないがのう。それに個別の方はどうしても数が少ないものある。ほれ」
そう言って、グランドマスターが集めた資料をテーブルに置くので私たちは目を通す。
確かに、領主からの依頼とは別に、色々な理由を付けて魔物を集めているというのがある。
その中には……。
「ちっ、冒険者ギルドの依頼として魔物捕獲もあるのか」
「うへ~。いや、魔物研究のためにやっているけどさ~。これ認可とかは降りてるんですか~?」
「うむ。資金の提供は領主からも出ておってな。スアナの町周辺の魔物分布を調べるためにもということでかなり重要な案件じゃな。書類上は問題ないし、冒険者ギルドとしては拒否もできんのう」
まったく、本当に巧妙ね。
冒険者ギルドは下手するとこのまま共犯になるわ。
下手に公表をされると、今回の件冒険者ギルドの立場も悪くなる。
それも狙っている?
そうならないためにも協力を強制されているという感じかしら?
……そこらへんもわかっていないのよね。
「まあ、今の所は表向きには間違いなく問題はない。真っ当な活動と言えよう。問題はその後じゃな。事故が起こるかどうかじゃ」
「事故、ね。グランドマスター的にはどう思っているんです?」
「そうじゃな。魔物を集めている量に関しては他の所よりも10倍は多い。それをそのままそっくり利用できるなら開拓村ぐらいなら何とでもなるじゃろう。軍を出動する理由も十分にある。とはいえ……」
「証拠がないと何もできませんよね」
「そうね。今のままじゃあくまでもこれは私たちの想像でしかない。下手に問い詰めても躱されるだけ。かといっても、これって……」
私は続きを口にするのをためらう。
あくまでもこれは事故が起これば問題になるのであって……。
「これは行動を起こされるまでは罪ではないからのう。証拠を見つけたからと言って、領主や関係者をしょっ引くことはできんな。何せ書類が見つかった程度ではなんとでもなる」
そう、グランドマスターの言うように計画をするだけでは罪ではない。
性質の悪い話ではあるけれど、考えることは誰だってする。
それで犯罪として捕まえるわけにはいかない。
……ユキさんとかその手のあくどいことは山ほど考えているし。
「え、証拠があってもだめ?」
「まあ、犯罪計画があったとしても、実行していないのなら罪じゃないしな。それなら捕まえる側も犯罪の方法を考えるだろう? それで捕まるのかって話だ」
「むぐぐ……」
ロックさんにわかりやすいたとえを教えられてキナは口をつぐむ。
アルカって子はそういうこともあって行動を移せないわけね。
これじゃ、ことが起こるまでは逃げるわけにもいかない。
下手なことを言えば、不安を掻き立てたとか言われてしょっ引かれかねない。
「そこらへんは、動いてからの対応になりそうじゃな」
「ですね。犯罪の証明になりますから。とはいえ、後手にしか回れませんが」
「幸い、アルカちゃんが嗅ぎつけてくれたんじゃ。ユキ殿から支援ももらっているから、事前に察知することはできるじゃろう。あるいは大国に渡りをつけるかじゃが……」
「その場合は、冒険者ギルドからの話をということですか?」
「そこが難しいところじゃな。ミリーちゃんはどう思う?」
「……本当に難しいですね。持ちかけるのは出来ますが、どのタイミングでとなるわけです。まあ、既にウーサノアーエの件はウィードを通じて説明はしてありますが、行動を起こしていないことに口出しは……」
「出来ぬよな」
「はい」
「あくまでも小国の問題じゃしな。それで動いてくれというのは無理がある。ことが起こってからじゃな」
先ほどの話と同じで、事態が起こらなければ大国も動けないのは同じ。
下手に口を出せば大国の強権が過ぎるということになってしまう。
「となると、やはり動いてから潰すしかないのう」
「ですが、あくまでも事故を装われると、戦力投入もむずかしいですよ?」
ロックさんの言う通り、動いてから潰すとなっても、向こうの言い分は事故なのだから、いきなり大戦力を送り込むというのは難しい。
送り込めばそれだけこちらを怪しむだろうし、何よりその資金はどこから出すという話になる。
優秀な冒険者もただではないし、それが損失するような場所に送り込むというのは冒険者としても送り込むギルド側としてもためらう。
何より、魔物だけが相手ではない。
裏に貴族がいるのだから、貴族から睨まれる可能性も高い。
魔物だけでなく人というか、味方も警戒しなければならないというのは、負担が大きい。
「えーっと、本当にどうするんですか? これ下手すると開拓村の護衛や現場の確認のために冒険者ギルドの人たちもいくでしょうし、アルカさんが言っていることは別に間違いじゃないですよ?」
本当に、町が危険というか、邪魔な奴を開拓村にぶっこむんじゃないかと邪推してしまう。
いや、普通にそんなことを考えているならするでしょうね。
ついでに邪魔者を消せるんだから、これに越したことはない……。
「あ」
「どうしたかの? ミリーちゃん」
「キナが先ほど言った冒険者ギルドも巻き込まれるという話ですが、つまりは邪魔者を始末するという話でもあります。そう思いますよねロックさん」
「そうだろうな。これとない機会だ。適当に理由を付けて送り込むだろう。それで生き残ればあくまでも事故と装えるし、軍を連れて助けたとなれば支持側に回ってもらえるだろうな」
「なれるほど。確かにそのとおりじゃな。つまり、我々にとっては味方か」
私の意図は伝わったようで頷いてくれる。
「接触はどうするかと悩むところじゃが、それもアルカちゃんの手腕の見せ所じゃな。そもそも開拓を進めるのであれば、そこらへんは割れるじゃろうし、焦らんでもよいか。とはいえ、動いた時の戦力確保が難しいのう。ニーナちゃんたちは動いてくれるだろうが、それでも7人ほどじゃろう? 魔物を倒すのであればともかく……」
「味方を守るというのは難しいからな。しかも、貴族が相手となると、人質もあるしな」
ロックさんの言う通り。
ニーナたちはユキさんの元で元々強かった状態からさらにぶっ飛んだ強さを持っている。
魔物がウーサノの周囲で出る魔物のレベルを考えると100いようが相手になるものじゃない。
それが7人近くいるんだから問題にはならないけど、身内に敵がいるのが問題なのよね。
人質を取られるとニーナたちはどうしても動きが鈍る。
負けはしないだろうけど、犠牲がね……。
「そこらへんは注意というか、アルカちゃんに情報を集めてもらうしか無かろう。人質を取られるにしても一人二人であれば対処は出来るじゃろうし」
「まあ、確かに」
目の前で人質を取るような馬鹿であれば、ニーナたちなら即座に犯人を無力化するのは目に見えている。
それぐらいは出来る実力はあるが、問題はどこかにさらわれた場合なんだよね~。
無視しろというのは簡単。
とはいえ、それは向こうもわかっているから、そこらへんは上手くやろうとするでしょうね。
「とりあえず、今の結論としては、スアナの領主はすぐに動くことはない。何せ開拓をするための人を集めていないのじゃし、布告をしたからと言って、すぐに集まるわけでもない」
「それは、その通りです」
幸いなのは時間がまだあること。
「じゃから、アルカちゃんからもたらされた最悪の事態が起こる時に動けるように準備を重ねることじゃ。具体的にはアルカちゃんからの冒険者ギルド支部の情報。ニーナちゃんたちからスアナの町の情報。ユキ殿たちからの使い魔からの情報。敵味方の分別。魔物の集積場所。動かせる人員の確保。よいな?」
「「「はい」」」
最後にはグランドマスターが今後の方針についてしっかりとまとめた。
こういう所は貫禄があるのよね。
いつもそうだとありがたいんだけど、これは私たちを鍛えることも目的だろうし、ん? 後進を育てるというと……。
「そういえば、冒険者ギルド本部は今回の件はどのような対応を?」
「うむ。信用できる連中に伝えて情報を集めさせておる。とはいえ、迂闊に人を送れんからな。送れば怪しんでいますと発言するようなもんじゃろう?」
「そうですね。結局は迂闊に動かせないと」
「そうじゃ。だからこそ、現場の情報は今いるメンバーでしっかり集める。有事の際に投入できる戦力を限りなく集めるんじゃ」
……それしかないわね。
「あと、ユキ殿にも連絡を。協力に関しても打診をお願いしてくれ」
「わかりました。あの村も危険にさらされる可能性もありますし、ロガリの安定もありますから、協力はしてくれるかと」
「まあ、いまもニーナちゃんたちを送ってくれておるからな。彼ならなんか面白いことを思いつくかもしれんからな」
「はぁ、期待してくれるのはありがたいですが、ユキさんの方は新大陸の方で大忙しなんですよ。ご存じですよね?」
あのホテルで大国に告げたことはもちろんグランドマスターも知っている。
その忙しさは物凄いものだと分かっているはず。
まあ、冒険者ギルドには魔物研究ということで新大陸からの魔物を送っているから、そこらへんもわかっているだろうに。
「ほっほっほ。何事も変化が必要じゃよ。ワシも向こうにいってみたいしのう」
「やめてくださいよ。新大陸でグランドマスターが行方不明とかさらに大問題なんですから」
「そこらへんは我慢してください。まだ情勢が落ち着いていませんし、魔物の調査も碌に進んでいないのは御存じでしょう?」
「そうじゃな。スアナのことが片付いてからにしようか」
駄目だ。
この人絶対に行く気だ。
行ってほしくないっていう意図はわかっているだろうに。
よくある話だけど、犯罪の計画をねっているからといって犯罪者ではありません。
物語の設定や防犯のためと言えばそうなるし、そんなので逮捕とか意味がないですよね。
ちなみにグランドマスターはどこまでも冒険者でございます。
最近はウィードが冒険の場。
いや、楽しいですよねウィード。
冒険しがいがある。




