第1823堀:用意が追い付かないのはそれはそれでダメ
用意が追い付かないのはそれはそれでダメ
Side:ラビリス
「それで、商品紹介は上手く行ったわけ?」
私はユキが戻ってきてからオーエとの使者を送る件について話を聞いていた。
まさか、向こうでミコスが実演をするとは思わなかったけど。
何せ、オーエ向けのカタログじゃなく、ジェヤエス王国ってところの為に準備したものだし。
まあ、見てもらうっていうのは間違ってはないけれど。
それを、王や姫、近衛隊長相手にして練習とか驚きね。
向こうが欲しがったっていうのもあるでしょうけど……。
「上手く行ったな。いや、上手く行き過ぎたって感じか?」
そういうユキの視線は実演したミコスとカグラに移る。
私も二人を見る。
「そうね。ミコスが上手く説明したから、その場で買うって言いだしたのよ」
「あはは~、あそこまで上手く行くとは思わなかったんだよね~」
カグラもミコスも予想外だったようね。
これは上手く行き過ぎたことを喜ぶべきなんだけど……。
「はぁ、それで思いのほか、売れそうだってことで増産の相談ってわけ? でも、それなら生産を管理しているラッツに頼むべきじゃないかしら?」
そう、不思議なのはこの手の商品増産の話を私に持ってくること。
こういう商品開発と生産に関してはラッツが管理している。
「いや、それがな、在庫に関しては20個用意しているって話でまとまっていたんだよ。ラッツとも」
「20個ってそれだけ?」
私はユキから言われた数を聞いて驚いた。
まさか、家電製品が20個だけの在庫だとは思わなかったから。
「ラッツも含めてなんで20なんて数になったのかしら? カタログを見る限り別に高くもなく安くもなくだし、貴族というか、国の重鎮たちなら嫌でも欲しがると思うけれど?」
そう内容は私も見せてもらったけど、たかが20で向こうが満足するとは思えない。
貴族も多数いるのだし、あんな便利なものあればあるだけ欲しがると思うのよね。
それがユキやラッツが分からないはずもないけれど?
「いや、基本的に王とその家族、そして少しの重鎮向けだったんだよ。洗濯機や冷蔵庫なんて各家庭に1つも有れば十分だろう?」
「そうそう。知っているならともかく、初めてで沢山発注すると思わないし~、ラッツも生産した家電を保管して置く場所って意外と場所とるって」
「ああ、なるほど」
忘れそうになるけれど、アイテムボックスっていうスキルはユキがいるから私たちは当たり前のように使っているけれど、基本的にはかなりのレアスキルで、大量の物資は倉庫などに保管するのが当たり前。
なにせ、いざという時その物資を持っている人がいなければ誰も物資の取りだしようがないから。
つまり作った商品はサイズそのままでどこかに保管する必要がある。
その移送コストはかかるわけで、場所もいる。
「この数を考えると、各20って意外とギリギリ?」
家電の種類はざっと見て100種類はある。
大型も相応にあるし、ほかの商品も考えると結構倉庫がパンパンになりそうね。
「その通り。ラッツに相談したんだが、下手に倉庫を増やして生産しても売れなかったら採算合わないって話になってな」
「まあ、それはその通りよね」
「それに倉庫自体は簡単に増やせても移送手段や生産量がいきなり上がるわけもない」
「それもそのとおりね」
場所が増えたからって生産数や移動のための人数が増えるわけじゃないんだし。
そしてその分維持費もかかるのは当然。
売れなければ損失なのは私もわかる。
「今回はその試験もかねてってやつだが、オーエが特殊かもしれないというのはぬぐえない。ジェヤエス王国では全然売れない可能性もある」
「その通りね。オーエに関しては、既に信頼関係があったものね。そこは大きいと思うわ。いくらミコスが上手く実演しても一気に売れるとは思えないし」
「え~、ラビリス。そこはミコスちゃんの素敵トークのおかげって言おうよ」
「なら、沢山作るってことで解決かしら?」
「ごめんなさい。そんな自信はないです」
ミコスは即座に頭を下げる。
はぁ、相変わらずね。
まあ、これがミコスのいいところだけど。
「で、売れる台数が読めないっていうのは分かったけれど、それで私に会いに来るのはどういうことかしら? 生産台数の相談ならなおの事、ラッツの分野じゃない?」
この手の物資の流通具合を計算するのはラッツがやることよね。
各外交官からの予測数値を聞いて。
今回はその外交官もいないから売れる数の予想が出来ないから、こういうことになっているわけだけど。
「ああ、そのラッツと相談してな。確かに自前で生産して売るというのはいいんだが、今回に限りは読めないから、待たせるよりもダンジョンマスターのスキルで取り寄せたらって話になったんだよ。それで、ウィードのDP交換となると……」
「そういうこと。それなら私ね。とはいえ、セラリアはもちろんエリスの許可もいるわよ? 一応国庫DPよ?」
私を通すということはウィードの資産、血税。
もちろん表向きダンジョンマスターを拝命しているから、ウィードのDPで色々交換するのは私しかいないけど、好き勝手に使えるわけじゃない。
セラリアという女王はもちろん財務を握っている会計のトップであるエリスの許可が無ければDPは使えない。
それがわからないわけがないと思うけれど……。
「それは分かっている。だが、セラリアはともかく、エリスをどう説得するかって所で悩んでてな。ラッツとしてはもうあきらめて自腹を切ってその成果からやるしかないって言っているんだよな」
「あ~、まあ、何も試算がないのに予算を要求っていうのは難しいわよね。自腹を切るってことが、まあ、無難と言えば無難か。ってなおのこと私に話すのは?」
「いや、どのみち生産が間に合わないこともあるだろうし、家電は呼び出せた方がいいと思ってな。ちゃんと日本のモノじゃなくて、ウィード産の家電っていうのが出来ているし。登録をって話だ」
「ああ、いざ作ろうって時にすぐできないのは駄目って話ね。更新の方法は……」
「俺の方から許可を出すから、今から確認してくれ」
そういうことね。
私が扱えるダンジョンマスターのスキルで取り寄せられる商品を増やすってこと。
勝手に増えるとわからないし、私が注文するものだし、ちゃんと商品を把握してほしいってことなんでしょう。
で、そこ掘れわんわんの商品購入項目を開くと、新たにカタログの種別が追加されている。
「わざわざ別項目作ったの?」
「作らないと、ほかの項目に入れることになるしな。それを一つ一つ探すのもあれだろう?」
「……確かに探すのは面倒ね。カタログ商品で分けているならそれはありがたいわ」
まあ、名前さえ分かれば検索できるけど、カタログの内容を改めたいときもあるし、こういう方が便利なのは間違いないわ。
「それと、ミコスやラッツとも話したんだが、カタログの内容と連動させることにしている。新しい商品はもちろん、古いやつは消す。そうしないと混乱するだろうって」
「そうね。それは大事だわ」
更新がされていないと、ない商品も出てくるでしょうし。
あら? それでふと気が付いたことがある。
「ねえ、今の話だとユキの方だけにある商品っていうのがあるのかしら?」
「ある。ほら、呪われていそうな刀剣とか武具とか」
「ああ、あったわね。秋天の時に封じたんだったわ」
そう、秋天が娘になったときの事件で、妖刀とかその手のいわくつきの物がDPで勝手に取り寄せられないようにしたのよね。
実際国を巻き込む大騒動になっていたし。
いえ、あればダンジョンマスターであるアーウィンと剣の国のトップであり神であるノゴーシュ、そしてランクスの勇者王であるタイキと旧王家のビッツという対立が原因だったのだけれど。
妖刀が問題を大きくしたのは間違いない。
以上のことがあって、こういう新商品はユキが周りと相談のち共有されることになっている。
「そうそう。あと、ナールジアさんとかにロボットや兵器の項目があれば大惨事だしな」
「間違いないわね。素材でも山ほど使った実績があったし」
「そういう意味で、妖精族代表になったコヴィルは理性があるよな」
「思ったよりもあの子は優秀よね。今はキユと仲良くやっているようだし」
「ああ、今では弟のよい奥さんだよ」
コヴィルは妖精族の代表を務めつつ、ウィード内部での情報収集などを請け負ってくれている。
行方不明事件の件も、霧華の部下が主導ではあるが、ほかの情報を固めたのはキユがやっているラーメン屋やコヴィルの情報網のおかげでもあるのよね。
「と、雑談はここまでだな。あとはセラリアとエリスに相談してくる。とりあえずオーエだけでも50は欲しいって話だからな」
「あ~、本当に多いとは言えないぐらいの数ね」
「だろ?」
「とはいえ追加注文がないとは言えないのよね」
「そこが始まりだもんね~」
カグラやミコスの言うとおりね。
そこからウィードの商品が広がって注文が入り始めるでしょう。
というと、しばらくは50以上の注文が続くと思っていい。
貴族でも一家で一つってわけにもいかないでしょうし、転売もするでしょうしね。
とはいえ、家電の寿命は5年はあるし、ある程度売ればそうそう買い替えることはないから落ち着くかしら?
そこまで考えて読めないという意味がわかってきた。
ああ、なるほど。
その場合は次ができるわけね。
今はオーエ王国だけど、次はジェヤエス王国、そして次はさらに増えていくのは目に見えているわね。
何せ新大陸ではウィードの名前を売らないといけない。
商品の生産が追いつきませんっていうのは別に悪いわけではないけれど、名前を売りたいウィード側にとっては生産に手間取るほど人がいないと思われるのは悪手よね。
だからこそ、私にさっさと用意するべきと思ってきたわけか。
「本当に面倒ね」
「だろ? 新しい市場とか知り合いも何もないから調べようもないしな。オーエ相手だけでもひーひー言っているが、その次が本命だしな」
「そうね。とはいえ、やめるわけにもいかないか。それこそ新大陸での基盤を失う」
ウィードの名前を広げるためにカグラやミコスを危険にさらしているんだから、相応の成果はいる。
それに敵の目的が見えていないのもある。
味方はできるだけ増やしたい。
「ねぇ、私が向こうに出た方がいいのかしら?」
なので、ついそんなことを聞いてしまう。
必要であればユキは既に新大陸のメンバーに選出しているであろうっていうのはわかるのに。
「そうだな。出る必要はある。その時まではウィードのことを頼む」
「……わかったわ」
珍しい、必要ないとは言わなかった。
つまり、私は確実に向こうに赴く必要がある。
これは、準備をしておいた方がいいわね。
商品の手配速度一つで会社の能力を問われるからね。
まあ、よくある納品早くねってやつ。
面倒ではあるけれど、注文する側としてもその会社を測るチャンスでもある。
意外と地球もそういうバチバチの戦いは日々行われているのです。




