第1821堀:期待とはプレッシャーである
期待とはプレッシャーである
Side:ミコス
「あ~、何だろう頭痛い」
「あきらめなさい。姫様はミコスの成果に大いに期待しているのよ」
「わかってるよ~」
今ミコスちゃんたちは、新大陸オーエ王都に来ている。
これから使者の件について詳しく話すため。
でも、その前にミコスちゃんは疲れている。
原因は先日あったグラス港町完成パーティーで、キャリー姫様に今回新大陸でのオーエの近隣訪問について行ってウィードとも仲良くなろうという使者作戦のことを話すと……。
『ミコスがウィードの、ひいてはハイデンの窓口となると?』
びっくりしたって感じで見つめられたんだよね。
いや、ミコスちゃんも一応ユキ先生と結婚する前は普通にハイデンの外交官としてウィードとの仲を取り持っていたんだけどね?
今も、ソロのフォローに回っているし、何も問題ないはずなんだけど。
まあ、今回の交渉の要がウィードや他国の物品を持って行って交易するというのだから、そういうセンスがいるってことをカグラが説明すると素直に納得してくれたんだけどね。
『そういうことであるならミコスが間違いなく一番でしょう』
納得してもらえたのになんか、こっちが釈然としない。
ミコスちゃんはちゃんと仕事ができるっていうのに。
とはいえ、それはまだいいんだよね~。
問題なのは……。
『では、記念すべき新大陸の国家とのやり取りを成立させたのはミコスということになるわけですね。ハイデンとしても鼻が高いというモノです』
そう、あろうことかプレッシャーをかけてきやがったんだよね~。
「あきらめなさい。召喚誘拐事件がこっちにとっては解決したとはいえ、私たちがユキたちを召喚したことは事実なんだし、それを払拭できる成果が欲しいのよ」
「わかってるけどさ~……。それっていつまでって話じゃん?」
「……それはついて回る風評ではあるけど、真摯に動くというのが大事なのよ。お願い」
カグラが顔をしかめる。
あ、しまった。
この手の文句はカグラにとっては禁句だった。
「ごめんごめん。ただ信頼が重いな~って話だよ。ほら、ミコスちゃんは今では出版社の方だし。それにもともと外交官としてもメインじゃなくてカグラの補佐だったし」
「ああ、そういうこと。確かに今回はミコスのプレゼン次第ではあるわね。私は使者としての挨拶や交渉とかはできるけど、流石に商品紹介は微妙なのよね」
「別にできないわけじゃないのはミコスちゃんも知っているけどね」
カグラも外交官として動いているわけだし、交渉可能な物資や特産品とかの紹介ができないわけではない。
まあ、その魅力を全力で語れるかというと、ちょっと違うんだよね。
だからこそこのミコスちゃんがユキ先生に頼まれたわけだし。
「流石に、今回ミコスが選んだパンフの内容はね……。服や装飾品はともかく、嗜好品関連になると微妙なのよね」
「それは仕方ないよ。何せミコスちゃんセレクションだし」
大げさに言ったけど、流石に突飛すぎるモノは相手側も理解できないだろうから、ちゃんと厳選してあるよ。
まあ、わかりやすい献上品とかは宝飾品とか綺麗なものがいいんだけど、パンフレットで説明するのはあげるモノではなく、これから取引していくものだからね。
それにその商品はラッツも関わっているものもあるから、取引の品としては最適なわけ。
継続して取引できるっていうのは、相手の国にとってもありがたいことだしね。
「だから、今後の付き合いに関してはミコスの紹介の仕方にかかっているというのは間違いないわね。とりあえず、ウィードという国を認識させるのはオーエと一緒に行けばいいでしょうけど、こちらの国力を示すには、献上品も大事だけれど、どれだけ取引できるかっていうのも大事なのよ」
「それはわかるよ。それで継続的にウィードと繋がりができるしね。オーエだけでなくウィードがいれば繋がりを無くすのはためらうぐらいには」
そうすれば今回のような北部の進軍に対してノーコメントというか静観というのはなくなると思う。
そんな不義理をするんなら今後の取り引きも考えないといけないからね。
それぐらいのつながりを目指しているってわけ。
「ええ、まああとはこちらが用意したものをオーエ王たちが認めてくれればって話になるけれど」
「そこはね。何がタブーかわからないし。聞いてみないことにはね」
私たちがこのオーエ王都、王城に来ているのは使者として向かうことの挨拶と予定の調整があるんだけど、それとは別に向かう国にこうして贈り物というか、色々用意してきたんだけど、それにダメな物がないかを確認するためでもあるんだよね。
こういうのは直接聞かないとわからないことも多いし。
「事前に説明したときはウィードの物ならば何でもとは言ってたけどね」
「そういうのは世界を知らないからね。自分たちにとってはありえないモノを取り扱っているってことも多々あるし。特に地球産は……」
「そうね。普通にびっくりするモノも食べるし」
そうそう、魚は焼くっていうのが寄生虫とかのことを考えると当然なんだけど、生で食べるし、タコとか不思議生物も食べるし、ゴボウとかいう茎、根も食べるし、毒の塊のフグも食べるし……。
地球人というか、日本人は基本的に食に飽くなき探求を目指しているとしか思えないんだよね~。
いや、実際美味しいから手に負えないんだよね。
まあ、食べるまでに忌避感が半端ないから、特に毒入り魚が美味しいとか献上品にいれれば毒殺してくると思うよね~。
流石にそこらへんはラッツさんや私で止めているけど。
「お、来ているな」
「あ、ユキ」
「ユキ先生も到着したんだ」
「ああ、スタシアとも話が終わってな。北部はカグラたちの治療行為もあってかなり落ち着いているみたいだな。ありがとう」
「お礼を言われることじゃないわ。ユキを助ける事なんて当然のことだし」
「そうそう。ミコスちゃんだってユキ先生に頼まれればこうしてきますし~」
「ミコスもありがとうな。こういうお礼を言わなくなったら人として駄目な気がするからな。やめる気はないぞ」
「はぁ、まあ人として好感は持てるからいいけど……」
「ユキ先生らしいよね~。でも威厳を見せるときは見せないと舐められるのはわかっているよね?」
「わかっているわかっている」
ユキ先生が優しいのは超美点だけど、それを理解できずに舐めてくるアホが少なからずいるんだよね~。
「そこは私たちにお任せください。そのような愚か者は処分しますので」
そうプロフが言うと、控えているオレリアたちも頷く。
うんうん、そこはちゃんとプロフたちがきっちりしているんだね。
こういう所はユキさんに側付きができてよかったと思うよ~。
「で、ここにきているってことは準備は出来ていると思うけどどうだ?」
「問題ないわ。準備はできてるわよ」
「ミコスちゃんも同じく」
「よし、なら行くか」
ということで、ミコスちゃんとユキ先生たちはオーエ王と予定通り面会をすることになる。
向こうもこちらが行くのは知らせているし、待つことなく会議室に通される。
「ようこそおいでくださいました。ユキ殿」
会議室に入ると、重臣ではなくオーエ王とスエナ王女、近衛隊長のマーティン殿が出迎えてくれる。
いや、なんでやねん。
王様や王女様は奥でドーンと構えているべきだと思うんだけどね~。
まあ、一応ユキ先生は王配だから対応としては間違いはないんだけど、このオーエ王もユキ先生タイプの情に厚いタイプだからね。
「オーエ王、そして王女わざわざのお出迎えありがとうございます」
ユキ先生もちゃんとオーエ王や王女に対してちゃんと返答をしてフォローしている。
流石にびっくりだよね。
こっちが話し合いを持ちかけるんだから。
「いえ、ウィードの王配を迎えるのですから、本来であれば国を挙げて出迎えるべきことです」
「はい。父の、陛下の仰る通りです。ユキ様たちを出迎えるのはオーエにとってどれだけ名誉なことか。昨日のグラス港町完成パーティーで改めて理解できました」
ああ、なるほど。
オーエ王国は自分たちの立場を知ったわけね。
まあ、ちゃんとあいさつしたのは各大陸の大国ばかりだったしね。
ちゃんと背景、いや国力を説明したんだよね~。
アレは、オーエに対してウィードに無茶をいうなというか、それだけの国に力を借りているんだっていう意味もあったんだよね~。
キャリー姫とかはハイデンの国力をある程度説明して、それでもウィードには及ばないとはっきり言ってたんだよねか~。
つまり、ハイデンよりも国力がないオーエはもっと下だということ。
だからこそ、こうして敬意を示しているんだろうね~。
やりすぎ感は否めないけど、それでも納得は出来る。
「あはは、そう言っていただけて光栄ですが、私たちの大陸間交流同盟は仲間です。オーエもその仲間入りができればと思っています」
「はい。この争いが終われば、改めて正式に同盟に加入を果たしたいと思っております」
当然だよね。
大陸間交流同盟に正式に加入できれば、それは国を守ることはもちろん、大きくするきっかけになる。
別に他国を頼りにというわけではない。
いや、頼りにするというのは間違いないけど、自分自身を強くすることになるんだよね。
言葉にするは難しいけどね。
「では、そのためにも争いを収めるための話を始めましょう」
「はい。それで、今日は各地に送る使者にそちらのお二人を連れて行ってほしいという話でしたか?」
「ええ。この2人を有力な南部の国への使者と一緒に向かうことによって、オーエが有利であると同時にウィードが本物であるというのを示します」
「なるほど。確かに言葉だけでは難しいですね。あのグラス港町やウィードの威容を見なければ私たちも半信半疑だったでしょう」
そうだね。
あのウィードを見れば嫌でも理解できるよね~。
ミコスちゃんやカグラ、キャリー姫もあれで唖然としたし。
「それで、2人にはウィードの説明及び、ウィードの物品を運ばせ、説明することで、他の国への認識を高める予定ですが、物品に関しては相手の国にとって忌避、価値観からすると駄目なものがあるかもしれません。それの判断をお手伝いしていただければと。もちろん、礼儀作法に関してもです」
「なるほど、確かにそれは大事ですね。スエナ、お前が選定していたな。国は確か……」
「はい。森を背に国を王都を構えているジェヤエス王国ですね」
ジェヤエス王国ね。
それが私たちが向かう国の名前。
どんな国なのかは、これから詳細を聞いていこう。
期待っていうのは自身にもつながるけど、失敗できないっていうことの裏返しだしね。
よくある話だよね。
人の言葉って意外と重い物だ。




