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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
大陸間交流へ向けて

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2112/2218

第1808堀:捕虜たちの心情

捕虜たちの心情



Side:スタシア



「ふぅ……」


私は書類の処理を終えて一息つきます。

自分で望んできたとはいえ、仕事が増えたというのはやはり嬉しくはないモノですね。


「お疲れ様です」


そう言って執務室に入ってきたのはフィオラ。

私と同じように、現場に出たくなってこちらに来たのです。

とはいえ、やらなければならない仕事はあるので、お互い大変ですが。


「いえ、フィオラは南の支援もあるでしょう。私など楽なものです」

「それはお互い様ですよ。慣れない地での軍の指揮なんて楽ではありません。それに比べれば私はあくまで補佐ですからね。南はトーリやエージルがいるので、その分は楽ですよ」

「確かに、どっちが楽というわけではないですね。どちらも大変です」

「はい。それで、捕虜はどうですか? リリーシュ様にハイレン様がご対応していると聞きましたが……」

「ああ、アレですね」


私は苦笑いしながら、映像データをフィオラに送る。


「これは?」

「現場の映像です。流石に監視もなしに、お二人を自由にさせるわけにはいきませんので」

「あはは……。それは……お二人を心配して、ですよね?」

「それを聞いてくる時点で、どっちを心配しているか、わかっていますね?」

「あはははは」


フィオラは思い切り苦笑いをします。

女神とは言え、あの二人はどう見ても武闘派ですから。

捕虜を心配して当然です。

で、肝心の映像ですが……。


「……見ないのですか?」

「えーと、概要だけお聞きしても?」

「構いませんよ。面白いモノ……ではありますが、報告を聞いた方が心穏やかでしょう」


本当に面白いモノですね。

見るだけの人であれば楽しいでしょう。

始末をする側としては胃が痛いかぎりですが。

わざわざフィオラにそんな心労を負わせる理由はありませんね。


「では、報告だけを。リリーシュ様、ハイレン様は予定通り、クリアストリーム教会に従うモノたちと接触を図りました。まあ、初日ですから穏便にと思ったのですが……」

「ですが?」

「まあ、お2人とも容姿は優れていますから、カグラやエノラの時と同じく言い寄られます。しかもケガが治っているので、なおの事強気ですね。もと軍人ですし」

「ああ、それは普通にありそうですね」


軍人というか、男はそんなものです。

従軍している連中は禁欲状態ですからね。

発散する場所を求めています。

その際たる例が性欲です。

命のやり取りのあとには相応に出てきます。

私ですら、そういう興奮がありますからね。

フィオラも将軍を務めているだけあり、そういう現場のことを知っているようで、驚きはしません。

普通なら上の者がそういうための女性を付き従わせているか、町で買うのですが、今回は負け戦ですし、捕虜になっていますからね。

だからこっちの女性に手を出そうと思っているわけですが……。


「そんな相手は戦場での治療をこなしてきたお2人は慣れたもので、さっさと叩きのめしています。自前で治療をするのでなおの事、手加減……はしているのでしょうが、一撃で相手が沈んでいますね」

「あ、あははは……」

「それで、お2人はクリアストリーム教会を支持、いえ信仰している彼らとの会話というか、反発する理由を聞き出しているところですね」

「おっと、そういえば、彼らはほかの捕虜とは違って、こちらに従順ではないのですよね?」

「ええ、負けて捕まっているのですから、大人しくこちらに従えばもっとよい環境になるとは考えないようです。まあ、シアナ男爵たちと一緒に帰還を装うのは断って仕方ないですが」

「流石にそれはですね。敗北したとはいえ、祖国というか教会を裏切れというのは従えないでしょう。ある種の忠誠心はあったということですね」


ええ、そこは安心するべきことですね。

我が身可愛さに主君や心を売るほどのアホではなかったようです。

いえ、それだけ教会を恐れているというのがユキ様たちの判断なのですが。

それでも、恐怖で人を従わせるというのは教会の力を示しています。

流石にそこまでの強権を握るようなことはハイデン地方にもありませんでしたが……。

まあ、ハイレ教も似た感じではありますね。

狂神者たちが専横したという感じでしょうか?

とはいえ、被害は亜人に限ると。

私たちからすれば、貴重な精霊の巫女や戦士なのですが、大陸が違えばその価値も違うのですね。

改めて文化の違いについて驚くばかりです。

有能だからこそ、排斥したがるですか……。

同じ人であっても足を引っ張るのですから、おかしくはないのですが。


「スタシア、どうかしましたか?」

「いえ、亜人排斥を掲げる理由はなんだろうと。結局お2人が話をきいても、教会の教義だから亜人は倒す。いえ、殺すべきという話なのですよね」

「ああ、ユキ様たちも環境が似通っているイフ大陸の関係者を集めて聞いていますが、元々子供の頃からの指導というか、関係悪化があるというはなしですからね。簡単には意識改革はできないでしょう。どこにも奴隷制度があるように」

「……そうなのでしょうね。その話は私も聞いています。とはいえ、この新大陸ではその話すらないのですよね。下っ端だからという見解ですが」

「まあ、歴史の問題が絡むので、一般の方が知っているというのは難しいかもしれませんね」


確かに、この手の歴史が絡むことは事実が隠されていることが多いですからね。

国としても隠したいことがあるわけで、一般が知ることはないのは当然か……。


「シアナ男爵たちが出たと同時に、霧華の部下たちも出ましたから、そこから何か情報が得られるといいのですが」

「ですね。このまま敵が押し寄せてくるのを倒すだけというのは、心理的にもよくないでしょうし、かといって私たちが攻めあがるにしても、戦力が足りません」

「ええ。すべてを灰にするなら可能ですが……」

「そんな戦い方をするわけがありませんし、私たちもしたくはありませんからね」

「なるべく話が通じてくれるといいのですが……」


だからこそ、会話ができるといいのですが。

教会の信者は北の国では基本的に誰もがという状態です。

少しでも会話ができなければ、殲滅戦、灰にするしか対応策が無くなってしまいます。


「それで、捕虜の人たちは会話は可能ってことですかね?」

「そうでした。話がそれましたが、殴られた後は序列というか、力差を理解したのか、大人しく会話はしているようですね。ですが、肝心の話は全くないですし、改心、というか改宗はまだまだという感じらしいです」

「まあ、いきなり信じていることを変えろって言うのは無理がありますよね。残された家族のこともあるでしょうし、生きているのであれば戻ることを考えるでしょうし、その家族が石を投げられるようなことになることは避けるでしょう」

「ああ、そういうことですか。確かに、家族のことを考えるとうかつに改宗は出来ませんか。とはいえ、私たちは別にどの神を信仰していてもよいのですが。なにせ、私はハイレ教のハイレン様ですし、フィオラはリテア教のリリーシュ様ですからね」

「はい。別に戦いたくて戦っているわけではなく、教会の権威を恐れているというのが正しいのでは?」

「ふむ……」


それは考えていませんでした。

どう見ても、自分たちが優位、つまり立場が上であるということを強調しているとしかつかめていませんでしたね。

いえ、それも事実でしょうが、フィオラの言うように、ほかの考えに賛同するということは、今の環境からはじき出されるということでもあるのは間違いありません。

下にいるどころか、上の立場のモノでも、それは社会的に孤立するのと同じですからね。

なかなかできることではないでしょう。

つまり……。


「お2人に話を伺ってみましょう」

「それがいいかと」


ということで、実際お2人を呼んで話を詳しく聞くことにします。


「はぁ~い。よばれてきましたよ~」

「どうしたの? なにかあった?」


お2人は幸い北の町での奉仕活動をしており、すぐに呼び出しに応じてくれました。

一応お2人はウィードでの司祭とそのシスターでもありますので、ウィードと新大陸の往復で仕事をしています。

普通はありえないことですが、ゲートを使うことで可能にしています。


「お聞きしたいことがありまして、捕虜についてなのですが」

「ほりょ~? ああ、やんちゃの子たちね~」

「お馬鹿たちがなんかしたの? ガツンと言ってやろうか?」


なんというか、お2人からすれば、捕虜たちは世話のかかる子供なのですね。


「いえ、少し気になることがありまして。お2人はクリアストリーム教会の教えに従っている人たちは説得は可能と思っていますか?」


変な言い回しすることなく、素直に聞いてみることにする。


「うん? それは可能よ~」

「当然じゃない。別に私たちの教えに従いなさいって言っているわけじゃないんだし」


あっけからんと、私たちの心配を粉砕してくる。


「あの、でも、協力は得られていないというか、そういう報告を聞いているのですが?」


私が驚いている間にフィオラも驚きつつ、言葉を紡ぐ。


「そりゃそうよ~。こっちに協力しろって敵国に寝返れって話だし~。二人だってそんなことはしないでしょ~?」

「「それは当然」」


ユキ様たちを裏切るようなことはしません。

その前に自害しますし、まず逃げ出します。


「つまりはそういうことよ。向こうは色々しがらみがあるから、抵抗しておく必要はあるわけ。一度ぶっ飛ばして話をすればわかるもんよ。というか、戦争ってそういうもんよ? 自国が負けるとは思っていないのに、勝手に降伏なんてできないし」


意外なことに、ハイレン様から現実的な言葉がでます。

そういえば、ハイレン様はご先祖様たちと、戦争を潜り抜けてきたのでしたね。


「そんな教えと違うからって、喜んで人を害する連中は多くはないわよ。自分がその立場になりかねないから、従っているって人がほとんどよ」

「上の連中が歪んだんでしょうね~。いえ、意図的に亜人を排斥している~っていうのは分かるけど~」

「意図的にですか?」

「当然よ。あえて敵を指定することで結束っていうかそういうのを説得力みたいなのを強めているもの」

「ハイレンちゃんの言う通りね~。魔物じゃ、反応が薄くなってきたとかそういうのじゃないかしら~。だから魔王なんてあやふやなモノを出して来たんだと思うわ~。それに都合がよかったのが……」

「亜人というわけですか?」

「想像だけどね。それを確かめるためにもユキが、えーとシアナ男爵たちだっけ? それを向かわせているんでしょ?」

「ええ、その通りです。しかし、詳しく話を聞けて良かった。今のお話ですと、上が大人しくなれば、今いる捕虜たちも素直になると」

「そうね~。国が和解したのなら、罰せられる理由もなくなるし~」


ということで、捕虜に関しては今しばらくはお2人にまかせて、次の戦いに備えての準備をしていくのでした。



いうことを聞かないというと語弊がありますが、捕虜たちが素直ではないのは祖国のため、というか家族とかそういうためですね。

負けたら素直に降るっていうのは、ありそうでないというやつですね。


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