第1807堀:これでいいかな?
これでいいかな?
Side:ユキ
「それでイフ大陸での亜人排斥、差別はそこが原因ってことね」
「多分な。大まかには間違っていないだろう。当事者もいたし」
コメットとか聖剣メンバーとかな。
イフ大陸での亜人排斥、差別についてはわかった。
おそらくだが、新大陸の根幹は同じようなものだと思う。
なぜなら、大体戦争っていうのは大まかに領土欲、つまり資源欲か、相手への不理解による攻撃だからだ。
「とはいえ、話で新たにオカシイって思えることが出てきたな」
「そうね。2万の戦力でオーエを落とせると思っているのなら、頭おかしいとしか思えないわね」
「ですね」
俺の言葉に同意するのはセラリアとクアルだ。
俺は今、女王の執務室にやってきて、今後のことを話し合っている。
主に新大陸のことについて。
グラス港町完成パーティーについては、もう開催日時を待つばかりだ。
「増援があるとしても、それでも最初から出せよって話よね」
「はい。後だしにする理由がわかりません。いえ、まあ、反発されていたということは、戦果が上がることで追加を要請出来たのかもしれませんが……」
「教会って権威があるんでしょ? その程度なわけ?」
「可能性がないわけでもない。が、やっぱり不自然だよな? だから、北部、今回に限ってはギアダナ王国の戦力を減らすためじゃないかって思ったわけだ」
「そこが妥当よね。向こうの情勢はどうだったかしら?」
「安定はしていないが、教会のいう魔王と魔物でまとまりつつはあるらしいが……。それでも、反発している連中はいるそうだ」
「当然よ。その魔王とかがあやふやだし、戦争中の国々もあるでしょうし、領土を取られている側の国としては、そこで手打ちなんてできるわけがないわよ」
だよな~。
資産を奪われておいて我慢しておけ。
そんな命令を素直に聞くなんてのはありえないよな~。
「じゃあ、そのギアダナ王国が反発しているのかしら?」
「そこまでは。とはいえ、教会のやり方に疑問を持っているのは間違いないな」
「教会がギアダナ王国を潰すために行っているとは考えられない?」
「可能性はあるにはあるが……。大国の一万を潰して国が傾くか? まあ、突発的ならともかく、事前に言われていたことだしな」
「むぅ。確かに、そう言われると微妙よね。細工をしていたらわからないけど……」
「例えばですが、そこでギアダナ王国に潜伏している教会派が一斉に兵を上げればわかりませんよ?」
クアルがそう言ってくる。
うん、そういう手筈だといけないこともないが……。
「出来る出来ないで言えば出来るだろうが。その後教会の評判は地に落ちるしな~」
「それを無視できるほど力を手に入れているとすれば?」
「その場合、オーエに送っている数が少なすぎるって所に戻る。ギアダナ王国が反発していないなら、もっと戦力を集められるだろうしな。言って悪いが二万の戦力は捨てている感じだぞ? 編成からみても」
「そうね。シアナ男爵を筆頭に味方になったのは要請を受けてきたけれど、各国の実力者とは言い難いものね。いえ、シアナ男爵は立派な人物だとは思うけれど」
「……そうですね。個人の気概、そして才気はありますが、男爵という位では出せる戦力もたかが知れています。本気で落とす気であるのなら、子爵やもっと上を出すべきですね」
結局兵数が少ない理由はわからないか。
「まあ、わかることは、油断はできないってことね。シアナ男爵たちが凱旋を装うのはいいけれど、下手をすると、全滅させられる可能性もでてきたわね。こっち、オーエに壊滅させられて、民意を煽る可能性もあるわ。魔王が実在したとかなんとかって」
「民意ね。セラリアの言うこともわからないでもないが、全滅した時点でギアダナ王国は怒りそうなもんだけどな。元々反対だったんだし、民意を煽っても手を出さなければって意見はでてくるだろうしな」
「だから、油断できないって話よ。シアナ男爵たちが言っていることは本当かもしれないけど、予想もできないことをしてくるって言うのはよくあることでしょう?」
「だな。油断はせずに、これからを進めていくしかないか。それで、シアナ男爵についていくこちらのメンバーに関してだが……」
そう、シアナ男爵たちがギアダナ王国の上層部に今回のことを伝えるのはいいのだが、それを完璧に任せるというのはない。
こちらも北部の情報は欲しいのだ。
だから、人員を連れて行ってもらおうと思っているのだが、その人員の選定をセラリアに相談しに来たわけだ。
「情勢が不明すぎるのよね。そんなところに私たちの重鎮たちから出すことはできないわね。どれだけ拘束されるかわからないし」
「ですね。ウィードの重鎮はどの方も多忙。長期空けるなどもってのほかです」
セラリアの言葉にクアルも同意する。
俺もその意見には賛成だ。
しかもシアナ男爵たちの軍に紛れ込むんだし、移動にも二か月はかかるという話だ。
いやいや、いったいどれだけの大遠征だよ。
よくそれだけの物資を捻出したなと思うのと同時に、反発があったというのも納得だ。
「そうなると、暇って言うと語弊があるが、抜けてもいい仕事ですむ誰かだが……」
「しかも敵国の情報を集められる腕も必要よ」
「ある程度、腕もないと問題でしょう。荒事がないなどと楽観できる状況ではありませんし」
二人の意見を合わせると、情報収集ができて、相応の腕があるという感じなのだが……。
「そんな便利な人員っているのか? いや、手が空いているのか?」
「そんな有用な人材は既に仕事を任せているわね」
「ですね。そんな有能な部下がいるならすでに使っているでしょう」
当然だよな。
こんな難しい案件をこなせる人材なんて、どこにいても引っ張りだこだろうし、それもそんな人材を余らせるつもりなんてない。
「というか、その手の人材は霧華の所が一番でしょう?」
「まあな。聞いているか、霧華?」
「はっ」
セラリアの言葉に霧華を呼び出す。
相変わらず忍者のように付き従っているな。
まあ、そこはいいとして。
「それで、人員は出せそうか?」
「出せます。今、諜報を行っているところを新人と入れ替えれば問題ありません。そろそろ、新人の教育も現場に移るころですので」
「そういえば、増員をしていたな。新人もどんどん現場にでているわけか」
「はい。教育期間は長くはありませんが、私たちはダンジョンマスター、つまりユキ様に成体として生み出されますので、スキルを覚えてある程度習熟してしまえば、そのあとは現場を覚えるだけですからね」
「そこは、うらやましい限りね」
「はい。どうしても人はスキルは無理に覚えさせても、心はどうしようもないですからね」
「いや、心があるからこそ対応できることも多いからな」
俺の魔物兵士は便利そうだが、便利ではないという所も多々ある。
その最たるは、心という部分だ。
なにせ俺の命令最優先だからな。
そこに感情は入り込まないが、だからこそ欠点ともなりうる。
だから、人の中に紛れて情報収集を行う霧華の諜報部隊はその手の教育には苦労するだろう。
スティーブたちも心に関しては、ウィードの人とかと触れ合った方がいいって結論を出しているぐらいだしな。
「そうか、どっちもどっちね。聞きたくない命令を遂行しすぎるのも問題か」
「言われてみるとそうですね。心があるからこそ、自分で考えることも覚えますし。難しいものですね」
「人は効率だけで生きているわけじゃないからな。余裕があるからこそ人なんだよ」
というか、生き物全てがそうだ。
感情というわけじゃないが、魚が陸にあがったのも、鳥が空を飛んだのも、ゆとりがあったからだろう。
効率を求めるとそういう結論には至らないしな。
と、進化論とか完璧論はいいとして……。
「それでどれだけ回せる?」
「そうですね。5名はいけますが……。規模を考えると3人は必要かと。シアナ男爵とともに行動するのが1人、別れて情報収集するのが1人、補助で1人。残り2名はほかに回すか、いざという時に待機させておくか、あるいは、こちらに同行させ、広く情報を集めるか」
「全員ベテランなのよね?」
「はい。すでに現地での情報収集を経験しており、戦闘面も相応にこなせます。スティーブたちには及ばないものの、副官クラスの下位ぐらいには。なので現地の強者相手でも逃げるだけに徹すれば問題ないかと」
そこまで強いとなると、色々任せられるな。
「各種道具の扱いについては?」
「現代兵器、魔術兵器ともに精通しております。転移魔術も使えますので、いざという時の離脱もできます」
「そっちの面でも心配はないか……」
「なら、その子たちで決定じゃないかしら?」
「私もそれが良いかと。経験者であるならなおのこと」
2人は文句は無いようだ。
俺も問題はない。
残るは、2人の配置についてだが……。
「先行して別働隊として使うことはできるか?」
「もちろん、問題はありません。しかし、なるほど。別動隊を作って情報を集めるというのはありですね」
「そうね。シアナ男爵の軍に紛れるのとは別の視点になるだろうし。余裕があるなら、一般人の視点も欲しいわね」
「ええ、重要かと。とはいえ、シアナ男爵たちの安全は最優先にするべきでしょう」
「いざとなれば、その援護に回すこともできるか」
「はい。別動隊ならば、そういう時には便利に動けるでしょう」
霧華の返事を聞いて、全員が頷く。
これは決定だな。
「じゃ、早速編成してくれ。シアナ男爵はもちろん、ドローンからギアダナ王国への道のりは確認させるし、そっちの操作も任せるってな」
「かしこまりました。上空偵察も使えるのであれば、精度の高い情報収集も行えるでしょう」
そう言って、霧華は姿を消す。
諜報部に話に行っているのだろう。
「さて、後はカグラとミコスが使者になる件だが……」
「そっちは、普通に護衛もつくだろうし、大丈夫でしょう」
「むしろ、ミコス様が上手く行くかどうかという話ですね」
こっちは問題というよりも、どれだけ上手く行くかどうかという話になる。
まあ、それだけカグラとミコスはセラリアたちに認められているってことだ。
相応の腕前もあるし、戦闘面は何とかなるだろう。
そんな感じで、新大陸の今後についてはほぼスケジュールが決定することになる。
あとは、上手く行くことを祈るだけだな。
ああ、ちなみに南の荒野についてはいまだ調査中。
遂にギアダナ王国というか教会に斬り込むメンバーを決定。
主要メンバーでなく、霧華の部下を投入。
……新キャラを追加することになるのか、悩み中。




