第1804堀: ウィードの良いところを伝えるには
ウィードの良いところを伝えるには
Side:ミコス
「え? ミコスちゃんが使者に加わる?」
カグラに呼び出されて顔を出したら、いきなりそう言われてミコスちゃんは首をかしげる。
何せ、今のところミコスちゃんは新大陸のあれこれには加わっていない。
ミコスちゃんは主に、グラス港町を盛り立てるために動いているから。
「そう。私とペアで。人族で、そして記録を取るとなると、ウィードの中ならミコスが一番じゃないかって話になってね」
「諜報員たちがいるでしょう?」
そう、ウィードにはミコスちゃんみたいな表向きの記者とは違って、裏でがっつり調べ物をするタイプの諜報員がいる。
そっちは記事にするわけにはいかないから、ミコスちゃんとしては住み分けが出来ている感じなんだけど。
「いい加減霧華たちの諜報員も人手不足なのよ。そして、その手の情報は浸透してゆっくり情報を集めるタイプだから、即座にってわけじゃないわ」
「まあ、そうだね。それで、とりあえず使者としてついて行って、ミコスちゃんがあれこれ調べてみろって?」
「ええ、ミコスだからこそわかるものがあるかもしれないってユキの提案」
「なるほど。それなら行くよ」
ユキ先生がそう思ってくれたんなら応えるしかないからね。
「はぁ、ミコスもユキには甘いわね」
「カグラもあまあまのくせに。というか、ユキ先生って普段は頼らないからね~。今みたいのは珍しいし」
「それはわかるわ。ユキって基本的に自己完結型だもんね」
うん、たいてい自分でなんでもこなせる。
まあ、最近は規模が大きくなりすぎてミコスちゃんたちを頼ることを覚えてくれているけど、こっちもなんというか、もうミコスちゃんたちの専属仕事になりつつあるからね~。
何か違うんだよ。
「じゃ、話は決まりね。ユキの所に行って詳しい話を聞くわよ。って、その前の新大陸の状況は知っているのかしら? あと、任せているグラス港町の仕事の方はどうなの?」
「新大陸の状況は報告書にあるかぎりぐらいかな~。わざわざ家でくつろいでいるときに聞かないし。今任されている仕事に関しては、継続して雑誌の刊行ぐらいだし、部下ができるよ。グラス港町の住人募集は完成パーティー以降だしね~。原稿は既にできているから、そっちも問題は無し」
「意外としっかりしているわね」
「意外ってなんだよ~。ハイデン魔術学院でもこの手の記事を遅らせたことはないんだよ」
「そうだったかしら? ま、いいわ。行きましょう」
「なんで覚えてないんだよ~」
そんなことを言いつつ、ミコスちゃんたちはユキ先生の所へと向かう。
今日は普通にウィードにいる日なんで、軍部のところに顔を出すと。
「お邪魔するわ」
「どうも~」
「お、来たな」
ユキ先生は相変わらず書類の山を捌いている。
う~ん、偉い人って昔は憧れたけど、自分の立場が一番いいやって思うよね~。
好きな記事とか雑誌作れるし。
「どうぞ~、こちらへ~」
ホービスに案内されてソファーに座ると、すぐにお茶とお菓子が出てくる。
うんうん、一連の流れは立派なメイドだよね~。
ユキ先生の側付きとしては立派になった。
「ミコス、忙しいところ悪いな。ここに来たってことは話は?」
「聞いていますよ~。ミコスちゃんに新大陸で使者として出向いてほしいって」
「ああ、カグラも向かわせる予定だが、ウィードの使者としてはもう一人出向いた方がいいと思ってな。文化の紹介などには、カグラよりも楽しく扱えるミコスが上だし、そのパフォーマンスに関しては雑誌や記事を手掛けているからな」
なるほど、ただの情報収集で呼んだわけじゃないってことか。
まあ、本当に情報収集なら霧華の部下を回せば何とかなるしね~。
とはいえ、納得の理由。
「なるほど、それじゃ、商品カタログとか持って行った方がいいかな?」
「商品カタログをか? 何か現物を持っていくんじゃなくて?」
「そうです。もちろん、見本として献上品として持っていくのはいいですけど~、カタログでほかにも多くの品があり、選べますって言って渡すとなると……」
ユキ先生はすぐに分かったようで、頷き。
「そういうことか。ウィードと繋がりたくなるわけだ」
「はい。それだけの付き合いで無いと告げるのが大事ですよ~。雑誌での商品紹介って物凄い効果があるんですから~」
嘘じゃない。
ミコスちゃんたちが作っている雑誌でのグルメ紹介やおもしろ商品を紹介すると品切れになることが多々ある。
もちろん、くだらない物を紹介なんてしていない。
ちゃんと記者たちが行けると思ったから掲載しているんだ。
だから、私たちの雑誌に載っている情報は信頼されて売れる。
まあ、売れすぎて困ることがあるから、事前に増産の調整とかはしないといけないみたいだけど。
そういうことで、次があるとなると、ウィードとの付き合いをしたくなるだろうって話。
次の雑誌を買ってくれるように、購買意欲を刺激する。
それを使者として訪れる国にもやる。
ウィードはただのお飾りではなく……。
「ウィードは名前だけでなく、ちゃんと交流も目的とした国として立たせるわけだな」
「はい。ユキ先生たちは新大陸でのウィードの知名度のなさが色々問題になっているって聞きましたし」
「うん、事実だ。まあ、今の所は攻めてきたギアダナ王国とその連合の諸国だけにだが、これから新大陸で活動することを考えると、国の名前が売れていないのは、今後北の国と対応する時に面倒になる可能性がある」
そうだよね~。
名前も知らない国を告げられてもどう対応していいものやらってなる。
まあ、それだけならいいんだけど、名前を知らないってことは、侮られて理不尽な扱いを受ける可能性がある。
その場合、ウィードとしてはちゃんと報復行為を行わないといけないんだよね~。
舐められるというのは国としてはありえてはいけないから。
大陸間交流同盟も下に見られるってことだから、何としてもメンツを回復させる必要があるわけ。
とはいえ、武力に関しては北側からの連合軍を粉砕しているから、問題は無いと思うけどね~。
「だったら、この機会を利用しましょ~。武力以外にも文明的にも繋がりがあると教えるわけで~す」
「カタログを渡して定期的に訪問できるようにするか」
「そういうこと。まあ、その訪問期間は交渉次第でしょうけど、品物によっては各国にも情報が回るかと」
「技術提供系も検討した方がいいか?」
「それに関してはミコスちゃんはなんとも~。現地の技術レベルを見ないことには適したものはわかりませんし~、簡単に模倣できることも拡散されるだけで、あまりウィードの名前を広げることにはなりませんね~。ああ、商会を押さえるのがいいかも?」
「そっちか。国とは別にウィードの物を売る商人を味方に付ければ、おのずと名前は売れるな」
「はい。とはいえ、そっちはラッツの領分ですけど~」
流石にモノの売買に関しては、ミコスちゃん個人がおすすめをしてもいいけど、量は用意できないし~、ラッツに確認を取らないと作戦が成り立たないよね~。
「そうだな。カタログの方もラッツに確認を取った方がいいな」
「いいと思いま~す」
「そうね。物資や取引に関しては私たちよりもラッツよね」
「なら、ラッツも呼ぶか」
うん。
ラッツがいないと話が進まないよね。
ということで、ユキ先生がラッツを呼ぶと、わずか10分ほどで到着する。
「はいは~い。お兄さん大好きなうさぎさんがきましたよ~」
いつものセリフでさっそうと現れるラッツ。
仕事中のはずだけど、絶対ほかに任せてきているよね?
ま、私よりも仕事の出来栄えは優秀なのは間違いないし、いいか。
こういうのは知らない方がいい時もある。
「わざわざすまないなラッツ。それで、話なんだが、今度オーエの方から南方の各国へ使者を送るって話があるだろう? それでこちらも同行させるように頼んでいたわけだが」
「ああ、その話ですね。ウィードの名前が売れてなさすぎですし、オーエの立ち位置をちゃんと確認するためにも、ウィードが同行して確認しようという話ですよね?」
「そう。まあ、全部の国に付き合いたい所だが、そこまで手広くやっている余裕はないからな。安全面も考えて」
うん、本来ならオーエと付き合いのある国は全部付き合いたいぐらいなんだけど、今は戦争状態だしね~。
何より、この事態はまだ秘密裏だし、実力があって交渉能力があり、危険にあっても的確に対処ができる使者っていうのは流石にウィードでもそんなに数はいないし、そこまでして連携を強める必要性も感じていないんだよね~。
「ですね~。そこは今回の使者にはウィードがいたってことを伝えてもらうぐらいでしょうか。それで、カグラが向かうと聞いていますが?」
「そう、カグラが交渉に向かうのが種族的にもいいと思ってな」
「それは確かに、この情勢で亜人を向かわせるわけにはいかないでしょう。オーエはともかくウィードも亜人だと向こうも尻込みするでしょうし。こちらは人族で向かうべきだと思います」
「ラッツもそう言ってくれて助かる。それで、その使者の話で、カグラと一緒にミコスを向かわせようと思ってな」
「ミコスを?」
ここでラッツが私に視線を向ける。
「元々は、ウィードのアピール要員、ウィードのことはもちろん、献上品を向こうに説明するには適切だと思ったんだが」
「ああ、それは間違いないでしょう。カグラは真面目な説明には向いていますが、それを興味を引くような感じとなるとミコスが最適ですね」
うん、そこはラッツも同じ認識なんだ。
そうそう、カグラは硬過ぎるんだよ。
だから、外交官とかこういう使者には向いているんだろうけど。
国の魅力を伝えるっていうのはちょっと不向きなんだよね。
「その話をしていたんだが、ミコスからの提案で、今後の付き合いというか、向こうから接触を持ってくるような、ウィードの商品を紹介するカタログとか、交易になる商品とかを選定しようかって話になってな」
「なるほど。それで私というわけですね」
「そうそう。ラッツならその手の選別と、いくら在庫があるかとかわかるかなって」
「間違いなく、その手は私ですね。まあ、物資はお金換算しないとだめですから、エリスにも相談は必要ですが……」
うげっ。
予算でエリス相手ってのは、当然だけど、あまりな~。
ミコスちゃんとしては苦手なんだよな~。
いや、必要な役職なのはわかるし、ミコスちゃんが運営している出版社も当然あるけど、どうしてもね~。
「そこは俺も話す。ミコスとラッツはまず、相手が興味を引きそうで、継続的に渡せそうな品の選別を頼む。時間はあまりないからかけられる時間は2、3日と思ってくれ」
「わかりました」
「わっかりました~」
ということで、ミコスちゃんはラッツとあれやこれやと献上品というか贈答品と交易用の品物を決めていくのでした。
新大陸において、ウィードの名前は底辺。
なので、どこかで名前を売る必要があるわけです。
武力はともかく、良き隣人としての立場も押していかないと、友好国ができないですからね。




