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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
大陸間交流へ向けて

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2104/2218

第1800堀:新大陸の現場は

新大陸の現場は



Side:ユキ



「ということで、北の町は安定しているわ」

「そりゃよかった。盛大に振る舞ったことと、炊き出しが効いているな。敵軍も追い払ったことだし、南の町の魔物もほとんどを殲滅した。畑は復帰に時間はかかるが、魔物の肉の輸送も再開しているから、一か月も経てば食料供給も……安定するといいな」


カグラの報告にそう願いをつぶやく。

エノラの方は無難に北の町の住人と仲良くというのは変だが、過ごせているようで何よりだ。

とはいえ、食料供給な~。


「安定しなさそう?」

「まだわかっていない。北の町近辺の魔物の生息はそこまで多くはないんだよな。大軍が来たせいか、身の危険を感じて逃げ散っているようだ」

「ああ、なるほど」


魔物も馬鹿じゃない。

勝てない相手に挑むわけではないから、あれだけの大軍が集まっていれば逃げるぐらいはする。

それが戻ってくるかって話になるからな。

そして、今は畑が壊されて狩りを集中的にしなければいけない状況だ。


「そういえば隣国からの輸入に関しては?」

「使者が交渉する予定だな。カグラも同行できるように頼んでいるだろう?」

「ええ、でも再開できるかっていうと私が分かるところじゃないし」

「そりゃな。とはいえ、それは話がまとまっても一日二日でどうにかなるわけじゃないだろうしな」

「それは当然ね。何せ徒歩で10日はかかるって話だし、準備とかも考えると早くても一か月は先じゃないかしら?」

「だな」


結局北の町というかオーエ全体の支援は少なくともあと一か月以上は続く予定だ。

まったく、冒険者ギルド、いや寒村の問題が発展して面倒が増えた。

まあ、あっちは基本セラリアが請け負うってことで話がまとまったが、顔を出さないわけにもいかないだろうしな。


「あと、シアナ男爵と予定している作戦はどうなの?」

「それに関しては今から話し合う予定。意外と味方になってくれている連中が多いからな。もう、凱旋って風にして帰る方がいいじゃないかって話になっている」

「凱旋ねぇ。それだと露骨に教会関係者にばれそうなんだけど、いいのかしら?」

「逆だ、ばらすんだよ。目的を聞き出すためにもな。こちらも数がいれば教会の連中と対抗もできるだろうって話だ。もちろんこちらの部隊も連れていく。元々、教会の強権に顔をしかめている連中も多いからな」


そう、シアナ男爵のブデアク王国やその庇護をしているギアダナ王国の中にも教会の口出しには不満を覚えている者はいる。

だからこそ、ギアダナ王国へと凱旋を装って敗北したことを伝えられれば、クリアストリーム教会への牽制ができるだろうという魂胆だ。

もちろん、それですべてが解決するわけではないが、教会への牽制になり、北部の動きを鈍らせる効果があると思いたい。

ついでに情報を集めて、敵の動きを把握するのもやるけどな。


「そういうこと。下手にこっそり帰るよりはってことね」

「そうだな。少数で帰ると、教会の連中に潰されかねないが、勝ちを装って帰れば、面会できるんじゃないかって。残っている半数は占領軍としてって言い訳も通るしな」

「上手い言い訳ね。それなら本軍というかあの教会信者だったトップがいないことにも説明はつくか……」


無理矢理ではあるがな。

だから、その証拠として、適当に一筆したためている。

代筆だから心配だが、たいてい代筆させているらしくまねるのはサインだけなので、どうとでもなった。

あれだな。

手書きってこれがあるからダメだよな。

もちろん、冒険者ギルドでの一件であった、手紙に本物か偽物かの細工が施されている可能性があるが、それはどうしようもないし、朗報の手紙だし、何とかなるといいなーとは思う。

極力教会関係者には接触しないことも盛り込んでいる。


「出発はまだ未定だが、それでも一ヶ月以内には出る予定だ。それを過ぎると向こう側も不審に思うだろうしな。カグラは今の話や出発までの期間で何か気が付いた点があれば指摘してくれ」

「わかったわ。あ、それとエノラがこっちに従わない捕虜連中はどうするのかって心配していたわよ? 物資とお金、それに人件費もかかるからって」


エノラの指摘通り捕虜っていうのは本当に面倒だ。

下手にひどく扱えば恨みを買うし、かといって甘くすればつけあがる。

何より、捕虜を受け入れるだけで物資や金銭、そして人員を使う。

量が多ければ多いほどな。

今回に限っては、敵の物資を最初の一撃で粉砕しているからな。

回収できる分はしているが、それでも補えるほどではない。

今までの交渉のために足を止めてもらうわけじゃなく、戦う意思を粉砕するためにわざと物資を枯渇させたわけだ。

いや~、交渉の余地がなかったからな。

今まで戦って来た連中は、ある意味俺たちにとっても良い相手だったんだろう。


何せ話が通じたし。


理解できるはずの同じ言葉を喋っているのに、理解されないってホント大変。

それがまかり通っている。

何よりそれが正しいと思われている。

本人たちは違和感はないだろうが、傍から見れば頭のオカシイ集団でしかない。

しゅ~きょ~ってろくなもんじゃねえと思うわけだ。


ちなみにちゃんと人の気持ちに寄り添うためのモノは宗教という。

まあ、国や政治とかの権力に絡むから、色でつくんだけどな~。


「ユキ?」

「ああ、悪い。面倒だな~って。まあ、捕虜に関しては、治療が終わったら食い扶持を稼いでもらうことにはなっている」

「食い扶持?」

「そう。畑を耕してもらおうと思ってな。ただ飯を食わせるわけにもいかんし、あと説得を続ける」

「前半は理解できるけど、説得って何を? 協力してもらうの?」

「まあ、それも当然だが、教会から改心してもらおうと思ってな」


俺の言葉にカグラはもちろん、控えているプロフでさえ驚いた顔をしている。


「ユキ様、お話を遮って申し訳ございませんが、そのようなこと、可能なのでしょうか? 正直、今までのことを考えると……」


プロフは俺の考えを否定したくないのか最後まで言わなかったが無理だと思ったんだろうな。


「うん、俺も正直上手く行くとは思っていない」

「え? ならなんでそんなことを~?」


ホービスが首を傾げながら聞いてくる。

当然の疑問だ。


「難しい話じゃない。教会の洗脳というか異常さを解除できる方法があるならそれに越したことはない。違うか?」

「あ、いえ、その通りだと思います」


今日はヤユイも一緒にいて、俺の答えに頷いてくれる。


「うんうん。って、そんな風に簡単に心変わりするなら何も苦労はしないわよ」


カグラがノリツッコミをしてくる。

慣れてきたな~。

と、そこはいいとして。


「だから苦労してその方法を模索しているんだ。これ、改心つーか他の宗教に改宗でもいいが、できないと俺たちは殲滅戦仕掛けるしかないんだぞ?」

「「「……」」」


俺の言葉にピタッと止まるカグラたち。

ことの重要さに気が付いたようで何より。


言葉が通じなく、襲ってくるなら、俺たちは身の安全を確保するために倒すしかない。


倒すというのはぼかしているが、反撃できない程度にはとなると、その結末はどうしても一つだろう。

こっちもそんな相手に資金も物資も人も使う理由はないのだ。

そして、その結果の見返りは多くない。

というかマイナスだろう。

何せ敵対者には容赦ないという看板を背負い、教会の関係者にとっては不俱戴天の仇となるわけだ。

恐怖による統治、人のいない町、今の俺たちに出来ることではない。


何より、そんな手段を取って精神的にまともでいられるかってな。

道中、抵抗する説得できない相手を始末する必要がある。

無抵抗な者も同じくだ。

説得できないんだから、災いになる前に。

日本風に言えば根斬りってやつか。

そんな第六天魔王になるつもりはないしな。


「……理由は分かったけど、誰が……」

「そこは宗教関係者だな」

「え? エノラに?」

「いや、そこはポヤポヤと頭ハッピーの……」


俺がそう言いかけて後ろから声がかかる。


「そうよ~。愛を教えれば大丈夫のはずよ~」

「誰が頭ハッピーよ! まったく、ああいう人たちは何か不安を抱えているから、極端な答えに走っているだけだし、普通に生活をして安定していればそういう排斥思考はなくなるのよ」


そう、俺が捕虜の説得というか、改心、改宗させるための最終兵器。

愛の女神リリーシュ、そして思い付きで即行動、結果は付いてくる迷惑新人女神ハイレン。

ある意味話が通じねえ奴らである。

愛と名がつけばどうにでもなると思っているんじゃないかと思うほどに。

いや、そのトップの女神は旦那と喧嘩別れしているんだが。


「あら~? ユキさんから熱い視線が向いているわね~」

「ふふん! リリーシュ様と私に大いに期待しているんですよ!」


そうだな。

本当に期待している。

そこは間違いない。

何せそうしないと、こっちも精神的につらい選択をするしかないからな。


「ああ、頼むぞ。説得できて会話で済めばそれに越したことはないんだ」

「クソな盗賊ってわけでもないのだから~、なんとかなると思うわよ~」

「そうそう、野盗とかは更生の余地はほぼないけど、あれは従軍していただけでしょ? それならなんとか行けるわ」


うん、言葉の重みが違うな。

とはいえ、2人にとっても盗賊系はほぼ救いようはないか。

どこにでも救えない連中はいるもんな。

何せこっちの世界は魔物などの危険生物がいる世界だ。

自分を脅かす脅威はさっさと始末するのが正解と言われている。

俺もそれは間違っているとは思わない。

身内よりも敵が大事なんて言うつもりは毛頭ない。


「言わなくてもわかると思うが、2人の身の安全が最優先だからな。部下も付くだろうし、本人の実力もあるから心配は少ないが、そこは言っておくぞ」

「わかっているわ~。お馬鹿に後れを取るようなことはないわよ~」


うん、この二人は戦闘能力も一般人よりは高い。

俺たちと多少は戦えるぐらいには。

なのでそこまで心配はいらないが、注意を促す必要はある。

特にハイレン。

お前の自由で北の町の部隊を疲弊させたくはないからな。

後で厳重に通達しておこう。

目を離すなって。


「まあ、ということで、捕虜は時間がかかるかもしれないが、味方ないし、敵対しない方向にもっていくつもりだ」

「わかったわ。……あのお二人ならできそうだし」


カグラも流石に自分が崇めている駄目神を信用しているようだ。

俺は別の意味では信用してないけどな。



面倒な殲滅を避けるためにするのは意識改革というなの改心。

ある種の洗脳だが、向こうもやっていることなので問題なし。

というか、現代でもその手の意識誘導はやっているので、文句を言う権利はないわな。

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