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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
大陸間交流へ向けて

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2103/2218

第1799堀:北の町は落ち着きを取り戻しつつあります

北の町は落ち着きを取り戻しつつあります



Side:エノラ



まずは顔色、そして呼吸、動き、体温に脈。

私が知っている平常状態内にすべて収まっているのを確認して、カルテに記入していく。


「私から見るに問題はないけれど、体に不調はないかしら?」

「うん。元気いっぱいだよ~」


私の質問に元気よく答えるのは、獣人族の女の子だ。

とはいえ、子供は自分の体調はよくわかっていないことが多い、なので同席している母親に視線を向けるとすぐに口を開いて。


「はい、いつもの通り、いえ前よりも元気になったように見えます。エノラ先生には大変お世話になりました」

「それならよかったわ。まあ、食べ物が少なかったことも風邪の回復を遅らせていた原因だし、これからもしっかり食べてよく遊んで、良く寝なさい」

「は~い」


元気よく返事をした子を見送って、カルテをまとめていると、カグラが代わりに入ってくる。


「どうしたの? 急患?」

「違うわよ。休み時間だから来たのよ」

「あら? ほんとね」


そう言われて時計を見ると、気が付けば時間は12時を回っている。

どうやら先ほどの親子が長引いたようね。

そんなことを考えていると、代わりの先生が入ってきて。


「エノラ先生、代わります」

「はい。よろしくお願いします」


そういって交代をして診察室を出ていく。

彼はウィードから派遣された医者だ。

正直な話レベルを上げている分、回復魔術については私の方が上だが、医者としての知識と技量については彼の方が上。

なにせウィードの病院で長年勤めている人だからね。

私も教わることが多い人。


「お疲れ様。はい、飲み物」

「ありがとう」


私はカグラから差し出された飲み物を受け取って白い廊下を歩いて行く。


「で、こっちに来たのは何か用事? 普通なら捕虜の方に詰めているか、オーエの王城でしょう?」


そう、ここは北の町に設置された即席の病院。

オーエの許可をもらい、北の町での医療行為をするための施設。

最近の物資不足の影響から、風邪が流行っているようだからね。

下手をすると疫病とかも発生しかねないし、ここで活動しているドッペルとはいえユキたちに影響があってはいけないってことで、支援もかねて治療を行っているわけ。

もちろん、この新大陸に住んでいる人と、私たちの違いがないかってことも調べるためでもある。

ユキって本当に色々意味を持たせるわよね。

まあ、言っていることはもっともなんだけど。

風土病とかあっても困るし、私たちにだけ罹患する免疫がない病原菌があっても不思議じゃないのが、世界ってこと。

と、そこはいいとして、カグラがここにいる理由はというと……。


「もちろん用事。食事しながらでいい?」

「ええ、昼食の時間帯を会議でつぶされるのも嫌だし」


私に用事があるのは明白だけど、会議に呼ばれて食事をし損ねるなんてのは勘弁だしね。

とはいえ……。


「場所はウィードが使っているところになるけれどいいかしら?」

「大丈夫」


流石に私とカグラの話は一般に聞かせるにはよくないモノが多い。

なので、ウィードが使っている。

つまり軍事施設の食堂を利用することになる。

ちなみに、その軍施設とこの病院は物理的に繋がっている。

ウィードの施設ということで、利便性を重視した結果ね。

あと、食事もまとめてとれるようにって。

そんなことを考えているうちに食堂に到着するのだけれど……。


「流石お昼時ね。人が一杯」

「下手に外で食べるわけにはいかないもの。まだ満足に物資が配られているわけでもないから」


カグラの言葉に私はそう答える。

町はまだまだ栄養不足の人たちが多くいて、軍人が町にでて食堂などでお金を払って食べるというのは、食事を摂れない人の不満を買う可能性が高いのよね。

というか、町の食堂とかは食料が足りなくて閉業中なんだけど。


「そう。まだ満足にはいきわたっていないのね。物資の量の見直しが必要かしら?」

「ああ、量に関してはあるのよ。ただ単に、余剰がないのよ」

「余剰?」

「そう、この食堂みたいに選べるなんて余裕はないの。毎日炊き出しをして、決まったメニュー。朝昼は配給ね」

「なるほど。余剰っていう余裕がないのね」

「そういうこと。下手にウィードやオーエの軍人が出ても自分の食い扶持を渡してしまうぐらいには痩せているし、物資も潤沢じゃない。というかオーエ王都も同じなんじゃない?」

「同じと言えば同じだけど、王都の方は兵士や冒険者が復帰してから魔物を狩るペースが上がってきているから、野菜系を補えれば何とかって感じかしら?」

「ああ、そういうこと。人の敵がいないからその分狩りに回せるのね」

「ええ。と、料理が出来たわね」


話をしているうちに、料理が出来たようで受け取って、空いているテーブルに付く。

ちなみに私が塩サバ定食、カグラが豚の生姜焼き定食。


「って、私の話ばかりだけれど、何の用事だったの?」

「ああ、そうそう。まあ、今の話も聞きたかった内容なんだけど。町の様子はって感じね」

「なるほど。まあ、食べ物に関しては今言ったように足りてはいる。でも、食べたからってすぐに痩せた体が元に戻るわけじゃないわ。規定値の量を大きく超えて提供しているわけじゃないもの」

「確かに。ウィードの食べ放題とかならすぐに元通りになりそうだけど」

「戻るのは早そうだけど、そのあと栄養が偏りすぎて病気ね。あと、こっちの食事が受け付けなくなる可能性があるわね」

「あるわね。ウィードでも他国の貴族が毎度食べに来るぐらいには」


そこまでこちらの国の食事も悪くはないと思うのだけれど、まあ、流石にウィードの食事を当たり前に食べているとなると、本当にある話なのよね。

ということで、そういう意味でもウィードからの料理提供は難しい。

精々材料、食材を提供するのが適切。

もっとオーエが安定すれば香辛料はもちろん、ウィードからの料理店の出店も望めるでしょうけど。


「あとは、治安に関しては私たちは関わってはいないけど、安定しているようで、ウィードに対しては悪い感情はないみたい。最初のユキの大盤振る舞いが功を奏しているわね」

「物資不足の時に祭りのようにしたからね」

「まあ、そうでもしないと不安だったでしょうし、ウィードの信頼につながっているから上手い手だったのは間違いないわ」

「ふむふむ」


カグラは私の話に頷きながらご飯を食べる。

私も少し口を休めて定食を食べる。

うん、普通に美味しい。

そして食べ終えてから話を再開する。


「あとは……何があるかしら? 何が聞きたい?」

「そうね~、畑については?」

「そっちは専門じゃないから手つかず。別に元々農業をやってないわけでもないし、支援要請も出されていない。というか出されても育てる期間を短くできるわけじゃないから、カヤが来ても一緒ね。支援物資を増やしても、戦争が落ち着かない限りウィードに頼ることになるし、あまり贅沢はさせない方向になっているのよね。まあ、支援物資を増やすにしてもエリスやラッツと相談だし」

「あ~、ラッツはともかく、エリスは絞るのが仕事よね」

「無限に出したところで、食べきれなければ意味がないもの。そしてオーエのメンツにも関わってくる。だから食べられるギリギリでしか出せないっていう事情もあるのよ」

「そうよね。ウィードがいた時の方がオーエが治める時よりもよかったとか思われると大問題よね」


そう、私たちが過度な援助をしないのはオーエのメンツを立てるためでもある。

オーエの国民がウィードの方が良いなんて国の崩壊につながる。

そうなれば良好な関係を築きたかったこっちの意図が崩れることになる。

だから、ほどほどしかできないわけ。

まあ……。


「それでも、ウィードがオーエにしたことは十分にやばいんだけど。今でも炊き出しや病院で感謝されているし」

「それはいいことなんだけどねぇ。オーエの威厳が減っているってことか」

「そうね。まあ、まだ一か月も経っていないから依存はそこまでないだろうけど、徐々にオーエが力を回復しているって見せないと問題よね」

「なるほど。参考になったわ」

「それならよかった。それでカグラは北の町を調べてこいって感じだったのかしら?」

「ええ。ほら、もうすぐグラス港町完成パーティーするじゃない? その場合ウィードの要人はほとんど戻るわけじゃない? もちろん、こっちにはウィードの軍人とか医者とかは残るけど、有事の際は大丈夫かなって」


なるほど、そっちか。


「まあ、幸いというか、一瞬で戻れはするし、何とかなるんじゃない? 別にこちらはそこまで荒れてないんだし。カグラもそう思うんじゃない?」

「それはそう思うわ。エノラも同じ意見なら問題ないわね」

「ええ、何か大事が起こらない限りはどうにでもなるでしょう」


簡単にウィード軍がいる北の町を落とせるとは思えない。

とはいえ、畑の再建とかはまだ本格的に力を入れられないのよね。

何せ、また次がいつ来るか分かったものじゃないし。

それで思い出した。


「シアナ男爵の捕虜たちの説得に関してはどうなっているのかしら?」


そう、一番最初に投降したシアナ男爵と手を組んで教会の力を落とそうという話になっている。

ウィードとしては更なる情報を得るためってこともあるんだけど。


「そうね。基本的には上手く行っている感じね。投降した半数は賛同してくれているわね」

「それでも半分か。多いのか少ないのか」

「多いと思うわよ。何せあの連合の半分はあの連合の盟主をしていたギアダナ王国の兵士だし」

「ああ、あの教会の権力に従っていた連中ね」

「そうそう。まあ、それぐらい数がいないと盟主として危ないし」


なるほど、無理やり従わせている自覚はあったわけね。


「それで協力を拒否している連中はこれからどうするつもりなの?」

「さぁ、私が判断することじゃないけど、このまま解放しても周りを荒らされるだけだし、かといってずっと捕まえたままっていうのも、お金がかかるだけだし……」

「どっちにしても面倒ね」


ただただ物資を消費するだけの敵を養う理由はどこにあるのかっていう問題はどこでも聞くけれど、実際出くわすと頭の痛い話ね。


「有効活用はユキが思いつくでしょう。私は報告するだけね。ともかく半数は協力してくれるんだしそっちは上手く行ってほしいわ」

「そうね」


私はそう話ながらお茶を飲んでカグラと雑談を交えつつ、残りの昼休みをゆっくりするのであった。



捕虜問題。

どうするかって本当に大変ですね。

実際どう扱うのかって考えると頭の痛い限りです。

ユキはどういう判断をするのでしょうか?


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