第1798堀:ウィードの忙しさについて
ウィードの忙しさについて
Side:ジェシカ
「何事かと思えば思った以上に面倒なことになっているわね」
「そうですね。本当に」
セラリアの言葉に私も深く同意します。
まったく新大陸のことがあるというのに、寒村の問題が随分と大きくなってきましたね。
「とはいえ、無視はできない。調査協力してくれている冒険者ギルドの救援要請にもとれるメッセージだしな」
「そうね。もともとウーサノとアーエには調査を入れるためにグラス港町完成パーティーまで開く予定だし、無視するなんてないわ。というか、ここまで手古摺らせてくれるとは思わなかったわ。まさか、冒険者ギルド支部に圧力をかけているとはね」
「まだ決まったわけじゃないけどな」
「この状況で気のせいっていうのが無理よ。あの放棄されたダンジョンの状態をみるに、別の拠点があるのも確実だし、それと繋がっているのがあの町ってことでしょう?」
そう、この話の中心はそこです。
いままで、寒村付近で行われているであろう、何かのたくらみを探していたのですが、それは放棄されたダンジョンだけで何も見つからず。
しかし、その途中で、妙な動きを見せている町となると、無関係というには無理があります。
「ユキもそう思っているのでは?」
私がそう質問をすると、ユキは苦笑いしながら頷きます。
「流石にな。町、というか領主規模で何かやっているのは目に見えている。とはいえ、森を挟んだアーエ側のほうも森の調査を拒否しているところから、拠点というか、なにか問題となるものは森にあると思うんだけどな。それでなんで町の冒険者ギルドの支部が危険になるのかっていうのはわからない」
「……たしかに、そこは不思議ですね」
あの森を調べられたくなくて、冒険者ギルドに圧力をかけているのはわかりますが、それで何が危険なのか……
私もちょっと考えてみますが、関連性がわかりません。
「それは調べるしかないわね。それで、寒村の方は問題ないのよね?」
おっと、そうでした。
当面一番危険なのはトラブルを起こした寒村です。
我らウィードや大陸間交流同盟の注目を集めるようなことをしたのは事実ですし、何より召喚の目標地点みたいにされていますから。
「そっちはスティーブの部下たちが張っているから問題ないそうだ。とはいえ、町のことまではさっぱりだから、今回のことを話したら……」
『ありそうな話っすね』
「って感じだったな」
ありそうで受け入れているあたり、スティーブがどれだけ苦労してきたかという感じですね。
彼も私と同じ将軍という立場でありながら、なぜか部隊指揮をしつつ、突入部隊や潜入部隊にまで入っていますからね。
まあ、それだけ多才ということなのですが、将軍ってそういうことをするんだっけと首をかしげますよね。
と、それはいいとして。
「それで、ユキ。私たちはどう動くのですが?」
「そうね。グランドマスターが何か行動を起こすとしても、それを支援するんでしょ?」
「そりゃな。グラス港町のパーティーでウーサノとアーエが折れるのが先か、冒険者ギルドが何かしらの不正を掴むのが先かって話になってきたな。どのみちってやつだ」
「結局の所、私たちはあの森の調査を公式にするしかないのですから。遅いか早いかというやつですね」
「とはいえだ。セラリアとジェシカに聞きたいんだが、今のウィードで動かせる戦力はどれぐらいだ?」
「「……」」
そう言われて、お互い顔を見合わせて沈黙する。
今回の一連のトラブルでウィードの軍事的人員、物資はかなり持っていかれています。
「ゼロではないけれど、余裕があるとは決して言えないわ。せいぜい一個中隊ね」
「ユキも理解していると思いますが、新大陸への出兵が響いています。基本的にはウィードで本隊が待機状態ではありますが、そこからどんどん各地へと派遣されている状態です。これ以上の派兵はかなりきついです」
セラリアの言う通り、ゼロではないのですが、戦地が広がりすぎてかなり余裕が無い。
これでもう一か所でも戦いがあれば、ウィードの戦力は底払いになりかねません。
まあ、ゼロではないですが、もう集団戦と言えるものは出来なくなるでしょう。
それで出せるのが一個中隊という所です。物資の補給などもありますからね。
それはユキも理解しているのか、苦笑いしつつ頷く。
「そりゃそうだよな。すでに旧ヴィノシア復興支援、グラス港町の護衛海軍、ズラブルのオーレリア港町の護衛、寒村監視と護衛、新大陸での北部人族連合と南部の魔物北上を止めることで戦力を割いているからな。びっくりするぐらい戦力を分散している」
本当に何をどうすればここまで戦力を分散できるのかというぐらい酷い状況です。
とはいえ、これでもなんとかなるぐらいになっているのが悪いというか、負担が増えている原因ではあるのですが。
これが大国で指揮官と兵力が豊富ならまだ何とかなるのですが、ウィードは町を2つ、いえ港町を入れると3つ所有しているだけですからね。
しかも徴兵ということをしていませんから、そうそう戦力が増えることもありません。
いえ、ダンジョンマスターの力で即席の戦力は増やせるので……有事の際には大丈夫……なのでしょうか?
「そうよ。ウィードは今それだけ手広くやっているの。管理は今のところ、軍司令部で何とかなっているけれど、普通なら破綻しているところよ? 何せ距離があるんだし」
「そりゃ、地球の伝達技術と魔術の移動技術のおかげだな」
「本当その通りですね」
どちらか一つがなければ飛び地の維持などできません。
勝手に独立するか、攻め滅ぼされるかのいずれになるでしょう。
何せウィードという国からの庇護が受けれないのですから、自分の力でどうにかするしかないですからね。
服従、国に従っている意味がないというもの。
「で、話はそれたけれど、改めて言うわ。現状、ウィードに問題がない程度ってなると一個中隊がいいところよ。それで、町というか裏が深そうな連中を押さえられるかしら?
「いや、無理だろう。だから冒険者ギルドと組む必要がある。グランドマスターというか、アルカさんっていう現場に潜入捜査している情報次第だな。まあ、ほぼ寒村と関係しているだろうし、そこからも戦力を合流させることは出来る」
「確かに。別にウィードの一個中隊だけで問題を解決しろというはなしではないですからね」
「で、そっちの問題も出てきたが、逆に利用できる。グラス港町の完成パーティーにな」
そういってユキはにやりと笑います。
その意図はセラリアも私もわかります。
「あえてその時期に仕掛けるってことね。こちらのアリバイ十分。向こうでトラブルが起きてもウーサノとアーエはこちらに出てきているから、動けない」
「とはいえ、それは両国の指示で動いていればですが」
「それはそれで、関係していないってことがわかるからいいことだ。それを理由に調査を押せるようになる」
確かに、どちらにしても私たちにとっては悪いことにはならないでしょう。
「あとは、どれだけ冒険者ギルドの被害を減らせるかですね」
「そうだな。冒険者ギルドの関係者を避難させる時点で、相手は察すだろうしな」
「とはいえ、向こうも強硬手段はとれないんじゃないかしら? アルカって職員の手紙が届いているあたり、表立って冒険者ギルドに手荒なことをしている様子は見えないし、ニーナたちからも別に町は正常に見えたんでしょう?」
「ああ、町は傍から見れば問題ないらしい。つまり、内部が面倒ってことだな。なおのこと避難を促すのは面倒だろうな」
「……そういうこと」
セラリアは不満げにそう言い、私もユキの言ったことを理解します。
町が平穏ということは、こちらが敵の動きを掴んでも、避難を促しにくいということです。
いきなり他所からやってきた連中が危険だと訴えたところで、信用する人がどれだけいるでしょうか?
だからこそ、アルカという職員が逃げる手段を取れなかったのでしょうね。
「はぁ、まあそこは情報を仕入れてからではあるわね。それで、連動する予定のパーティーだけどすでに10日前だけどそれでいいわけ?」
「確かに、時間に余裕があるとは思えませんが?」
たった10日で町の調査などが終わるとは思えませんが……。
「今回で全てを終わらせるわけじゃない。状況を把握するなら一番だろうって話だ」
「ああ、こっちが無茶をやってもグランドマスターたちはパーティーにいるんだし、別の勢力の話だってことね」
「そういうことだ。もちろん、今回でそこら辺のトラブルを一掃できるならそれはそれで構わない。まあ、グランドマスターが悩んでいるならそういう風にするさ」
「では、中隊の準備はさせた方がいいですね」
「ああ、即応待機だな。装備に関しては都市戦闘1型で、情報によって変更する」
「了解しました」
町での戦いを前提にしていますね。
まあ、今の最悪は町中での戦闘ですからね。
それに備えるのは当然ですか。
難点と言えば、火力が低いことですが、アイテムボックスで必要装備は持ち運んでいますから、装備は即時変更可能なので問題はないでしょう。
「こちら側はいいとして、新大陸側はどうなの? ここ最近はウィードに入りびたりでしょう?」
「確かに、新大陸の方はよいのですか?」
そうです。
ユキの本来の仕事というとおかしいですが、新大陸が発見されたことで、そちらでの交渉はもちろん全体の指揮をすることになっています。
何せウィードの女王の名代、つまり代表ですからね。
「南の砦は稼働し始めて情報を集め始めている。トーリとフィオラが指揮官で交代だし、俺がいない間はライエ君が入っているからそこまで問題はないだろう。問題は北部だが、投降した連中の懐柔をシアナ男爵が行っている最中でな。そこがある程度終わらないと動けないな。ついでに酷い飢餓状態だったし」
「そういえばそうだったわね」
「食べない状態でよくあれほど意地を張れたものです」
「それだけ教会、クリアストリームの権力が強いってことだろうな。あと、眼前の敵はいなくなったので、もうそろそろ編成を終えた使者が南部の国と連絡を取る予定だな」
「南部の国々がどうしているかってところね。同行は?」
「兵だけだな。あと、カグラが交渉してはいるが、南部の有力国に同席できないかとは言っている」
「こちらもほかの国での情報は欲しいですからね」
まあ、今のところ生命線であるウィードをオーエが手放すとは思えないですから、あまり危険な所にはいってほしくはないでしょうが。
「北の町の防衛や支援に関してはスタシアが行っているそこまで問題はないだろう。カグラやエノラと組んでいるし、必要とあればエリスやラッツが出てくるしな」
「そこは安定してはいるわね。国際交流学校は?」
「そこは試験期間が終わってどうするかってまとめ中だしな。多分パーティーで話にあがるんじゃないか?」
「希望としては今のメンバーを先輩としてという話を聞きましたが?」
こんな感じでウィードのことを話し合っていくのでした。
現在のウィードは思いのほか戦力を分散している状態です。
指揮官クラスが不足しているので、これ以上の戦線拡大は避けたいところですね。
兵隊に関してはダンジョンマスターとしての技能である程度補えますが、連携とか知恵に関しては微妙ですが。




