第151掘:新大陸説明会
新大陸説明会
side:ユキ
「……と言うわけで、ルナから投げられた形だな」
俺はホワイトボードにルナから教えてもらった、新大陸の説明を、新大陸に殴り込むメンバーにしている。
まあ、説明と言っても、魔力枯渇問題を解決せよ!! ってだけなのだが。
「魔力枯渇問題ねぇ……。なるほどな、それで俺たちが呼ばれたわけだ」
「だな。ユキたちが行くと言っても、メンバーが女性ばかりだしな」
「そうですね。僕たちが別行動でもいいですし、サポートしてもそれなりの戦力になりますね」
今、説明会には珍しく、嫁さんや代表以外のメンバーがいる。
しかも、男だ。
「いやー、勇者やら、魔王問題で俺たちはなにもできなかったからな。腕が鳴るぜ」
「まあな。国の問題に冒険者が口を出せるわけがない。出せたとしても、後々面倒なことになる」
「ですね。しかし、新大陸ですか……。これはまた今までにないほどの大冒険になりそうですね」
懐かしのモーブ、ライヤ、カースの中年おっさん組である。
熟練の冒険者でもあるから、レベルとしてはこのメンバーの中では低いが、多分経験の差が圧倒している。
俺としては頼りにしている。
というか、男がいないからな!!
「あ、そう言えば質問があるんですが、いいですかユキさん?」
「ん、どうした? トーリ?」
珍しくリエルではなく、犬耳、いや狼耳のトーリが質問をしてきた。
トーリも以前は冒険者だったみたいだし、リエルの前じゃ言えないが頼りにしている。
だって、リエルは暴走癖があるからな、リテアの戦いのときもそうだったし、トーリと冒険をしていたときもそんな感じだったらしい。苦労してたんだな。
と、トーリの質問をちゃんと聞かないと。
「あの、ルナさんから提供されるダンジョンから行くより、この大陸の西にあるなら、ユキさんがダンジョンを西に広げて、新大陸の沿岸から調べた方がよくないですか?」
おお、鋭い質問だな。
本来それができるなら一番いい。
でも、いろんな問題から、その選択ができない。
「それができたらいいんだけどな。実際はとても無理だ」
「なんででしょうか?」
「このウィードの位置は大陸の中心。つまり西へダンジョンを広げると言うことは、その間にある他国の下にダンジョンを勝手に作ると言うことになる」
「あっ」
そう、これはまずい。
間違ってばれたりすればウィードの立場が危うくなる。
「でも少しの間だけ作って、そのあと消せばいいんじゃないですか? 地下深くですし、ばれないとおもいます」
「それも考えたけど。西にダンジョンを進めると他のダンジョンに俺たちのことがバレてしまう可能性もあるんだ。下手すれば他のダンジョンマスターと戦闘になる」
「な、なるほど……それはまずいです」
これが西へダンジョンを作らない一番の理由だ。
下手に他のダンジョンを刺激したくない。言っての通り、他のダンジョンマスターと戦いになれば、新大陸の調査が遅れるし、こっちの大陸も大騒動になるだろう。
せっかく、魔王問題が片付いたのに。
「あと、魔力枯渇の範囲が分からないってことだ。海の中も範囲になっていると、つながっているウィードのDPもごっそり持っていかれる可能性がある。そして、大量の魔力を得た新大陸にどんな影響があるかわからない。一番考えられるのは魔力の枯渇で自然発生する魔物が極端に少ないって言われてるのが、一気に増える可能性もある。たとえばドラゴンの群れとかな」
「うわぁ、そんなことになれば新大陸滅びない?」
リエルがドラゴンの群れと言われて顔を青ざめさせている。
いや、今のリエルなら狩れるからな、ドラゴンぐらい。
「まあ、そんなわけで、新大陸に前からあるダンジョンをゲートでつなぐってわけだ。ゲートでつながってるだけなら、ウィードの魔力は取られないし。俺たちがそのダンジョンを維持する魔力は取られるだろうけどな」
「ああ、そう言えば20倍も取られるんだっけか?」
「そうだ」
「そりゃ、贅沢にダンジョンをガンガン広げるわけにもいかないか。ってそもそも枯渇問題で、ダンジョンを広げることすらしない方がいいのか」
モーブが自分で言って、自分でツッコみをいれる。
概ね正しい。
が、ルナに言って、ダンジョンからの大陸への魔力供給は、新大陸はやめてもらっている。
言っての通り生態系になにが起こるかわからないし、原因の捜索に邪魔になる可能性が非常に高いからだ。
「そんな感じで、新大陸にあるダンジョンを利用するわけだよ、トーリ」
「なるほど。納得できました。これが、今取れる方法では、一番安全なんですね」
「冒険する俺たちは一番危険だけどな」
「あれ? ドッペルは使わないの?」
「いや、使う予定だけど、万が一ドッペルが使えない場合は、俺たちが生身で行くことになる」
他人を使っても目的は達成できないだろうし、俺たちより強いわけでもない。
どちらにしろ俺たちが行く必要があるのだ。
ドッペルが使えますように!!
「とりあえず、新大陸のダンジョンへ直接行く理由はわかったわ。で、向こうについてからの方針はどうするのかしら?」
黙って聞いていたセラリアが、そこでようやく口を挟む。
「そうだな。しばらくはダンジョン近辺で調査だな。ザーギスを連れて行って、魔力を調べさせて実験もする」
「実験?」
「新大陸での魔術の仕様が変わっていないかとかな。最悪魔力が少ないせいで、俺たちの力が下がっている可能性もある」
「ああ、そう言えば、レベルは魔力を体が取り込んで上がるって、変な説があったわね」
「それが本当かわからないが、とりあえず、調べるのは大事だ。それで自分たちの力を確認して、新大陸の調査を開始しようと思う」
俺がそう言い終わって、皆を見る。
「なにか質問は……」
「調査よりも、建国することを私は推すわ」
俺が、締めくくろうとすると、セラリアがトンデモないことを言いだす。
「周りは群雄割拠。調査しようにも、国を移動するだけでも一苦労よ。時間がかかりすぎるわ。それなら、私たちで建国すれば、その支配域地域を確実に調査できるし、国相手の交渉なら、他の国へも調査をしやすいと思うのだけれど?」
セラリアの言うことはもっともなのだが、それは調査という点のみについてだけなのである。
なにが言いたいかというと……。
「セラリア。その国を作ったとして、一体どこまで面倒を見る気なんだ?」
そう、俺としては調査が終われば、そのまま放置するのがベストだと思っている。
国なんて作れば、国民を守らなくてはいけなくなる。
自分たちの大陸も平和にできていないのに、他所に手を出すなんて無理がある。
「ちゃんと、私たちが運営していけばいいじゃない。ウィードみたいに民主制でも促してね」
「あのな、ウィードが民主制紛いで動けているのは、ダンジョンという堅固な防衛機能があってこそだ。民主制は軍隊を動かすのに、とてつもない時間がかかる。わかるだろう? 君主制は、王の一言。感情で軍を動かすことができる。しかし、民主制は多くの代表の協議の結果、軍を動かすことになる。群雄割拠の中では動きが鈍いのは致命的だ」
「あら、それは新大陸を平定してからでいいじゃない。それまでは、私たちが適当に王様でも立てて、私たちが実権を握ればいいじゃない」
……鬼かお前は。
お飾りにされる王様が不幸すぎるわ。
「とりあえず、調査してから、与しやすい国でも乗っ取ることを提案するわ。事務関連は、居残りの妊娠組がやっていいのだから」
「そうですね。既に私たちが抜ける旨は部下に伝えてしまいましたし。家で、日がな一日のんびりするのは心苦しいです」
そんな感じにセラリアの提案で、ラッツや他の妊娠メンバーもうなずく。
こりゃ、俺が否定しても勝手に国ができそうだな……。
なにか、最近、嫁さんたち押しが強くなったな。
……俺がフォローしてやるべきか。
「そもそも、この世界は私たちが住んでいるの。異世界からきた、あなたに助けてもらってばかりじゃだめだわ。これは私たちが自分の世界を救うための一歩だと思って?」
セラリアがそう言うと、他の皆もこちらを見ている。
「ほぼ、俺頼りなのは自覚してるか?」
「でも、何も考えない方がダメじゃないかしら? それとも、あなたの言うことに全て従う女性が好みだったかしら?」
セラリアはそう言って笑う。
はぁ、凄まじい女を嫁さんにしたもんだ。
さて、新大陸で国を取りあう、見知らぬ王と、臣下と将兵たちよ。
これから理不尽が向かうかもよ?
さあ、そしていよいよ新大陸へ!!




