第146掘:ゆっくりさせる気がないこの駄女神
ゆっくりさせる気がないこの駄女神
side:ユキ
「やあやあ、この度は魔王討伐おめでとう」
目の前には、俺をこの異世界に連れてきた張本人が、勝手に自宅の宴会場で残りのクッキーをかじっている。
「そっちから声をかけてくるって何があった」
俺は向かいに座りつつ、お茶をついで駄女神と相対する。
この駄女神、リリーシュの関連で普通に顔を出すようになったが、やはり忙しくちょっと顔を出して晩飯を掻っ攫っていくとか、嫁さんたちとはちょいちょい雑談や相談に乗ってるみたいだが、俺と話すことはない。
いや、話すことはあるが、ルナ本人がどれだけ忙しいとか、他の異世界はどーだとか、真面目に嫁さんの前ではとてもじゃないが聞かせられない内容なのだ。
だから、こうやって俺の行動への賞賛をするのは色々あれなのだ。
何か企んでやがる。
「何だ? 賞賛するってことは、なにかボーナスでもあるのか?」
「ええ、あげるわよ」
「他所の地域に飛ばすとかいうなよ」
「えっ!?」
図星かよ。
「なんでわかったのよ」
「それ全然ボーナスじゃないからな。完全に邪魔だからな」
「いや、私の質問に答えなさいよ。というか、他の支配地域が手に入るのよ? ボーナスしかありえないでしょう」
「何言ってんだよ。俺のスタンス知ってるだろう。わざわざ直轄の支配地域を増やすのはメンドイ、というか、こっちもまだ安定してないんだ。これ以上手を広げるとか馬鹿だろう。あと、ルナの質問だがな。こっちでのDPが溜まったから、他所に拡散しろって話だろ?」
「うげっ、そこまで分かってるの?」
「なんとなくだけどな。そもそも、ダンジョンを作るだけで世界の魔力が循環するなら、わざわざダンジョンマスターを設置する必要はない。世界各地にルナの判断でダンジョンを置いて適当に魔力が集まれば拡散するだけでいいからな。ここにこれだけちょくちょく顔を出すんだ。今更忙しいってのは通じねえよ」
さてさて、俺がこの世界にやってきたのはこの星の魔力を循環させるため。
ダンジョンで魔力を集めて、それを星に循環させるってのがルナの説明。
魔力をダンジョンで集めるのは実際やってるからわかる。
では、循環させる方法は?
ダンジョンでやるんじゃねえの? とは思ったけど、ダンジョンは個々で独立している。
いや、支配している奴がそれぞれでいるのだ。
だから、ある予想を立てた。
「ダンジョンは本来、全員が連絡を取れるようにしたかったんじゃないのか? 親会社と子会社みたいに」
「……そうよ。それでDPを稼いだ地域が他のDPを……。いえ、魔力が少ない地域に魔力を送り拡散をさせることなのよ」
「お前、日本というか向こうの発想をこっちで試してしくじりやがったな?」
「……悪かったわね。予想が甘かったのよ。こっちでは神という通り名が通用するから、上からポンと指示を出しただけなんだけど、結局連携以前にあっちもこっちも個人の欲目ばかりでね。連携をさせる以前の問題になったわけよ。一定の魔力を集めた人を本社にして他は支部みたいな感じが理想だったんだけど、もうごっちゃごっちゃよ」
「どうせ、何千年後に魔力が枯渇して今の文明が滅ぶとか言ったんだろう?」
「そうよ」
「そりゃ無理だ。地球ですら地球温暖化とか言う世界規模の環境問題が現実的に数字として見えているのに、地球はまとまっていないんだぞ? それをルナが適当に選んだ現地人が、それを実行するわきゃねえだろう。こっちと違って数字も見えていない、現実的な問題すらも見えていない。それなら、神にただ選ばれたって思って適当にやるわ」
「それだからあなたを引っ張ってきたのよ」
そう、俺がDP、魔力を短期間で大量に確保したので、ルナ的に親会社として認定されたわけだ。
「さて、と言っても今回のボーナス受け取りほぼ強制なんだろう?」
「そうよ。その大陸の魔力はほぼ枯渇状態。すぐにでもダンジョンを築いて魔力を循環させないと、ゼロからの魔力拡散はとても時間と労力と魔力がかかるのよ」
「あー、砂漠を緑化させるのは困難みたいな?」
「そんなものよ。なるべく早く動いてほしいの。このダンジョンの最奥部にゲートを繋げておくから」
「おいコラ、勝手につなげるな。向こうの状況もわからないのに、ダンジョン繋げないでくれますか? 非常に迷惑だ」
「心配は要らないわ。と言っても流石に今のあなたは頷けないでしょうね」
「当たり前だ。俺は嫁さんとウィードの住人を危険にさらす気はねえ」
「だから、今回は私からの要求と言う事で、しっかりサポートさせてもらうわ」
「いや、それなら神の力で勝手にやれや」
「それをしても只の先延ばしにしかならないってわかってるでしょうが!!」
「だよな。大事なのはそこで生きる人たちが認識して実行することだしな。で、ツッコムがサポートするって言ってる時点でボーナスじゃないってお前も自覚してるんだな」
「……ほかで用意するから許して」
ほかねぇ、もう欲しい物はそうそうないんだが。
今更、現代兵器を数多無料で配備してもらっても、この大陸の情勢を見るに下手すれば戦争激化の後押しにしかならん。
だから、俺たちが厳重に管理をするしかなくなる。
それはすなわち、ルーメルみたいに他国から睨まれ、色々身動きが取り辛くなるわけだ。
今の所、俺たちの現代兵器は一般に知られていないし、軍事作戦ではランクス殲滅戦の時のみ。魔術で説明ができる範囲だ。
あくまで、ウィードは同じ文明レベルで他国からは精強な兵士がいる小国として認識されている。
だから、ルナが言った新大陸にも俺のDPを使ってのゴリ押し作戦は出来ない。
あくまでも自衛の為のみで、その戦力で侵略に臨むならルーメルの様な状況になりかねん。
そして、ゲームや物語でお約束のチート武器もダメだ。それも過剰戦力というわけ。
いや、嫁さんには惜しまないけどね。
「あら? MSやACはいいの?」
「それは趣味でしか使えねーからな。戦争で使えばもう面倒なことにしかならん」
MSやACも同様。
そんな物で大陸を席巻した暁には、俺たちの武力に従うだけの国が数多できて、俺たちが実質な国の舵取をしないといけなくなる。
これ以上忙しくなって堪るか。
「ま、ボーナスは追々考えるとして、その魔力が枯渇寸前の大陸の事を教えてくれ」
「ええ、わかったわ」
そして、ルナは1枚の地図を広げる。
いや、地図というより写真だな。人工衛星で撮ったような……。
「宇宙から撮影してきたからね」
「おい、この化け物」
この駄女神は個人で大気圏突破と大気圏突入ができるようだ。
いや、ワープとかかもしれん。
「ここが、あなたの住む大陸の場所ね。そしてここから西の海上を進んでいった所にあるこの大陸」
ルナがそこを指さす。
その大陸は俺たちがいる大陸より小さいが、まあ日本よりは圧倒的に大きい。
「で、その大陸の情勢は?」
「簡単に言えば群雄割拠状態よ。魔力の枯渇が進んでいるから、魔術を使える人が極端に少ないわ。1000人に1人が攻撃魔術を使えればいい方ね」
「おいおい、俺たちが行って魔力枯渇で死んだりしねーだろうな」
「そこは問題ないわ。人の中から魔力が無くなるわけじゃない、大陸の魔力が枯渇しているので魔術を発現させるには通常の20倍の魔力がいるのよ。ま、その影響で大きな魔力を持つ生物の出生率がかなり下がってるのだけど」
「あー、そっちね。燃費が悪いわけだ。そして悪循環だ」
「その大陸がなんとか魔力を吸収しようとして、そういう環境になっているわけ。その影響で、魔力から生まれる魔物が極端に少ないわ。ドラゴン系なんて向こうじゃ伝説上の生き物よ。でも獣人族とかは普通にいるわ。まあこっちも出生率が下がってるけどね」
「あ、やっぱり獣人って魔力が作用して生まれるのか?」
「そうよ。普通に生まれるなら地球でもいて不思議じゃないでしょう? というか、他の生き物の箇所が人の体に現れる矛盾を魔力で可能にしているのよ多分」
「多分って……」
「遺伝子分析をしたわけじゃないから。まあ、魔力が枯渇してる地域では出生率が下がってるからあながちハズレってわけでもないでしょう」
「まあ、否定はできないよな。というか、なんでそれだけ生き物がいるのにこっちと違って魔力が枯渇してるんだ? そこの原因を調べないと意味がないぞ?」
「そこが分からないのよ。あれだけ生き物がいるのに、大陸全体の魔力は枯渇しかけている。何か原因があると思うのだけれど、そこも調べて欲しいわけ」
「あー、そういう意味もあるのか。だからこんな早く俺に言ったわけか」
「そうよ。手を出せるなら即座に調べて欲しいわけ。下手をすれば魔力枯渇が早まる可能性があるから」
まったく、厄介だな。
ウィードやこの大陸はどうしたものか……。
でも、基本ウィードは住人たちの手に運営委ねているし、各国も各々で任せてるし、なんとかなるか?
「このダンジョン、ウィードにもすぐ帰れるから運営関係は問題ないわよ」
「いや、忙しさ倍増だからな。ともかく、嫁さんたちには伝えて相談しないとな」
「そこら辺は任せるわ」
ルナのこの話、俺にとっても手を出さないわけにはいかないな。
この新大陸の魔力枯渇が目に見える形のものであれば、俺の目的が早い段階で進められる。
「で、俺たちのゲートが繋がってるダンジョンはどこにある?」
「あ、それはここ」
指を指したところは群雄割拠と言われる新大陸のど真ん中。
うぉい、全周囲敵だらけかよ。
どこが味方でどこが敵か調べるのも大変だなおい。
「って、そのダンジョンの持ち主は?」
「ああ、魔力枯渇が始まってダンジョン維持費も20倍になってね、死んじゃった」
そっちも20倍かよ!!
こりゃ、嫁さんたち怒るな。
DPにものを言わせた攻めや支援はしにくくなるな。
あー、面倒だけどやるしかないよな。
そして、次回ユキが嫁さんたちに本当の目標を伝えます。
大陸を救う真実の意味を。




