横穴1掘:色々はじめて
第10掘と第11掘の間の小話です。
セラリアと初めて会った時のお話。
多分数日で消しますので、お楽しみを。
理由は色々メンドクサイから!!
色々はじめて
side:ユキ
まったく、面倒なことになったな。
俺はダンジョンの監視モードでモニターを見つつ呟く。
そのモニターにはオリエルがエルジュとセラリアを引き連れて、ダンジョンに近づいていた。
いや、彼女たちが引き連れてくるであろうロシュールの軍はどうでもいい。
寧ろ展開が早くて助かるわ。ダンジョンの実験もしたいし。
だが俺にとって問題は別にある。
エルジュたちが王都に戻ってからだから、それなりに時間が空いており、ダンジョンを改造した。
それはもう、現代日本風に、いや、居住区の話ね。
日本風のダンジョンってなんだよ? 入るたびに地形が変わることか? 1000回遊べます。
いや、実際はそんなダンジョンに入りたくないよな。
命がいくらあっても足りねー。
まあ、命を捨てさせることなく出来るなら人気は出るだろうが、採算が合いそうにない。
そもそも、まだここに来たばかりだ、変なことは考えず目の前のことをゆっくり解決していこう。
と、話がずれたな。
居住区のことだ、エルジュとオリエルがいた時はDPの問題や、情報を開示していなかったので、改善をするわけにはいかなかった。
しかし、モーブたちやエルジュが指定保護を受ける前のDPと、エルジュたちが出て行ったあとの野生の魔物関係のDP収入で、居住区を改善しまくった。
まあ、娯楽関連はDPが高く設定されているから、俺が自宅としている場所を一戸建てぐらいの広さにして、家具を取り寄せるぐらいでDPはすっからかんになってしまった。
前は、俺がスキルの鑑定で正体を知っていただけだが、今回はロシュールとの関係やオリエルも俺がエルジュが王女様であると知っている。
だから、前に住まわせていた、簡易な収容病棟に押し込めるわけにはいかないのだ。
今後の交渉で揚げ足を取られる可能性はなるべく減らしたい。
なので、このダンジョンで一番快適な俺の自室に案内することが必要になる。
ついでに、変なの……エルジュの姉のセラリアとかいうドリルがついて来ている。
エルジュとオリエルはまあ、今までのことから多少説明は省けるだろうが、あの姉に現代日本の家具や道具の使用法を説明するのは疲れそうだ……。
それ以前に、変な挨拶をして怒られるのも嫌だよな。
というか、レベルが高そうだし、下手に斬られたくはないし……、ああドッペルゲンガーを使ってみるか。
あれって、模倣した上で、操作できるんだったよな。
俺はDPを使ってドッペルゲンガーを呼び寄せる。
「ちくしょう、予備のDPだったんだが、万が一にも殺される原因は減らさないとな……」
ブラッドミノタウロスとダンジョンの改造と居住区改善でDPカツカツで、予備のDPを使う羽目になるとは……。
「これは早目にDPを一定量確保する必要がありそうだよな。それを考えても、エルジュたちと縁が持てたのは僥倖か。軍が追っかけてきてるなら、DP補充も十分できそうだし、ありがたいことだ」
とりあえず、通帳の残金が0に近づく感じがひしひしとしているので、なんとか前向きなことを言葉にだして、落ち着こう。
ゴブリン部隊も魔物を引き寄せたり、ダンジョンに運び込んで殺してわざわざDPにしてもらっているから、毎日無収入ってわけじゃない。
大丈夫、きっと大丈夫。
そんなことをしていると、オリエルを先頭にダンジョンの前に彼女たちがやってきた。
『ユキ、申し訳ない。予想通り最悪の展開になった、どうか匿ってもらえないだろうか!!』
『オリエル何やってるの? ダンジョン前で叫んだりなんかしたら魔物が集まってくるわよ。というか、匿ってもらう? どういうことかしら、どこか私たちを匿ってくれる貴族の下へ行くと思っていたのに、ダンジョンに匿ってもらうつもり? 何の冗談かしら?』
『あ、あのちぃ姉様、急ぎで説明していませんでしたが、私たちはダンジョンマスターに助けていただきまして、決して悪い方ではないので、ここなら敵も簡単に手は出せないと思います』
『うーん、まあ、ダンジョンを拠点に使えるならこれ以上に心強いことはないけど……。ま、エルジュが信じたんだし、我慢はしましょう。でも私たちに危害を加えるなら、そのダンジョンマスターとやらは斬り捨てるわよ?』
おー、こえーこえー。
これは真面目にドッペルで行くしかねえな。
『ちぃ姉様は抑えておきますので、どうかダンジョンへの進入を許してください』
必死にエルジュもお願いしてくる。
まあ、これの縁も色々利用しようと思ってるし、断る必要はないからとりあえず迎えをやろう。
1階層の近場にいたゴブリン部隊の隊長を迎えにやらせる。
『あなたはあの時のゴブリンさんですか?』
『ゴブッ』
そう言ってゴブリンが頷く。
迎えにいったゴブリン隊長はエルジュやオリエルの世話を代表してやっていたし問題ないとみて、迎えにやったが問題なさそうだ。
頷いたあと、即座にダンジョンへ入り、エルジュたちを見る。
『どうやら迎えの様ですね。セラリア様、見ての通り問題はありませんので行きましょう』
『……そうみたいね。まったく、ゴブリンが女を見て襲い掛からないとか初めて見たわ』
セラリアとかいう王女様は腰の剣に手をかけていたがそれを下ろす。
ダンジョン内に来たのでステータスを見せてもらったが、エルジュとは大違いの前衛タイプでレベルもモーブたち以上ときたもんだ。
怖いわー、マジで怖いわー。
「ま、怖がっても仕方ないか」
ドッペルゲンガーで予防線は張ってるし、指定保護をかけて安全を計ろう。
さて、王女さまたち相手だしな、仕方ないやっぱり俺の家に連れていくしかないな。
「やあ、お久しぶりでもないな。あっさり戻ってきたな」
「すまない。お前の嫌な予想が当たった。エルジュ様はもとより、此方のセラリア様も暗殺、毒殺しようとした」
「ああ、ロワールってやつだろ?」
「あんたなんで知ってるのよ!! グルじゃないでしょうね!!」
うおっ、すかさず飛び引いた。
セラリアは剣を引き抜いて此方に向けている。
「ちぃ姉様落ち着いて。きっとコールでモーブさんたちから聞いたんですよね?」
「ああ、エルジュの言う通りだ」
「ああ!? エルジュを呼び捨てにしてるんじゃないわよ!!」
め、めんどくせー。
なんだこの片方ドリル、シスコンか? しかも重度の。
「とりあえずだ、ここで立ち話もなんだ。一応部屋を用意してあるからこっちに来てくれ」
俺は背中に当たる殺気を感じながら、自宅へと案内していった。
ドッペルゲンガー操作だからラジコンみたいな感じかと思ったら、全く違うな。完全に別の体を使ってる感覚だ。
首の後ろがピリピリする感覚まで欲しくはなかったわ、今この時は……。
ドアのカギを開けて家に入る。
「ダンジョンの中に家があるわ……」
「わあ、初めて見るお家ですね。私たちが出て行ったあとに御作りになったのですか?」
「ほう、見た目は前よりいいな」
「ほれこっち来い。そして靴脱げ。ここは土足禁止な、このスリッパに履き替えてくれ」
「なんでまた面倒なことするのかしら?」
「まあまあ、ちぃ姉様ここはユキさんの家ですし……」
「セラリア様申し訳ないですが、家主ですからいうことは聞いていただきたいのですが」
「わかってるわよ。迷惑をかけてるのは自覚しているから」
などと言いつつちゃんと靴を脱いでスリッパを履く。
文句を言わずに行動できんのかお前は。
「へえ、綺麗なものね。何というか装飾は無いのだけれど、洗練された感じがするわ」
「そうですね」
姉妹は仲良くソファーに座って部屋の物を見ては雑談をしている。
オリエルはよこで突っ立って待っている。
もう座れとは言わん。オリエルに関してはよほどじゃない限り席を一緒にしない堅物だ。
「ほれ、ミルクティーでいいか? ま、口に合わなかったら言ってくれ、他のを用意するから」
とりあえず、適当に紅茶を入れて持っていく。
王族の口に合うかしらないが、エルジュも飲んでたんだしまあいいだろう。
「わぁ、ミルクティーですか。嬉しいです」
「なに? 紅茶にミルクを入れるの?」
そうやって2人は違う反応を見せつつ紅茶を口に運ぶ。
「相変わらず美味しいですね」
「あら、まろやかな口当たりでいけるわね」
ふう、なんとか口に合うものだったらしい。
これで怒られたらもうめんどくせーと思っていたところだ。
「さて、とりあえず。初めてですね、挨拶が遅れました。私はこのダンジョンのダンジョンマスターを勤めているユキと言います」
俺が向かいのソファーに座って自己紹介をして頭を下げる。
「失礼いたしました。この度は私たちを匿っていただき感謝の念に堪えません。私はエルジュの姉、セラリアと申します。どうか先ほどと同じように砕けた感じでお話ください」
ふむふむ、セラリアも普通に王女様としての礼はあるみたいだな。
剣を持ってるところから見るとお転婆なのかね。
そこからは一旦今までの経緯を話して、状況把握に努めた。
主にセラリアがだが、ロワールが裏で動いているのは俺もモーブを通じて話が来たし、まあ後手だったなセラリアさんや。
「今日はここら辺で終わりましょう。一旦休憩入れないと頭がパンクするわ。寝室はどこかしら? ここ4日野宿だったのよベッドで寝たいわ」
そう言ってセラリアは今日はもう休むつもりで聞いてくる。
因みにもう晩御飯は俺が作って済ませた。
その時、専属の料理人にならないかと言われた。
異世界の食事事情は悲しいな。
と、そこはどうでもいい。そんな泥だらけでベッドに横になられてたまるか。
「まてまて、服脱げ、そして風呂入れ。服は洗っておくから、そんな泥だらけでベットに転がるな」
「あら、まさかお風呂があるのかしらこの家?」
あー、そうか。
この世界、というよりお風呂って俺たちの中世ヨーロッパの王族でも毎日入れるものじゃなかったみたいだし、エルジュたちも濡らしたタオルで体を拭くぐらいだったよな。
「ああ、ある。こっちだ」
そしてとりあえず分かりやすく説明したつもりだったが……。
「なんだか難しいわ。一緒に入りなさい」
「ちぃ姉様!?」
「大丈夫よエルジュ。この男私を襲う気はないみたいだし、私だって気持ちよくお風呂に入りたいわ。この男、ユキが一緒なら私が考えなくて済むから」
便利屋扱いかよ。
って、服を脱ぎ始めた。
それなりに美人さんだから見応えはあるが、なんというか、王族だからか、今までの面倒なことばかりだったから、全然欲情できねえ。
「私を倒せるならユキの子供を産んであげてもいいわよ?」
「はぁ、どうでもいいからさっさと風呂入るぞ」
そんなわけでセラリアと出会った初日は色々な意味ではじめてで疲れたわ。




