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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
ダンジョンと勇者

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第135掘:嫁さん勇者爆誕

嫁さん勇者爆誕





side:ユキ



はあ、クラクラするわ。

まさかリーアの方から来てくれるとは思わなかったし、そのままなだれ込むとも思わなかった。

幾ら精力強化されてるとはいえ、仕事場でいたす精神力があるわけではない。

リーアはあんまり気にならなかったらしく、そのまま3回戦となったわけだが、終わったときには俺は色々削れすぎてて辛かった。


もうさ、俺絶対表舞台に立たないって決めたわ。

俺の足跡が後の世にでもでれば、ハーレム野郎氏ね決定だ。

いや、俺がたどってきた道筋を地球の日本の頃から仔細書くならきっと同情で仕方ないってなると思う。

でも異世界だしな、俺が地球云々書いても、只の戯言で終わるだろう。


「ユキさ~ん」


白髪のツインテールが自分の胸で揺れている。

流石に全裸にはなれないので着衣のままだ。

リーアのこの仕草を可愛いと思っている事実は、もうリーアに浸食されているんだろうなと思う。


「リーア、体に違和感はないか?」

「まだユキさんが入ってるみたいです」

「……ああ。そこは、まあ、仕方ないとして、こう動けないほどの痛みとかは?」

「幸せで動けそうにないです」


……駄目だこりゃ。


「ちょっと、真面目な話をするぞ」

「はい」


リーアはその言葉で即座に俺をしっかり見つめてくる。


「知っての通り俺達はかなり危険なことをこれからずっとやっていく。リーアもそれに必然的に巻き込まれることになる。いいのか?」

「あなたの行く道なら、どこまででも」


分かっているとはいえ、こうも命を預ける決断をさせている自分自身に思うところが無いわけでもない。

でも、他人に未来を委ねるぐらいなら自分でやっていく。

今も昔もそれは変わらない。


「ありがとう。だからリーア、俺に嫌気がさしたら、すぐ出て行ってかまわない。そして、俺が死んだら気にせず次の幸せを探してくれ」

「嫌です。私は最後まであなたと一緒にいます。これは他の奥様たちも同じ意見です」

「即座に切り返すんだよな、みんな」

「当然です。あなたはきっと勇者様なんですから」

「勇者?」

「はい、人々を導き、多くを救い、平和をもたらす。ユキさんはまさに勇者様です」


リーアの自信の籠った目と発言で驚いた。

俺が勇者ね~。あり得ないね、世界最強の便利屋なんて。


そこで、俺はあることを思い出した。

俺が勇者なんてのは戯言だが、誰かは勇者だったはず。


覚醒条件はエッチすること。無理やりだと爆発します。


うおっ、俺その場の勢いで流されたが一歩間違えれば執務室ごと吹っ飛んでたな。

と、しかしリーアには未だ勇者の恩恵が出ていないように見える。どういうことだ?


「あの、変なこといいましたか?」


沈黙を続ける俺を見て不安になったのか、泣きそうな顔をする。


「いや、俺が勇者なんて似合わないなってな」

「そんなことはないです!!」

「リーアの気持ちはありがたいが、勇者の前に旦那さんでいいや」

「あ、はい。ユキさんは私たちの旦那様です」


そうやって暫くハグをしていると、スティーブが入ってきた。


「お邪魔しますよ大将。軍備の書類を……」

「あ」

「どうしました?」


最近スティーブたちは人語も普通に喋れるようになっている。

昔のゴブッって言ってた頃が懐かしいわ。

と、そんなことはいいとして、スティーブははらりと書類を床に落として、猛然とダッシュして部屋を出て行った。


「うらやましくなんかないっす!! 大将のばかやろぉぉぉぉぉおおぉおぉおお!!」


いや、うらやましいだろ絶対。

今度ゴブリンのメスでも呼んでみるか。

というかいるのかゴブリンのメスって?

で、その後廊下から聞こえてくる他のゴブリンたちの会話。


「また、スティーブ将軍ですかい?」

「どうせ、ユキ大将と奥さんの仲睦まじさに嫉妬したんだろうよ」

「おいら、飯食えてるんであんまり女性に興味ないですわ」

「それがいい」


なんだ、その、すまんな。スティーブ。


「とりあえず、仕事するか」

「はい、スティーブさんには悪いことをしました。今度友達の女性を紹介してあげたほうがよいでしょうか?」

「やめとけ、きっと血反吐吐く」

「?」


リーアはあんまりわかっていないようだが、スティーブはこのダンジョンでは最古参の一人だ。セラリアよりもな。

それでいて、今まで女性関係で浮いた話が無いとなると、必然と結果は惨敗というわけだ。

まあ、種族の壁の問題もあるにはあるが、このウィードでは比較的皆からゴブリン部隊は受け入れられている。普通に、人と食事をとったりする。

だが、スティーブはそれすらもできないのだ。

他の奴から話を聞いたが、あからさまにがっつき過ぎらしいとのこと。

だからリーアの行為は泣きっ面に蜂というやつだ。



「ふう」

「これで今日は終わりですか?」

「ああ、帰るか」

「はい」


あの後、スティーブはセラリアに黄昏ているのを見つかり、さぼりと判定されて、いや間違ってないが、訓練に付き合わされたとかなんとか。

なんだかんだで、あのセラリアについていける稀な逸材だよなスティーブって。


「今日は晩御飯どうするんですか?」

「そうだな~。グラタンとかいいかもな」

「ぐらたん?」

「あー、クリームソースをベースに具を入れて、上からチーズを被せて焼くんだ」

「はぁー、なにか凄そうな料理ですね」


何度も味わったが、この大陸の食文化は地球の16世紀以前だと実感させられる。

なぜ16世紀かというのであれば、そこがフランス料理の発生時期と言われるからだ。

それ以前は、まあうまいモノは地方にそれぞれあっただろうが、それを纏めようとはしていなかったのだ。

いや、群雄割拠の時代だしな。100年戦争は13世紀ぐらいだっけ? 

1世紀頃から香辛料は存在していたが、長い間、貴族が使う物として貯蔵されて、それを大衆に振る舞うようなことはめったになかったそうな。


と、長くなったな。

つまりだ、この大陸の一般人は香辛料が高価すぎて手が出ない。

せいぜい塩が手に入るぐらいだ。胡椒なんて黒い宝石と言われている。

そして、料理と言えば素材そのままの味を引き出した……そのまま焼いたりして食うだけだ。

郷土料理というのも存在するが、存在するだけで、他所に殆ど伝わらない。

材料自体が長持ちしないしな。

だから、俺が作る料理はリーアたちにとってはご馳走であり、未知の食べ物なんだ。


「これから色々な美味しい物を食べて喜んでくれ」

「はい」


リーアはそう言って笑顔になる。

うんうん、あのたどたどしかった言葉もすらすら出ていい感じだ。


「でも、作ってもらってばっかりもな。私もいつか村の料理作ってみていいですか? そんなに美味しくないですけど」

「楽しみにしてるよ。それと1ついいことを教えてあげよう」

「いいこと?」

「リーアって香辛料をあまり使ったことないだろう?」

「はい、高いですし」

「だが、これからは香辛料が好きなだけ使える。だから、村の料理を自分で工夫を加えて美味しくしてみるといい。他の皆もそうやって自分たちの郷土料理を作ってくれるから」

「すごいですね!!」


そう、ウィードは多種族が集うということで、異文化交流で郷土料理の食べ合いなんかのイベントや料理店がある。

でも、味に好き嫌いや食べなれてないものも沢山ある。

そこを上手く調和するのが、香辛料だ。

それで、お互いの料理を美味いと言って仲が良くなったり、そこだけで食べられる味なので、料理店に足を運ぶ人も多くいる。

これもウィードが上手く回っていくための政策の一環である。

腹から侵略すればよいのだよ!! 飯に罪はないからな!!

それで、外の人間も食べにくる。お金が落ちる。お金が増える。ウハウハ。


「あ、もう旅館につきましたね」

「指輪を使わなくても話してるとあっという間だよな」

「お話が楽しいですから。ただいまもどりました」


「「「お帰りなさい」」」


なぜか全員玄関で出迎えていた。

ん、ああ。

リーアがあの行動を取ったのは皆のおかげか。

俺が納得したのを直感で悟ったのか、そのまま俺を無視してリーアに皆が話しかける。


「上手くいったみたいね」

「はい、ありがとうございます!!」

「おめでとう。今日から同じ妻よ」


などなど、なんでこうも嫁さんたちは仲がいいかね。

問題が無くて嬉しい限りだよ。

そうやってリーアを眺めているとラビリスがいつものようによじ登ってくる。


「もしかしてしちゃった?」

「ああ。リーアが積極的でな」

「そう、だからリーアはあんなに嬉しそうなのね」


ラビリスが登り終わると、台所へと移動する。

皆はリーアとお話中だし、無理に声をかける必要もないだろう。


「でだ。やることはやったんだが、変化みたいなものは無いんだ」

「あら? 勇者の恩恵がなかったのかしら?」

「そこら辺をリリーシュから聞く必要があるだろうな」

「そうね。私が呼んでおくわ。ところで今日の晩御飯は何かしら?」

「グラタンだよ」


俺がそうやってイメージを浮かべると、ラビリスが接触で記憶を覗き見る。


「ふむふむ、そこまで難しい料理ではないみたいね」

「材料とソースが問題だからな。いつもラビリスがいてくれて助かるよ」

「私もユキの妻なんだから当然よ」


ラビリスは俺の記憶のイメージを見ることができるので、俺の代わりも務まるし、こういう料理でもそのスキルを遺憾なく発揮してくれる。

俺にはもったいないくらいのおっぱい美幼女だ。


「褒めても夜が激しくなるだけよ?」


ラビリスが嬉しそうに頭にしがみ付く。


「さて、頑張りますか」

「そうね。頑張りましょう」

「あ、こっちです。リーアお姉ちゃん」

「です。お料理を手伝うです」

「すいません。皆と話し込んじゃって」

「キルエ、今日は何を作るのですか?」

「ユキ様からグラタンと聞き及んでおります」


そうやって、今日のお料理メンバーが揃う。

何時の間にか、台所も賑やかになったもんだ。



「ぷはー、いや手作りのグラタンもいいですねー」

「え、ラッツはグラタン食べたことあるの?」

「普通に店に冷凍食品で置いてますよ」

「うっわー、知らなかったわ」

「ふっふっふ、お兄さんの世界の美味いモノは私が結構把握してますからね」

「教えなさい。悪いようにはしないわ」


ラッツとミリーがグラタンを食べ終わった後、変な睨み合いをしている。


「ふわぁ~、ごちそうさまでした。美味しいですね~。教会でも作ってみようかしら?」

「それなら手伝いますよ、司祭様」

「ありがとう。リーアちゃん」


リーアはラビリスが呼んだリリーシュと話をしている。

今はウィードの教会で司祭を勤めるリリシュとなっているが、安直すぎんだろ名前。

リリーシュはリーアのいた村でも教会で司祭をやっていたのだが、リーアもそれを覚えていたみたいで、お互い再会を喜んでいた。

まあ、その司祭がリーアを勇者にしたんだけどな。


「よかったわね、リーアちゃん」

「え?」

「いい人できたんでしょう」

「あ、はい」


いい笑顔でリリーシュに答えるリーア。


「ユキさんが相手よね」

「え、なんでわかるんですか?」

「ふふふ、それはね……、リーアちゃんが私の勇者だからよ」

「はい?」


うん、相変わらずいろんなことすっ飛ばして爆弾発言しかしねーよな、この神様。


「ステータスを見てみなさい」

「は、はぁ?」


そう言われてステータスを見るリーアの表情が凍る。


「え、え!? 愛の勇者? リリーシュ様の加護!?」

「そう、私は実はリリーシュなの。わけあって地上に降りて勇者となりうる人間を探していたの。それがリーアちゃんなの」

「わ、私が? ユキさんではなくて?」

「ええ、彼はそれよりもずっと凄い人。それはリーアちゃんが分かるのではないかしら?」

「わかります!! で、でも私が勇者なんて……」

「大丈夫。そのことはここの皆は知っているわ。そして勇者だからこそ、いや、リーアちゃんだからこそ欲しているの。要である彼を守る盾として」

「いったい、何がどういう……」


リーアが混乱しかけている。

とりあえず、必殺技抱きすくめで落ち着かせる。


「あ、あのユキさん?」

「落ち着いて聞いてくれ。リーアが勇者の話、そしてこれからの話を」

「……はい」


そして皆の視線が集まる中、ゆっくりとリーアに説明をしていく。

初めて会った時に未覚醒勇者のスキルがあったこと。

リリーシュに説明を求めて下手すれば爆発するとのこと。

覚醒は実質防げそうにないと言うこと。

ウィードのために俺が意図的にやったということ。


「ぷっ、嘘です」


俺がいたたまれない気持ちで説明していると、リーアが笑いだす。


「へ?」

「ユキさんが最初からウィードのためなんて言ってることです。それならなんでここで抱きしめてくれるんですか?」

「それは……あれだ、リーアを逃がすわけにいかなくて……」

「それも嘘です。全然強く抱きしめていませんよ?」

「む、むう」

「はぁ、わかりました。これじゃ奥様たちが心配するわけです。いえ、もう私は奥さんの1人。あなたの優しさにつけこむ人たちから私が必ず守ります」


リーアがそう言って、俺は少し混乱していた。

こっちは人の気持ちを誘導していた様なものなのに、リーアに映る感情はどう見ても嬉しさだ。


「私はあなたを心から愛しています。そしてあなたの愛を疑ってはいません。この身に宿る勇者の力は全てあなたのために」


リーアの宣言で皆が嬉しそうに笑う。

俺だけがやっぱり理解できてないみたいだ。


「乙女心は複雑で、単純なのよ」


そうやってセラリアに言われた。


いや、意味わからねーし。



そして、今日この日、リーアという嫁さん勇者が誕生したのであった。

リーアの勇者スキルの詳しい説明はまた明日。

リーアはとても強い子なのです。

押して押して押しまくるタイプ。

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