第119掘:選択肢をくれ
選択肢をくれ
side:ユキ
俺はかつてないほど、苦しんでいる。
誰か代われるなら代わってくれ。
未だかつて、女性を口説いた事がない俺には難易度がハードすぎる。いやインフェルノ。
そんな事を考えながら、布団から抜け出し、3人を抱えて、洗面所で顔を洗い歯を磨きにいく。
「ほら、顔あらうぞー」
「うにゅ。はい、兄様~」
フィーリアを抱えて、顔を洗わせる。
そのあと、コップと歯ブラシを渡して歯磨きをさせる。
次にアスリン、ラビリスとやって、自分の番になる。
「……どう見てもフツメンだ」
鏡の前に映る俺はどう見ても凡人の顔立ち。
イケメンではないとハッキリいえる。
そして、そのことに今まで後悔したことはない。
だが、今はイケメンでないことがこれほど悩みになろうとは!?
「ユキ~」
ラビリスが抱っこを要求する。
いかんいかん、こんなネガティブでは成功するものも成功しない。
そう考えを振り払い、ラビリスを抱っこして洗面所に向けようとしたのだが。
ラビリスは、そのまま俺にキスをしてくる。
「大丈夫よ。貴方は何処からどう見ても、最高の男よ」
「歯磨き粉の味がする……」
「たまにはいいでしょう?」
そう言ってまたラビリスがキスをしてくる。
そのあと、アスリン達が見ていて騒いで、結局2人とも朝からキスをするハメになった。
嫌ではないけどな。
寧ろ好きですよ。
そして朝食後の一服。
大体朝はここで今日の予定を言って、お互いの行動を軽く頭に入れておく。
コールでいつでも連絡できるとはいえ、会議中にコールしても迷惑だからな。
「じゃ、皆、今日も一日頑張ろう」
「「「はい」」」
俺がそう言って締めくくろうとしたのだが。
「待ってください。ユキさんは今日から、一人新人を任せたいのですが」
「ええ、ユキもクアルみたいな従者が欲しいって言ったたわよね」
エリスの声で立ち止まり、セラリアの話で、予想が付いた。
「まて、流石に性急すぎないか? こう、恋愛って言うのはじっくり……」
「昨日、リーアに声をかけている男性を4人。旅館の食堂にて確認しました」
「……」
うっそぉ。
幾ら美少女でも、早すぎね?
そう言うのは漫画の世界だけにしてくれ。
「わかったかしら? 彼女達は昨日の今日で、声をかけられても余裕はないでしょうが、放っておくわけにはもういかないのよ」
「お兄さんしらないんですか?」
「なにを?」
「お兄さんの愛の一杯籠った結婚式のあと、教会では相次いで結婚式の申請が舞い込んでるんですよ」
なにそれ!?
結婚ブーム!?
「知らなかったんですか? 訓練所でもカップルが多数できて、式を挙げる為に頑張っている人がおおいんですよ」
「うんうん。前より、真剣に取り組んでる人も多いし、あの結婚式を見て感化されたのか、男女共に積極的なんだよ」
トーリとリエルも意外そうにこちらを見ている。
ひぃぃぃぃいい!?
昔の自分を殴りたい!!
首を絞めてるよ、自殺志願だよこれじゃ!?
「なに、あわててるのよ。あの結婚式はこういう事態を促進するためでしょ」
「確かに旦那様はいいました。この結婚式で私達のようになりたいと思わせれば、色々な面で頑張る人が増えると。愛は偉大だと!!」
セラリアは何驚いてるのよって感じで、ルルアに至っては結婚式の時を思い出したのが、変に誇張が入っている。
いや、そう言う事態を予想はしてたよ。
だけど、それがこんな事態になるとは思わねーよ!?
「とにかく、そういう事なので、私達と一緒に来てください。4人いえ、3人は私、ラッツ、ミリーで引き受けることになりました。だから残りのリーアをユキさんが連れて行っても不審ではありません」
くうー、お仕事完璧ねエリス!!
旦那として嬉しいよ。ちくしょう。
観念して、昨日の4人を迎えに旅館にいくと、すでにフロントで待っていたのか、俺達が来た途端こっちに集まってくれた。
「おはようごさいます。昨日はよく眠れましたか?」
「はい、エリスさん」
「凄いですね。御布団って初めてでしたけど、ふかふかで、ぐっすり寝られました」
「ユキさんの言う通り御飯もとても美味しかったです」
「……はい」
一人だけ、テンション低いんですけど!?
ものすごく低いんですけど!!
しかも、どう見ても勇者ですよね?
リーアちゃんですよね!?
頼む選択肢をくれ、ゲームみたいにわかりやすい好感度が上がる選択肢を!!
「皆元気そうですね。でしたら、私達についてきませんか? よければ今日からお仕事を教えてもいいのですが」
「いいんですか、是非お願いします!!」
「私も大丈夫です!!」
「やらせてください。覚えてみせます」
「……大丈夫です」
「では……私に、……はミリーに、……ラッツお願いしますね。じゃユキさんはリーアをお願いします」
「ああ、わかった」
そう言って予定通りに、3人は他の子を連れて旅館を出て行ってしまった。
なんとか、好感度を上げる。
ん、この旅館そういえば冒険者用だな。
空いてるところっていってたから、少し割りの高いこの旅館が選ばれたわけか。
つまり、ここには金持ちの冒険者がいて、リーアを見て声をかけたわけだ。
これは使えないか?
ならず者の冒険者が、俺のいない間に、リーアに声をかけて怖がらせる。
それを颯爽と俺が助けて、ヒーロー!!
安直な気もするが、分かりやすいし、実行しやすい。
「あの……私はどうしたらいいのでしょうか?」
「ああ、ごめん。ちょっと俺は色々仕事を掛け持ちしててね。どれから行こうか悩んでたんだ」
「そう、ですか」
やりずらい。
返事をした後、俺を見つめて口を閉じたままになった。
「そういえば、冒険者の状況を聞いてなかったな。少しフロントで話してくるから、ここで待っててくれ。リーアの仕事とは少しちがうからね」
「…わかりました」
よし、これで自然とリーアから離れたぞ、あとはフロントと雑談しつつ、冒険者がリーアに突っかかってくれればいい。
まあ、旅館の状態も確認したいってのは嘘じゃないけどな。
「これは、ユキ参謀」
「いや、ユキさんでいいから」
「いえ、一応勤務中ですし、オーナーから怒られますから。で何か?」
「ちょっとここ最近の感想を聞きたくてね。どうだ、旅館を使用する冒険者の反応は?」
「ああ、なるほど。オーナーを呼びましょうか?」
「いや、そこまでしなくていい。というより、オーナーには報告書をまとめるように言っている。俺が聞きたいのは生の声って所かな」
「相変わらずマメですね。あんまりそうやって街ふらふらして、奥様達に心配かけちゃだめですよ?」
「それは分かってるよ。でどうだ?」
「そうですね。やっぱりトイレですかね。紙詰まらせるとか、遊んでる人も多いようで……」
「なるほどな。初めて見るものだしな」
「あとは……」
そうやって話を聞いてると、客室がある廊下から、冒険者が数人固まって俺の横を通り過ぎて行った。
そして、こんな声が聞こえる。
「お、あそこの白髪の女よくね?」
「おお、胸もあるし、楽しめそうだな」
よし、よくいてくれた馬鹿共。
今はお前等に感謝しよう。
「やめとけ」
が、俺の希望は打ち砕かれる。
「なんでだよ?」
「あんないい女そうそういないぜ?」
「ここではそう言う振る舞いをすればウィードに二度と入れなくなるぞ」
「そりゃ、わかってるが、只声をかけるだけだぜ?」
「あっちを見ろ」
そう言ってなぜか俺に視線を感じる。
「げっ、アレはユキ参謀か」
「声がでかい。そうだ」
「マジか、ミリー代表がランク6のビックスを一瞬で沈めたんだろう?」
「いや、実は嫁を守る為にユキ参謀がそう見せたって話だぜ」
おいおいおい、そんな話になってるんですか。
「真相はともかく、ユキ参謀もミリー代表と同じぐらい実力があっても不思議じゃない。そして、あの少女、誰かを待っている。昨日はなんとエリス代表の案内でここに来たらしい」
「ちょっとまて、と言う事は」
「多分ユキ参謀を待っているんだろう」
「マジか、助かった。恩に着るぜ」
ひぃぃぃ、フラグが折れた!?
祭りの行動でフラグが折れたよ!?
お前等男だろ、女が欲しいなら頑張れよ!!
「しっかし、うらやましい話だよな。見たかあの結婚式」
「ああ、凄い美人揃いだったな」
「しかも10人以上だぜ、男としては憧れるが、女としてはどうなんだろうな?」
「それは女じゃないからわからんが、あんまり気分は良くないだろう。好きな男が他の女に手をだしてるんだから」
ぎゃー!?
結婚式の話が今になって最大の障害になってる。
わかる。わかるよ、ハーレム氏ねっていうのは。
でも、今ココでこの話しなくていいじゃん。
不味い、リーアに聞かれたら、絶対不誠実な男と思われる。
「と、もうこんな時間か、そろそろ仕事場に行かないとな。話ありがとう」
「いえいえ、ナールジアさんによろしく言ってください。ハーゲンダッ○はバニラが至高だって」
とりあえず、ここから脱出しなくては、このままではリーアの好感度がダダ下がりになってしまう。
「ごめんまたせた」
「いいえ」
「じゃあ、仕事場に行こうか」
「はい」
そう言って、旅館からの脱出に成功。
とりあえず、学校に行けば一息つけるだろう。
そうやって、道案内もかねて歩いていると……。
「あの……」
「なに?」
「奥さん沢山いるんですか?」
聞かれてた!?
しかし、ここは誠実に嘘を言わず、ちゃんと伝えるべきだよな。
えーと、セラリア、シェーラ、ルルア、デリーユ、エリス、ラッツ、ミリー、トーリ、リエル、カヤ、ラビリス、アスリン、フィーリア、キルエと14人。
言っていいのか?
「14人だな」
「……凄いですね」
そして沈黙が続く。
どう反応すればいい。
1、凄いだろう、俺はモテモテなんだぜ!! 只の馬鹿
2、いや、凄くないよ。彼女達がいいって言ってくれたんだ。 ヘタレ
3、……。 沈黙を貫く。 悪いと自覚している事を証明してしまう
4、冗談だよ。 嫁達に後で怒られる
どれだ、いや、どれも正解がねえよ!?
選択肢が意味をなさないよ。
これ全部マイナス選択だろ!?
ええい、とりあず何かを話すんだ。
マイナスになるにしても比較的マイナスの少ない答えを!!
「リーアはどう思うかわからないけど。俺は皆を愛しているし、皆も俺を愛してくれる。そして皆で協力してくれる。だから、俺には自慢の嫁さん達だよ」
「……そうですか」
ぎゃー、恥ずかしい事を言った上に、これって、リーアはいらない、隙間なんてねーよって言ってるもんじゃね!?
たすけてくれー!!
怒涛の4回投稿。
そして、ユキ初めて慌てる。
やることすべてが裏目にでて目標達成には程遠いぞ!!




