第118掘:状況把握
状況把握
side:ユキ
「ごほっ、げほっ、気管に茶が入った」
なにあれ?
最近のファンタジーって勇者が奴隷で売られてるの?
奴隷から勇者へのサクセスストーリー?
「だ、大丈夫ですか!? ユキ参謀!?」
「ああ、大丈夫です。飲み損ねただけですから」
そうやって対応していると、扉が勢いよく開かれる。
「貴様!! ユキに何をしたのじゃ!!」
「ユキさん大丈夫ですか!!」
「……毒!? しっかりして!!」
デリーユ、エリス、カヤが入ってきて俺を守るように囲み、奴隷商人のアスさんを睨み付ける。
「誤解だ。お茶を飲み損ねただけだ。すいません。妻達がお騒がせしました」
「でも!!」
「大丈夫だって、アスさんは何もしていない」
「……はい」
そう言うと3人は後方に下がる。
一緒に座ってもいいと思うけどな。
「重ねて申し訳ない。妻達が少し過剰に反応してしまった」
「あ、いえ。当然だと思います。私には何も害はありませんし」
そのあと、軽く話をして、明日詳しい説明と打ち合わせを行うことを約束して、アスさんとは分かれた。
「あの、ご主人様。私達はどうすればよいのでしょうか?」
室内に残された4人が心細そうに俺に声をかけてくる。
そうそう、ここが問題だ。
「とりあえず。そこのソファーに皆座ろう」
「い、いえっ!? そんな恐れ多い事を!?」
全員が勇者の卵を含めて横に首をブンブン振る。
「いいんですよ。ここは奴隷だからと言って、虐げることはしません。一人の人として扱うんです」
「……だから、心配しなくていい」
「ここには奴隷に振るう為の鞭なんぞありはせん。叱ることはあるがのう」
同じ女性からの言葉で安心したのか、ようやくソファーに座ってくれる。
さて、俺も少し悪戯の準備をしようか。
「さて、人数も増えたことだしお茶準備するわ。でだ、エリス。その子達、話によれば算術とかのスキル持ってるらしい。訓練所に回すより、直接指導したほうが即戦力になると思うんだ。話をとりあえず聞いてくれ」
「なるほど。すでに算術を取得しているのなら、訓練所は飛ばしてもいいかもしれませんね」
そんなやり取りをしつつ。
俺がすでに鑑定でスキルを確認済みと合図を送る。
これは前から決めていて、相手の言動が本当と鑑定で判断ができれば「らしい」嘘なら「だと」と語尾を変えるようにしている。
後は、性格面の問題になるから、エリスと面接して判断してもらうしかない。
まあ、性急に今日決める必要もないし、一週間ほどウィードでのんびりしてもらって街に慣れてもらうのが先だろうが。
「ほい、皆お茶なのは勘弁してくれ。お菓子はこれな」
流石に、急須しかない場所でコーヒーや紅茶を作れるほど人間離れはしていない。
4人はやはり、俺から直々お茶をついでもらい、極度に緊張しているが嫁さん達が飲み始めて、ようやく落ち着いてのみはじめる。
「お茶を飲みながら聞いてくれ。また説明することにはなるだろうが、一応これからの話だから、一度軽く聞いておくと不安も取れるだろう。いいか、ここでは……」
そう言って、奴隷制度はあくまで自分達を買い戻すための労働という扱いで、支払いが終われば街を出っていてもいいし、そのままここに住んでくれてもいいと言う事。
簡単に、ウィードの事を説明していく。
「とまあ、そこまで緊張する必要はないってのは分かって貰えたかな」
「はい」
「すごいんですね」
「頑張って働きます!!」
「……はい」
勇者の卵のリーアだけはなぜか反応が薄い。
こりゃ、変に奴隷に落とされたか?
こっちの話を半分も信じていないような感じだな。
いや、絶望しているような感じか?
なにか、カヤに似ている気がしないでもない。
と、少し流れを変えるか。
「エリスちょっと耳貸してくれ。簡単な話だからお茶飲みながらでいいから」
「なんですか?」
そして、リーアが未覚醒勇者だと告げる。
「ブホッ!! ゲホッ!!」
予想通り噴いた。
残り二人も同じ反応をした。
特にデリーユはひっくり返った。
器用だよな。
そのあとは軽く雑談をして、明日案内をすると約束して、分かれた。
「エリスが空いている旅館へ案内したようじゃな。流石に訓練場にねじ込むにも、来週じゃからな」
「……でも、あの子が勇者様なんて」
「まあな、レベルは4だし、まだまだこっちの方が強い」
「ユキも意地が悪いのう。妾は驚きすぎてひっくり返ったわ」
「悪い悪い、しかしリーアだけは、対応を慎重に決めないといけないな」
「……あの子。きっとあの争乱での被害者。分かる。あの目、家族を目の前で失くした。それで世界全てがあやふやで信じられないんだと思う」
「勇者様がのう……。世界はかくも厳しいのか」
カヤとデリーユは彼女達、リーアが去っていった方を見つめていた。
時は過ぎて晩御飯後の一服
「お兄ちゃん勇者様に会ったんですか!!」
「兄様勇者様は男の人じゃなかったんですか?」
「ふむふむ、なるほど。私に似ている美少女ね。胸もエリス、ミリーには負けるけど大きいわね」
「ラビリスちゃんずるいです!! 私も見たいです!!」
「私もみたいです!! ラビリスちゃんみせてー!!」
「ちょっと二人とも、無理よ!? こら、きゃぁぁ~!?」
そうやって迫られてひっくり変えるラビリス。
スカートもめくれるのだが、なんつー下着穿いてやがる。
衣類をDPで出して以来、趣味関連があるので、カタログを多数渡して自由に出すように言ってはいるが、ラビリスが着けているのは殆どスケスケのランジェリーだ。
「いいのよ?」
「よくねーよ。二人と遊んでろ」
「ちぇ」
そうやって3人はきゃっきゃっと仲良く談笑を始める。
「へぇ、ああいうのが好きなのね」
「そこから離れろ」
「まあいいわ。あとで使って反応みればいいだけだし。それにしても勇者様ね~」
「トンデモないのが、来ましたね」
「でもレベル4なんでしょう? しかも未覚醒。普通に扱っていいんじゃない?」
セラリアの言葉にラッツが同意して、ミリーが案をだす。
「まあ、ミリーの言う通り、このまま普通の人として一生を送るなら問題ないのですが」
「これが、下手に覚醒して、勇者とばれたら、ウィードは勇者様を奴隷として引き入れ、下働きをさせていたって事になるわね」
「うわー、それは拙いって僕でもわかるよ」
リエルがセラリアの語る未来を聞いて顔をしかめる。
セラリアの言う通り、そんな事になれば、勇者を保護以前に奴隷として受け取ったのがとても拙い。
ウィードを邪魔と思う連中には格好の餌になる。
「そういえばユキさん。その勇者様はユキ様やタイキ勇者様と同じ異世界から?」
シェーラが思い出したように聞いてくる。
そういえば、異世界人ではなかったな。
「確か「愛の勇者」ってあったな。異世界からとはなかった」
「なるほど。素晴らしいですね。私達の大陸から勇者様が生まれるとは」
「そこは嬉しいですが、奴隷ですからね。って、ちょっと待ってください。旦那様「愛の勇者」といいましたか?」
ルルアが変に食いついてきた。
どうしてだ?
「ああ、確かに言ったぞ愛の勇者だった」
「それ、リリーシュ様が関係しているんじゃないですか?」
「「「あ」」」
そして、即時にリリーシュを呼び寄せ尋問がはじまる。
因みにリリーシュはルナと違って、ウィードにあるリテアの教会で司祭として暮らしている。
昔からこうやってリテアを良くしていこうと頑張っていたが、結局上手くいかず今回の事態になった。
何度か、大聖堂に赴いて、話を聞いてもらおうと司祭のままで行ったが追い返される始末だったらしい。
この話を聞いたアルシュテールとルルアは卒倒しかけた。
そりゃ、自分達が祭ってる神様を門前払いとか、罰当たり以前の問題だよな。
といっても、アルシュテールやルルアの数代前の話でそれ以降はひっそり地方の司祭で頑張っていたそうだ。
閑話休題
現在の問題は「愛の勇者」のことだ。
「ああ、その子ここに来たんですね~。私が見込んだ通り勇者になったんですね」
にこやかに肯定しやがったよ!?
「リリーシュ様ご説明願えますか?」
「はい、構いませんよ。10年程まえの事で……」
簡単に説明する。
神様は各一人、己にちなんだ勇者を選定できるのだ。
基本的に、使えると思ったり、思考が近い人を選定して、自分の手助けを目的として作るのが勇者だという。
聖女や聖人などとは比べ物にならないほどの補正が加わり、文字通り勇者様として名をはせることができる。
しかし、難点もあり、そうホイホイと勇者の称号は与えられない。
100年に一人。
それが最速ペースだそうだ。
でも大概、勇者の称号を持つものは戦争や政治の矢面立たされ、長生きはしない。
なので、リリーシュは当時司祭を務めていた場所で、リーアを見出し、覚醒条件を与えて勇者となるように仕組んだとのこと。
でも今、奴隷ですがね!!
「はぁ、リーアちゃんが奴隷ですか……。悲しいですね。でもウィードにいるなら安全ですね。ここでなら安全に勇者へと覚醒できると思います」
いや、覚醒されたら非常に迷惑なんですけどね!!
「ええっと、リリーシュ様。覚醒条件はどのような事で?」
「それは愛の象徴。エッチをすることです!! でも無理やりはだめですよ? 無理にエッチすると力が暴走してあたりを吹き飛ばしますから。リーアちゃんを守る為にそこら辺の安全は完璧なのです」
完璧じゃねーよ!?
ウィードの住宅街に避難警告ださねーといけねーじゃん!?
「……ちょっと待ってください。それではいずれリーアは勇者に覚醒するのですね」
「はい、流石に誰ともエッチしない人生はそうそうありませんからね。命の危機には勇者のスキルが発動して守りますし、余程じゃない限りリーアちゃんは死にません」
うーん、リリーシュのおかげでリーアが奴隷で済んでるという可能性もあるな。
下手したらもう骸か。
そして、実質勇者覚醒を止められない。
及び、ウィードに被害がでる可能性があると告げられ、全員が沈黙する。
「貴方」
「なんだ」
「リーアを落としなさい」
「はぁ!?」
「わかってるでしょう? このままじゃ勇者の事が露見するし、ウィードにも被害が及ぶ。普通なら自然の流れに身を任せるのが当然でしょうが、今回は見過ごせないわ」
「おいおい、俺は人の心を……」
「わかってるわ。だから貴方もリーアも愛し合っていれば問題ないでしょう」
本気か。
目が座っている。
「旦那様。愛に正しい道などないのです。私がそうであったように。どうか、彼女を守って愛してあげてください」
ルルアが後ろから抱き付く。
まあ、言っていることはわかる。
必要性もわかる。
問題は、俺が獲物を定めて落とせってことだ。
俺はギャルゲーの主人公じゃねーぞ!?
しかも最後のクライマックスに辺り一帯吹き飛ぶ覚悟が必要。
どんな難易度ですか!?
ミッション
爆弾娘を落とせ。
失敗は吹き飛ぶ。
備考、心に傷を持っている。詳細は不明。
尚、彼女自身は美少女なので、男が言い寄る可能性が高い。




