第113掘:勇者と魔王のお話
勇者と魔王のお話
side:ルルア
諸国会議のお話が終わってまずは目先の危機からのお話になりました。
勿論目先の危機とは、勇者様の件です。
「さて、予定通りだけど。勇者様の件を早急に詰めないと、ガルツにもウィードにも良くないわ」
その言葉で皆一斉に頷く。
「ついでに、このいざこざのせいでデリーユが魔王なのはともかく、四天王(笑)がいるのもばれてしまった。これで、確実に魔王が何らかの手を打ってくるでしょう。情報は防ぎようがないからね。あの馬鹿姫が大きな声で吠えて回ったから」
そうです。
あのランクスの馬鹿姫は帰り際に「このウィードは魔王と四天王に占拠されている!!」などとほざいていきました。
無論、デリーユを指さして吠えていたのですが、デリーユは今や街ではしっかりした地位と人気を誇っています。
ウィードの住人はその馬鹿姫を見て顔をしかめるだけです。
ですが、どんな些細な噂であれ、これは冗談として拡散します。
それは、魔王に知れることになるのです。
「流石に、あれだけ王族が吠えたら完全な鎮火は難しいかと」
「そうよねぇ」
シェーラがそう言うとセラリアは頭を抱えます。
「この噂を払拭するには私達が魔王討伐に加わるしかないでしょう」
「……下手に支援に徹しても、禍根が残るか」
「はい、あの糞馬鹿姫のせいですが、これで私達が出兵を惜しめば、冗談が誠になるでしょう」
「ランクスがつぶれるとしてもかしら?」
「ランクスの王族派を完全に一人残らず捕らえて始末できるなら、なんとかなると思いますが」
「それは無理ね。判別の仕様がないわ」
まったく厄介な事をしてくれましたね。
「まあ、終わったことは言っても仕方がない。デリーユはともかく、ザーギスとレーイアを生かしてたのが問題だよな。俺の責任だ。処罰は後で決めるとして、魔王の情報を手に入れる必要があるわけだ」
「何で貴方を処罰しないといけないのよ!!」
「そうです!! 反対です!!」
セラリア、シェーラを筆頭にお嫁さんが声を上げて反対する。
「落ち着け。これがこのままだったらだよ」
「どうするの?」
「まあ、勇者、タイキ君の方は動きはあらかたわかってるし、コールでいつでも連絡がつく。それに合わせて、迎撃を形だけでも取ればいい」
「いえ、殲滅するわよ」
「……国力を見せつける意味もあるから止めはしないけどな。で、問題は魔王と繋がっている噂だ。これで確実に魔王が何らかの手を打ってくると思う」
それが問題です。
このウィードが戦火に巻き込まれる可能性が高くなってしまいます。
「魔王がウィードと手を組んでいるって宣言をされるだけでも痛手だが、正直どんな手で来るか読めない」
「そうよね。って、凄い事言ったわね。魔王がウィードと手を組んでいるって言われると大打撃じゃない。それだけできっと何か国かは交易が停止するわ」
「そうですね。お兄さんは相変わらず、一番やられると嫌な手を思いつきますね」
皆が感心しています。
本当に旦那様は考えている事が一つ上というか、別方向に向いていると思います。
確かに、魔王がウィードと手を組んでいると高らかに宣言されれば、確実に何か国かは交易が停止し、住人が不安がり、国力が低下しますね。
民の為にあるウィードにとっては下手な戦争よりもやってほしくない手です。
「だからだ。まずは情報収集が大事だ。いままで忙しくてほっといたけどあいつらに説明してもらおう。入っていいぞ」
そして、旦那様がドアに視線を向けます。
私達もそれに習いますが、誰も入ってきません。
「コール、ザーギス!! レーイア!!」
『おお、ユキマスターどうかしたかね? 無線機だが、これは魔力を電気に変換してやるよりも、もう術式を作ってやった方が……』
「それはいいから、さっさと庁舎会議室にこい!! 問題は聞いてるだろう!!」
『おお、忘れてたすまない。そっちにいくよ』
「で、レーイアそっちはどうした」
『牛の出産が始まったんだよ!! そこ引っ張れ!! そーれ!!』
「あ、そうですか。それが終わったら会議室に来てくれ」
『ああ、分かった!! ほらもう少しだ!!』
そう言って旦那様がコールを切る。
「……レーイアが遅れたのは不問にしましょう」
「ですね」
「お仕事しっかりしてますし」
セラリアがそう言うと皆が頷く。
あれだけ、鬼気迫った会話はなかなかないですから。
因みにレーイアというのは、ナールジアさんの里を襲った自称四天王の一人、炎を使った魔族の人です。
胸が私より大きいのですが、身長もそれなりに大きいので全体的なバランスは取れています。
現在は本人の希望で、農業を任せています。
最初は驚いたのですが、魔族もしっかり畑を耕して作物を育て、家畜を育て、日々の糧にしているらしいのです。
レーイアさんは農村の出だそうで、ここでの農業でかなり役に立っています。
カヤさんとは仲良しで、いつも次はどんな作物を育てるかはなしているそうです。
「はっはっはすまない。代表の方々。開発課ザーギスただいまとうちゃ…ぶべっ!?」
今、セラリアのカップ投擲で倒れたのが、自称四天王の一人、ナールジアさんの里を壊滅させたダンゴムシ改を作り上げた自称天才、ザーギス。
ここに来てからは、旦那様が珍しいモノを見せるので、それに食いついて、それをウィードで量産できないか日々研究、開発に携わっています。
ガルツへ持っていった交易品の中にもザーギスが作った魔力電灯等があります。
DPだけでウィードが成り立ってしまわないように、自力で商品を作れるようにと旦那様がザーギスにその足がかりをやらせているのです。
「な、なんでこんな仕打ちなんだ!? レーイアだってきてないじゃないか!!」
「レーイアは牛の出産で不可抗力。ザーギスあんたは只の怠慢。わかるわね?」
「も、申し訳ございませんでした」
すかさず頭を下げるザーギス。
因みに力関係は、嫁>>>越えられない壁>四天王、となっていて一対一でしっかり物理的にも完勝できるように鍛えてありますので、問題ありません。
特に、セラリアにはザーギスは頭が上がらないようで、あとはお金関係を握るエリスとラッツにはことさら腰が低い。
「さて、ここに呼ばれた理由は分かってるわね?」
「ああ、ユキマスターが言ってた通り、魔族の話だろう?」
「そうよ」
「お言葉ですが、魔族や魔王と言っても話は多岐にわたります。どの情報が必要か選別してくれない事には、何を話していいかわかりませんね」
ザーギスは両手を上げてやれやれとしている。
でも、ザーギスの言う通りだ。
何を聞けば情報となりうるのか。
「そもそも、私を自称四天王と呼んでいるのですから、私が話す事に信憑性がありますか?」
これも彼の言う通りだ。
魔族の言う事を信じる。
それ自体が、馬鹿と言われる行為だ。
魔族とは人族を滅ぼし世界を手中に収めんとする邪悪な生き物として各国で昔から伝えられている。
「ま、私としては、魔王なんぞよりもユキマスターの下の方が研究費は潤沢だし、扱いも相応だし、飯は美味いし、文句なぞないし、喜んで情報を提供はしますが」
「それは何でそういう気持ちになったのかしら? 私達は貴方達にとっては滅ぼすべき敵ではないのかしら?」
ザーギスの素直で協力的な態度にセラリアが訝しげに質問をする。
「ああ、そこからか。ユキマスターの扱いが普通だったから気にならなかったがまずはそこからですね。説明しても?」
「構わないわ」
そして一息入れて、ザーギスは喋り出す。
「まず、セラリア殿の言っていること自体が違います。我々魔族は己の生存の為に侵略者である人族達と戦っているのです」
「「「はぁ!?」」」
会議に出ている、3か国も驚いている。
当然だ、魔族が何を言うかと思えば、争いは生存の為、侵略者から己を守る為だというのですから。
「……ユキマスターは驚いていませんね」
「そりゃ、ある程度予測してたからな」
「予測ですか。聞かせてもらっても?」
「いいぞ、簡単に言うが、魔族は元人族達だろ?」
ユキさんの回答で会議室が沈黙に覆われます。
それもそのはず、魔族の元は我々人族だというのですから。
「流石と言うべきですね。その通り、魔族は何が原因かわかりませんが、突然変異で生まれる。それが集まったのが魔王を中心とする国、ラスト。」
「突然変異?」
「セラリア殿は聞いたことがないのですか? 町か村かは知らんが突然魔族が出現したと報告があるのを」
「それはあるわ。魔族が潜伏していたのでしょう?」
「それが違う。私の研究結果ですが、一定の年齢で一定の魔力値を超えると、種族が魔族と変わると私は見ています」
「ちょっと待ちなさい。ザーギスが言ってる事が本当なら……」
「その通り、年端もいかない子供を化け物として追いやり、殺し、そして家族をも皆殺しにしてきた。それが魔族の成り立ちだ。大方初めて魔王になった御仁は、今までの恨みを仲間と一緒に各国にぶつけたのだろう。魔力値が一定以上と言う事は、魔力を使う技能もそれなりについてくる。子供にはいささか過ぎた能力だ。それが成長すれば、一騎当千の兵になるだろうから、生き延びた子供はね……私は生まれも育ちもラストだから、その気持ちは上手くわからないが、きっと想像を絶するんじゃないだろうか」
セラリアが絶句しています。
無論、私を含めて他の皆も。
「まあ、別に貴方達が憎いかといえば、私は違いますがね。元は大昔の話だ、そんな大昔のことを引きずってはいませんが、結局それで追い立てられている。まったく、作物もろくに育たない、山の上に大人しく引きこもると13代前の魔王がいって人族との共存を望んだのに、そこに訳の分からない討伐軍をおくるわ、農村は襲うわ、畑は荒らすわ、我々は必死に自分の住む土地を守っていただけです」
「セラリア、ここ数百年の4大国の領土は?」
旦那様はセラリアに聞きます。
ですがセラリアは顔を上げることなく、質問に答えます。
「今まで魔王の住む所を解放するといって、何度も大征伐が行われているわ。ユキの予想通り、魔王の住処と言われる地区を切り取って、4大国は領土を拡大しているわ」
「つまりだ、歴史的な観点から見てもザーギスのいい分は正しいわけだ」
「なぜ和平を、とは聞けないわね」
セラリアがそう言ってザーギスを見ると何か困った様子で肩を竦めます。
「考えの通りですよ。私達が和平など言っても結局無視されるか、そのまま殺されるだけです。今代魔王は和平派で必死に頑張ってたみたいですが、私から言えばもうどうしようもないですね。其方はこっちを絶対悪だと決めつけているし、こっちは生きていくために土地を確保しなくてはいけない。交渉ができないのであれば奪うしかないし、そっちは倒さなければいけない相手だ、これはもう一つの流れですよ」
自然な事だといって私達を非難することすらしないザーギス。
でも、少し悲しげな気もします。
「ロシュール、ガルツ、リテアはどう思う?」
ユキさんが、各国の王に今の話の判断を聞きます。
「そ、それはのう。何とも……」
「こっちも魔族がでた、処分したの報告だけじゃからな」
「私の方もです。魔族は処分した後、魔石が残るだけで、遺体は残りませんから」
王たちも、報告のみと魔石という証拠品だけで、判断していたようで、まさか、子供を手にかけていたとは思っていなかったようです。
私が聖女だった時もそうでした。
数は多くないのですが、全部で3件ほどあったのを覚えています。
「うーん。実際斥候が来てる事もあるだろうし、そうだなザーギスの話が本当かどうか調べる為に、魔族を見つけて、子供のようなら捕縛という名目で保護してみるのはどうでしょうか?」
「そうじゃな。それがよかろう」
「ガルツの方もそれで行こう」
「リテアもそれでかまいません。それが事実であれば、私達はとんでもない間違いをしてたのですから」
各国の王は旦那様の建前捕縛を受け入れてくれたようです。
「ほう、あっさり信じますね。てっきり戯言と言って無視されるかと思ってたのですが」
「ザーギスはそこら辺は頭が回らないみたいだな」
「いや、研究一筋なもので」
「ザーギスの言う通り、魔族が只の突然変異で和平が可能であるとしたら、これ以上戦う必要もなくなるわけだ。国防に割くお金も少なくなるし、色々都合がいいんだよ。今まではお互い生存権をかけた戦いだったから引くに引けなかったが、事情が分かればやりようはあるだろう」
「なるほど、そういう事ですか。ですが上手くいきますかね?」
「いやー、無理じゃね? 今までの積み重ねが重すぎる。でも、なんとかしないと総力戦だろ?」
「そうですね。ああ、なるほど、昔、勇者が魔王を追い詰めて、殺さなかったという変な話はこの地点を夢見てたんですかね?」
ザーギスがその昔話を言って私も思い出しました。
大昔、勇者様がこの大陸に降り立ち、魔王に怯える諸国をまとめ上げ、魔物を退治し、中央の山に追い詰めた話を。
なぜ勇者様は追い詰めた魔王にとどめを刺さなかったのか、そんな疑問があったのです。
色々な説があります。
勇者様はそこまでに大きな怪我を負って、それ以上は無理だった。
国力が低下していたので、それ以上追撃ができなかった。
そして、一番くだらないとされている説。
「いつか、共存できる日を願って。お互い頑張りましょう」
勇者様は優しく、魔族にも手を差し伸べたというお話。
最後の話はあやふやですが、その勇者様は今でも名前が残っています。
異世界からの勇者 トウヤ・ヤシロ
旦那様と同じ記録上初の異世界からの来訪者。
ここで、魔王の話も絡んできます。
勇者と魔王はきってもきれないですからね。




