第106掘:ある勇者の物語
ある勇者の物語
side:ランクスの勇者 タイキ・ナカサト
世界なんてクソだ。
俺をオタクって言って虐めて、馬鹿にして、勉強できなくて、運動できないのがそんなに悪いかよ!!
見てろ、ゲームで得た知識だって使えるんだ!!
俺が楽しいと思った事は無駄じゃない!!
ライトノベルだって、漫画だって、大事な知識なんだ!!
異世界にいければ俺だって……。
そして、俺はある日異世界に呼ばれた。
定番も定番。
お約束に勇者の力もついてきた。
レベルは1と悲しきかな。
それでも、日本で培った知識でガッツリレベルをあげて、滅びかけていたランクスを救う事になる。
呼ばれた当初、ランクスは反乱軍……いや、正直反乱軍のほうが正義があった。
無茶な遠征と戦争。
無理な徴税。
少ない国土。
ま、王族としては面子もあり、いままで国を引っ張ってきたというプライドがあったんだろう。
このままじゃ虐殺なんで、とりあえずレベルに物を言わせて反乱軍を説得。
内政チートを使って……まあ、地道なチートもあったもんだよな。
それを使ってなんとか国内を安定させた。
しかし、それで問題も出て来た。
俺が勇者として表だったのが嫌だったのか、王様や俺を呼んだお姫様が横やりを入れてくる。
ったく、お前等のプライドを保つ為に国民を押しつぶしたんじゃどうしようもない。
お前等、お約束の傲慢な王族じゃねーか!!
そんな事してたら、お約束でサヨナラだよ!!
でも、王宮内では俺の味方が少なすぎる。
だぁぁあぁぁあーーーー!!
引きこもったけど、虐める奴が嫌いだっただけで、会話とかは普通にできるんですよ。
でも、おかげでかなり空気に敏感になった。
自意識過剰かもしれんがそれぐらいで丁度いい。
「このままじゃ確実に暗殺されて、銅像建てられる……」
どうする?
マジでどうする?
確かに俺個人の能力なら、俺一人だけならどうにでもなる。
しかし、俺が逃げ出せば、勝手に死亡扱いか悪党にでもして、国民に圧政を敷くだろう。
ここに呼び込んだアホ王族はともかく、街や村のおっさんやおばちゃん達にあんな苦しい思いをさせるわけにもいかねえ。
いいか、どこかのお約束の正義感バリバリのイケメンや、チート能力にうかれてヒャッハーな馬鹿になれる程単純じゃねえ。
ああいうのは、完全に視野が狭い世間をしらない馬鹿者だけだよ。
現代日本に生まれてあんな性格はよほど世間知らずしかならねえよ。
確かに異世界チートでヒャッハーだ。
だが目立てばいらない事をおびき寄せる。
勇者として呼ばれたからまあしゃーないけど、助けた皆がアホな王族に蹂躙されるのをほっとくほど薄情じゃねえ。
だから俺はあることを思いついた。
俺が勇者だけだから角が立つ。
ならお姫様を嫁さんにもらって、王族としての意見を言えるようになればいい。
そうすれば異世界人だとか言われなくて、一王族の意見として、ある程度口を出せる。
まあ、従順な傀儡ですよアピールはいるだろうけどな。
とりあえずはこれでつないでいくしかねえ。
そんなこんなで馬鹿なふりして、ダンジョンに潜って制覇して個人資金をちょこちょこ溜めたり。
馬鹿な政策を何とか機嫌を損なわないように誘導して、国民の被害を最小限に抑えて。
個人資金で商売チートをする為の商会立ち上げて、情報集めて貰ったり。
必至に生きて来た。
くそ、ひっきーのほうがよかった!!
だが、世話になった人達を見捨てる程、腐っても落ちぶれてもいねえ!!
ったく、綺麗なお姫様だが、中身はクソ。
こちらとは一応夫婦だが、一切一緒に寝ていない。
向こうは王宮の騎士とできてる。
もうしっかりヤッテルしな。
精々するわ。
お蔭で色々やりやすいからな。
「ふふふ、あの勇者はなんて使いやすいんでしょう。少し頼めば簡単に答えてくれる。これで、貴方との子供もできれば、あんな勇者は適当に軍部にすえて、貴方を王にしますわ」
「くくっ、勇者殿に悪いな。まあ、他所ものが上に立つのはな」
「ええ、お父様も認めていますし、精々勇者には働いてもらいましょう」
この会話を聞いたときはぶっころと思ったが、おっちゃん達の為に踏みとどまった。
バーカ、バーカ。
そんなのは演技に決まってるじゃねーか!!
プライドだけの阿呆が!!
勇者と書いて便利屋ってのは何処も一緒だよな。
世界を救っておいて、一領主とか、ふざけてる褒賞だよな。
さっさと、なんとかしておさらばしたいぜ。
が、なかなか機会は訪れない。
勇者の俺を利用して周辺諸国に勝手にケンカを売りやがった。
あのな、まだまだ国土も安定できてないのに、他所に手を出しても枯渇するだけだぞ!?
ジオ○の侵攻作戦しらない?
戦線が拡大しすぎるとだめなんよ!?
それから、おれの必至の根回しで、3か国は表向きこっちの国土となったが、被害も少なく。
王族も処刑されていない。
……おれのチート財産のほとんどを保障にあてて、なんとか矛を収めてもらった。
因みに、落とした…いや従属した3か国の王は俺の扱いを聞いて、いつか反旗を翻すなら協力すると約束してくれた。
ある意味、勝手にケンカを売ったランクスの馬鹿どもに感謝だな。
お蔭で、おっちゃんやおばちゃんの安全を確保する目途がたった。
あとはタイミングだ。
俺一人が勝手に反旗を翻しても狂ったといわれるし、大義名分が薄い。
いや、圧制なのは当然なんだけど。
これで諸外国が参戦なんてしたらどうしようもない。
だから、この戦いは正義なので横やり無用!!
と宣言できる場所がほしい。
が、諸外国が一同で集まるようなサミットはこの世界ではほぼありえねえ。
それを実現可能な4大国の内つながりがあるガルツだが、今までの阿呆政策のせいで随分と無理をさせている。
勇者の名前を勝手につかってな!!
ええい、俺の首を絞めるのが大好きだなランクス!!
しかし、神がいるかわからんが俺はついてた。
なんとダンジョンの制御に成功し、中に町を作り、ゲートを使って各国をつなぐという計画があることをしった。
これは流通チートができる。
誰だこれを考えたのは?
そうやって話を聞くうちに、そのダンジョンは独立国と認め、一国に戦力…いや金銭が集まるのを阻止する政策が3大国の宣言で行われた。
これを逃したロシュールはさぞかし痛かっただろう。
だが、おかげで独立祭に馬鹿のお姫様は交易を奪い返すために俺を堂々と連れて来た。
だから、俺は言ってやったんだ。
「拙い、ここには魔王とその四天王がいる」
そういえば馬鹿王女は当然……。
「つまり、魔王は私の国を締め上げて戦力を奪おうとしたのです。無論、勇者であるタイキ様もそれで封じ込めようとしてるのです」
「ええ、そこが唯一の救いです。いえ、これこそ勇者の力でしょう。ここで魔王を討てば皆目を覚まします」
うっし、これで俺が堂々と剣を抜く許可を得たわけだ。
今時魔族や魔物が悪なんて意見聞くやつはいねーよ。
しかもパンフレットに魔物は警備ですって書いてあったじゃねーか。
まあ、俺が字を読めることを隠してるし、王女様も知ってて斬れと言ってるんだろうがな。
俺がここの王族を含め屈服させると思ってるんだろう?
バーカ!!
いいか、ここの作り。
どう見ても俺と同じ日本人が関わってる。
俺よりもはるかに上のチート持ちだ。
しかし、表だって日本人がいるような話はない。
日本人の名前も聞かない。
だが、ここの裏ボスは日本人だ。
だから、俺は鑑定スキルでドッペルゲンガーの魔物を見つけ。
これなら安全と思い、少女に斬りかかった。
「この魔物め!! 僕の目は誤魔化せないぞ!! 覚悟!!」
「え?」
呆けている少女。
まだか?
来ないのか?
流石にこんな小さい子を斬りたくないぞ。
いくら偽物とはいえ……。
ガキィィン!!
うっし、俺はガッツポーズをしたくなった。
本気のガッツポーズだ。
目の前に出てきたのは、黒髪の俺と同じぐらいの年の男だった。
日本人だ!!
絶対日本人だ!!
おちつけ、落ち着くんだ。
相手は怒っている。
当然だ、小さい子に剣なんか振り下ろしたんだから。
どうやって、クソ姫様と離れてこの人と話をするかだ。
「……てめぇ、覚悟はできてるんだろうな」
ひぃっ!?
ブチ切れしてますよ!?
演技です!!
って言えたらいいのに!!
「魔物を庇うとは、やましい事がある証拠。お前も斬り捨ててくれる!!」
「勇者様がんばって!!」
お前は黙れ。クソ姫。
あ、そうだつばぜり合いしながらどっか行こう!!
そう思って斬りかかる。
が……。
ドンッ
「ガッ……!?」
うそ、同じチートだから少しはやりあえると思ったのに!?
一撃で吹き飛ばされた。
手加減してたら死ぬ!?
「なろっ!!」
意地でも押し込まないとここで俺が死ぬ!?
キィン!!
剣が男に当たる前に空中でとまる。
魔力障壁ってやつですか!?
うそー、一応チートに上乗せ勇者武器ですよ!?
しかし、少し相手は俺の出方を見ている。
これがチャンスか……。
小さな声で男に話しかける。
「……すまん。さっきの事は謝る。少し話をしたい」
「……あ?」
「後ろの姫様に聞かれるとまずいんだ。俺に吹き飛ばされてくれないか?」
「なんでお前が吹き飛べばいいだろうに」
「いや、俺が吹き飛ぶときっとクソ姫が追いかけてくる。だから俺が吹き飛ばして追いかける形にしたいんだよ。危ないから待っててくれって」
「……苦労してんのか」
「……ああ。あんただって日本人だろ? こっちも勇者で自由に動けないんだよ、頼む話だけでも」
そしてお互い距離をとる。
「少しは出来るようだな。ここで暴れると周りに被害が及ぶ。向こうの森まで飛ばしてやる!!」
そう言って俺は一瞬で近づいて、その男を吹き飛ばす。
「演技お見事」
「……勇者代わるか?」
「お断りする」
そういって男は森まで吹っ飛ぶ。
「姫、あいつは強敵。私一人でいきます。待っていてください。その間に、ここの国民を落ち着かせてください」
「ええ、分かりましたわ。勇者様頑張ってください!!」
……ヒロインならついてくるんだけどな。
ま、クソ姫だし、ついてこられても困るし。
さて、どこから話したもんか。
そう思いながら森の方へ駆け出だした。
side:ラッツ
「なななな……!?」
拙い拙いですよ!?
お兄さん吹っ飛ばされた!?
様子を見ていた嫁さんズは大混乱です。
お兄さんが飛び出して馬鹿勇者を止めに行ったのはいいです。
しかし吹き飛ばされてしまいました!!
「は、はやく助けにいかないと!?」
セラリアもかなり慌てています。
「そ、そうです!! 早く!!」
ルルアもようやく事態を飲み込めたのか立ち上がります。
「みんな落ち着いて。ユキさんのドッペルだから。無事だよ!!」
「「「あ」」」
リエルの一言で思い出します。
そうです、お兄さんは基本表にでません。
ですが……。
「あー、申し訳ありません。あれ本物のマスターですよ?」
抜け殻になっている、ここにいるお兄さんのドッペルがこう告げます。
「「「本物!??」」」
ちょ!?
アスリンのドッペルが襲われたくらいで!?
「ふうっ」
「シェーラ様!?」
シェーラが気絶しました。
私も大混乱中です。
「こっ、殺す!!」
セラリアが剣を持って駆け出しました。
「わ、私も行きます!!」
「僕も!!」
「私も!!」
トーリとリエル、ミリーも駆けだします。
私も、お兄さんが吹き飛ばされた映像が繰り返し頭の中で再生されます。
「お兄さん無事でいてください!! あのクソ勇者ぶっ殺す!!」
もう頭の中はそれだけでした。
勇者も苦労してたんです。
そして、苦労の果てにユキの嫁に殺されるかもw




