第五話:たまの休日を二人っきりで~家族だし当たり前のことだから~4
莉乃との休日を久しぶりに過ごした紫乃。水族館を後にして、これといってお土産や寄り道をすることなく帰路に就いた。
その間は手を繋いだままで、周囲にどう思われようともお構いなし。
だって紫乃と莉乃は、容姿が似ても似つかわないながらも姉妹なのだから。
「じゃ、夕飯できたら呼ぶね」
「手伝わなくていい?」
「大丈夫だよ。むしろ、今日は腕によりをかけるから」
腕をまくる仕草で意気込む莉乃に、少しだけ反応に困ってしまう。
だけど、五百瀬の台所を預かっている。
「それじゃ、楽しみにしてるわね」
「うん」
キッチンに向かう莉乃と別れて、紫乃は自室へ。扉に背中を押しつけるようにゆっくりと閉め、短く息を吐いた。
(……莉乃が、私の事を好き……)
打ち明けられた、莉乃からの好意。
今までどころか、直近も含めて告白されたことが何度もある紫乃だったが、まさかの身内からというのは予想外。いつもだったら当たり前のように断り、損得なく関係をフラットにしてきている。
だというのに、莉乃から想いに【保留】を選択した。
それは姉妹だから。
もしくは、別の気持ちがあるから。
机に広げたままのノートを手に取り、莉乃との関係を改善するために練った羅列したプランを眺める。
常に最悪を想定して、あの手この手と取り留めがない。
結果としては上々どころか、紫乃の想像を軽々と超えてきた。
「……誰かと付き合う。どうすればいいのかしらね」
独り言のように呟いた紫乃は、手にしたスマホの検索欄に打ち込んでいく。検索予測の時点で様々な候補が並び、興味を抱いた項目をタップすると、さらに情報が広がっていた。そこには恋愛に悩んで相談した知恵袋から、ウエディング関係やマッチングアプリなどの、様々な方面から紫乃の悩みを泥沼化させていく。
そこで一番気になったのは、やはり同性同士という事。
「なるほど、そういった事もあるのね」
紫乃の周りでそういった関係を公に打ち明けている人に心当たりがなく、時事的な問題として頭の片隅にはあった。
まさかこうして、紫乃自身がそういった対象になるのは思いもよらず。
ただ、検索に引っかかるのは仲の良い友達からが多い。血の繋がった実の妹からというのは少数どころか、稀なことなのかと考えてしまう。
「っ!?」
項目欄をタップして画面をスクロール、その記事を読み終えたらまた別のモノへ。そんなことをしばらく繰り返していた紫乃は不意に手を止め、顎に手を当てて眉間にシワを寄せた。
「莉乃と……私が……」
R指定の入る画像が不意に広告として流れてきて、瞬時にブラウザバック。
だけど、紫乃には答えを見出すためのキッカケとなった。
「しー姉さん、ご飯だよ」
「い、今行くわ!」
気づけば水族館から帰ってきて数時間、外はすっかり暗くなっていた。紫乃の部屋を照らす光源はスマホだけで、普段から予習復習している時間同等と机に向かっていたようだ。
決して疚しいことをしていたわけではない紫乃ではなかったが、莉乃からの扉越しに声をかけられたことに慌てて席を立った。
「……ど、どうしたの?」
「な、何でもないわ。少し、勉強に集中していたの」
「ごめん、邪魔しちゃった?」
「そんなことないわ。それよりご飯にしましょ」
不安げに視線を彷徨わせる莉乃に、紫乃は首を横に振ってからリビングへと向かった。
漂う匂いは紫乃の空腹をそそってきて、席に着くと莉乃がそそくさと料理を運んでくる。
「それくらい手伝うわよ」
「いいの、私がしたいだけだから」
莉乃がキッチンとを数往復、ようやく夕飯が食卓に並んだ。
メインは唐揚げで、小皿にはゴロゴロとしたマッシュポテト。他にもお浸しが添えられ、白米と大根の味噌汁。
「デザートもあるから」
「……本当に豪華ね」
莉乃からすれば有言実行なのだろうが、紫乃としてはただただ驚いてしまう。
(ホント、莉乃って料理が得意なのね)
どんなデザートが待っているのかと興味を抱きつつ、紫乃は両手を合わせた。
これといって話題にも困らず、主には今日でかけた水族館での事ばかり。
クラゲの一生水中を揺蕩う光景、次に広がっていたのは様々な魚が泳ぐ巨大な水槽。小さな子供達がはしゃいでいるのを見ながら、紫乃も少しだけ気分が高揚した。ただ莉乃は、料理をする観点で見てしまっていたらしい。
そのことに笑い、耐えることのない話題が続いた。
それは夕飯を食べ終えて、デザートのプリンに舌鼓を打ちながらも話が尽きない。
「ご馳走さま、莉乃。今日も美味しかったわ」
けど、楽しい時間は過ぎるのが早い。
「お風呂沸いてるから、先良いよ」
席を立つ紫乃に、莉乃は目もくれず食器を洗う。
最初は食器くらいはと申し出たが、譲る姿勢をとらなかった。
そんな莉乃の姿に、紫乃はふと目を細める。
「……たまには、一緒に入る?」
「へぇ?」
驚きを露わにした莉乃に、咄嗟に背中を向ける。
「ご、ごめんなさい、忘れてっ!」
慌てたようにリビングを後に、紫乃は両頬に手を当てる。
(な、なに口走ってるのよ私!?)
まるで風邪でも引いたかのように熱が帯びていくのを感じつつ、自室へと駆け込んだ。それから気持ちが落ち着くまでベッドの中に潜り、お風呂場に向かう足取りが重い。
悶々とした気持ちを抱えながら、紫乃の一日が終わっていった。




