第四話:理想と現実の狭間は、なかなかに埋められない
新学期が始まって一か月が経とうとしていた。中等部から高等部への進級、もとい入学を果たした生徒達は初々しさを残しながら、新たな環境を楽しんでいる。他にも在校していた生徒達は先輩となり、顔つきや振る舞いに大人っぽさが見受けられた。
それは莉乃にも当てはまり、環境の変化が訪れていた。
「莉乃、少なくとも服装は正しなさい」
「そうは言うけど、これが私だし」
隣を歩く紫乃からの指摘に、莉乃はちょっとだけ拗ねた態度をとってみせる。
決して紫乃を困らせたくてやっているわけではなく、これだけは絶対に譲れない莉乃のアイデンティティ。
姉である生徒会長の隣を、余裕で校則を破る妹。
「まぁまぁ、そんな硬いことは言いこなしでしょ」
「……貴女ねぇ」
ここ最近と、朝から生徒会の仕事がなければ一緒に登校するようになった五百瀬姉妹。
それについてくる、紫乃の親友である班目咲玖。
(……なんなのこの女、しー姉さんに馴れ馴れしすぎる)
頭の片隅にリスト化されている、紫乃の交友関係リスト。ちょっとした目の上にあるたんこぶのように感じつつ、あまり邪険にし過ぎると紫乃を困らせてしまう。
何よりも、そこまで狭量のない莉乃じゃない。
よく制服点検の際に莉乃と一緒にいて、風紀委員長とは思えないほどに校則に緩い。むしろ率先と校則を破りに行き、莉乃の在り方に一つの共感を抱いている様子が見られる。
「てか、この組み合わせって……」
「ほんとぉ~不思議だよねぇ~」
少し後ろをついてくる杏莉と未華も、未だ戸惑い気味の様子で一緒に登校している。
「城下さんと藤宮さんもだけど、言っても無駄そうね」
「さぁ~せん」
「てかぁ~半ば自由だしぃ~」
チラリと二人へと視線を向ける紫乃は、露骨にため息をついてみせた。
(ごめんね、しー姉さん。本当に困らせたいわけじゃないだ……)
内心で謝りながらも、莉乃も服装を正そうとしない。
そんな異色な組み合わせの一行は逢籃学院へと向かって行き、目と鼻の先に校門がみえてくる。
「五百瀬生徒会長!!」
その行く手を阻むように、一人の男子生徒が立ち塞がる。
短く切りそろえられた髪をワックスで固め、どこか勝ち気に吊り上がる目じり。ピシッと制服を着こなす好青年は、紫乃を目の前に腰を九十度に曲げて右手を差し出した。
「中等部の頃から好きでしたっ! 俺と付き合ってください!!」
「えっ……」
あまりの出来事に、莉乃の思考は停止するのだった。




