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姉妹のてぇてぇしか勝たん!  作者: 眠れない子羊
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第三話:好きと嫌いの裏返し~ほんの些細なすれ違いでも一大事~11


 生徒会室を後に、莉乃は紫乃と少しだけ言葉を交わした。


「お、戻ってきた」


「ん~何かいいことでもあったぁ~」


「そんなことは、なくなくもないかなぁ~」


 お弁当を大事そうに抱えて教室に戻ってきた莉乃の様子に、さすがに杏莉と未華は気づかない程の短い付き合いじゃない。


 だからといって無粋な質問で、莉乃の満たされている今を邪魔しない。


「とりあえずお昼ご飯は食べなよ」


「そうそぉ~午後とか持たないよぉ~」


 すでに食べ終わっている杏莉と未華達は、ただただ莉乃の事を眺める。


(しー姉さんに感謝された。それにお弁当も美味しいって! ああ、頑張ってきて良かったなぁ~けどけど、ここで手を抜いてられないぞ! 帰ったらレシピ本読み漁って、もう私無しで生きれない程に胃袋を掴んで……)


「なあ未華」


「……ん~」


「この様子は、不味くね?」


「幸せそうだよねぇ~」


 莉乃の口角をだらしなく緩み切り、隙間から漏れる低い笑う声。微かに両肩も上下に揺らし、お弁当箱を大事そうに両手で握りしめている。


(それにまさかね。……しー姉さんから一緒に帰ろうだなんて、素っ気なく返しちゃったけど、嫌な気持ちにさせてないかな? 本当は嬉しいんだよって伝えられたら良かったんだろうけどさ、幸せ過ぎるよ! ……どうしよう私、生きて帰れるかな!?)


「未華よぉ」


「ダメだよぉ~邪魔しちゃぁ~」


「いや、だからって……」


 さすがにお昼休みも終わりが近づき、クラスメイト達がチラホラと戻ってくる。


 そんな中で自分の席に着く莉乃は両膝を擦り合わせるように身動ぎをし、まるでお手洗いでも我慢している様子に映るだろう。


(待ってよ、しー姉さんと一緒に帰る? そんなのちょっとしたデートじゃん! うわっ最悪、今日のメイクで隣歩いてガッカリされないかな……。もしくはいったん家に帰ってから直して戻ってくる? それも有りだな……)


「お~い、さすがに戻ってこぉ~い」


「今の莉乃、ただの変質者だよねぇ~」


「わかってるなら手伝えよ」


「え~」


 不満を口にする未華に、杏莉は少しだけ語気を強めてしまう。


 お昼休みが終わる五分前。まだ時間に余裕はあるというのにクラスメイト達は席に着き、近くの友人達と談笑していた。


 それでもチラリと向ける、莉乃への視線。


 同性異性問わずに危惧するような、ヤバい奴へと注ぐ警戒する眼差し。その近くにいる杏莉や未華にも向けられ、同族だと思われかねない。


 ただでさえ服装で目立ち、周囲から浮いている一集団。


 他にも個々で莉乃は紫乃の妹。杏莉は女子バスケ部のエースで、男子生徒然とした見た目。未華に限っては高等部からの外部受験組で頭も切れ、自らの可愛さを自負しながら男子生徒達に接するため、女生徒の敵が多い。


 様々な個性を有する集まりであり、異色の組み合わせに色眼鏡も向けられる。


 もしこれ以上莉乃が妄想の世界に浸り続けると、今後のグループとしての学院生活に支障を及ぼしかねない。


「未華としてはぁ~どうでもいいというかぁ~」


「薄情なヤツだな!?」


 どうにかしようとする杏莉とは対照的に、未華は他人事のように我関せず。周囲から向けられる男子生徒の視線に気づき、微笑みを浮かべて小さく手を左右に振ってあげる。


 それだけで男子生徒達は表情をギョッとさせながらも、興奮した様子で議論をしていく。


 その様子を満足そうに眺める未華に、杏莉は短く息を吐いた。


「それ、いい加減止めなよ。恨まれるよ」


「事実ぅ~未華って可愛いじゃん?」


「まぁ、そうだけどさ……」


 杏莉にとって限りなくない、女性的な部分。そんな愛嬌だったり、守りたいと思わせる庇護欲を周囲へと振舞う未華。


 どんな目的があるのかわからない杏莉ではあるが、そういった関係で苦情を貰う役目を追っていた。


 困ったように頭をかく杏莉に、未華は見上げる視線を向ける。


「まぁあ~杏莉に頼みじゃ仕方ないかぁ~」


「ん?」


 未華からの妙なやる気に、杏莉は眉根を寄せる。


 そんな二人のやり取りすら、莉乃の耳には入っていなかった。


(一緒に、一緒に……一緒に帰るだけ……か、帰るだけなんだよね? なんか、それはそれで勿体ないというか……ちょっとくらい寄り道……校則を破らなければ問題ないよね? ああ、けど勉強の予習復習とかあるか……私なんかの我儘に付き合わせるのも――)


「あ、会長だ」


「っ!?」


 未華の一言に、莉乃は顔をあげた。


「ほら、これで解決」


「おぅ……すげーな」


「もっと褒めてもいいんだよ?」


「え、ど、どこ?」


 どこか誇らしげに鼻を鳴らす未華と若干引き気味の杏莉をよそに、莉乃は仕切りに周囲へと視線を動かす。


 ただそこには、お昼休みを終えて戻ってきたクラスメイト達がいる。


「莉乃、そろそろ授業始まるか準備しとけよ」


「えっ?」


 いい加減時間切れで、杏莉が保有していた席の主が戻って来ている。軽く謝るように席を立つ杏莉。


「授業の途中、お腹なったらハズイよねぇ~」


 杏莉に倣うように未華は揶揄いの笑みを浮かべ、自分達の席へと戻っていく。


「ちょっと、二人とも……」


 独り置いてきぼりにされる莉乃だったが、ようやく向けられていた周囲の視線に気づく。


(やばっ、もしかして私……変なこととか口走ってた?)


 そんな疑問に誰かが答えてくれるわけでもなく、授業の開始を知らせる予鈴が鳴った。



「ううぅ~何度かお腹なりかけた……」


 お昼ご飯を食べ損ねた莉乃は、どうにかこうにか午後の授業を終えていた。


 机に突っ伏す莉乃のもとに集まる杏莉と未華。


「いや、食べる時間はあったはずだぞ?」


「ほらぁ~莉乃は忙しかったからぁ~」


「うっ」


 まるで莉乃の心を見透かしたような口ぶりに、眉間にシワが寄ってしまう。


「じゃ、私は部活あるから」


「杏莉は元気だねぇ~」


「……いや、学校に来てやることって部活以外になくね?」


「……それはそれでどうなのよ」


 大きめなバックを背負う杏莉を見送り、残される莉乃と未華。


「未華の方はどうする?」


 紫乃と一緒に帰る約束をした末、いつ生徒会が終わるかわからない。だから放課後という持て余した時間を一人で過ごすのは、莉乃からすれば退屈でしょうがない。


 そんな退屈な時間を一緒に過ごしてくれる仲間を求め、淡い期待を未華へと向ける。


「あ、ごめぇ~ん。未華ぁ~これから遊びに誘われてるんだぁ~」


「……だよね」


 莉乃の思惑はあっさりと砕かれ、教室の外から未華を呼ぶ声。


「……また違う男子」


「一人くらい紹介しようかぁ?」


「い、いいよ……」


 首を横に振る莉乃に対して、未華は短く息を吐く。


「そんなんだとぉ~いつまでも彼氏、できないよぉ?」


 どこか挑発するような未華の視線だったが、莉乃は乗ることはしない。


「私は未華みたく器用にできないよ」


「そんなに難しく考えなくてもいんじゃない?」


 廊下で騒がしくなる男子生徒達にチラリと視線を向け、未華は小さく手を振る。


「じゃ、待たせるの悪いから」


「うん、また明日」


 鞄を手にして教室を後にする未華を、男子生徒達は待ってましたかのように声音をワントーン上げて出迎える。


 まるで逆ハーレムの光景を周囲に見せつけ、未華が引きつれる一行は去っていく。


「別に彼氏とか、いらないし」


 決して強がりでもなく、莉乃が普段から抱く本音。


 第一に好意を寄せる相手は既にいて、実らない恋心だと知っている。


 少しだけ心を荒ませる莉乃だったが、気分を入れ替えるために視線を窓辺に向けた。


 いつもは見ない放課後の光景をぼんやりと眺め、どこから聞こえてくる金管楽器の音色。そこに運動部の声が合わさり、音のズレた合唱会が始まりだす。


(今日の夕飯、どうしよっかな……)


 次第に静まりだす教室に莉乃は一人、紫乃が下校するまでの時間を過ごした。



「莉乃、お待たせ」


「う、ううん。大丈夫だよ」


 それから一時間もしないで莉乃の教室に姿を見せた紫乃。


 どこか焦った様子の紫乃に、莉乃は不思議そうな表情を浮かべる。


「やっぱり忙しいそう?」


 せっかく一緒に帰る約束をしたにもかかわらず、急な生徒会の用事が出来たのかと勘ぐってしまう。


「いいえ、違うの」


 だが、そんな莉乃の予感を一転させる。


 首を左右に振った紫乃は、言葉を探るように黙り込む。


 そして数秒と経ち、ようやく口を開く。


「一緒に帰る約束をしておいて気づいたのよ。どこで待ち合わせるのかって。あと、あまり莉乃が乗り気じゃなさそうだったから、残っているかもわからなかったの」


「……もしかして、それで探し回ってくれてた?」


「ええ」


 意外な紫乃の一面に、莉乃の方も黙り込んでしまう。


(しー姉さんが私のことを探し回ってくれてたぁ!?)


 叫びたくなる喜びをどうにか堪え、莉乃は机の脇にぶら下げている鞄に手を伸ばす。


「確かにそうだけど、連絡くれればいいのに」


 授業中であれ、莉乃は杏莉や未華達とトークアプリで会話をしている。内容は本当に些細なことで、まったく授業に関係ないことばかり。


 だから常にスマホの電源は入っている。


「学院内での使用は認められていないはずよ」


「……あ~そう……だね……」


 いかにも紫乃らしい言い分に、莉乃はただただお茶を濁すしかない。


「その様子だと莉乃、電源を入れてるわね?」


「ほ、ほら、放課後だし授業中じゃないよ!?」


 疑念を抱く紫乃の眼差しに、莉乃はスマホをしまうポケットを庇ってしまう。


 その反応に、紫乃は肩を竦めた。


「まあ、いいわ。……帰りましょうか」


「う、うん」


 周囲に他の生徒もいないのもあって、誰も疑問を抱かない姉妹の言い争い。明らかに姉である紫乃に軍配が上がるのだが、莉乃はそれでいいと思っている。


(そういうとこも可愛いよ、しー姉さん!)


 教室を後にする紫乃の後を、莉乃は遅れて追いかけた。


 教室にチラホラと残る生徒達からの疑念を抱く視線を浴びながら昇降口へと。すれ違う教師も数名いて、紫乃は毅然とした態度で挨拶を交わす。


 それに倣う莉乃だったが、当然のように驚かれてしまう。


「莉乃、普段からどう過ごしているのよ」


「……いや、普通にだけど」


 上履きからローファーに履き替え、校門を潜った莉乃と紫乃。紫乃が周囲の反応に気づいてか、問うような視線を莉乃へと向ける。


 だが、心当たりのない莉乃。


 毎日の授業はサボるようなことはなく、無駄話をすることだってない。さっきのように廊下で教師とすれ違えば挨拶も欠かさず、辛うじて目をつけられるとすれば服装くらいのものだ。


(まぁ、しー姉さんと姉妹なのかって疑われるくらいだからね)


 気づけば学院の最寄り駅ついていて、改札を通り抜ける。


 駅のホームに並び立つも、莉乃と紫乃の間に会話はない。


 周囲では莉乃や紫乃達と同い年の学生が目立ち、飛び交う様々な会話で賑やか。


「……」


「……」


 横目でチラリと、紫乃を盗み見る。


(しー姉さんと、どんな会話すればいんだろう……)


 次の電車が来るまでの十数分、莉乃の気持ちは落ち着かない。


 それでも時間だけは流れていき、到着した電車に乗り込む。


「うっ……」


 乗り込んだ車内は普段利用する莉乃の時間以上に混み合っていて、尻込みしてしまう。


「莉乃、こっちよ」


「えっ」


 紫乃に右手を掴まれ、引っ張られるように車内の奥へ。


「ここなら多少はましよ」


「あ、ありがとう……」


 耳もとで囁かれる紫乃の声に、莉乃の背筋を駆け上がる謎の感覚。


(近い、近い! 近すぎるよしー姉さん!? 何なの! 今日って何かのご褒美ですか!? もしくは、この後もっと悪いことでもあるのかな!!!?)


 不規則に揺れる車内のせいもあって、時折近くなる紫乃との距離感。少し触れあうだけでも莉乃の心拍は高まり、ご褒美のような拷問の時間が続いた。


 最寄り駅に到着することには莉乃の心身ともに疲弊しきっていた。


「だ、大丈夫、莉乃」


「う、うん。これくらい平気……」


 駅のホームに降り立ち、莉乃はしばらく設置された椅子で休んでいた。


「飲み物買ってくるわね」


「大丈夫、大丈夫! 心配しすぎだってば」


 元気よく飛び跳ねてみせる莉乃に、どこか心配そうな眼差しを向ける紫乃だったが自身を納得させるように首を縦に振る。


「……そう、なら帰りましょうか」


「そうだね」


 ホームから階段を下って、改札を潜り抜ける。


(ホント、今日はなんだったんだろう……)


 莉乃は昨日と今日で起こった出来事を振り返ってしまう。


 昨日とほぼ同じ時間、ここで紫乃と帰りが一緒になった。特売の玉子と牛乳が欲しくて気になり、つい立ち寄ってしまおうかと心が揺らいだ。それを紫乃に止められたが、若干口論気味になってしまった。それは今朝のリビングでも同様で、つい感情的になって紫乃に当たってしまっている。


 そんな顔を合わせづらい中、お弁当を間違ってしまった事件。


 しかもお弁当のおかずで調べたレシピを試作した一品が今日に限って入れていたため、紫乃に味の有無を怖くて聞けていない。


 そして、さっきの車内。


 今までにないほど紫乃との距離が近く、高まる心臓の鼓動が聞かれていたら恥ずかしくて顔も合わせられない。


「……莉乃。一つ、良いかしら」


「っ!? ど、どうしたの」


 ぼんやりとしていた莉乃は、少し先で立ち止まる紫乃とぶつかりそうになった。


「やっぱり少し休んだ方が……」


「ほんとぉ~に大丈夫だから! ちょっと、夕飯何作ろうか考えてただけだからっ!」


 何より、紫乃が莉乃に対して優しすぎる。


 妙な早口になる莉乃に、紫乃はどこか釈然としない様子。


「ちょうどそのことで話そうと思ったの」


「な、何かリクエストでもある?」


 あまりにも初めてのことに、莉乃はつい身構えてしまう。


「いつも家の事を莉乃に任せっきりで、姉として申し訳ないと思っているの」


「それは、別に気にしてないけど……」


 あまり蒸し返されたくない話題に、莉乃は視線を逸らしてしまう。


 それでも紫乃は話を止めようとしない。


「私もいつも生徒会で忙しいわけでもないから、もしあれだったら買い出しくらいは付き合うわ」


「……っ!?」


 まさかの申し出に、莉乃は顔をあげていた。


「料理とか莉乃には敵わないけど、それくらいはできるわ。あと、お風呂掃除とかも」


「けど、勉強も忙しいでしょ?」


 特進コースに籍を置き、その学年トップに君臨し続ける紫乃。人知れず勉強に時間を割きながらも、生徒会長の業務もこなす。


 その多忙さを知っている莉乃。


「それはそうだけど、常に勉強をしてるわけじゃないわよ。ちょっとした息抜きだってするし、さすがに寝てもいるわ」


「……それでしー姉さんの負担にならないならいいけど」


 莉乃の本音からすれば、やはり家の事で紫乃の時間を割り裂いてほしくない。


 ただ、ひしひしと伝わってくる紫乃からの強い意志。


 一つのことをやろうと決めたら、有言実行し続ける姉だと知っている。


「なら、さっそくだけど今日とか付き合ってくれる?」


「ええ、付き合うわ」


 それを聞いて、紫乃の満足気な表情を浮かべる。


(もぉ~今日はどんなことが起きてもいい!!)


 それに内心で悶え苦しむ莉乃を、紫乃が知るよりもない。


「それで、今日の夕飯は何を作るつもりなの」


「せっかくだからしー姉さんのリクエスト聞かせてよ」


「急にそう言われると困るわね。莉乃が作るのは何でも美味しいし、今日のお弁当に入ってたささ身は、これからの夏にサッパリと食べられそうだったわ」


「ふ、ふ~ん」


 純粋に褒めてくれる紫乃に、莉乃の頬は緩んでにやけてしまう。


 気づけば隣り合うように紫乃と肩を並べて歩き、莉乃は浮足立った気持ちで帰路に就いた。

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