87話 新装備はド派手なのじゃ
魔法陣より現れし鎧。白金の美しい鎧は神々しい意匠を彫られており、肩当てや手甲、胸当てに純白の水晶が取り付けられている。宿りし神聖力は膨大なものであり、一般人でさえも一目見ればその力を感じ、畏れから跪こうとするだろう。
「いや、パワードスーツじゃろ。どう考えてもパワードスーツじゃろ」
ちょっと鎧が3メートルぐらいあるけど気のせいです。回路っぽい光のラインや、幾何学模様のチップがチカチカと光ったりしているけど鎧でーす。長大な砲が肩当てに取り付けられていたり、脚にミサイルポッドが装着されているけどね。
「鎧でーす。ウルゴスマンに相応しい鎧でーす」
半眼となってツッコミを入れてくるリムを無視して、ウルゴスは飛翔して手足を伸ばす。宙にて鎧の手足や胴体は開き、その中に吸い込まれるようにウルゴスは入る。ガションガションと鎧が閉じて、合体完了。
手足がパワードスーツとジョイントし、重装甲に覆われた安心感を与えてくる。装甲に包まれて闇に覆われた俺の視界が光りモニターが宙に表示されて外の様子を教えてくれる。
ゴスンと重々しい音をたてて床に降り立ち、駆動音を立てながら身構える。ガションと右手を伸ばして、左脚を曲げて半身となって、ウルゴスはポーズをとった。
「砲神ウルゴス見参!」
良い歳をしたおっさんはキラリンとバイザーを光らせて名乗りをあげた。正体バレがますますできなくなったおっさんだ。
しかし、宿したパワードスーツ、ゲホンゲホン、鎧の力は本物だ。ただのコスプレおっさんではない。白金の鎧がウィィンと駆動音を立ててかっこいい。
「ウルゴスマンだ!」
面白そうじゃと、ノリノリとなって小悪魔も片手をあげて、ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ。うん、良いんだ、ウルゴスマンで。
砲天使の鎧。力天使の手甲に続き奇跡さんに作って貰った鎧である。ちなみに500万ポイントしました。
『砲天使の鎧 攻撃力+500。防御力+500。ホーリーミサイル、ホーリーキャノン、ホーリービーム搭載。特殊技使用可能。1日に10分使用可能』
何でもホーリーをつければ良いと奇跡さんは考えていると思われます。
「本来はメフィストフェレスに食らわす予定であったが、ここで使用といこう」
「また回避されるぞ?」
いくら攻撃をしても、反発する磁石のように神聖力による攻撃を回避するのがレギオンの特徴だ。倒すには魔力が必要ということだろう。何しろ近接攻撃をすると分裂して逃げちゃうしね。だがそれは想定済みだ。
「こういった敵を倒せるのが、この砲神の鎧の特徴だ」
「ガンタイプモードのなのはわかるが……では、お手並みを見せてもらうのじゃ」
ドアの影で応援する仮称ヒロイン。ワクワクと目を輝かして期待に満ちている。手伝う気は全くないらしい。小悪魔め。
『呪炎』
合体の最中も空気を読まずに攻撃をしてくるレギオンたち。ここはなんだなんだと合体シーンを眺めているのが空気を読める人なのにね。
だが、先程までは僅かなダメージを俺に与えてきた炎だが、砲神モードには通じない。重装甲は炎を弾き、もはや1ダメージも俺に与えるのは不可能だ。
「さて、ではあっさりと倒しておきますかね」
脚を地面に押しつけて身構える。脚から地面に鎧を固定するアンカーが飛び出すとガシンと食い込む。肩当てに搭載されているキャノンが砲口を傾けて、脚のミサイルポッドの蓋が開かれる。手甲の水晶が煌き、胸元の光のラインが光り輝く。
「特殊攻撃発動!」
『神聖豪雨砲陣』
鎧が爆発するように輝くと、ウルゴスの前に複数の魔法陣が描かれる。魔法陣が組み合わされて、さらに巨大な魔法陣へと変わっていく。
「ファイヤー!」
キャノンから砲弾が放たれて、手甲から雨のようにレーザーが飛び出し、ミサイルポッドからミサイルが撃たれる。最後に胸から極太のビームが撃ち放たれた。
それらの攻撃は全て魔法陣へと吸い込まれて消えていき、魔法陣の光は盲目になるほどの閃光を放つと、全ての攻撃はビームへと変換されて豪雨のように敵へと向かう。
数百、数千、数万のビーム弾は空間を埋め尽くし、レギオンたちへと降り注ぐ。レギオンたちは呪炎により迎撃しようとするが、数十、数百は打ち消すが、数千、数万の弾丸には対抗できない。しかし対抗できなくとも、先程と同じように神聖力に反応して、弾丸が命中する寸前に反発して躱してしまった。
だが、躱した先にもビームは存在し、さらに回避しようとするがその先にもビームはあった。ビームの嵐に覆われて、レギオンは震えるように身体を小刻みに揺らすだけで身動きがとれなくなり、遂にはビームが命中し灰へと変わっていくのてあった。
もはや分裂してもレギオンたちは豪雨のようなビームを躱すことはできずに、再び倒されていく。不気味に蠢動する肉塊は次々と撃ち落とされて、純白のビームに覆われて、その全てが駆逐されるのであった。
モニターに映る敵が全て滅んだことを指し示し、砲神の鎧は魔法陣を打ち消すと冷却のための排気が行われてその攻撃を終了した。
キュウゥンと駆動音が止み、パワードスーツは装甲が開きウルゴスは解放されて、トンと床に降り立つ。
「成敗完了とか決め台詞を決めた方が良いのではないかの」
戦闘が終わったようじゃと、悪魔の尻尾をゆらゆらと揺らしながら、ニヒヒとリムがやってくる。ウルゴスマンの決め台詞はさすがにいいや。
「しかし、飽和攻撃とは頭が良いの」
「だろ? この飽和攻撃は体術では回避しきれない。本来はメフィストフェレスに使用しようと思ってたんだけどね」
この攻撃は必ずメフィストフェレスの防御を貫いたはず。飽和攻撃にて討伐する予定だったんだけどなぁ、あの大悪魔は勘を利かして逃げてしまった。……なんらかのスキルではないかと推察しているけど。未来予知スキルとか、命の危機に発動する能力を持っていてもおかしくない。
「さて、ではこれで都心での戦闘は終わりかな?」
「うむ。地脈は後で探せば良いじゃろ」
出雲とリムは顔を見合わせてニコリと微笑むと、うんうんと頷き
「それじゃ逃げるかぁぁ」
「またおんぶー」
俺は駆け出し、リムが背中にへばりつく。タタタと高速で移動する。後ろからはゴゴゴと地響きが鳴り響いてきた。
「この技は地下で使うもんじゃないな。検証できて良かった」
「使う前からわかりきっていたがの」
必殺技を使ったことにより、地下は壁も床も大穴どころか、掘削されたように大きく削られていた。耐震されていても土台は吹き飛びなくなった。そりゃ、数万発の弾丸を撃ち込んだんだから当たり前だけどね。
天守閣に続き、地下も倒壊しちゃったようだ。どうやら違法建築であったのは間違いない。まったく悪魔というものは困ったものだ。
地面がひび割れて、床が壊れていく。金属製の天井がねじ曲がり欠片となって落ちてくる。
「ここは逃げるんだよぉぉと叫ぶところじゃ」
「ボケてる場合か! 数万トンの瓦礫は俺でも死ぬぞ!」
結構広いぞ、この地下。自爆装置を押したつもりはなかったんだけど。
「仕方ないのぅ」
ピッと符を取り出すと、ぺいっと術を使用する。
『ヘイスト』
身体が軽くなり、さらに加速して駆け抜ける。ヘイストの効果は素晴らしい。メフィストフェレスの時に使っていたら通じたかというと微妙だが、移動には充分だ。
入ってきた穴まで辿り着くと、よいせと脱出した。ガシャンガシャンと金属音を鳴らして、危険そうな一帯から脱出する。瓦礫となっていた建物群が崩壊した地下に沈んでいき、砂煙が巻き起こる。すててててと逃げ出し、背後へと振り返ると、なにもかも全て地に沈んで消えていた。
そうしてなにもかもが沈んでいった中で光の柱が生まれて、魔王水晶が地より姿を現す。これまでの魔王水晶とは違い、10メートルはある漆黒の巨大な水晶だ。なにこれ?
「関東の中心を走る地脈だからじゃろうな。魔王水晶自体もかなりの成長を遂げておる」
「なるほどねぇ」
浮いている魔王水晶へと近づき、軽くタッチする。魔王水晶は宿した魔力を俺に吸収される。膨大な魔力が俺の中へと入り込み、奇跡ポイントに変換されていく。
「ん?」
『奇跡ポイントを1100万取得しました』
だが様子が変だ。魔王水晶は灰に変わって完全に吸収した。次は地脈の魔力であったが、その量が違った。俺を覆い尽くし、雪崩の如く流れ込んでくる。
「む! ここは関東の中心、そして日本の首都として大量の魔力を蓄えておる。いくら魔力を吸収できるそなたでも全てを吸収するのは危険じゃ」
真剣な表情でリムが忠告してくる。マジか。そういうパターンね。主人公が吸収しきれずに苦戦するタイプか。
『奇跡ポイント11億2560万ポイント取得しました』
ふしゅるると全ておっさん掃除機は吸い込んだ。あっさりと光の柱は消え去り、雪崩の如き魔力は吸収された。空気の読めないおっさんである。主人公には相応しくないおっさんであった。おっさん掃除機は吸収力が壊れている安物なのだ。
「………」
「くっ、吸収しきれないと言うのか」
胸を押さえて、おっさんは苦しむ。魔力を吸収しきれない感じを出さないと、真剣な表情からジト目に変わったリムの視線を受けきれない。
とりあえず蹲り、身体をプルプル震わせておく。苦しい。身体が裂けそうだ。魔力が膨大すぎる。
「………」
駄目そうだ……。
「婆さんや、ご飯はまだかのぅ」
「お爺さんや。今、食べたばかりでしょ」
手をプルプルと震わせて、ボケに走った出雲にリムは仕方ないのぅと乗ってくれた。この吸収力操れないんだから仕方ないでしょ、お婆ちゃんや。
もう帰ろうよと、漫才を終えたので帰ろうと思ったが
『関東の中心の地脈を支配しました。関東全域の地脈を支配しますか?』
「おぉ………地域どころか中心部を支配しても、他の地脈を支配できるのか。了承っと」
ピコンとボードをタッチすると、関東北東部を支配したように、他の地域から地脈の、そして魔王水晶の魔力が流れ込んでくる。
『奇跡ポイントを2億7440万取得しました』
『関東一帯を支配しました』
「ふむ……これはデカイな」
「首都じゃからの。他にこれだけの地域は近畿地方じゃろ。やはり人口格差は大きいかの……ここまで早く吸収し、支配するとは思わなかったのじゃ。その支配能力はちとチートすぎると思うぞ」
億単位でポイントが取得終了とはね。リムは俺が関東をあっさりと支配したことにかなり不服そうだけど、知らん。そういう能力なのが奇跡さんなのだ。
「さて、では元魔王たちへの対処だね」
「いきなり防ぐこともできずに魔王水晶を奪われて元魔王に堕ちた悪魔たちには同情しかないが、またトニーに倒させるのかの?」
今度は半年ぐらい旅に出そうなトニーである。だが、俺はリムの問いにかぶりを振って否定する。
「倒すのは面倒くさい。それよりも招待しようじゃないか」
「のこのこと現れるとは思わんぞ?」
リムが不思議そうにコテンと可愛らしく小首を傾げる。まぁ、たしかに殺されるのに顔を出す馬鹿はいないだろう。
だが問題はない。悪魔の性格からいって、この招待を断るやつはそこまでいないだろうさ。
「招待状は面白い内容にする予定だ」
ニヤリと笑って出雲は狡猾な笑みを浮かべるのであった。
なんにせよ、この都心への侵攻はウルゴス軍の勝利で終わったのである。




