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バッドエンドスタート 〜世界は魔界と化しました  作者: バッド
2章 地盤固め

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60話 軍に変わったらしいぜ

 ハクの激闘が始まった頃に、イーストワンから出発した自衛隊は援軍に来るはずの味方を川付近まで移動して待っていた。その数は100人足らず。橋下の土手にて、ゾンビたちを警戒しながら、待機している。


 陸自の幹部である老齢の男は苛々としながら、ジープのフロントに座って、指で腕を叩いていた。


「まだ来ねえのか?」


 背丈は普通ながらも鍛え抜いている身体は服がはちきればかりだ。強面の顔には眉に古傷が残っており、厳しそうな目つきと凶暴そうな口が威圧感を与えてくる。陸自の幹部よりも生え抜きの中間層階級辺りにいそうな男だ。名を市谷いちたにと言う。高官にしては珍しいタイプである。


「はっ! 無線によると、そろそろ見えてくるはずであります」


 敬礼をして、近くの部下が答えてくる。川にかかった橋には未だに誰かが来る様子は見えない。


「歩兵は輸送トラックに乗せて来ればいいものを! わざわざ歩かせてくるとは、俺は信じられないね。いつ悪魔が来るかもわからねぇんだ」


 この地域はゾンビだらけだ。残り少ない弾薬を消費し、ジープやバギーにて貴重なガソリンを使ってやってきたのだ。それもこれも援軍が来ると聞いて、やってきたのである。


「警戒しながら移動するとなると、やはり歩兵を展開させたいと思いますよ」


 危険ですしねと、部下が答えてくる。納得のいく理由だが、それでも少しでも早く来てほしいと市谷は苛立ってしまうのだ。


「避難民は限界だ。てめえら、来る途中で見てきただろ? 食べ物も飲み物も残り少ない」


「服も汚れて、洗うこともできませんし困りました。もううちの避難所は限界ですよ」


 暗い顔で部下も俯く。イーストワンから出ていく際に、見送ってくれた避難民の縋るような視線を思い出していた。疲れ切って、食べ物もなく、汚れて真っ黒な服を着ている避難民の姿は見ていて心が痛む。


 市谷はイーストワンの陸自の高官の中でも、正義感の高い老人だ。陸将補でありかなり偉い。他国なら少将といったところだ。陸将補という高官でありながら、自分に割り当てられた食料をこっそりと避難民たちに分けるほどに正義感は熱い。自分は老人だから、優先する者たちがいるのだと、子供たちを中心に分けていた。


 そんな市谷だからこそ、他の高官が外に出るのを恐れる中で、今回の出迎えに率先してやってきたのである。


「これで食料などの補給の目処が立ったら、泥沼のやつを殴ってやる」


 今回の選民思想のような格差を作る暮らしに市谷は大反対したが、結局は押し通されたのだ。だが、それは緊急事態だからだ。回復したら絶対に元に戻すと誓っていた。


「さすがは民主主義国家だよ。自分のことしか考えない奴らが上につけば、見事な独裁国家になるってもんだ」


「民主主義って、結局は力ある人間が政治家になるから独裁国家と変わらなくないですか?」


「結局、国ってのは変わらねーんだよ。偉い人間が生まれるシステムなんだから、どんな主義でも結局はあまり変わらねぇんじゃねぇか?」


「もしかしたら摂理なのかもしれませんね……あ、やってきたようですよ」


「ようやく来やがったか」


 部下が指差す先には、橋に入ってきた軍用ジープと兵士たちにホッと安堵の息を吐く。これでなんとかなるだろう。数台の装甲車が橋の半ばで停車し横付けする。歩兵たちはその後ろで、アサルトライフルを持ち警戒するように展開した。


「なんだ?」


 なぜ、そのような展開をするのか、不可解な気持ちで市谷は眉を顰めるが、油断しないためだろうと考えて、出迎えに橋へと入ると手を振る。


「こっちだ。待ってたぞ!」


 声をかけながら進むが、援軍の戦闘服が黒くなっており、違和感を感じる。この短期間にて、新しい戦闘服に変えたたのだろうか? それにしては趣味が悪い戦闘服だ。国民が見たら大反対してどこかの団体がファシズムだと騒ぎ始めるに違いない。


 だが、その様子は物資に困っている様子もない。ガソリンも潤沢にあるようで、違和感を押し潰して、市谷は部下と共に出迎える。


「あぁ〜、どうもどうも。お待たせして申し訳ない」


 先頭の戦車の上に乗って、まるで第二次世界大戦時のドイツ軍が着ていたような軍服を着た男が、高音の声音で声をかけてくると、ひらりと戦車から降り立つ。


「あぁ、市谷陸将補だ。よろしくな」


「これはこれはご挨拶ありがとうございます」


 仰々しく腰を折り曲げて、男は頭を下げてくる。やけに演技過剰の奴だなと思いながらも、市谷は話を続けることにする。今はそれどころではない。


「悪いが、積もる話はまだだ。こちらは食料、飲料水、医薬品その他が全て欠乏しているんだ。助けが必要なんだ。ああっと、あんたの名前は?」


「これは失礼をば。わたくし、魔王連合『唐傘』の魔王が一人。フェイスレスと申します」


 見かけは若く、軽薄そうな顔立ちの男のその言葉は驚きのものだった。


「魔王? 魔王だと!」


 予想外の挨拶に一瞬呆然となる市谷。しかし、すぐさま背中に担いだアサルトライフルを構えて、険しい顔で市谷は押し下がる。部下も慌てて、武器を構えて、警戒態勢をとって魔王へと銃口を向ける。


「おおっと。お知りになりませんでしたか。泥沼議員から聞いていない? 聞いていない者を出迎えに?」


「ぬ? どういうことだ?」


 その言葉にますます顔を険しく変えて、市谷が聞き返すが


「こういうことですよ。陸将補」


 ニヤニヤと嗤いながら、10人程の部下が銃口を向けてくる。醜悪な笑みを浮かべて、この話の流れに困惑する様子を見せていない。最初から知っていたのだとわかる態度だ。


「ぬ! 貴様ら………なんのつもりだ?」


「この時代、もう悪魔と組んだ方が頭が良いって良いことですよ」


「馬鹿なっ! お前ら、悪魔と組んだ人間の末路を知らないのか?」


 結局は悲惨な末路になる。それが悪魔と契約をした者の末路だと怒鳴るが無駄であった。


「古い古い。そんなことでどうするんですか? 周りを見てくださいよ、どこに人間がいます? 今や、この世はゾンビと悪魔だらけだ。人間の世界は終わりを告げたんですよ」


 ヘラヘラと嗤いながら、裏切った者たちはアサルトライフルを揺らす。他の部下たちは険しい表情でアサルトライフルの向きを変えて抵抗しようと考える。この至近距離での撃ち合いはお互いが死ぬことになるだろうに、裏切り者たちは余裕の態度だ。


「クハハハ。わかりましたぁ、マッドクレイは生贄を手土産にしたのですねぇ」


「生贄だと?」


「そのとおりぃ。苦しみ藻掻き死ぬ人間の魔力は美味ですからねぇ。あの男も乙なことをするものです」


 ヘラヘラと笑いながら、フェイスレスと名乗る男は道化のように両手をあげて、からかうように言ってくる。なんとも人の心を苛立たせる奴だと、顔を険しく変える市谷はトリガーに指をかけるが、相打ちになることを恐れて動くことはできない。


 その考えを予想しているのだろう、フェイスレスはニヤリと嗤いながら手を顔に添える。


「くふふ。どうでしょうか? 貴方たちも私たちの仲間になることを考えませんか? 今ならお一人様、人間を3人殺せば、仲間にして差し上げましょう、魔王軍『唐傘』に!」


「人を殺せば加入できる軍に入るつもりはない!」


「クハハハ。まぁ、そういうんだろうと思っていましたよ。アホみたいに正義感を胸に死んでいきなさい。この魔王『フェイスレス』の前で!」


「はっ! 何が魔王だ、そんな軽薄そうな顔で威厳も何もねぇ男が!」


 怒気を纏わせて、怒鳴る市谷におかしそうにクックと嗤いながら、手に添えていた顔をつるりと撫でる。


「軽薄そうな顔? それはこぉんな顔ですかぁ〜」


「む! 貴様………その顔は!」


 市谷がフェイスレスの顔を見て唸る。その態度に心底楽しそうに嗤うフェイスレス。


「このご時世に驚いてくれてありがとうございます。そう、わたくしこそが妖怪の有名人。『のっぺらぼう』です」


 その顔には目も鼻も口もなかった。口もないのに声が聞こえてくるのが不気味であった。


 有名すぎる有名人。妖怪の中でも知らぬ者はいないだろう妖怪『のっぺらぼう』だった。


「いやぁ、今どき目鼻が無いだけで驚く人はいないですからねぇ。いやはや本当に嬉しいです」


「はっ。今どきの若い奴ならきっと写真に撮影して世間に笑い話として、広めるだろうからな」


 皮肉を口にしながら、市谷はのっぺらぼうを睨む。そのセリフに僅かにのっぺらぼうは身体を震わせると、見下すように胸を反らしてくる。


「そのとおりぃ。ムカつきますよね? ですが今やわたくしは魔王軍悪魔兵部門の魔王『フェイスレス』! ふふふ。この方たちは悪魔軍の兵士。人間でありながら栄えあるわたくしたちの配下になった者たち。それを率いるわたくし、のっぺらぼう! 今や人間を支配する魔王となったのですよ。クハハハ!」


「けっ。雑魚妖怪が成り上がって、調子に乗っているってところか、あぁん?」


「辞世の句にしては工夫がありませんね。それではさようなら」


 頭にきたのだろう。のっぺらぼうは顔を赤くして手をあげる。その合図を見て、悪魔兵となった元自衛隊員たちはアサルトライフルを構えて、装甲車の機銃を向けてきた。慌てて、裏切り者の自衛隊員たちはのっぺらぼうの方へと走って合流する。


 わざわざ合流するのをのっぺらぼうは待ってから、腕を下ろして皆殺しにしてやろうとニヤつく。その醜悪な愉しむ表情に、市谷は憎々しげに睨む。なんとか部下を逃がそうと、時間稼ぎに話しかけようとするが


 空から煙を吹き出して、何かが降ってきた。それは小さなミサイルのような物であった。


 カンカンと音をたてて、落ちてきた物は、勢いよく煙を吹き出す。同様に何発も同じように落ちてくると、煙を吹き出す。


「なっ! 何が起こったと言うのです!」


 驚くのっぺらぼうは煙に覆われて、生贄となるはずの自衛隊員たちが見えなくなり、混乱し叫ぶ。


「今のうちです。さぁ、逃げてください!」


 拡声器を通したと思われるノイズの入った声が響き、市谷は身を翻す。


「誰だか知らんがチャンスだ! お前ら、逃げるぞ!」


 アサルトライフルを肩に担いで、後退しながら指示を出す。味方は状況を理解して、急いで逃げ始める。


「なっ! 逃すか! 全員射殺しなさい!」


 煙に包まれて逃げようとする自衛隊員に怒りを覚えて、指示を出す。指示を受けて悪魔兵たちはアサルトライフルのトリガーに指をかけるが、極太の白光が目の前を通り過ぎる。


「ひ」

「ぎゃっ」

「何が」


 通り過ぎる白光は高熱を齎して、橋を融解させ、コンクリートを砕き、鉄骨をめくりあげる。人間は一瞬で燃え上がり、灰へと変わり、戦車は砲身が溶けて、装甲は炙られて剥がれていくと爆発していく。


「な、なんですかこれはァァ!」


 自らの体も高熱で炙られて痛みを感じ、のっぺらぼうは後方にジャンプして飛び退りながら叫ぶ。


 橋が白光により溶けて半ばから折れて崩れていくので、悪魔兵たちは慌てて、戦車や装甲車をバックさせる。


 そうして、川から巨人が飛沫をたてながら、飛び出して、橋へと降り立つのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] のっぺらぼう、海外版やホラゲー版ならかなり危険なのも多い妖怪ですな、本家だと釣りとセットで増殖か幻影に捉えるタイプだったっけ?どんな戦いになるのか楽しみですな。
[良い点]  自衛官にも真っ当な人材が♪キープできたらめんどくさい行政関係を押し付けれそうで何より(^ ^)  フェイスレスってかっくいい二つ名ですな(ノД`)まさかのっぺら坊とか思いませんわ、軍服…
[一言] パワードスーツ来たかな? 機械の大魔王の部下だし、マシーンな部下は欲しいですよね。 やっぱりロボはロマンです。
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