38話 強敵はさっさと倒しておこうぜ
変身ヒーローウルゴス君こと、出雲は今回は派手に出現しなかった。なぜなら、この獅子は強そうで油断できないからだ。この猫は、初見殺しの臭いがプンプンするんだよね。
グラトニーが戦っていなければ負けていたかもと思う。ありがとう、ありがとうグラトニー。君の活躍は決して忘れないと、出雲は空に浮かぶグラトニーの幻影に感謝した。
空に浮かぶグラトニーは、僕の犠牲程度で勝てるなら構いませんと、ニカリとナイスガイの笑みを浮かべていた。本物は、地面から身体を引き抜こうと脚をバタバタさせていたが、肉体のバランスが悪い餓鬼王は脱出できない模様。
脱出できないのは放置しておいて、グラトニーに感謝の念を送るには理由がある。必殺の一撃だと考えていたバイパーストライクの結果が予想と違ったからだ。
『刃鎧』
なんとプライドの毛皮が寄り集まって、胴体を螺旋のように覆い回転する冷たく鋭いブレードへと変化したのだ。胴体に刺した俺の腕へとブレードは切りかかり、引き戻すのに遅れたために、腕に深い傷がつく。
「切札を隠していたか」
目を細めて舌打ちする。結構なダメージを負っており、装甲が散っていく。
「ふっ。バックに大魔王とやらがいるのがわかっているのに、本気を出す馬鹿もおるまい」
牙を覗かせて、グルルと唸ると、プライドは俺の周りを駆けて、切り刻もうとしてくる。
『刃竜巻』
俺の周りを竜巻のように駆け回り、ブレードを回転させて攻撃をしてくる。掠るだけで、装甲が切られて、ダメージが蓄積されていく。
「悪魔1の技の使い手である我と戦ったことを後悔せよ! そら、貴様の自慢の装甲がどんどん剥がれていくぞ」
「ふむ、たしかに切れ味は鋭いようだな」
駆け回りながら、高慢な物言いでプライドが俺の金色の装甲が剥がれていく様子を見て嗤ってくる。プライドのブレードで破壊され、キラキラといかにも硬そうな装甲が宙に舞う。うん、段ボール並みの硬さだとは思わんわな。今度鎧を奇跡で交換しようっと。
得意げなプライドへと、夜叉にマナを込めて武技を使用する。
『闘気剣』
手に持つ小剣に純白のオーラが覆われて、剣身が2メートル程伸びる。そのまま横に構えて迫るプライドの軌道に置く。攻撃力100の小剣ならば、プライドの毛皮が変化したブレードを破壊できるはず。
「ふっ、単純だな」
だが、プライドは夜叉を前に、タンと床を蹴るとその上を飛翔して躱してしまう。床に着くと同時に縦に後ろ回転しながら爪を繰り出す。
「器用だな」
「まだまだ、我の技の冴えはここからだ」
腰を屈めて飛び出し、縦回転にて迫るプライドの真下をスライディングでかいくぐる。躱されたプライドは床に着くと同時に、その身体を3体に分裂させて、正面と左右から攻めてきた。
『トライアングルアタック』
体重が減ったことによる攻撃力のダウンの代わりに速度を増したプライドたち。同時に攻撃をしてくると悟り、迎え撃つ。
「ふぅっ」
『ダッシュ』
呼気を整えて左から迫るチビプライドへと向き直り、脚にマナを込めて床を蹴る。一瞬の加速でチビプライドに間合いを詰めると、相手は軌道を変えて避けようとするが、遅すぎる反応だ。
クンと身体を加速させて、チビプライドの脚を狙い、横薙ぎに剣を振るう。闘気が俺の意思に反応し、剣身をさらに伸ばしてチビプライドの脚を斬る。
闘気により剣身を伸ばしても、短剣術扱いに適用されているので、問題はない。そして闘気は込めたマナ量により剣身をいくらでも伸ばせるのだ。
「くっ」
脚を斬られ、うめき声をあげてチビプライドはガクリと膝をつく。俺は切り返すと斜め下から胴体を斬り払おうとする。だが、胴体に命中する寸前にチビプライドは身体を砂へと変えて、斬撃を回避しようとしてきた。
『創水』
だが、それこそ俺の狙っていたことだった。神聖力たっぷりの水を砂と化したチビプライドにシャワーのようにかけてやる。攻撃法術ではなく、単なる水の創造は、威力はないがその分、水量はある。
「グォォ」
水を含み、泥のようになったチビプライドがなんとか身体を元に戻す。倒すことはできなくとも、砂への変化は防げるようだ。
びしょ濡れの濡れ鼠のようになったチビプライド。ブレードもなくなり、へたり込む。後ろから2体のチビプライドたちが、カバーに入ってくるが、振り向くことはせずに、濡れ鼠となったチビプライドへとタックル気味に突進すると、その尻尾を掴んで持ち上げる。
「むんっ!」
残りの2体へと尻尾を掴んだチビプライドを全力で振り回して、ぶつけて吹き飛ばす。ブレードによりお互いが傷つきながら、床を転がりプライドは再び一体化した。
「くっ、小癪な」
「同時攻撃には要注意だ」
「ならば、これはどうだ?」
『トランポリンウォール』
『ヘイスト』
俺の周りにプライドは反発力のある壁をいくつも作り出し、自らにヘイストを付与する。グラトニーを倒したように、俺にも同じ技を使おうとしてくるつもりだろう。
「我の攻撃を躱せるかな?」
緑のオーラを身体に纏わせて、プライドはトランポリンウォールへと高速で突進する。だが、その攻撃は既に見せて貰ったよ。
プライドがトランポリンウォールに体当たりを降る瞬間にリムへと思念を送る。
『リム!』
『うむ! 任せよ!』
『凍結符』
柱の影から符をリムは飛ばす。符はトランポリンウォールへと貼り付くと、一瞬のうちに凍らせてしまう。カチカチの氷の壁と凍りつかせたのた。
リムとこっそり作戦を練っていたのだ。トランポリンウォールを凍らせたら、かなり敵にダメージを与えることができるよねと。
「なにっ! グワッ!」
自分を跳ね飛ばしてくれるはずのトランポリンウォールが凍りつき、驚愕したプライドは慌てて突進を止めようとするが、ヘイストも付与されたその速さは止めることはできない。凍った壁に勢いよくぶつかり、強い衝撃を受けて仰け反った。
「追撃だ!」
俺は仰け反ったプライドの後ろから胴体を掴むと、振り回し、もう一度壁へとぶつける。激しい衝撃と共に、凍った壁が砕けて、プライドは氷壁の破片と共に床へと落ちる。くるりと俺は身体を縦回転させて、サマーソルトキックを食らわす。そのまま地に伏したプライドに、夜叉を構えてトドメを刺そうとする。
「グウッ! させるか!」
プライドは己の体を砂へと変えて逃げようとする。俺は既にマナ切れであるので、法術は使えない。なので、水は使えないが問題はない。砂化はボーナスチャンス到来なのだ。
神様ポーチから、あるアイテムを取り出す。それは手のひらより少し大きな氷の結晶であった。
「プレゼントだ」
砂となり逃げようとするプライド。霧や創水では、致命的なダメージを負うことはないと考えてリスクをとったのだろうが甘い。
氷の結晶を砂化したプライドに入れると同時に使用する。氷の結晶は光り輝くと、細かに割れて冷気を噴き出した。白い冷気が砂と化したプライドを包み込み、凍らせていく。
「こんな切札を!」
霧や創水とは違う、絶対零度かと思わせる極低温の冷気。砂と化したプライドは驚愕の声をあげて凍りつく。
『交換ポイント10万:南極の欠片。氷属性の攻撃力100の吹雪を5メートル範囲に巻き起こす』
効果範囲が狭いが、強力な攻撃アイテムを交換しておいたのだ。砂にはこうかがばつぐんだ。
これで終わりかなと、アイテム頼りの出雲は凍結したプライドを見る。
「まだまだだ! 我はこの程度ではやられぬ!」
プライドはマナを噴き出して対抗する。凍った体が溶けて、再び元の姿に戻っていく。
『奇跡ポイント300取得』
再生中の魔力は空気を漂うようで、出雲は吸収してしまうが、それでもプライドは獅子へと姿を取り戻した。まだ体力が残っていたようである。さすがは魔王というところだろうか。
「我の必殺技を受けられるか、ウルゴス!」
『空間障壁』
多少よろけながらも、宙にいくつもの半透明の壁を作り出すと、床を蹴り障壁をトントンと踏み台にして、空高くへと舞い上がった。
そうして、己に眠るマナを全て使い、空中に柱を作り出す。
5メートルは横幅がある柱が20本近く宙に創り出される。しかも全ての柱に巨大なブレードが蔓のように巻き付いており、グルグルと回転していた。その刃の幅は1メートルはあり、巻き込まれたら俺でも真っ二つにされそうだ。
『刃柱崩し』
宙に作り出した障壁を足場にして、俺を見下ろすと柱をプライドは落としてくる。なるほど、膨大なマナを消費するまさにプライド最後の必殺技なのだろう。回避できないように、周りに上手く配置してプライドは柱を落としてくる。
「ならば私も切り札を切らせてもらおう」
傍目からはウルゴスの宝石の瞳がキラリと輝いたように見えて、俺は両手を翳して切り札を神様ポーチから取り出す。
『力天使の小手』
片手だけで2メートルはある紅き機械腕がバチバチと紫電を発しながら空中から現れた。その装甲はルビーのように深く紅き色で、金属特有の光沢を返してきている。銀の歯車が組み合わさって、純白の光がラインとなって、機械腕全体に張り巡らせていた。
「その強大な神聖力は!」
プライドは機械腕から放たれる膨大な神聖力に瞠目して知らずその身体を恐怖で震わせる。今まで見たことのない強大な神聖力。悪魔はその姿を見るだけで恐怖に襲われるだろう武具。
「これが私の最後の武具。『力天使の小手』だ」
俺は機械腕に両手を入れて装備する。腕が収まると、ガシンとロックされて固定される。見かけと違い神聖力で作られているので、機械腕は軽い。
『交換ポイント100万:力天使の小手。攻撃力+300。1日に18秒間だけ使用可能。特殊技使用可能』
圧倒的な攻撃力。交換ポイントが高すぎて、ステータスを上げるのが難しい。なので、俺が考えたのが時間制限ありの武具だ。これが最適解とは思わないが、暫くはこれでいく予定。
「そなたの刃柱と私の小手がどちらが強いか試してみよう」
力天使の小手を装備した俺は拳を握り締めて、迫る刃柱にパンチを繰り出す。回転する刃と力天使の小手はぶつかりあい、されど刃はガラス細工のように砕け散り、数トンはあるだろう柱すらも、出雲の一撃で吹き飛ぶ。
さすがは攻撃力300。その戦闘力は如何に巨大でも物質化した柱ごときでは相手にならない。膨大な質量を持つ柱は、まるでマッチ棒のように軽々と飛んでいく。
力を込めて、俺は次々に落ちてくる柱を巨大な機械腕で殴り、上空へと吹き飛ばす。刃が回転している柱はプライドへと反対に飛んでいく。
「くっ! 跳ね返すとは、化け物め!」
まさか反対に跳ね返されるとは思っていなかったプライドは慌てて魔法を解除して消していく。だが、プライドは柱を消すことに集中して動きを止めてしまう。
俺はその隙を逃さずに機械腕をプライドへと向けて、特殊技を使用する。
『力天使パーンチ』
紅き機械腕にスラスターがガションと現れると、オーラの火を吹きながら発射された。風圧の壁を打ち破り、突風を巻き起こすと、プライドへと向かう。ネーミングが恥ずかしかったので、少し小声です。
「ウォォォ! 用意周到すぎるぞ、貴様ァァァァ!」
回避しようとしても、そうすると柱が消せないために切り刻まれてしまう。プライドはその動きを詰められていた。力天使パンチは途上の柱を吹き飛ばし、獅子の身体へと命中する。
プライドはその膨大な神聖力を纏った攻撃を受けて、身体が灰へと変わりながら吹き飛ばされる。機械腕はプライドの身体にめり込みながら空を飛んでいき、天井を貫き破壊するのであった。
天井が破壊され、ハラハラと灰が降り落ちる中で、日差しが射して傷だらけのウルゴスの身体を照らす。戦闘を見ていた人々は幻想的な光景に息を呑む。
『我はウルゴス。機械仕掛けの神。デウスオブマキナ。人よ、心せよ。善き願いにて我は神へと達し、悪しき願いにより大魔王となるであろう』
厳かな声で思念を人々に送り、出雲は莫大な奇跡ポイントを使い、勝利をするのであった。




