突然の留学生
◆鳴神 弓◆
お兄ちゃんの事を考えているうちに学校へ着いてしまった。
はぁー、朝練いやだなー。今日は集中できそうにない。
「弓君、おはよう。今日も袴が似合うね」
集中したいのに、出しゃばってくる主将。
邪魔なんだけど。
「おはようございます。いま集中したいんで……」
「ごめん、ごめん。後ろで見ているよ」
ふぅ、集中集中。
的を見て、絃を引く。
お兄ちゃん、今頃シープラさんと……。
――すぱぁぁん!
「あっ……」
「どうしたんだい? 集中できて無いようだね」
「すいません……。ちょっと家で色々とありまして」
どうしてもシープラさんの事が気になる。
お兄ちゃんと何してるんだろう。
どうして、今日にかぎって朝練なの?
「そっか、それで例の件は?」
「あ、個人レッスンの事ですか?」
「そう。夕方以降、ここで練習しないか? 弓君なら必ず上達する」
主将の手が私の肩に触れる。
気持ち悪い。私の体に気安く触らないでほしい。
触っていいのはお兄ちゃんだけなのに!
「か、考えておきます……」
「弓君には確か、兄さんがいたよね?」
「はい。それが?」
「もし、良かったら僕の事も兄さんと呼んでもいいんだよ?」
何を言っているの?
私のお兄ちゃんは世界に一人だけだよ?
間違っても主将を兄と呼ぶ事は無い。
そして、主将の手が私の髪を撫でてくる。
さ、触らないで!
「髪、こう結んだ方が妹っぽいよね……」
「そ、そうですか! わ、私そろそろ行きますね! 日直なので!」
今日の日直は私ではない。
嘘だ。早くこの場から逃げたい、私に触ってほしくない。
お兄ちゃん、助けてよ!
◆◇◆
「弓……。君のその姿、そそるね。その全てを僕の物にしたいよ。待っているよ、弓」
彼女が出て行ったあと、放置された矢を手に持ち一舐めする。
彼女の手で握っていた矢。ふふ、良いものを手に入れた。
手に入れた矢を回収し、自分のロッカーに入れる。
これは僕専用の矢にしておこう。
ん? なんだこの黒いのは?
誰か僕のロッカーに入れたのか?
「悪戯か? 全く、こんな幼稚な事を……」
突然動き出した黒い物体。
手のひら位のゼリーっぽい何かが顔めがけ飛んできた。
「う、うわぁぁぁ! な、何だこれ!」
黒いし、なんだか見ているだけで気持ち悪い!
そして、その黒いものが無理矢理口に入ってくる。
数分後、さっきまでそこにあった黒き物体。
だが、今はその姿も形も見当たらない。
「ふぅぅぅぅ。なかなか良い体だな。そしてモエルギ―もいい感じだ」
姿こそ変わらないが、何かが変わった。
赤くぼんやりと光る紅き瞳、そして試すように体を動かす。
「さぁ、狩りの始まりだ。妹萌えぇぇぇぇぇ!」
更衣室に響く男の声。
そして、袴のまま更衣室から出ていきどこかに向かって歩き始めた。
◆鳴神 翼◆
のぅぁぁぁ! 遅刻すんぜん!
あの銀髪のせいで遅れてしまったじゃないか!
でも、凛の髪が無事なら遅刻位別にいい気もするけど……。
いや、甘やかすのはやめよう。
あいつの正体だって良くわかっていないんだ。
まだ、気をゆるっしちゃダメ! 普通のラノベだったらすぐにハーレム展開なのに。
アイツはきっと危険人物だ。もしかしたら弓も危険な目に合うかもしれない。
何とか対策を立てないと……。
「おはようございます!」
ギリギリセーフかと思ったが、アウトだったらしい。
「はい、鳴神遅刻な。放課後残りだ」
ちくしょー! あと少しだったのに!
渋々自分の席に座り、窓の外を眺める
いい天気だ、絶好の昼寝日和だぜ!
俺の席は窓側一番後ろ。ある意味ベスポジだ。
だが、昨日まで隣に座っていた木村がいない。
席替えでもしたのか? 木村はなぜか廊下側に移動している。
「おーし、全員揃ったな! じゃぁホームルーム始めるぞー」
体育教師、三十八歳、女。独身だが、生徒には人気がある。
背は高めで、いつもポニーテール。服装は赤のジャージ。
そういえば、先生のジャージ以外の服って見た事無いぞ?
「今日は一人留学生を紹介する! みんな、仲良くしてくれ!」
額から嫌な汗が出る。
このタイミングで留学生。空いた隣の席。
ま、まさかとは思うけど……。
――ガララララ
ゆっくりと教壇に向かって歩く女の子。
クラスの中もざわざわとし始めた。
そりゃそうだ。見た事もない髪の色だしな。
「皆さん、はじめました! 私、シープラ=アス=テリスクといいます。よろしくお願いしますね!」
始めましたって、何を始めたの?
そもそも何その名前? いつからそんなに長くなったの?
「かわいい!」
「細い!」
「日本語うまーい!」
「スリーサイズは!」
色々と声が飛び交う。
なんでお前がここにいるんだぁ!
「ほらほら、騒がない。まだ日本に来て日が短いからな。みんな仲良くしてやってくれ。あと、席は鳴神の隣だ。教科書は新しいのが届くまで鳴神に見せてもらってくれ」
クラスメイトの視線が一斉に集まる。
いやいや、俺の反対側の奴だっているだろ?
なんで俺にだけそんな目を向けるんだ?
「はーい、鳴神さん! よろしくお願いしますねっ」
その作り笑顔はやめろ。
つか、俺の学校の制服どうやって手に入れたんだよ。
「では、一時間目は自習だ! 急に職員会議が入ってしまってな。えっと、鳴神!」
「はい?」
「シープラさんに校内を案内してやってくれ」
「断ったら?」
「遅刻したのは?」
「よろこんでやらさせていただきます」
もとはと言えば、こいつがいたから遅刻したのに!
そして、クラスメイトの視線が再び俺に集まる。
特に男子、そんな獣のような目で俺を睨むな!
俺以外の生徒にはプリントが配られている。
お、もしかして俺だけプリント免除?
それはラッキー!
「あの、鳴神さん?」
「なんだ?」
「あら、言葉使いが随分と……」
「うるさい。ほら、行くぞ」
俺は席を立って廊下に出る。
「あんっ、待ってくださいよぉ」
「その言葉使いやめろ!」
「そうですか? 第一印象とキャラ設定は重要ですよ?」
こうして俺はシープラに校内を案内する事になってしまった。
めんどくさいけど、プリントしなくていいなら、いいか……。
「ほら、初めはこっちだ」
「どこですか? 保健室のベッドに行っちゃいますか?」
「そんなところに行くかぁ!」
廊下を二人で歩く。
出来れば静かに歩きたいけど、そうもいかない。
はぁ、見た目は良いのに……。




