表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。  作者: 木山楽斗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/16

第10話 恐怖を覚えて

「な、何をやっているんですか! 早くその女を拘束しなさい!」

「し、しかし、このようなことができる魔法使いに対抗することなんて……」」

「馬鹿なことを言わないでください。それ程の数がいるというのに……」


 ニルーア様の言葉に、私を詰めた令嬢の片割れを含む魔法使い達は沈黙していた。

 曲がりなりにも王城で働ける程の力量はあるため、彼女達は理解しているのだろう。私に敵うはずはないと。

 ただ、そういったことに関しては素人であるニルーア様からしてみれば、数の優位を覆せるとは思えないのかもしれない。いや単に、彼女が強がっているだけだろうか。


「あなた達の仕事は、その女を従えることです。その仕事が果たせないというなら、あなた達なんてクビです。役立たずはこの国に必要ないということを、よく覚えておきなさい!」

「ク、クビだなんて……」


 ニルーア様の言葉を受けて、令嬢はこちらを向いた。

 彼女の目には、涙が浮かんでいる。私と戦いたくはないが、王女に逆らうこともできない。そんな板挟みの状況に、かなり精神が追い詰められているのだろう。

 流石に少々、可哀想かもしれない。ここは手早く石化させて、楽にさせてあげた方が良いだろうか。


「いやっ……」


 そう思って私が手の平を向けると、令嬢は後退った。

 彼女の後ろにいる魔法使い達もそうだ。完全に戦意を喪失している。

 それならこのまま、引き下がってもらいたい所だ。いくら私でも、この人数は流石に疲れる。引いてくれるなら、その方が絶対に良い。


「私と戦うというなら、覚悟してください。先程までは多少手加減していましたが、本気でいきますよ?」

「ほ、本気……」

「王女様に逆らっている訳ですからね。こっちは失うものなんて何もないということを、ご理解ください」

「……ひっ!」


 私の言葉に、令嬢は尻餅をついた。

 それから彼女は、素早く立ち上がり、ふらふらとしながらもその身を翻した。そのまま、私から離れるように駆けていく。

 その逃走を皮切りに、他の魔法使い達も後退し始めた。彼女達も、まちまちと身を翻している。この場から逃げ出そうとしているようだ。


「なっ! 逃げるなんて許しませんよ! 戻って来なさい! さもないと……!」

「む、無理です!」

「あんなのに勝てる訳ありません!」


 ニルーア様がいくら止めても、魔法使い達の足は止まらなかった。

 この辺境の村から、どこに逃げ出そうとしているのかはわからない。ただ彼女達は、これ以上私と対峙していたくはなかったようである。


「こ、こんなことが……」


 魔法使い達がいなくなったことによって、ニルーア様の味方はほとんどいなくなっていた。

 後は、付き人や御者くらいだろうか。その人達が力づくで私を連れて行ける訳もないし、もう打つ手などはないだろう。

 それなら、帰ってもらいたいものである。これ以上無駄な時間を過ごさせないで欲しい。


「ニルーア様、そろそろ諦めてください。私は、あなたが何もしなければ何かをするつもりはありません。ただこの村で、人並みの生活を続けられればそれで良いのです」

「この化け物が……あなたなんかに、人並みがありますか!」


 ニルーア様は、私に対してまたも罵倒の言葉を口にしていた。

 本当に、威勢だけは良い人だ。そういった点に関しては、ほんの少しだけ感心する。まだ心が折れていないのは、大したものだ。

 そんな彼女は、そこでその視線を泳がせた。そして彼女の視線は、一点に止まる。それは、私から少しずれた位置だ。


「そういえば、あなたは……」

「む……」


 彼女が視線を向けたのは、ラベルグ様だった。

 彼の顔を見て、王女様は笑っている。それは明らかに、何か悪事を思いついた顔だ。


「あなたは騎士団の一員でしたね。それも、ドルメア公爵家の隠し子の……」

「公爵家?」

「隠し子って……」


 ニルーア様は、ラベルグ様の身分を口にした。 

 その事実に、村の皆が少し騒ぎ始めた。ラベルグ様の事情は、隠していたことだからだ。

 それはニルーア様にとっても、予想外だったのだろう。彼女は目を丸めていた。ただ、すぐに笑みを作った。相も変わらず、下卑た笑みだ。


「あなたはこちら側ではありませんか。騎士団はお兄様がトップに立っています。それに曲りなりにもいとこでしょう? あなたには、私に協力する義務がある」

「……」

「見た所、その女と親しくしているようではありませんか。あなたなら連れて行くこともできるでしょう。さあ、早くその女を従えなさい。この私に頭を下げさせるのです!」


 ニルーア様は、ラベルグ様の立場を盾に命令を下そうとしていた。

 考えてみれば、彼は難しい立場である。騎士団としても、ドルメア公爵家の隠し子としても、王女には逆らい辛い立場だ。

 そんな彼が、私に襲い掛かってきたらどうしようか。私は少し焦っていた。ラベルグ様と一戦交えるなんて御免だ。できればそのようなことにはなって欲しくない。


 そう思って、私は隣に立つラベルグ様の顔を見た。

 彼は鋭い視線をニルーア様に向けている。その目には、迷いや憂いはない。どうやら彼の中では、既にどうするかは決まっているようだ。


「ニルーア殿下、私はあなたに従うつもりはありません」

「な、なんですって?」


 ラベルグ様は、端的に言葉を発した。その明確な拒絶に、ニルーア様は驚いている。

 私の方は、安心していた。ラベルグ様と敵対するのは、心情的に厳しいものだ。それが避けられたのは、幸いなことである。


「あなた、わかっているのですか? この私に逆らうということは、騎士団の一員でいられなくなるということです! それにあなたはドルメア公爵家の一員――身内と敵対するというなら、あなたは貴族でいられなくなります」

「元より、貴族の地位などというものに価値は感じておりません。騎士団から除名されることは残念ではありますが、だからといって私は誇りを失いたくはありません。あなたに従うことは騎士の道に反しています」

「騎士の道? そんな下らないもののために、今の地位を捨てるというのですか!」


 ニルーア様は、ラベルグ様に対して激昂していた。

 こんな人のせいでラベルグ様が騎士でなくなるというのは、残念なことだ。心が痛くなってくる。

 ただそれでも、彼は騎士としての誇りを忘れはしないだろう。例え肩書きがなかったとしても、彼は騎士であり続けるはずだ。


「あなたにはわからないことでしょう。しかし主君の間違いを正すのも、騎士の役目の一つだと心得ています。故に敢えて言わせていただきますが、もっと自分を省みた方が良い」

「こ、この私に説教しようというのですか? 薄汚い妾の子の分際で、一族の一員ぶらないでください!」


 ニルーア様は、滅茶苦茶なことを言っていた。

 ラベルグ様は、別に一族の一員として言葉を発した訳ではない。ただ騎士として、進言しただけである。

 それなのに彼のことを侮辱するニルーア様に、私は憤りを感じていた。しかしそれは、私だけではなかったようだ。


「さっきから聞いてりゃあ、なんだその言い分は」

「……え?」

「王女様だからって、そんなに言うなんてひどい話じゃないか」

「そうだ、そうだ。ひどいものじゃないか」

「フェルーナにも、ラベルグにも、あなたは身勝手なことを言って!」


 村の皆は、ニルーア様を口々に非難し始めていた。

 私やラベルグ様と親しい関係があった皆にとって、ニルーア様の言い分は不快なものだったのだろう。それが一気に爆発しているようだ。

 相手が王女であろうと、最早それは関係がない。皆、我慢の限界だったのだろう。その言葉に、ニルーア様は表情を歪めている。


「……こ、こんな村、滅ぼしてやります! フェルーナ、あなたのことも許しません。追い詰めて追い詰めて、私に逆らったことを後悔させてあげます!」


 ニルーア様は、最後にそれだけ言って後退していった。

 それはなんというか、敗走という他ないような気がする。その捨て台詞まで、なんとも不愉快なものだ。

 とはいえ、これからのことは考えておかなければならない。ニルーア様は本気だろう。それこそ騎士団などをけしかけてくるかもしれない。手を打っておかなければならないだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ