Prologue 『37』
勇者、ユースレス・ユートピアの活躍で闇の大魔王は討伐され、斯くしてユートピア王国は平和を取り戻したのであった。
しかし勇者は大魔王を倒した後の満身創痍な状態を仲間に狙われ、まんまと命を落とすはめになったのだ。
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「いやあ、まさか戦士に裏切られて殺されるとは!」
この世界より高次元の存在となった勇者は、大袈裟に肩を竦めて虚空に向かってタメ息をつく。
と、その時。
『勇者よ……』
どこからか暖かな響きの声が聞こえてきた。
「……ん?
君は誰だい?」
霊魂となった勇者の目の前に、ニコニコ笑う男が立っている。
『オーマイゴッド!
この私を知らないなんて本気かい?』
男は何度も何度もオーマイガーを繰り返している。
有名な人なのかもしれないな、でも話も進まないし、と考えた勇者は、男に向かって取り敢えず謝ることにした。
「ごめんごめん!
それで僕に何か用?」
『ハレルヤ!
まあ、世界を救ったのにこんな終わりじゃあ浮かばれないと思ってね。
異世界に今の体のまま生き返らせて転生させてあげよう』
得意気な男のどや顔に、勇者は苦笑いで答える
「え~、別に望んでないけど……!」
『ジーザスクライスト!』
男は大仰に頭を振ると、有無を言わさぬ口調で光る指先を勇者に向けた。
『つべこべ言わずに良いから行くんだ。
そしてあっちの世界の脅威……紫色の月を片付けて来ておくれ!』
「強制!?」
『それじゃあ頼んだよ、アーメン』
次の瞬間、勇者の視界が暗転する。
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目を覚ますと、見たことも無い建物が立ち並んでいた。
良く分からない乗り物が、良く分からない音を立てて信じられない速度で動いている。
「本当に異世界に送られたのか……なんだか、目茶苦茶なヤツだったな!」
苦笑いしながら天を仰ぐと。
空の上には……退治するべき、紫色の月が見える。
「ふむ!
よおし!
なんだかよくわかんないけど、さっさと経験値にしてやるぞ!」
ユートピアは意気も軒昂に聖剣を抜くと、渋谷のスクランブル交差点に突っ込んでいった。
……因みに勇者はこの5分後、国家権力に逮捕されることとなる。




