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Prologue 『37』

 勇者、ユースレス・ユートピアの活躍で闇の大魔王は討伐され、斯くしてユートピア王国は平和を取り戻したのであった。


 しかし勇者は大魔王を倒した後の満身創痍な状態を仲間に狙われ、まんまと命を落とすはめになったのだ。


##########


「いやあ、まさか戦士に裏切られて殺されるとは!」


 この世界より高次元の存在となった勇者は、大袈裟に肩を竦めて虚空に向かってタメ息をつく。

 と、その時。


『勇者よ……』


 どこからか暖かな響きの声が聞こえてきた。


「……ん?

 君は誰だい?」


 霊魂となった勇者の目の前に、ニコニコ笑う男が立っている。


『オーマイゴッド!

 この私を知らないなんて本気かい?』


 男は何度も何度もオーマイガーを繰り返している。

 有名な人なのかもしれないな、でも話も進まないし、と考えた勇者は、男に向かって取り敢えず謝ることにした。


「ごめんごめん!


 それで僕に何か用?」


『ハレルヤ!

 まあ、世界を救ったのにこんな終わりじゃあ浮かばれないと思ってね。

 異世界に今の体のまま生き返らせて転生させてあげよう』


 得意気な男のどや顔に、勇者は苦笑いで答える


「え~、別に望んでないけど……!」


『ジーザスクライスト!』


 男は大仰に頭を振ると、有無を言わさぬ口調で光る指先を勇者に向けた。


『つべこべ言わずに良いから行くんだ。

 そしてあっちの世界の脅威……紫色の月を片付けて来ておくれ!』


「強制!?」


『それじゃあ頼んだよ、アーメン』


 次の瞬間、勇者の視界が暗転する。


#########


 目を覚ますと、見たことも無い建物が立ち並んでいた。

 良く分からない乗り物が、良く分からない音を立てて信じられない速度で動いている。



「本当に異世界に送られたのか……なんだか、目茶苦茶なヤツだったな!」


 苦笑いしながら天を仰ぐと。

 空の上には……退治するべき、紫色の月が見える。


「ふむ!

 よおし!

 なんだかよくわかんないけど、さっさと経験値に(・・・・・・・・)してやるぞ(・・・・・)!」


 ユートピアは意気も軒昂に聖剣を抜くと、渋谷のスクランブル交差点に突っ込んでいった。


 ……因みに勇者はこの5分後、国家権力に逮捕されることとなる。

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