Prologue 『28』
船坂太は、仲間から不死身の鬼神と呼ばれる日本兵であった。
7回敵地に単騎特攻をかけ、7回死亡し、7回甦ったからである。
船坂太は、敵から大災害と呼ばれていた。
7回敵地に単騎特攻をかけ、7つの軍事的拠点を壊滅したからである。
船坂太は、自身を『ただの日本人』と称した。
『人より回復力があって助かった』とも付け加えて。
2017年某日、某病院にて。
111歳になった船坂は、人事不省の状態でベッドに横たわっていた。
かかっている病気は軽症を含めると100以上、命に関わる物だけでも10を数えるほどの致命的な状態で。
……彼は既に、5年間を生きていた。
「戦前生まれの生命力は、違うなあ」
周りに家族もスタッフもいないことを確認して、主治医は呟く。
「この血圧とこの脈拍で、どうしてこれだけ生きていけるんだ……?
他に何かしら臓器を隠し持ってるんじゃないか?」
医師がそんな非科学的なことをブツブツ呟いていると。
……窓の外に、紫色の月が、上がった。
「…………が」
「……へ?」
「ガアアアアアアアアアッ!!!」
「ひ、ひいいいい!?」
突然の大声に、医者は腰を抜かす。
医者の前に立ち尽くすのは。
生きているのも不思議な、老人であった。
「ベイテエエエイ、シスベエエエエシ!!!」
空気を送り込む管も、血圧を上げる点滴も引きちぎると。
船坂は、紫色の瞳を爛々と輝かせ、病室を飛び出した。
「……は、は、はああ!?
この血圧とこの脈拍で、どうして歩ける……いや、生きられるんだ!?」
医者は生物学的には死んでいるはずの老人の後ろ姿を、腰を抜かして見送っていた。
船坂太は、仲間から不死身の鬼神と呼ばれる日本兵であった。
同時に船坂太は、敵から大災害と呼ばれていた。
しかし、彼の本性は、ただの一日本人に過ぎない。
彼が病床から立ち上がれた理由はただ1つ。
戦後日本人が、進化の過程で捨てていった臓器。
……大和魂を持っていた……からである。
どこかで書きたかった、格好良い帝国軍人。
炎上系キャラは、これで終わり(多分)。




