表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/276

第95話 おじさん、敵の情報が集まる

 私が人気すぎる理由はいちごちゃんが教えてくれた。

 簡単にまとめるとこういうことらしい。


「――つまり、高等部の先輩方がよく私について言及するから、ネットで表立った活動をしていなくても、多くの人に認知されていた、と」

「そういうこと。他にも梢千代市で起こった騒動の渦中にだいたいいるから、あー、裏掲示板で観察対象になってる」

「観察対象に」


 ヲチスレの対象に選ばれたとは、嬉しいやら恥ずかしいやら。


「まあそういうのはどうでも良くてですね」

「どうでもいいの!?」

「私の知らない人が私の心に入り込む余地はないです」

「た、対応が急に大人ね。どうしたの?」

「中等部一年組の学力は大丈夫だと感じましたので、そろそろ越前後矢をどう倒すか議論した方がいいと思いまして。あとマジスタを相互フォローして欲しいです」

「ああ、うん。フォローする。そのためにアカウント設定を変えてくれる?」

「設定?」


 今度はマジスタのアカウント設定を教えてくれた。

 魔法少女専用に『支援者=観葉植物』というモードがあるらしく、言われたとおりに変更すると、十万フォロワーの表記が消え、名前の横に紫盾のマークが付いた。

 盾は本人の証で、色は所属陣営によって変わるようだ。


「これで貴方をフォローしてくれた魔法少女だけが分かるわ。私の応援もよろしく」

「分かりました。ありがとうございます。それで――」

「まあまあ。焦らない。まずは現状確認からよ」


 たしかにそうだ。


「何を確認するんですか?」

「夜見は魔法少女ランキングの順位、ちゃんと確認してる?」

「あ、いえ。全然」

「確認してみなさい。貴方だけ凄いことになってるから」


 ダント氏と確認。

 すると学力・魔法力がFのままにも関わらず、人気度がAを超えていた。

 ランキング順位は圏外から143001位にランクアップだ。


「話題性だけでランキングに入るなんて夜見は流石ね」

「14万3000人も魔法少女がいる!?」

「いるわよ。「世界滅亡の危機」に瀕する可能性の数だけ魔法少女は存在するわ」

「どこに!?」

「現代社会の中よ。聖ソレイユ女学院への通学を選ばず、在野で活動する子の方が圧倒的に多いのよ。そっちの方が卒業までに稼げるからね」

「そ、そうなんですか」


 私は呆気に取られた。

 学校に通わない方が正規ルートだったとは。

 ダント氏も縦に首を振る。


「そちらの道をオススメした方が良かったかも、と今の僕は思うモル」

「でも結果的に夜見は世界を救ったし、梢千代市内の異常が発覚したからいいのよ。で、越前後矢が所属する敵の全貌は――」

「ずいぶんと楽しそうやなあ」


 ガラガラ、と教室のドアが開く音。

 笑顔のおさげちゃんだ。完全に怒っている。

 私は恐怖で青ざめた。


「うちが席を外してる間にイチャつくなんて手癖がよろしおすなあ」

「お、お帰りなさいおさげちゃん」

「ええんよ、夜見はんは優しいから、ええんや。――いちご」

「何?」

「争奪戦運営の中で誘拐の被害に会った人間、全員洗い出したで」

「奇遇ね。私も夜見に教えるところだったわ」

「ほな答え合わせしよか」


 おさげちゃんは「自分のモノ」とでも言うように私の側に立った。

 眉間をピクピクと動かし、いちごちゃんは笑う。


「あのねおさげ、今は真面目な話をしてるの。色ボケしてる場合じゃないわよ」

「うちはここが定位置なだけやけど?」

「いい度胸ね。その正妻ヅラは今日までよ」

「うちが正妻って認めてくれてるんやね」

「は? 認めてないけど? 今日はずいぶんと不機嫌ね」

「うちの先手奪う癖やめてくれたら機嫌も直るんやけどなあ」

「絶対に嫌。あんたの悔しがる顔が見れないから」

「ほなら喧嘩するしかないなあ」


 カッと見開いた目でガンを飛ばし、火花を散らす二人。

 私はあわあわとすることしか出来ない。


「どど、どうしましょう」

「いつものことモル」

「そうかも知れませんけどね? あの大事な話の途中ですから――」

「はいはい、夜見さんは離れて下さいまし」


 どうにか対処しようと動くと、襟首を引っ張られる。

 しかめっ面のサンデーちゃんだった。

 彼女は二人にお叱りのゲンコツを浴びせ、自分の席で反省するよう指示した。


「「ミロ~!」」

「はいはい何ですか~?」


 二人はミロちゃんに泣きつき、よしよしとなだめられる。

 言葉では言えないが、ハムスター先輩の妹なんだな、と実感する一幕だ。

 当人は何事もなかったかのようにこちらを向いた。


「では、ここからはわたくしが話を引き継ぎますわ」

「あ、はい」

「越前後矢の過去については省きますわ。分かりやすく言えば迷惑系配信者だったみたいでして、語る価値があまり」

「なるほど?」

「ともかく重要なことを。非公式ですけれど、十年前の時点で彼は死んでいますの」

「死人なんですか?」

「死人ですの。ですけど五年前、突如として梢千代市に住民登録され、争奪戦運営を担うNPO法人のひとつ『魔法少女支援者組合』の特別推薦枠で総務部に入り込んだ、という情報をセバスが掴んで下さいましたわ」

「セバス」


 おそらく彼女の家の執事さんのことだろう。

 セバスさんも忍者なのか少し気になったが、それはそれだ。


「その、非公式では死んだことになっている、というのがよく分かりません」

「怪人化したため魔法少女が退治した、という口頭のみの事後報告のことですの。公式――世間一般では行方不明扱いですわ」

「怪人……とはボンノーンのことですか?」

「ええ。つい十年前までボンノーンになった人間は元に戻せなかったんですの」

「な、なるほど」


 今日は驚くことばかりだ。


「ともかく、越前は特別推薦――いわゆる縁故採用枠で争奪戦運営に入り込んだようですの。ですが本人は十年前に死亡。どういう意味か分かるかしら?」

「……何者かが行方不明者扱いである越前の容姿を使って潜り込んだ」

「そういうことでしてよ。で、その縁故採用を決めた人間が、梢千代の元市議会長、越前洞爺(えちぜんとうや)。彼の祖父ですわ」

「うわあ」


 とんでもない厄ネタだ。


「先に聞きます。その方は十年前の死の真相を知っておられますか?」

「答えはイエスですの」

「なるほどなあ」


 リズールさんが越前を倒してはならない、と言っていた理由が分かった。

 同時に、魔法少女が争奪戦運営に恨まれている理由も。


「ダントさん」

「勧善懲悪の先に理想郷はないという言葉は真実だったモルね」

「ね。騒動解決の鍵がフロイライン・ダブルクロスにあるとも、リズールさんは言っていました」

「何の話ですの?」

「リズールさんが教えてくれた越前攻略のためのヒントです。修理工場に住む壊れたロボットたちは、天から舞い降りる手を神として崇めている、とのことで」

「よく分かりませんけれど、フロイライン・ダブルクロスの原作を知る必要があるのかしら?」

「げ、原作?」

「知らないんですの? ダブルクロスのフィールドは「アームズウォー・スカーフェイス」というFPSゲームのマップを忠実に再現しているんですのよ」

「はあ」


 娯楽とは十数年ほど縁が無かったのでまったく知らない。

 そんなゲームが流行っていたのか。


「その顔、知りませんわね?」

「ううごめんなさい……」

「ちょっと。謝らないで下さいまし。わたくしはなにも責めてませんわ」

「話題の切り出し方が、人に怒られる時に似てて」

「それは、まあ、ごめんなさいですの」


 キーンコーン――

 お互いにシュンとしたところで予鈴が鳴る。

 そろそろ学業の時間らしい。


「でもいい機会ですわね。夜見さん」

「はい」

「原作を調べてみなさい。名作FPSでしてよ」

「ええと、時間がある時に」

「ならバトルデコイ使用時にランダムで出てくるロボットチームの中から、スカーフェイス部隊を引き当てなさい。それが原作主人公の所属するチーム名でしてよ」

「スカーフェイス部隊」


 聞いたことのある名前だ。

 私はダント氏と顔を見合わせて、あの時の彼らだと確信した。

 原作知識を手に入れろというサンデーちゃんなりの指示だろう。


 キーンコーン――

「よーし席につけ。朝礼始めるぞー」

「「!」」


 本鈴が鳴る。教壇に上がってきたのは担任の先生だ。

 サンデーちゃんが私の肩を持つ。


「夜見さん。お分かりね?」

「スカーフェイス部隊さんとお話してみます」

「よろしい。わたくしたちはロボット修理工場について調べてみますわ」

「お願いします」

「ああ、あと」

「はい?」

「貴方に挑戦状を送りつけてきた「無冠の剣聖」とやらが何者か掴めませんでしたの。罠かもしれませんから気をつけなさい」

「了解です」


 役割分担も出来た。

 席に戻り、朝礼のあと、一限目の授業が始まる。

 私は学業と平行してテスト勉強をしつつ、騒動の幕引きに向けた作戦会議を、放課後になるまでダント氏と行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あとがーきいもー がきいもー 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ