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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第二章

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第88話 おじさん、家族にプレゼントを貰う

 続いてのニュースには、少しだけ驚かされた。


『――続いては今日のお天気です。土曜日の今日は晴れのち雨。ところにより雪になります。北西からの寒気でかなり冷え込みますので、外出する際には温かいダウンジャケットを着用するか、ご自宅でゆっくりお過ごし下さい』


「うわあ、今日は一段と冷えるんですね」

「ライナおねーちゃんはおそとにでるの?」

「はい。学校はお休みですけど、部活があるので」

「じゃあいいものあげるね!」


 とてとて、とリビングを走り抜けた遙華ちゃんは、ピンクシルバーのライター?のような容器を持ってくる。

 慌てた様子の佐飛さんが後ろに続いていた。


「おねえちゃん! これ!」

「それは?」

「は、遙華様、困りますぞ。いきなり凪沙様の作品を持ち出すなど」

「ライナおねーちゃんはまほうしょうじょだからね! だいじょうぶ!」

「そうは言われましても――」


 私がぽかんとしていると、佐飛さんが教えてくれた。


「申し訳ありませぬライナ様。遙華様が持ち出したのは、凪沙様がプリティコスモスをモチーフに作ったオイル式カイロで」

「オイル式カイロ」

「名は――」

「ずーっと! あったカイロだよ!」

「――と遙華様はおっしゃられましたが、作品名は未定でございます。遙華様、それは母上の凪沙様の作品でございますから。凪沙様にお返し下さい」

「やだ! このカイロはね、プリティコスモスがもってなきゃだめ!」

「ど、どうしてでございますか!?」

「だってプリティコスモスとおなじいろでおそろいだもん! いっしょじゃなきゃやだなの! やだやだやだ~!」

「は、遙華様」


 地面に寝そべって駄々をこね始める遙華ちゃん。

 なんてお世話のしがいがある可愛い妹だろうか。やれやれ。


「ほら遙華ちゃん、こっちに来て下さい」

「むぅ~! カイロ!」

「もらいますから。ね?」

「じゃあママにきょかとって! もらってくれるまで、はるかうごかない!」

「はは、なかなかどうして合理的」


 私は佐飛さんを見た。

 お互いに説得を諦めた顔だったので、まだ自室で寝ている義母の凪沙さんに伝えに行く。すると凪沙さんは、


「あらあらまあ。なら仕方ないわね」


 とカイロを譲ってくれた。優しさに感謝。

 実は不安だったのか、廊下からちょこんと顔を覗かせていた遙華ちゃんに改めてプレゼントしてもらったことで、朝のちょっとした騒動は収まる。


 ついでにずーっとあったカイロ(語感がいいということで正式名称になった)の使い方も教えてもらった。

 蓋と、触媒付きのキャップを外して、マジマートで購入出来るオイルを補充し、ひっくり返して余分なオイルを出したあと、キャップをつけ、触媒をマッチやライターの火で炙って、蓋を閉じてカイロケースに入れるだけ。


「大人向けのファングッズだけど、ライナちゃんなら大丈夫よね」

「可燃物のオイルと火の取り扱いには十分注意します」

「良い子だわ、だから魔法少女になったのね……嬉しくなって、泣けてきちゃった」


 またお酒で酔っているのか、凪沙さんはほろりと涙を流してベッドに戻る。

 私はあはは、と笑って一言。


「凪沙さん今短歌を読みましたよね」

「お気になさらずライナ様。それより、遠井上家にライターオイルはありません。お近くのマジマートでご購入ください。お渡ししたクレジットカードもご自由に」

「分かりました」

「あのね! ライナおねーちゃん! これもあげるね!」


 そこで渡されたのは、ダント氏と同じモルモットモチーフのカイロケース。

 なんでも遙華ちゃんが私のために作ったものらしい。

 遙華ちゃんはようやく本心を話した。


「あのね、ほんとはね、これをつかってほしかったの。わがままごめんなさい」

「ふふ、いいんですよ。遙華ちゃんはワガママで。ちゃんと反省出来て偉いです」

「ライナおねーちゃんやさしいからすき」


 私は遙華ちゃんの優しさをありがたく受け取った。


「行ってきます」

「いってらっしゃーい!」


 私は家族からの愛をポケットに、少しだけほっこりした気持ちで休日登校する。

 家を出ると、静かだったダント氏がようやく口を開いた。


「今日は贈り物が多くて嬉しい日モルね」

「はい。幸せです」

「僕も嬉しいモル。カイロケースが僕そっくりなところが特に」

「ダントさんもファンが出来て嬉しいんですね」

「とっても嬉しいモルよ。僕たち聖獣も、夜見さんたち魔法少女と同じモル」

「なるほどです」


 当然だけど、ダント氏にもエモーショナルエネルギーはあるわけで。

 私の成長ばかりに目が行きがちだけど、彼も認められることで成長するのだ。

 次はダント氏のファンを増やすべきなのかな、と市内に出る。

 私の頭に乗った彼は近くのマジマートを指さした。


「夜見さん。学校に向かう前にマジマートに寄って欲しいモル」

「どうしました? あ、使い捨てカイロを買うんですね」

「それもあるモルけど、リズールさんのカタログで注文した物があるモル。僕の考えが正しければ、第二の固有魔法「コーヒーブレイク」の汎用性が高まるモル」

「おお」


 コーヒーブレイクの汎用性が高まる。

 個人的な考えでは「市販のカイロは平均温度が55度以上の物質。だから、使い捨てカイロを体中に貼ればコーヒーブレイク用の残弾がたくさん用意出来る」程度に思っていたが、さらに上を行く回答なのだろうか?

 と思いつつ近くのマジマートに寄ったところ、その答えは凄まじいものだった。


「ええと、岐の神(くなどのかみ)のライターオイル?」

(かまど)――つまり台所の神様の火をつける特殊なオイルモル」

「それをあったカイロに使うと?」

「コーヒーブレイクの「休息」という概念が強化されて、コーヒー以外の飲食物にも変換出来るようになるモル。炎は道祖神としての力――いわゆる分岐点の概念も持つモルから、夜見さんの元にいろいろな人が集まるモル」

「するとどうなるんです?」

「友達が増えるモル」

「うわあ嬉しすぎます。早く買いましょう」


 お店に掛け合い、使い捨てカイロと共にクレジットカードでお支払い。

 マジマートの外で「ずーっとあったカイロ」の準備をして、市販のマッチで触媒を炙り、燃料との反応をうながすと、ふわあ、と新米を炊いた時のような香りがした。


「米油なんですかね」

「原材料は分からないモル。でも台所っぽい香りモルよね」

「たしかに」


 遙華ちゃんお手製のカイロケースに入れ、胸元にしまうと、心の中まで暖かくなる。


「なんだか遙華ちゃんが近くにいるみたいです」

『おーい! プリティコスモス!』

『ちょ、もー! ライブリ走るの早すぎー!』


 唐突に声をかけられたので振り向く。

 満面の笑みに駆け寄ってきたのは、白いニット生地のセーターに黒のスキニーパンツ、白いイヤーカバーと手袋、ピンポイントで目立つ赤いマフラーという、防寒対策がばっちり取られた、わずかばかり藤色な銀髪の高身長美女。

 ライトブリンガーさんだ。


「元気そうだな!」

「ライブリさんには負けるかもです」

「安心してくれ、実戦なら俺は手を抜く」

「いえ戦いたいという意味ではないんですよ?」

「……はあ、追いついた。監視大変すぎ。あ、夜見ちゃんおはよー!」

「おはようございます州柿先輩」


 その後ろに続くのは、紫マフラーに黒タイツを履いた冬制服姿の州柿先輩だった。

 彼女に「なんですかこの状況」と尋ねると、申し訳無さそうに微笑む。

 とりあえずずっとソワソワしているライブリさんを見た。


「どうしました?」

「バトルデコイ・ナイトは作ったか!?」

「いえ、まだです――」

「わかった作りに行こう!」

「うわあああ!?」


 私はライブリさんにお姫様だっこされたかと思うと、エダマ演習場の近くにある「富谷(とみたに)模型屋」なるお店に連れ込まれた。

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