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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第四部 フロイライン・ダブルクロス編『C〜Bランク帯・C-D部隊駐屯地』 第一章

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第87話 おじさん、帰宅する

「それでどうして部室に?」

「家出したからに決まってるじゃない」

「えええ!? 本気なんですか!?」

「そうよ。だって夜見が可愛そうだもん」


 中等部一年組のみんなは本気で家出をしたらしく、しばらく家に戻るつもりがないようだ。みんなでそこに住むつもりらしい。


「夜見も来ない?」

「ええと」


 私としては嬉しいけど、遙華ちゃんを寂しくさせるわけにはいかない。


「家に義妹の遙華ちゃんが居るので、住むのはちょっと」

「家族にも優しいのね。分かった。通い妻になっていいわよ」

「言い方」


 いちごちゃんの言葉で中等部一年組は顔を赤らめる。

 本人が一番恥ずかしかったようで、耳まで真っ赤だ。

 やれやれ。なんてエッチな女の子たちだろうか。

 おかげで空気が和らいだ。


「じゃあ夜見、また明日ね」

「部室の場所はエモ茶道部のホームページから確認してなー」

「はい。頑張りましょうねー」


 学校に向かうみんなを見送った。

 リズールさんは部下に指示を出し、彼女たちの護衛に向かわせる。

 そこで限界がきたのか、また膝をついた。


「うう……」

「リズールさん!」

「問題ありません、呪いに対抗するため、エモーショナルエネルギーが過剰反応しているだけです」

「それってもしかして」

「ええ、シミュレーションでお見せした通りのことが起きます」


 これから私は、夢の中でアスモデウスを口説き落とさなければならないようだ。

 緊張で固唾をのむと、リズールさんは自分と私の額に指を当てた。


「ですので、私と夜見ライナ様の記憶を曖昧にします。よろしいですね」

「わ、ええ!? どうして!?」

「確実に成功させるためです。前提知識を深層心理にインプットしつつも、表層意識だけは初見で挑むのが一番ですから」

「なるほど! いつでもどうぞです!」

「聖獣ダント様。私たちをよろしくお願いします」

「わ、分かったモル!」

「では行きます、一時忘却の法」

「あう……」


 ぽわん、と思考がぼんやりして、先程まで何をしていたか分からなくなる。

 リズールさんも不思議そうに首を傾げていた。

 記憶がおぼろげな私たちは、ダント氏を見た。


「ここで何してましたっけ?」

「ええと、家に帰る途中モル。早く帰ろうモル」

「分かりました」


 迎えの車を呼んで自宅へ帰る。

 家では佐飛さんが出迎えてくれた。

 彼はダント氏の話を聞き、私たちを自室へと送り届けてくれる。

 自室には私専用のお風呂場があるのだ。運動終わりで疲れた身体を癒やした。

 パジャマに着替えたあと、リズールさんのことを伝えに行くと、


「あ、佐飛さん。リズールさんのことなんですが」

「この佐飛が責任を持って願叶様にご説明いたします。ライナ様はお休み下さい」

「ありがとうございます」


 そう言ってくれたので、任せた。

 具合が悪そうなリズールさんと共にベッドに入り、就寝する。


 ――次は夢の中だ。

 登校前に起きたばかりの遙華ちゃんがやって来て、私の隣に佇むリズールさんを指さした。


「らいなおねーちゃん。そのひと、こわいひと?」

「ええと、良くも悪くも中立の人ですね――


 という風に、記憶のない私は夢の中でも同じことをする。

 既視感のある会話を終え、リズールさんが人になり、魔法少女になり、色々あって、アスモデウスとの会話を終えて、次に目が覚めたとき。


「……思い出しました」

「おはようございます夜見ライナ様。上手くいきましたね」

「ベッドの中に居るのは変わらないんですね」

「今は恒温動物ですので寒さが苦手です」

「むにゃ……ごしゅじんしゃま……」


 私は、人になったリズールさんとアリスちゃんを侍らせたまま、昨日の記憶を取り戻す。アリスちゃんの認識は怖いけど可愛い、と言った感じ。


「アリスちゃんの聖獣さんは」

「ソレイユから派遣されてくるまで待機モル」

「ゲンさんなんですかね?」

「おそらくそうモル。強力なコネクション持ち聖獣が増えるモルから、リズールさんとの新規事業立ち上げも上手くいきそうモル」

「良かったです。それと、リズールさん」

「はい? きゃっ」


 私は彼女の胸に手を当てて、怪我がないか確かめつつ、昨日のことを尋ねた。

 彼女曰く「我が盟主(マイロード)には「銀雪の亡霊」と呼ばれる邪悪な精霊にかけられた死の呪いの残滓が、体内に残っている」とのこと。


「それが貫通した理由ですか?」

「はい。同じ死の呪いをかけられると、「自身と親愛を結んだもの」に限り、加護を貫通してしまうのです」

「呪いって恐ろしいですね」

「私はその残滓を取り除くべく、魔導を背負う者を探し、力を合わせて「銀雪の亡霊」を討伐しようとしています」

「そうだったんですか」


 まるで物語の主人公たちのようだ。

 リズールさんたちのために頑張る理由が出来た。


「……やっぱり、アリスちゃんは死ぬんですかね」

「はい。私にかけられた死の宣告は、アスモデウスが報酬として受け入れました。その代償としてアリスとなり、貴方の側に引っ付いています」

「そこがよく分かりません。なんで報酬になるんですか?」

「悪魔は定命であることに憧れているのです」

「不思議だなあ」


 私たち人間とあまりにも感性が違いすぎる。


「これからどうしますか?」

「私はアリスと共に帰還します。次に会うのはアリスが転校してからでしょう」

「了解です。私は学校に行きますね。エモ茶道部のみんなに会いたい」

「では、私は夜見ライナ様の温もりを感じています」


 それって二度寝するってことでは、と思う。


「行ってきます」

「ああお待ちを、夜見ライナ様」

「なんですか?」

「しばらく会えませんので、越前たちを攻略するためのヒントを差し上げます」

「ヒント?」

「実は、あの場面で越前たちは倒せました。しかし倒してはいけない理由がありました。ここでヒントです。修理工場に住む壊れたロボットたちは、天から舞い降りる手を神として崇めています。勧善懲悪を忘れ、魔導に従いなさい」

「わ、分かりました。魔導に従います」


 リズールさんは第三の道を指し示してくれた。

 修理工場のロボットは、天から舞い降りる手を神として崇めている。

 一体どういう意味なのだろう。


「ダントさん分かりますか?」

「情報を集めてみないことには分からないモル」

「ですよね」


 ともかく、と私は朝の支度を終える。

 時間が余ったので遙華ちゃんに会いに行った。


「おはようございます」

「ライナおねーちゃんおはよう。どうしたの?」

「いえ、顔を見に来たんです。元気そうで良かった」

「げんきだよ! あのね! きょうはあさのテレビみれるひだよ!」

「ホントですね。一緒に見ましょうか」

「うん!」


 リビングのソファーで、私の膝に乗った遙華ちゃんとテレビを見る。

 映ったのは、海外の事件を知らせるニュース。

 ピラミッドの色が元に戻りました、という言葉で、世界に平和が戻ったんだな、と安心した。

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