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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第四部 フロイライン・ダブルクロス編『C〜Bランク帯・C-D部隊駐屯地』 第一章

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第86話 おじさん、戦略的撤退をする

「追い詰めましたよ越前さん!」

「俺を追い詰めた? おめでたい頭だな魔法少女!」

「なんですって!?」

「お前たちは誘い込まれたんだよォ!」

「何を!?」


 越前ボンノーンは体内から先程のリモコンを取り出し、地面に叩きつけて壊す。

 バチバチ、と紫電が出たと同時に地鳴りが起きた。


 ゴゴゴゴゴ――――

「な、何が起こってるの!?」

「ここはァ! フロイライン・ダブルクロス、攻略難易度Bクラス! C-D部隊駐屯地のロボット修理工場! 指令さえ受ければ問答無用で動き出す壊れたロボットたちの墓場だァ!」

「Dクラス演習場で苦戦する程度のお前たちでは勝てねえ強さよ!」

「「「ギャハハハハ!」」」


 下品な高笑いを上げる越前ボンノーンとその仲間たち。

 周辺の産業廃棄物からは、四肢のどれかが欠損した人型ロボットが最低でも五十体は姿を出し、続々と湧き続ける。

 彼らのモノアイは、私たちの様子をじっと伺っていた。


「くっ、不味いわね」

「追い詰めすぎたかもしれんなぁ……!」

「だ、ダントさん!」

「みんなを守るのが優先モル!」

「はい!」


 私も防衛意識を高める。

 具体的に言うと、背後がわりと隙だらけな中等部一年組のフォローだ。

 私たちは逃亡も視野に入れ、少しづつ後退していく。


「――夜見ライナ様。少しだけ下がっていて下さい」

「リズールさん!?」


 リズールさん含む軍服ワンピの女性たちを除いて。

 越前ボンノーンたちはゲラゲラと笑う。


「オイオイ死んだわアイツ!」

「制御装置を壊すと隠しイベント「ロボットの暴動」が起きて難易度がS級を超えるの知らねーのかよ! 自我を持ったロボは神様でも殺せるんだぜ!」

「リズールさん! あんなこと言っていますが!」

「ええ、はい。分かっています。ここで私が前に出ること。これが重要なのです」

「どういう……――うわ!?」


 その刹那、銀の手が背後から現れ、私たちを包み込んだ。

 ずずず、と空に浮かびだして、地面から離れていく。


「あっ、てめえリズール! 逃げるつもりだな!?」

「いいえ、体制を立て直すだけです。決着は次の機会まで伸ばしましょう」

「チッ、くそが! せめて呪ってやる!」


 越前ボンノーンは背中から八つの触手を生やし、私たちに向けた。

 先端に禍々しい紫のオーラを溜め始める。


我が盟主(マイロード)の加護の中です。通りませんよ」

「通るんだなこれだけは! “死ね”!」


 ビュン――――!

「ぐっ……」

 八つのビームのうち、一本が銀の手を貫通し、リズールさんの胸を貫いた。

 彼女はがくりと膝をつく。


「り、リズールさん!」

「やはり知っていましたか……」

「ぎゃはははは! てめえの主様の弱点を呪うんだな!」

「っ、越前後矢(ごや)! リズールさんに何したんですか!」

「おっやるか!? 降りてこいよプリティコスモス! また一人で頑張れば勝てるかもしれねえぜ~? ……あ、そんな勇気ないか。ごめんなあ!」

「このっ――」

「夜見ステイ! ここは耐えて!」

「いくら夜見はんでも単騎は無謀や!」


 中等部一年組のみんなが抑え込んでくれたおかげで、私は敵陣に突っ込まなくて済んだ。

 ――済んだ、けど。


『イエーイ! 俺たちの戦術的勝利ー!』

『俺たちは待ってやるよ! ロボット軍団で引き潰してやるからいつでもこい!』

『友情・努力・勝利を掲げてたっぷり絶望しろ! か弱き者ども!』


 みんなを守りきれる自信がなくて、一人で戦い続けるのが怖くて、逃げることしか選べない現実が、あまりにも悔しくて。


「……くそう」


 唇を噛み締めながら、握りしめた拳を地面に突き立てた。



 銀の手は近くの公園まで私たちを送り届けたあと、消滅した。

 梢千代市も大騒ぎになっているようで、マジタブには生徒会広報部からの速報がひっきりなしに届き続ける。

 重い空気の中、ふと、いちごちゃんが口を開いた。


「ねえ」

「はい」

「悔しい、よね」

「はい」

「私はもっと強くなりたい」

「私もです」


 しかし、どうすればいいのか分からない。

 自分が強くなればいい、仲間と力を合わせて戦えばいい。

 そのどれもを極めたとしても、越前のような生まれながらの邪悪を倒すには、何かが、パズルのピースが足りない気がするのだ。


「夜見ライナ様」


 そこで私は、リズールさんに名前を呼ばれて思い出す。

 正しいかどうかは分からない。けど、第三の道があることを。

 私は深呼吸してから、天を指さした。


「……とある賢者は言っていた。勧善懲悪の先に理想郷はないと」

「夜見?」

「仲間と共に歩む王道でもなく、孤高を目指して突き進む覇道でもなく、日常に潜むちょっとした不思議を見つけ、好奇心のままに巡りゆく道こそ、理想郷にたどり着けると。その道案内をする大いなる意思を、魔導を呼びます」

「魔導……」

「私たちは魔法少女。強くなるには、魔の導きに身を委ねつつ、自分や友達を幸せにするべきです」

「でも、夜見、どうすればいいのよ」

「策はないです。でも、分かっていることはあるんです。今はまだ越前たちには勝てません。だから、エモーショナル茶道部の活動を頑張って、少しでも多くの人と交流して、刺激を受けるべきだと思います」


 私の言葉に考える中等部一年組。

 答えを出したのか、少しだけ覚悟を決めたようだ。


「分かった。越前に勝つためにも、まずは情報収集ね」

「C-D部隊駐屯地や越前たちの情報集めて、人材を集めて、資金繰りもして。なんや、悩む時間がないくらいに大忙しやん」

「決まりましたわね。ですが、今は中間テストが最優先ですの」

「時間をかけて攻略していきましょう!」


 みんなの決意は固まったようだ。

 最終目標は越前の討伐。サブクエストは沢山。

 エモーショナル茶道部としての活動方針を決めた私たちは、学校の部活棟へと向かう。

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