表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第三部 フロイライン・ダブルクロス編『Dランク帯・エダマ演習場』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/276

第76話 おじさん、高級焼肉を食べる

 夜の梢千代市内はとても静かだ。

 なんで静かなんでしょうね、と口に出したところ、おさげちゃんが「みんな行きつけのお店で争奪戦を見てるからやで」と教えてくれる。


「現地で見る人って少ないんですか?」

「生観戦はな、中等部一年生みんながイベントに慣れて、エモ力が1000以上になる三学期から始まるんや。それまではテレビ観戦するんがマナーなんよ」

「なるほど。あ、エモ力は3000で実戦級なんでしたっけ」

「そうよ。最低でも1000はないと、ボンノーンを倒せないから」

「何が基準なんですか?」

「エモーショナルタッチで出せる必殺技の威力」

「ああ、なるほど」


 つまり、ボンノーンの最大体力は1000ということだ。

 私はその五倍もの威力の必殺技を出せるらしい。


「まあ、そういうのは置いといて、本題。ねえ夜見」

「はい?」

「フロイライン・ダブルクロス、さっさと終わらせたくない?」


 いちごちゃんがニヤリと笑みを浮かべる。

 私はダント氏と顔を見合わせた。

 

「ダントさんどう思いますか?」

「もちろん、さっさとクリアした方がいいモル」

「そうなんですか?」

「今の夜見さんは、全力を出せない今の環境がリミッターになってて、エモ力が一定値から上がりづらくなっているモル。そのリミッターを外すためにも、強い成功体験と達成感を得て欲しいモル」

「……自覚してませんでした」


 私は少しだけ驚いた。


「夜見はんはそういうとこ鈍感やねん。もっとわがままでええんよ?」

「――(ワンテンポ置いてから無言で頷くいちご)」

「なあいちご、今、うちのこと考えへんかった?」

「いや何も言ってないでしょ!? 被害妄想!」

「はいはい、話の腰を折らないで欲しいんですの」


 二人の口を塞ぎ、サンデーちゃんは言う。


「ともかく、今の貴方に必要なのは愛と平和と自由ですわ」

「大事にしたいですよね」

「したい、じゃなくて手にするんですのっ」

「ええと」


 と言われても、愛もあるし、平和だし、自由に過ごせていると思う。

 何が足りないのかよく分からなかった。


「具体的に言ってくれると助かります」

「簡単な話よ。さっさと卒業しちゃいましょう! みんなでこの学校を!」

「え、いや、ええええっ!?」

「あの、もう少しだけ詳しく言ったほうがいいと、ミロは思います」

「分かりづらかった? じゃあ詳しい話ね」


 そう言ったいちごちゃんはマジタブを見せてくれる。

 表示されているのは魔法少女ランキングだ。


「どういう、関係が?」

「ランキングの上位千人以内――優等生になると、課外活動権が与えられるのは知ってるわよね?」

「は、はい」

「それと一緒に渡されるのが、一般的な高等教育を修了した証。卒業証書なの」

「ど、どういう!?」

「別に聖ソレイユ女学院を卒業する訳やないよ。証書があれば、中等部の学力テストが免除されるだけや」

「なるほど?」

「上位百名――特待生になれば、大学教育を終えた証書も貰えますのよ」

「それは高等部のテストが免除される、と」


 魔法少女ランキング上位にはそういう特典があるのか。


「つまり話をまとめると、みんなで協力して魔法少女ランキングを攻略しよう、という話ですか。そのためにダブルクロスを最速で終わらせる、と」

「そういうこと。私たちの話に乗る?」

「ええと――」


 ダント氏を見た。


「判断は任せるモル」

「分かりました。乗ります。課外活動権は欲しいですし」

「よっし!」

「夜見はんも悪い子になってきたなぁ」

「違いますー、元気よく羽ばたける場所に行きたいだけですよー、私は」

「――皆さま、歓談中のところ失礼します。今宵のお店に到着しました」

「「「!」」」


 そうこう言い合っている内に、今日のお店「和牛炭火焼肉・高杉屋」に到着する。

 黒い漆喰塗りの外観の店は、店内の壁や家具も黒で統一されていて、高級感。

 他にも、肉を網で焼く音と、焼肉の芳しき香り。


「たくさん運動したあとにこれは、効きますね」

「分かるわ夜見。肉の亡者になりそう」

「失礼します、店員様。予約していたリズール・アージェントです」

『ご予約のリズール様ですね。お待ちしておりました。お席はこちらになります』


 お座敷に座った頃には、私たちは焼肉を食べることしか考えられなくなっていた。

 リズールさんが予約したのは、通常の黒毛和牛A5ランク熟成肉に付け加えて、シャトーブリアンなどの高級ステーキ肉も食べられる最上級プランらしく、注文タブレットを見た私たちは目を輝かせる。ライブリさんが口を開いた。


「リズールさん! この肉いくらでも食っていいのか!?」

「ええ。何でもご自由にご注文下さい」

「はは、やったぜ! じゃあ適当に――」

「お待ちなさい! まずは素早く焼ける薄切りタン塩から注文するべきですの! 次はドリンク! 適当に注文するのはそのあとですわ!」

「っ、そうか! 分かった! タン塩十人前だな!」

「あと白米! 白米もお忘れになってはいけませんわよ!」

『お待たせしました~』


 三つある七輪に炭火が焚べられたあと、予約限定の特上霜降りカルビ盛り合わせ六人前、追加のタン塩十人前が届き、みんなこぞって焼き始めた。

 私はタン塩を弱火で炙りつつ、久々にゆっくりとした時間を過ごす。


「やっぱりみんなと焼肉するのは楽しいですね」

「僕も緊張が解けて気が抜けたし、お腹が空いて溶けそうモル……」

「あともうちょっとの辛抱ですよ――ほら、出来ました」

「わあ美味しそうモル」


 割り箸を丁寧に割り、白い取皿に載せられたタン塩にレモンをかけて、下からすくい取って口に放り込む。一噛み、二噛み。

 舌で感じる肉の甘みと、質のよい脂の旨味。ほどよい塩気。鼻を抜ける香ばしい肉の香りとレモンの爽やかさに、ほう、と安堵のため息が漏れた。


「……優勝しました」

「僕も食べたいモルー」

「ふふ、どうぞ」


 ダント氏と分け合いながら、焼肉パーティーを楽しむ。

 ドリンクはコーラで。焼けた肉はお店の自家製ダレに浸し、白米と一緒に食べる。

 上品に塩だけで食べるのは、少しお腹が膨れてからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あとがーきいもー がきいもー 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ