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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第三部 フロイライン・ダブルクロス編『Dランク帯・エダマ演習場』

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第75話 おじさん、イベント報酬を貰う

 これからライブリさんと同居するという情報で、あまりにもパニックになったのか、私はしどろもどろになってしまう。


「ええ、ええと、い、いっ、いい一緒に住むって、つつつまり同居するってことですすすうっ、か!?」

「そうだが?」

「わわわわ私と一緒に住むんですか!?」

「そうだが? ……なぜ同じ事を二回も?」

「夜見さんの情報処理能力がパンクしたからモル!」

「そんなに驚くことなのか?」

『はぁー……』


 そこでアナウンサーの方から呆れるようなため息が漏れる。


『――……はい、情報を訂正します。今現在、ライトブリンガーを名乗る女性がバトルデコイ・ナイトを名乗りましたが、正確には彼を召喚する権利が与えられただけですので、先程の同居宣言は事実ではありません。イベントスタッフの方々は速やかに撤収作業に入って下さい』

「何!? そうなのか!?」

「そうなんですか!?」

「「「はい撤収――――!」」」

「うおお!? お前らいきなり何を――――」


 猛ダッシュで走り込んできた高身長の美女軍団が、ライトブリンガーを抱えてフィールドの外へと逃げていった。あとからやって来た作業服姿の男性陣が、ロボの格納・床の清掃作業に入る。そこには匠の技が見えた。


「――さん! 夜見さん!」

「夜見お姉さま!」

「ハッ」


 それからあれよあれよと追い出され、気がつけばフィールドの外。

 待機スペースの椅子でりんごジュースの入ったペットボトルを片手に座っていた。

 パッケージには「ミーミルの天然水」と書かれていて、なんとなく懐かしさを感じる。


「私は何をしていたんでしょうか?」

「やっと正気に戻ったモル。良かったモル」

「これをお食べ下さいお姉さま」

「ああ、どうも。――あむっ」


 ヒトミちゃんにうぐいす餅を食べさせてもらう。美味しかった。


「それで私は何を?」

「気にしなくていいモル。忘れるモル。それより報酬を受け取りに行こうモル」

「あ、はい。……あ、そうだ。ヒトミちゃん、身体の方は?」

「大丈夫です。ヒーリング湿布を貼って貰いました」


 長袖ジャージの内側を見せてくれたので見ると、か細い腕や脚、肩など、主要な場所にびっしりと白い湿布が張られていた。

 あ、私も貼らなくては、と全身を再確認すると、すでに湿布まみれだった。


「わあ、ダントさんのおかげですか?」

「僕だけじゃ手が足りなくて困ってたモルけど、さっき現れたリズールさんが手伝ってくれたモル」

「そうなんですか。リズールさんは?」

「今は演習場の外で待っているモル」

「どうしてですか?」

「焼肉に誘いたい人を五人までに絞って欲しい、と言っていたモル」

「?」


 やはり理由がよく分からない。

 どうして一緒に決めてくれないんだろう。


「ねえねえ、プリティコスモスっ!」

「はい? ……わあ」


 後ろを向くと、今回のゲームで一緒だった赤チームの子、総勢十六名が立っていた。みんな初々しくて可愛い。

 それに、体操服姿の彼女たちから、距離が縮まった実感のような何かを感じる。


「私たちもエモーショナル茶道部に入っていい!?」

「いいですよ。部員募集中ですから」

「やったー!」


 みんなぴょんぴょんと飛び跳ねて大喜びする。

 あれだけの激戦――を繰り広げたのは私たちだけか。

 何にせよ、若さにかまけず、足腰を大事にして欲しいと思うばかりだ。


「じゃあ、また! 部室で会おうね!」

「分かりまし――え、もう帰るんですか?」

「うん。だって、四日後は中間テストだもん。勉強しなきゃ」

「「――!?」」

「じゃあね!」


 その一言で衝撃を受け、絶句する私とダントさん。

 彼女たちは、私が譲ったパンフレットで入部申請を出したあと、演習場から退出していった。


「ヤバいです、中間テストがあるって忘れてました」

「僕も争奪戦のことで頭が一杯になってたモル。最速攻略法を考えてる場合じゃなかったモル」

「あの……お姉さまたち、すみません」


 そこでヒトミちゃんが手を上げた。

 なんでも、彼女も勉強がしたいらしく、早く報酬を受け取りたいようだ。

 慌てて購買エリアの景品受け取り所に向かい、生徒手帳を見せたあと、それぞれ別で受け取った。


「――以上が今回の報酬になります。ご確認下さい」


 イベントスタッフさんから渡された報酬は計五点。

 まずは参加賞のシャインジュエル。C等級が五個パック。

 同じく参加賞で試供品の、「エモスカウター」なるモノクル。

 相手のエモ力を測定するエモーショナルな機械、とのこと。


 次はランキング一位特典のシャインジュエルCが五個と、討伐ポイントが自動記録されるエダマポイントカード。

 ポイントカードはフィールドの入場券にもなるようだ。


 最後が――


「これがバトルデコイ・ナイト、ですか」

「初回限定の特別仕様となっております」


 若干リアルロボット寄りなパワードスーツを着た正義のヒーロー、ライトブリンガーのプラモデルキットだった。呼び出すには自作しなければならないらしい。


「チェスの駒じゃないんですね」

「汎用機型は次回以降の配布となります。何度でも当演習場をご利用下さい。それともし良ければ、制作過程を動画撮影して、動画配信サイトにアップしていただけると助かります」

「販促もしっかりしてるモル」


 企業がイベントを開催する理由在りきだと知った一夜だった。

 報酬で貰ったバトルデコイ・ナイトだが、ヒトミちゃんが私のキットにも目を輝かせていたので、その場で譲ろうとする。

 しかしスタッフさんから「自作して下さい。貴方の動画供給からしか得られない栄養素があるんです」と念を押されたので、ダント氏に預けた。

 時間が出来たら作ってみよう。


「あ、ヒトミちゃん」

「はい!?」

「よければこれから、一緒に焼肉を食べに行きませんか?」

「ヒトミはっ、あの、勉強があるのでええ~~~~っ!」

「あ、行っちゃった」


 ヒトミちゃんも勉学が忙しいようだ。

 プラモデルキットを大事そうに抱えて、演習場を飛び出していった。


「ふられちゃったモルね」

「中間テストも近いですから、しょうがないですよね」

「本当にそうだと思ってるモル?」

「あはは、分かってますよ流石に。ヒトミちゃん、プラモデルを作りたそうな顔してましたから」

「判断力が戻って良かったモル。最近の夜見さんは冷静じゃないから困ってたモル」

「はーい。ご迷惑をおかけしました、と」


 私たちも演習場の外に向かう。

 するとどこかに隠れていたのか、中等部一年組が背後から出迎えてくれた。


「夜見お疲れさまー」

「うわぁ!?」

「お疲れさん。えらい気張ってたやんダブルクロス」

「――ええ、まあ。いいストレス発散になりました」

「ほならええけど。前も言ったけど我慢はあかんで?」

「はい、気をつけます。ああ、そうだ――」


 そこでせっかくだからと、中等部一年組を焼肉に誘う。

 みんなは部室で餃子パーティーを開こうとしていたようだが、「でも部員が増える明日の方がいいですわよね」「今は焼肉が何よりも優先されますの」というサンデーちゃんの一言で「たしかに」と議論が終わり、全員が焼肉に釣られた。


「リズールさん! お待たせしました!」

「お疲れ様です夜見ライナ様」


 演習場を出て、待っていたリズールさんに駆け寄る。

 彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「お誘いになられるのは……やはり、そちらの四名様なのですね」

「はい! 大切な友達ですから!」

「ふふ、そうですか。まだ一名分の空席がありますが、どうされますか?」

「うーん……お任せで!」

「かしこまりました。こちらでご用意しましょう」


 リズールさんは携帯電話で誰かを呼び出していた。

 それはまさかの――


「また会ったなプリティコスモス! イエーイ!」

「あ、ライブリさん。い、イエーイ」


 銀髪美女ことライトブリンガーだった。

 ライブリは中等部組ともすでに面識があるし、人選もちょうどいい。


「では、そろそろ。今宵のお店『和牛炭火焼肉・高杉屋』にご案内します。お話はそちらでしましょう」

「しゃあッ」

「やばい今日大大吉や」


 本気のガッツポーズをする中等部一年組&ライブリさんを横目に、私たちは焼肉店「高杉屋」へと向かうべく、夜の梢千代市を散策する。

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