第71話 おじさん、ロボット軍団相手に無双する①
イベントスタッフさんも秒で終わるとは思っていなかったようで、呆然としていた。だがそこはプロ。すぐに次の説明に移る。
「……ええと、攻撃を受けたロボットは機能停止しましたが、十秒ごとに再起動します。なぜかというと、魔法少女の攻撃は建造物に物理的な損害を与えないからですね」
スタッフさんの言うとおり、十秒後にロボットは再起動する。
私はレクリエーションセンターをぶった斬ったような記憶があるけど、あれは物理的な損害ではないのだろうか。まあ、今は関係ないか。
「ちなみに、この二脚ロボットは一度討伐するごとに一ポイントです。そしてエダマ演習場には、このAタイプと呼ばれるロボットと、少しだけ強くてポイントが高いBタイプのロボットが居ます。攻略難易度は、魔法少女ランキングで言うところのオールD相当です」
「なるほど」
効率よくポイントを稼ぐには、さらに攻略難易度の高い場所に行かないといけないのか。どこにあるんだろう。
「他の場所に行くにはどうすればいいモル?」
「100ポイントを支払うことで、上位の演習場、市街地戦フィールドの場所が記されたテレフォンカードを購入できます。エダマ演習場の購買エリアでどうぞ」
「分かったモル。ありがとうございますモル」
ダント氏はマジタブでメモを取った。
討伐ポイントは盤面の一コマを買う以外にも使えるのか。私も覚えておこう。
「チュートリアルは以上ですね。実戦フィールドは制限時間制、さらに人数制限がありますので、次のゲームマッチングが決まるまでお待ち下さい」
「分かりました。どれくらいかかりますか?」
「二ゲーム分がすでに予約で埋まっていますので、20分後になります」
やはりというか大人気だ。
私たちはスタッフさんのタブレット端末で予約したあと、二十分ほど待機スペースで時間を潰した。購買エリアを見学したおかげで暇をしなかったのだ。
「――つまり、このフィールドを取れるかどうかで勝敗が決まるわけですね」
「そういうことモル。攻略難易度Sだモルけど、夜見さんなら余裕モル」
「了解です。ヒトミちゃん」
「は、はいっ!」
「貴方は私たちの判断をどう感じていますか?」
「えっと、凄いなぁと。あと、最高難易度のフィールドに向かうのは、怖いです」
「分かりました。ダントさんどうしましょう?」
「なら二百ポイント集めるしかないモル。攻略難易度Cのフィールド情報も入手して、ヒトミちゃんを育てながら最後のフィールドを目指すモル」
「了解です。少しづつ頑張りましょうね。ヒトミちゃん」
「が、がんばりましゅ!」
『間もなく、次のゲームが始まります。以上の番号の方は、指定の位置に集まって下さい。210番、463番――』
ゲーム開始のアナウンスが始まったので、入場と共にスタッフさんに指定された位置――各々のスタート地点である、赤い樹木の下に集う。
赤い樹木は合計で八つ。二人一組だから計十六名。二分割されたフィールドの一角に、私たち赤チームは集められた。
「こんばんは」
『……っ』
みんな緊張しているのか、もじもじしている。
「困ったモル。協力できそうないモル。プランAは破棄モル」
「ならプランBですね」
「ぷ、ぷらんビー? それはなんですか? お姉さま」
「いえ、とても簡単ですよ」
『ゲーム開始のカウントを始めます。三、二、一――』
「とにかく全力で敵を倒して回ります」
「了解しました!」
フィールドの床下から、続々と鳥型の二脚ロボットが上がってくる。
その視線は一斉に私たちへと向けられた。
『――ゲームスタート』
ビーッ――――
「ブースト!」
「レプリカ! モード・プリティコスモス!」
開始のブザーと共に、私はギフテッドアクセルを使用。
ヒトミちゃんは自身の固有魔法か何かで私を模倣したのか、同じ加速世界に突入する。
「ヒトミちゃん、それは」
「私の固有魔法『レプリカ』です。今はお姉さまを八割ほど真似しています」
「いい固有魔法ですね。リスペクトです」
頼りがいがある子だ。
特に、私と同じ速度を出せるところが心強い。
「ギフテッドアクセルの最大稼働時間は二十秒モル! それまでに片付けるモル!」
「「はい!」」
ロボット軍団が銃口を向けるよりも早く、私たちは動いた。
マジックミサイルを敵の弱点であるモノアイに当てる。周辺に居なくなったら移動し、目につくロボットを片っ端から仕留めていく。
それから二十秒が経過した頃に、私たちの加速は切れた。
「はぁっ……」
「ぐぅ――」
私は問題ないが、やはりヒトミちゃんにはデメリットの負荷が強すぎるらしい。
辛そうな表情でふらついていたので、腕を伸ばして抱えた。
「大丈夫ですか? ダントさん」
「どうぞモル」
「このエモーションエナジーを飲んで下さい」
「ハァ、ハァ、んぐっ――」
エモーションエナジーを飲んだことで、ヒトミちゃんも復帰したようだ。
「いけますか?」
「はぁっ――まだ、やれます!」
「ギフテッドアクセルの最大稼働回数まで残り二回モル。それ以上は行動不能になるからダメモルよ」
「分かりましたっ」
「ホントですか? 無理は禁物ですよ?」
「そうでもしないとっ、いつまで経ってもお姉さまに追いつけません!」
おお、凄い根性だ、と私は驚く。
ダント氏も同じように目を見張っていた。
ウォーン、グゴゴ――
「「!」」
すると、背後の鳥型ロボが再起動を始める。もう十秒経ったらしい。
周囲を見たあと、モノアイと銃口が私たちに向いた。
「あまり悠長に喋っている時間はなさそうですね」
「ヒトミはあと何体倒せばいいですか!?」
「スタートダッシュは上手く切れたモルから、得点の高いBタイプが投入されるまで固有魔法は温存モル! 今は投入時間が来るまで待機モル!」
「「はい!」」
返事と同時にマジックミサイルを放つ。モノアイに命中してロボットは沈黙した。
私たちは安全地帯の確保のため、周辺の掃討に移る。




