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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第二部 二章 ダークライ自滅編

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第66話 おじさん、ネタバレを食らう

 力を合わせた中等部一年組とリズールさんの戦いは、私たちの勝利で終わった。


『ぐああああ! 覚えていなさい魔法少女おおおお――――!』


 爆発する効果音とともにライトが点滅し、ボワアア、と炎と煙が吹き荒れ、リズールさんが舞台から退場。

 助け出したヒトミちゃんをみんなで抱きしめしながら、『正義と愛は必ず勝つ!』と叫んだことで、ヒーローショーは大成功に終わった。


「練習なしで乗り切れるなんて夜見って凄いわね!」

「やっぱ歴代最高値を記録しただけはあるなぁ。惚れ惚れするわぁ」

「あはは、どもです」

「――あ、やばっ、ごめん! このあとのフロイライン・ダブルクロスの解説トークショーにも出ないといけないの! また後でね!」

「ああ、はい。行ってらっしゃいです」


 そのまま舞台裏に退場した私は、心臓の高鳴りに耐えられなくて、その場でへたり込む。


「はああ、アドリブで切り抜けましたけど、感情の高低差が激しくて耐えられない……」

「お疲れ様モル。スポーツドリンクを飲むモル」

「ありがとうございます」

「お疲れ様です、夜見ライナ様」

『流石は拙者が見込んだ魔法少女であります』

「え、斬鬼丸さん……!?」


 そこに現れたのは、リズールさんと斬鬼丸さん。

 斬鬼丸さんは完全復活というわけではなく、リズールさんが手に持っているカンテラの中で生きているようだった。


「リズールさん、どうしてその人が……!」

「ええ、まあ、このままだと、敵が何をしたかったのか、分からないままになってしまいますから」

「え、ええと?」

「私が表に出た以上は、彼にこれまでの経緯を全てを説明させます」

『ふむ、拙者としてはあまり説明したくはないのでありますが……』

「いいから、説明しなさい。我が盟主(マイロード)のようになんとなくでこちらの意図を汲み取ってくれる人は少ないのですよ?」

『たしかにそうでありますなぁ、致し方なし』


 よく分からないが、経緯とやらを教えてもらえるらしい。

 私はその場で正座をした。

 カンテラ内の斬鬼丸さんはやれやれ、と言ってから語りだした。


『魔法少女の始まりやら、歴史は長いゆえ、省くであります。それは自分で調べてくだされ。拙者が語るのは、貴公がどうして魔法少女にならなければいけなかったのか。ダークライが前回の歴史で何をしたかったのか。今回の歴史はどうなるのか、という話であります』

「は、はい」

『貴公が魔法少女にならなければならなかった理由は、一つ。乃木田とやらの女体化研究を完成させるためであります。物語の悪魔は、そのために聖ソレイユの校長や先生どもを脅して、ダント殿を誘導し、貴公と出会わせて魔法少女にした。どうしてもエモ力発生装置が欲しかったようであります』

「は、はあ……」

『ただ、一つだけ訂正するなれば、貴公は生まれた時から男だったわけではない。とある魔法少女が、強制的に性別を変えられた姿だったであります。偶然か必然か、貴公は元の姿を取り戻したわけでありますな』

「ええええ!?」


 本当に衝撃の事実すぎる。

 でも言われてみれば、ニチアサでやっていた魔法少女に憧れていたという情報以外の、過去の記憶が全くない。生家なはずの夜見家での思い出もない。

 斬鬼丸さんが言っている通りなのかも。


『エモ力が歴代最高値を記録したのもそれが理由であります。もっとも、5000エモは本来の十分の一……いや、百分の一程度の数値でありますが。貴公の潜在能力はもっと高い』

「そ、そうなんですか?」

『今しばらくは自己肯定感を高めてくだされ。そうすれば本来の実力に戻るであります。次はダークライの目的について。ダークライとは、異界の封印から逃げ出した悪魔王が、さらなる繁栄と幸福を求めて光の国ソレイユからエモーショナルエネルギーを奪い始めたのが始まりであります。目的は彼個人の最大幸福の実現。端的に言えば侵略戦争ということでありますな。貴公の判断は正解であった』

「ど、どうもです?」

『詳しい話は我が主、灰の魔法少女本人から聞いてくだされ。歴代魔法少女の生涯についても言及されるゆえ、かなり重苦しい話であります。拙者としては聞いてほしくない話であります』

「は、はい……」


 ダークライに関連した話はなかなかシリアスな物が揃っているようだ。

 私は震えが止まらない手をぎゅっと握りしめた。


『――ああ、そうであります、ダークライが何をやったかについては言えるでありますな。貴公がこれまで苦しめられてきた経緯であります。陣営争いをさせたのも、貴公に世界を救わせたのも、生徒会の正義を暴走させて風紀部を集めさせたのも、紺陣営を隔離させたのも、Mr.プレジデントがコアにさせられたのも、ダークライの自滅も、全て物語の悪魔の思惑通りであった。エモ力無限発生装置の誕生を邪魔されたくなかったようで、物語を裏から操って争わせ、邪魔だと思った時にはMr.プレジデントのように、身内に裏切らせて退場させていたようであります』

「どうしてそんなことをしてまで……」

『時間稼ぎが目的だったようであります。仕えている悪魔王に装置を献上して、しばらく沈静化して欲しかったようでありましてな。悪魔たちは人の感情が生きる糧であり、ほどほどに脅かして喜怒哀楽してもらう分には嬉しいようでありますが、死なれては困るとのこと。だがしかし、ダークライの真の黒幕である悪魔王は、全人類の絶滅が目標。それだと悪魔は餓死してしまう。彼は上手く立ち回って人類の滅亡を防いでいるようでありますな』

「……えっと、物語の悪魔さんって本当は味方なんですか?」

『現在はたまたま利害が一致しているだけであり、気分次第でそのどちらにもなり得るであります。信用するなかれ。ともかく、最後。これからどうなるか。心して聞くであります』

「は、はい!」


 緊張で息を呑む。

 斬鬼丸さんは勿体ぶるようにためてから、告げた。


『今回の争奪戦は、魔法少女陣営vs秘密結社が主題となる予定。最初の悪の親玉役は、拙者の隣に立っているリズール殿であります。途中で第三勢力も追加する予定であります』

「リズールさんが敵役に」

『貴公はこれから、リズール殿や第三勢力に対抗するため、聖ソレイユ女学院の魔法少女のほか、女体化した鎧装戦士(アームズ)たちと共に争奪戦を戦い抜くことになる、という予定であります。拙者たちの目的は貴殿たちの成長。手加減するので安心なされよ』

「え、男子全員が女性になるんですか!?」

『我が主曰く、アイドルでもある魔法少女に男を絡ませるわけないであろう? しかし関わらせなければ練度向上がすむぅずに進まないし、せめて全員女体化させてやるって私が決めた、とのこと』

「横暴すぎる!」

『どいつもこいつも女に飢えた肉食系ばかりだ、油断してると性的に食われるから気をつけろ、ハハハハ、と邪悪に笑っていたであります』

「灰の魔法少女さんには人の心とかないんですか!?」

『我が主は正義の味方ではなく邪悪の天敵。ゆえ、倫理観の軽視は諦めるであります。……さて、話は終えましたぞリズール殿。そろそろ休ませてほしいであります』

「仕方がありませんね。許します」

『疲れたであります。次は水着回で会えることを願っておくであります。では――』


 ボシュウ、と音を立てて、カンテラから斬鬼丸さんが消える。

 チリチリと青い炎を出す炭だけが残された。

 残された私は、エッチなことで頭が一杯になってしまう。


「水着回……か」

「すごい勢いでエモ力が上がってるモル」

「い、いわないで下さい……!」

「それよりも驚いたモル。僕も、僕の上司もダークライに操られていたなんて……」

「ですね。でもまあ、騒動が収まったみたいで良かったです。私の不運ってだいたいダークライというか、あの悪魔が原因だったんですね。うん、でも、それより」


 私は自分の身体を見返して、改めて恥ずかしくなり、顔を隠した。


「自分が本当は男じゃなかったなんで知りたくなかったぁぁ……! どうしよう、なんというか、嬉しいんですけど、私って魔法少女やっても良いんですね!?」

「良かったモルね! 女の子として一緒に頑張っていこうモル!」

「いやそういう話じゃなくてですね!? 心におじさんが宿ったままで――」

「――さて、夜見ライナ様」

「あ、はい! なんですか!?」

「申し訳ありませんが、私たちはこれからダブルクロス解説トークショーに出演します。また後日、カフェグレープにお越し下さい。美味しいお食事をごちそうしましょう」

「はい! お詫びにいろいろと奢って下さい! 焼肉とかがいいです!」

「ええ、構いませんよ。最高級焼肉店に予約しておきますね」

「やったぁ!」


 私はガッツポーズを決めた。

 人のお金で食べる焼肉はすべてのストレスを解消するのだ。


「――あ、居た! リズールお待たせ! 遅れてごめん!」


 スタッフさんに案内されながら、一人の銀髪少女が現れる。

 頭には二対の角が生えていて、童貞を殺すような服装をしている。

 容姿も顔も、リズールさんに引けを取らない可愛さだ。

 でもどことなく、リズールさんと同じような威圧感を感じた。


「あ、あの方は」

「我が主、灰の魔法少女様です。私の招集に応じていただき感謝します、我が盟主(マイロード)

「いいっていいって。暇だし。何すればいいの?」

「トークショーに出演して頂き、時間を稼いで頂きたく」

「分かった。何分?」

「稼げるだけ」

「りょ。よし、行ってくる」


 彼女は手慣れた様子でピンマイクを取り付けると、何の緊張もしていないかのように、ステージへと向かう。途中、私を見てニッコリと笑った。


「おー天使ちゃんそっくりな子だねぇ! 可愛い! 私はフェレルナーデ! 今後ともよろしく!」

「ど、どうぞよろしくお願いします」

「じゃ、またね~」


 彼女はあっという間に舞台へと出ていった。大歓声が起こる。

 リズールさんはダークライに関する事後処理が残っているようで、急いで裏の大広間に戻っていった。

 トークショーから帰ってきた中等部一年組は、私に耳寄り情報を伝えてくれる。


「夜見ー。ダブルクロスは運営の都合で明日からだってー」

「そうなんですか」

「今日はゆっくりしよなー?」

「ふふ、そうですね」


 話し合った結果、とりあえずデミグラッセで雑談することになる。

 私たちはお店に向かうと、テーブル席に座り、今日の情報交換をした。

 

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