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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第二部 二章 ダークライ自滅編

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第63話-閑話- 朔上ファウンデーションにて


 一方その頃。

 聖ソレイユ女学院の生徒会陣営は、赤城恵のテレポートにより、朔上ファウンデーションの社長室へと真っ先に転移していた。

 席に座るのは老齢の男性。かつては考古民俗学者として名を馳せ、偶然入手した呪物の力により半不死になった「朔上(さくがみ)直政(なおまさ)」という人物だ。

 副会長の空渠陽子は、凍えるような眼で相手を睨みつけた。


「私が来た理由は分かるか? 朔上」

「……ふふ」


 朔上は口元を隠しながら笑う。

 その怪しさに、生徒会陣営はわずかな危機感を抱いた。

 朔上は内心、独りごちる。


(――え、何? 何があったの? わが校のライトブリンガーが女体化して戻ってきた報告は聞いてるけど、ここまでブチギレられることやらかしたの? 何やらかしたのぉ? ライトブリンガーくん)

「んふっ……」


 なお、呪物の呪いによりサトラレ――心の中で思ったことがナレーションのように他人に聞こえる体質になっているので、副会長含む生徒会陣営の魔法少女たちは笑いを堪えるのに必死だ。

 朔上はちらりと銀髪の美女――SNSでライトブリンガーを名乗っていた人物に目配せすると、相手は何かを察したのか、朔上と魔法少女たちの間に立ち塞がった。


「待ってくれ、俺たちの校長のことだ。何か事情があるはずさ」

「擁護するのは構わない。だがな、私たちは山奥に無人の踏切があったことを怒っているわけではない。彼がその存在を秘匿していたことに激怒しているのだ」

「それは、そうとしか言えないけど」

「さあ、朔上。説明してもらおうか」

「……分かった、いいだろう」


 ようやく事情を理解した朔上は、喋る前にタバコを吸い始める。


(あー、あれかー、盛土をするときに使った踏切。業者に撤去を命じたはずなんだけど、残ってるってことは中抜きされたんだなぁ。くっそー、あとで絶対訴えてやる)

「―ふふっ……おい、こちらは時間がないんだぞ」

「あまり急かすな。業務上、言えないことが多いんだ」

(あー、うっわ、やばい、本気でキレてる。なんて言い訳しよう……)

「ぷふっ、くっふ」

「我慢しろ赤城! ……十秒だけ待つ。考えをまとめろ」


 数々の思考を巡らせたあと、民族学者としての知識が総結集された言い訳がひねり出された。


「梢千代市の東に作られた人工山――通称「憐憫(れんびん)塚」は、歴代の魔法少女が救えなかった一般人の魂が祀られている鎮魂の地だ」

「な、なんだと!?」

「どうしてそんな山中に、無人の踏切を作らなければならなかったのか? それは梢千代市が、犠牲となった人々の魂が訪れる、最後の希望の地だからだ。あれを取り壊してしまえば、梢千代市は救われなかった彼らの怨念により煉獄と化す。祝福と呪いは表裏一体なのだ。ほころびが無ければ、呪いは溜まり、淀み、腐敗していくだけなのだよ」

「そうか、ちゃんとした事情があったのだな……」


 副会長は納得を示したようで、朔上は安心した。


「それはそれとして、どうして黙っていた?」

「……これを言ってしまえば、君たち魔法少女は、アームズは、また抱え込んでしまうだろう? 知らないままでいて欲しかったのだ。贖罪にその身を投じる必要はない。本当に償うべきなのは、君たちにその咎を背負わせている我々大人なのだから」

「――分かった、今回の件は不問としよう」

「助かるよ」

(あー良かったー、納得してくれたー、マジで助かったー、セーフ)

「ただ、二度と無人にはするな。私たち魔法少女も、お前も、梢千代市の平和を守らなければならないのは同じなんだ。そのことは重々承知しろ」

「すまない。無人だったことは反省する。これからは管理者を置こう」

「そうじゃない。無人の踏切はどこにあるかと聞いているんだ」

「あの踏切は――」


 生徒会陣営に場所を教え、再テレポートしたことで話が終わる。

 美女ことライトブリンガーは朔上に向かって振り向くと、強くガッツポーズした。


「……朔上校長! 俺たちの知らないところで梢千代市を呪いから守っていたなんて、マジ最高です! マジリスペクトっす!」

「はは、やれやれ。その前に装備を整えてこい。争奪戦開会式の会場に向かう」

「了解です――が、どうして?」

「お前の親御さんに事情を説明しなければならんからな。息子が娘になったと」

(何がどうなって女体化したのか分からんし、聖ソレイユ女学院の賢人さんか、リズールさんに戻す方法があるのか聞かなきゃどうしようもないしな……)

「ありがとうございます! 四十秒で支度します!」


 灰皿にタバコを押し付けた朔上は、近くのコート掛けからお気に入りの黒いパナマハットとコートを取り、着飾る。マフィアのボスのような見た目だ。

 彼は本当に四十秒で支度を終えた、ファンタジー系作品の鎧のような派手な見た目で、銀色に赤が映える全身装甲服(パワードスーツ)姿のライトブリンガーを付き従えて会場に向かった。



「うわあ……」

「困った、会場に入れないモル」


 争奪戦開会式の会場である梢千代市民体育館に到着した夜見たちは、凄まじい人混みに道を阻まれていた。

 当然だ。今日から始まる争奪戦を観戦するため、外部から大勢の観光客が来る。

 彼らが梢千代市で使用する宿泊費用や飲食費などの金銭は、梢千代市議会と各企業やスポンサーの大事な財源でもあるので、こうした混雑は避けられないのだ。


「うう、どうしましょう? 州柿先輩」

「私!? 私は基本裏方のスパイだから表の経験ないよ!? ええと、ねえリズールさんどうしたらいいかな!?」

「ふむ、関係者入り口を目指せばよいかと。魔法少女は争奪戦の関係者枠になりますので、そちらから内部に入れます」

「その手があったか! 行くよ夜見ちゃん!」

「はい!」


 夜見たちは人混みを避け、会場の裏手にある関係者入り口から内部に入る。

 聖ソレイユ女学院の生徒手帳が入場パスになるのは驚いた。

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