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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第二部 二章 ダークライ自滅編

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第62話 おじさん、ダークライ撃退に動く

 あれから三十分後。

 銀髪の美女ことライトブリンガーさんが全裸で喋る動画がSNSにアップロードされ、事態の収拾がつかなくなって逃亡したりもしたけれど、ダント氏が行った隠蔽(いんぺい)工作により、梢千代市は普段の落ち着きを取り戻した。


「ダントさんってスーパーハッカーだったんですか?」

「もともと得意だったのも理由の一つモル。ハイスペックな聖獣用パソコンを手に入れられたから、僕はハイパーハッカーになったモル。他にも理由はあるモルけど」

「なるほど」


 今はライトブリンガー、略してライブリさんの回収を求めるべく、朔上ファウンデーションの市内警備隊に掛け合ったところで、交番近くのベンチで暇を持て余している状況だ。

 州柿先輩はシャインジュエルを舌で転がしながら、ふと思ったことを口にする。


「……というかさ、一つ疑問があるんだけどー」

「どうしました?」

「梢千代市の入り口って警備が厳重だよね? ライトブリンガーさんはどうやってここに入って来たの? ブラック&スミスの御曹司だぞー、でゴリ押した?」

「ああ、あっちの――東の山奥にどういうわけか無人の踏切があってさ! そこから入り込んだんだ!」

「はあ!? なにそれ知らないんだけど! あーもう、ちょっと待って緊急で生徒会呼び出す」


 ガリッ、とシャインジュエルを噛み砕き、メッセージを送り始めた。

 秒で返信が帰ってきたかと思うと、シュン、という音と共に赤城先輩が現れる。


「いきなり呼ばれたけど何ー? あ、夜見ちゃんこんばんわー」

「こんばんはー」

「赤城先輩、梢千代市に敵が入り込める穴があったっぽい。緊急事態だから生徒会全員集めてほしい」

「え、マジ? ちょっと待っててすぐ招集する」


 また音を立てて赤城先輩が消えた。


「赤城先輩って便利に使われてますねえ……」

「テレポート使いまくってもエモ力がほとんど減らないのはあの人の唯一無二なとこだし。エモ力を支えるメンタリティが常に安定してるんだよね」

「すごいなあ」

『……あ! やっと見つけた! おーい!』

「「――!」」


 また全裸ライブリ撮影会の者か、と警戒体制に入る私たち。

 だがやって来たのは青髪ショートの女学生だった。

 彼女も黒腕章をつけている。味方だ。


「もー州柿ちゃん、なんで移動したって教えてくれなかったの? めちゃくちゃ探し回ったんだよ?」

「ごめんミズキちゃん! 事件のせいで心の余裕がなくて。マジごめんっ!」

「ふふ、良いよ。許した。少しだけSNSのトレンドに入ったから事情は知ってるし。その人がライトブリンガーさん?」

「顔を見せただけでは分からないよな……ちょっと待ってくれ」

「ちょ、まっ、脱ぐな! 夜見ちゃんヘルプ!」

「はい!」


 おもむろに女性服――ダッフルコートを脱ぎ、スキニーパンツのホックを外し、「正義のヒーロー」と書かれた白Tシャツを胸元までまくり上げたライブリさんを、私と州柿先輩が止める。


「どうして脱がせてくれないんだよ!」

「逆に聞きますけどなんで脱ぐんですか!?」

「敵意はないと証明するためだ! 他に相手の信用を得る方法が分からない! あと脱ぐとなんか気持ちいい! 俺はどうすればいい!?」

「露出趣味に目覚めてる!? ……とにかくっ、独断行動はやめて下さい! 信用して欲しいなら、私たちに一言断ってから脱げばよくないですか!?」

「――ッ!?」


 その一言に衝撃を受けたのか、シュン、と沈んだ顔になった。


「……ごめん。頭が混乱していて気づけなかった。俺の落ち度だ」

「分かってくれたなら良いんです、分かってくれたなら」


 落ち着いたのでライブリさんを開放する。

 ガチへこみしているようで、ベンチに深く腰かけてうなだれていた。


「ちょ、落ち込む前に服装を正してよ! なんで胸元まで見せたままなの!?」

「? オフのときは常にこうしているからだが?」

「いいから! お腹冷えるから服を着なさい!」

「はあ、しょうがないな」


 ライブリさんはお腹を隠してダッフルコートを着た。

 大きく安堵のため息を漏らした州柿先輩は、笑顔で話題を切り替える。


「あー、いきなり話を戻すけど夜見ちゃん、どこだったっけ? ライブリさんが侵入してきた場所の話なんだけど」

「ああ、えっと――」

「おまたせー! 戦力になりそうな子片っ端から集めてきたー!」

「お! ナイスタイミング!」


 テレポートしてきた赤城先輩の背後には、灰腕章の仮役員、黒腕章の風紀部のほか、生徒会長と副会長、赤陣営のハムスター先輩、緑腕章をつけた緑髪の先輩が立っていた。

 私たちに代わって情報をまとめていたダント氏が、ライブリさんの事情を説明し、当事者本人からフリーパスの侵入経路がある、と伝えられたことで、先輩方は一気に臨戦態勢に入る。特に副会長が激怒していた。


「――そうか、朔上ファウンデーションにも尋問する必要性が出てきたな」

「あ、副会長。夜見ちゃんに支援者S.Gからメッセージ来てたみたいです」

「……なんだと?」

「これモル」


 ダント氏が見せた三通のメッセージで、生徒会陣営に戦慄が走る。


「かなり大変な状況だったんだな。夜見」

「はい、一人じゃどうしようもないので助けて欲しいです」

「任せておけ、と言いたいところだが、紺陣営の大多数が措置入院させられたことで人手が足りない。悪いが、単独で動けるか?」

「ええ!? ええと、一人は寂しいです」

「分かった。州柿」

「なんですかー?」

「赤城はこれから忙しくなる。夜見の担任代行をお前に任せていいか?」

「かしこまりましたー! 夜見ちゃんこれからよろしくねー♡」

「わあ、はいっ!」


 州柿先輩とは仲良くできそうな気がしていたので、とても嬉しい。

 少しだけ嫉妬するような視線を赤城先輩から感じたので、受け入れる体制を示すと、駆け寄って抱きついてきた。


「州柿ちゃんに夜見ちゃん寝取られてつらーい、えーん」

「いや、赤城先輩の教え子には手を出しませんから! 私にもそれくらいの分別はありますからー!」

「次は、ああ、聖獣のダント。管制室の管理者アカウントをお前に貸し出す。緑陣営リーダーの置き土産だ。上手く使え」

「モル!?」


 ダント氏には副会長からUSBメモリーが渡される。

 あわててノートパソコンに挿して、中身を確かめていた。


「おお、凄いモル。何もかも手にとるように分かるモ……これはまさか」

「悪いが時間が惜しい。話し合いはここまでとする。各自で奮闘せよ!」

「「「はいっ!」」」

「あ、時間だ。夜見ニウム摂取はこれくらいかな」

「行ってらっしゃいです」

「うん頑張る! あ、自称ライトブリンガーさんはこっちねー」

「自称……いや、たしかに今の姿ではそうか。分かった、最速最短で道案内しよう」


 私から離れた赤城先輩は、元気を取り戻したライブリさんの肩を掴むと、生徒会陣営総出でテレポートした。

 州柿先輩、私とダントさん、リズールさんだけがその場に残される。


「さてさて、どう動こうか?」

「手当たり次第、というわけにはいきませんよね」

「未来視でお教えすることは可能です、と念のために発言しておきます」

「……お高いんですよね?」

「はい、かなり」

「では今回は遠慮します。ダントさん、何か情報はありますか?」

「安心するモル。もう目星はついてるモル」

「どこですか?」

「シャインジュエル争奪戦の開催式が行われる場所、梢千代市民体育館に向かうモル。ダークライはそこで重大発表を行うつもりモル。開始まであと二十分。急ぐモル!」

「分かりました!」


 私たちは梢千代市の中央付近にある、梢千代市民体育館に向かった。

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