第61話 おじさん、正義のヒーロー(女体化)を助ける
「おっ、とと」
着地も上手く決まった。
マジカルステッキを狂乱状態のチンピラに向ける。
「さっきはよくもお腹を蹴ってくれましたね! もう許しません!」
『うおおおお! カッコいい登場シーンだ!』
『行けー! 魔法少女ー!』
「え、市民さんが逃げてない!?」
「おそらく戦闘シーンの撮影だと思ってるモル」
「平和ボケしてる!」
「うわあああああ!? 新手の魔法少女だあああ!?」
二度、三度と立て続けに鳴る銃声。
しかし残弾が尽きたようで、カチ、カチと撃鉄が空を切った。
「ああ、弾が出ない、なんで」
「そろそろ降参しないー? 君には聞きたいことが山ほどあるんだよね♡」
「うるさい! 俺はブラック&スミスの御曹司だぞ!?」
「なーんで話通じないのかなー、この人。テリトリーオン」
「ぐぅ――」
紫のゴスロリ衣装に身を包んだ州柿先輩も、相手の狂いっぷりに嫌気がさしたようだ。
固有魔法の適用範囲を広げて、喋れないように地面に押し付けていた。
とりあえず――
「あの、リズールさん」
「なんでしょうか夜見ライナ様」
「この人を正気に戻す方法、ありますか?」
「ボンノーンに寄生されて狂乱状態になっていますので、必殺技――エモーショナルタッチでぶった斬って下さい」
「了解です」
カチッ、カチカチッ。
『プリティコスモスソード! ――エモーショナルタッチ! プリティコスモスラッシュ!』
まずはマジカルステッキの武器機能を使用、少し間を置いてから追加でダブルタップを行い、必殺技を発動した。
放出されるピンクのエモーショナルエネルギーは、普段より出力を抑えめで。
「正気に、戻れ――――!」
「ぐあああ――――っ」
真っ二つに斬られたチンピラの男性から、ビクビクとうごめく灰色の鉄パイプ生命体が分離する。おそらくボンノーンの本体だろう。
鉄パイプ生命体にはピンク色の炎が引火し、そのまま灰になって消えた。
最後に残ったのは……どういうわけか、全裸の女性だった。
ほのかに藤色に染まった長い銀髪と、すらりとした高身長なのに出るところは出た、バランスの取れた容姿をしている。完全に美人モデルさんだ。
「――え、男性じゃなくて女性!?」
「モル!?」
「ちょちょ、どういうこと!? 私のテリトリーは男性反応だったよ!?」
私と州柿先輩も、ダント氏含む聖獣たちも困惑する。
そこでリズールさんが率先して近づき、身体調査を始めた。
「これは……」
「リズールさんなにか分かるんですか!?」
「いえ、説明することは簡単なのですが、証明手段がありません」
「じゃあ、ええと、その人は最初から女性だったんですか!?」
「肯定した上で否定します。寄生ボンノーンが消滅すると同時に正史を改変し、先天的に女性化させる細工が施されていた、としか」
「意味が分からない!」
戸惑いを隠せずにいると、元チンピラだった女性が目を覚ました。
「うう……俺は一体、何を」
「目を覚ましましたね。こんばんは。貴方のお名前は?」
「九条霧夜……です」
「うっそ、公爵家のご子息じゃん」
「ええ!?」
まさかのとんでもない高貴な人だ。
彼……いや、彼女は周囲の反応を伺うように挙動不審になると、自分の身体を見て、胸を揉み、わなわなと震えだす。
「待ってくれ……これは……」
「あの、だ、大丈夫でしょうか――」
「まだ生きてるとかこれもう俺の大勝利では!?」
「え、ええと?」
「いやー実はさ、俺、半年前に敵組織に捕まったんだよね! 生きたまま解剖されそうになってマジピンチだったんだけどさ、いや、正義のヒーローことライトブリンガーを殺すのはもったいないってことで新型ボンノーンの実験体になることが決まってさ! それで数ヶ月前に怪人化したんだけど、なんか斬鬼丸って人のおかげでダークライのボンノーン製造工場が半壊してさ! 慌てて逃げ出して、梢千代市にたどり着いて、今こうして生きてるってわけ! 分離してくれてマジサンキュー!」
「いきなりの長ゼリフ!」
怒涛の情報量に処理が追いつかない。
「ああ、簡単にまとめると、俺も正義のヒーローやってたわけ。表に魔法少女がいるなら、裏方には俺たち男子こと鎧装戦士――ニチアサで言う覆面ヒーロー戦士? がいるってことだよ」
「なるほど分かりやすい!」
梢千代市から隔離されていた男子も、私たちと同じように正義のヒーローをしていたのだと知った。
「それはともかくとして、ですが」
「なんだ?」
「服をご用意します。野次馬の方々には、かなり刺激が強いようですので」
気がつけば、スマホを片手に私たちを取り囲む男性の姿が多数。
銀髪の女性――九条霧夜を名乗った方は、分かりきっていたかのように大笑いする。
「はは、そりゃそうだ! 俺に似合う服を頼む! 見知らぬメイドさん!」
「かしこまりました。十秒ほどお待ちを」
「そして見ろ野次馬ども! これが正義の鎧装戦士、ライトブリンガーの新たなる姿だ! 生まれたて新鮮だぞ! 俺で○コれ!」
『うおおおおおおおっ!』
「何やってんですか!?」
「ちょ、私と一緒はイメージ棄損になるからやめて! 写真撮影禁止! 風紀部権限で取り締まるから!」
「そうだぞ野次馬ども! 俺は撮ってもいいが魔法少女は撮るな! やって欲しいポーズがあるなら早めに言え! ……ん、パンツを履くポーズだな? よーし……」
「もーっ、これだからアームズの男子は! 夜見ちゃん! 写真撮ってる人のスマホから私たちの写真全部消すよ!」
「は、はい!」
私と州柿先輩は、喜んで全裸写真を撮らせようとする銀髪の女性を止めるため、写真を拡散させないために全力を出すこととなった。
なんて自己顕示欲の強い人なんだ、まったく。




