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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第二部 二章 ダークライ自滅編

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第60話 おじさん、変身する

「なんとか言えよオラ。俺が悪いってのか」

「えええ……っと」

「んだよその責めるようなツラ。気に入らねえ」


 ガッと胸ぐらを掴まれる。

 筋力はあまりないようだが、私は女子。

 軽く引っ張りあげられた。


「ハッ、軽いなあ。生意気なガキが。調子乗りやがって」

「――あの、先に警告します」

「警告ぅ?」

「今すぐに離してください。でなければ、正当防衛権を行使します」

「正当防衛だぁ? 何様のつもり……」


 男は私の制服に怪訝な顔を浮かべた。

 しかし一度手を出した以上、逃げることは自身のプライドが許さないのか、強気に言い張った。


「は、はははは! てめえこそ何様のつもりだよ! ええ!? 俺は天下の大企業、ブラック&スミス・マシンナリーズの御曹司だぞ! 俺に逆らったらどうなんのか分かってんのか!?」

「ブラック&スミス……」


 聞いた覚えがある。たしか、アメリカの銃器ブランドだ。

 ここ最近は無人機械分野で業績を伸ばしていて、業界のシェアを独占するために買収とM&Aを行いまくっているちょっと過激な企業だ。


「最後の警告です。離してください」

「――ッ、その上から目線が気に入らねえつってんだよ!」


 ぐおっ――

 男は拳を振り上げる。あまりにも遅い動作。

 ここで相手の手首を捻りあげ、先んじて鎮圧してもいいが、まだ話し合える余地はあるはずだと思ったので、迫りくる拳をガッ、と掴んで受け止めた。


「ん、なぁっ!?」

「……少し落ち着いて下さい。誰も貴方を責めてはいません」

「俺をバカにしてただろ!? その舐め腐ったツラで分かんだよ!」

「話を聞いて下さい。落ち着いて」

「うるせえ黙れ! てめえを殺す!」


 ドガッ――

「ぐっ、ふ……」


 油断していたところに、相手は膝蹴りを叩き込んできた。

 こちらは凄まじく重い一撃だった。どうやら足技のプロだったらしい。

 私は地面に転がされる。


「ううっ」

「はっ、ようやく黙ったか。身の程を知れクソガキ。誰に食わせて貰ってると思ってんだ。詫びにそのまま死んどけ」


 ガチャリ、と金属の音が鳴る。

 ぐぐ、と見上げると、ハンドガンを取り出していた。

 その目は瞳孔が溶けたように焦点が合っておらず、血走っていた。

 ああ、この人は最初から、どうしようもない人だったのか。


「もし、自称ブラック&スミスの御曹司様」

「ああ? 誰に話しかけて――」

「私の前で嘘をつくのはよくないなぁ♡」


 ドオッ――ガシャァァン――


 男は凄まじい勢いで店外へと吹き飛ばされ、二つの人影が差し込む。

 つづいて私の身体がパッと緑の光を発したかと思うと、腹部の鈍痛が収まった。

 私は大きく深呼吸してから立ち上がる。


「助けに入るのが遅いですよ、二人とも」

「申し訳ありません夜見ライナ様。私が魔法少女陣営に加担する理由を作るため、この騒動を利用させて頂きました」

「夜見ちゃんほんとにごめんね! このリズールさん? って人に魔法で拘束されてどうしようもなくて! お詫びにデミグラッセでパフェ奢るからね!」


 なら良いか、と気持ちを改めた。

 デミグラッセのデラックス特盛エモーショナルパフェは絶品なのだ。


「それよりダントさんは」

『僕はここモル……』


 周囲を見渡すと、マジマートの店員さんに抱かれて縮こまっていた。


「ダントさんこちらに」

『先に会計して欲しいモル』

「いやでも」

「ああ、大丈夫大丈夫! 対男性への時間稼ぎは得意だから!」

「州柿先輩?」

「まずは装備を整えてからお越しください」

「リズールさん!」


 ちょっとそういうタイミングではないのでは、と焦ったが、州柿先輩とリズールさんが魔法で周囲を修復しつつ、店外へと出ていったので、会計だけ先に終えることにした。佐飛さんから預かったクレジットカードで支払いだ。


『――ガァッ! クソがやりやがったな! この俺に暴力を振るいやがったな! この街に居るクソども全員皆殺しにしてやる!』


 普通に死ねるレベルの勢いな気がしたけど、生きていたのかあの男性。

 パンパン、と無差別に発砲する音が聞こえる。

 しかし通行人の悲鳴はなかった。


『ざーこざーこ♡ 魔法少女のシールドを破れないよわよわ銃♡ おもちゃみたいで可愛いね♡』

『ああああああ!? 調子に乗ってんじゃねええええ――――!』


 どうやら州柿先輩に無効化されているようだ。

 硬い金属同士がぶつかるような跳弾の音が、悲鳴の代わりに鳴り響いている。


「大丈夫かな」

「戦闘中みたいモルけど、あの二人を信じるモル。今は装備を整えるモル!」

「は、はい」


 ダント氏が私用に購入したのは、対幻惑・催眠魔法など、幻術破りの最上級お守りで、青い勾玉みたいな『アダーストーン・アダマムチウム』、基礎身体能力を向上させる赤い宝石つきのネックレス『パワーズ・インフィニット』というもの。


「これ効果あるんでしょうか?」

「変身前を補強する用途モル。効果は僕が保証するモル」

「分かりました」


 勾玉は制服の胸ポケットに、ネックレスは首につけた。

 ダント氏からの追加情報によると、マジタブのカスタマイズ機能でもつけ外しが出来るようだ。管理は任せているので重要ではないけど。

 他は聖獣専用のハイスペックノートパソコンセットと、インカムや遠隔操作ドローンなど、彼用の周辺機器の購入が多かった。

 最後に、無線接続されたピンク色の片耳イヤホンマイクを付けて準備が整う。


「これで全力サポートできるモル。情報収集がはかどるモル」

「ダントさん完全体ってところですかね」

「いやいやまだ幼年期モル。これからが進化モルよ」

「期待が膨らみます」

「よし、カウント行くモル! 3,2,1――ゴー!」


 ダッ――――

 店外に駆け出しながら私は、マジカルステッキを取り出し、底の変身ボタンを押した。


「――変身!」

『魔法少女プリティコスモス! 正式礼装(フォーマルコーデ)!』


 周辺に光の花弁を舞い散らせながら、魔法少女となった私が可憐に躍り出る。

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